33.発覚
「……俺らは言われたんだよ。
言うことさえ聞けば卒業試験の査定を上げてやるって」
赤猿先輩が白状し始めた。
正直、もうちょっと拷問的なことしなきゃいけないと思ってたんだけど。こんな簡単に話すとは思ってなかった。どうしてだろう?
まぁ、話すならいいか。嘘じゃなさそうだし。
「それは誰に?」
「………俺らの担任の、モンティーヌ先生だ」
ほほぅ。
やっぱりあの髭だるまが、レイン先生に振られたからって嫌がらせしてきたんだな。
「演習ルームの時計をわざとズラしたのも?」
「あぁ、そうだ。そうすれば言い訳は成り立つからって」
「やっぱりあなた達は分かっててやったんですねー」
イラッとしたので、肩を少し銃で小突く。
「ヴッ!」
あ、やべ!ナイフついてるから思いのほか刺さった。
ちょっとここで顔に出すのは恥ずかしいので、スルーを決め込む。
「だ、だが!他のやつは知らなかっただけなんだ」
「あぁ、それなら見れば分かりますよ。最初に通せんぼしていた3人ですね。」
「……そうだ」
「じゃあ、私が言いたいこと分かりますよね?」
赤猿先輩も卒業試験とやらのためにやらされたのであれば、まぁ百歩譲って許してやらんこともない。
ってか卒業試験あるんだ……
知らなかった。
実際に暴力まで振るわれたわけではないし。
「す、すまんかった」
「いや、私にじゃなくて、ミシェルに!」
「ミシェル?」
「は?うちのミシェルを知らない?あんたがガン飛ばしておいて?」
なんだこいつ、もっと痛めつけてやろうか?
「あ、いや、すいません」
「ミシェぇルー!!ちょっと来てー!」
ミシェルを待ったく知らないとかありえないんだけど。
「ミシェルはちっこくても、頑張ってる優しいいい子なんだ。それをお前は!?そんな子にガン飛ばしてくれたんだぞ!?」
「うっ、すまん」
少し困惑した様子のミシェルが小走りで到着する。
「り、リリーちゃんどうしたの?」
ミシェルの肩をぽんぽんと叩き、紹介する。
「ほら、この子がミシェル!見覚えあるでしょ!この前、赤猿先輩がガンを飛ばした女の子!」
あれ?心無しかミシェルの顔が引き攣ってる。
あ、赤猿先輩がまだ喋ってないから、まだ怖いんだ。赤猿先輩の顔がダメなんだな。
「おい、また怖がってるじゃん!?早く謝って!」
「え!?そ、それは……」
赤猿先輩は何故か戸惑うので、とりあえずまた銃で小突く。
「グふッ!?ご、ごめん、怖がらせて、ごめん」
「ごめんね、ミシェル!赤猿先輩もね。髭だるまになんか言われてやったらしいの」
「あ、そ、そうなんだね」
「そう、私も髭だるま殺っとくから!」
「ちょ、リリーちゃん、もう大丈夫だから!私もう先輩は怖くないから!」
「そう?ならいいんだけど……」
ミシェルがいいなら、もう赤猿先輩に用はない。
「じゃあー、もういいか」
「え!?ちょ!?」
【オズ】の拡張マガジンをもって、勢いよく銃についたナイフを赤猿先輩の脳天に振り下ろす。
ドスッと鈍い音とともに、赤猿先輩は頭から血を流し倒れた。ポッドに戻ったことだろう。
なるべく痛まないように一撃で仕留めてあげる、私は優しいのだ。
さて、やることやったし終わらせるか。
ビーーーー!!!
こうして9年生対7年生の演習は、軍学校開校以来初めて7年生の勝利で終わった。
_______________
モニタールームは1人に棘のある視線が集まっていた。
「モンティーヌ……」
「は、はい!」
いつもより数段低い声でテレーズ・アルノー長官から呼ばれたモンティーヌは、非常に焦りながら返事をする。
先程のリリーナとワイリーのやり取りはモニタールームにいる全員が聞いていたのだ。
詳しくは知らなくても各々の会話を聞いていれば、何があったのかある程度は分かる。
「お前、卒業試験をダシに生徒にやらせたのか?」
「い、いえ、そ、そのようなことは……」
「そうか、君のその発言が真実かどうかはしっかりと調べさせてもらう。シンディ、ラリー、モンティーヌを拘束して、審問室へ」
「「はっ!」」
「そ、そんな!長官!?」
2人に拘束されながらモンティーヌは部屋を出されていく。
「ジェフすまないが、一時9年生の担任を頼む」
「承知しました」
白髪混じりの老齢な男性が臨時で任命された。ジェフと呼ばれたこの男性は見るからに経験豊富な人物にしか見えない。
しかし、若い教師陣はジェフのことを知らなかった。退出後に長く勤務している先輩教師に話しかける。
「すみません、さっきの方は?」
「うん?あぁ、ジェフさんか。あの人はアルノー長官の秘書の方だ」
「あの人が秘書ですか!?なんか、執事長とか言われた方がしっくりきますね」
「ふふっ、なんとなく分かるけどな。いや、あながち間違いじゃないのかも!?」
「ん?どゆことっすか?」
「いやな、うちらアルステリアはヴァンリ皇帝の元、階級が平等な国だが、実際は血統スキルがあるから、なんだかんだ皇帝の下に権力を持ちやすい家がある」
「あー、確かに大和王国なんて明らかにそうですよね。貴族は血統スキル持ちの家ですし」
「だろう?うちには王国と違って貴族階級などはないが、古くからの血統スキル家系はその力で培った財力が違う。アルノー家はそんな古くからの名家なんだ。
軍学校もまだ50年くらいしか歴史がないからな。
昔は今の軍学校のようなことをそんな名家が行っていたみたいで、魔術適正持ちとか優秀な人を雇ったりしてたらしい」
「へ〜、そうなんですね」
「まぁ、そんだけジェフさんも優秀ってことだ。この時期に担任がいなくなる、9年生からしたら助かる話だろう」
「そうですね。正直、あの人偉そうにしてて苦手でした」
「ハハッ、俺もだ」
モンティーヌはその後、取り調べを受けると、さらに複数の軍規違反が明らかとなり、懲戒免職処分となったのだった。
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