30.猛威
「全員!!リリーナ・ランドルフに気をつk…」
アーベルからの通信が途絶えた。
「アーベルッ!?
くっ!!全員フラッグ手前でいい!公園で食い止めろ!」
アーベルが恐らく倒れた。すぐにナタリーの通信が入る。
もうそこまで来てんのかよ。急いでフラッグがある公園外周木々に身を隠す。
「すまん!防衛線が瓦解した!」
少し遅れてポッド内に移動したアーベルから通信が入る。
「敵は東方面に本隊がいる!そっちを手厚くするんだ!ただし全方向注意だ!気をつけろ!また奴がくる!!」
リスポーンした仲間が近くの木にやってきた。この公園中央にフラッグがあり、フラッグ周囲はただの広場で何も無い。公園の外周は木々が生えており、道路を挟んで住宅街となる。
奴らが来るには遮蔽物のないこの道路を通らなくてはならない。そこを防衛する。
それが最後の防衛線だ。
リスポーン位置はこの公園だから3分ですぐに戦線復帰となる。フラッグ戦はこの守りを突破するのが容易じゃない。
本来はこの状態に追い込んで、維持する予定だった。
維持とするのは無理して前線が瓦解すると逆に押し込まれることを懸念して、このような作戦としていた。
ムカつくが、本来予定していた作戦を逆にやられた形となった。
こうなりゃここで押し返すしかない。
キルすりゃ戦線復帰は時間がかかるんだ。まだ手遅れじゃない。
「マジか!?公園以外の味方が全員やられた!!」
「そんなに来てんの!?」
「なんだアイツ!ふざけんな!」
「やばいって!急いで!!」
おいおい、さっきアーベルがやられたばかりじゃねぇか。
「アッハハハハ!」
背にした木の後ろの方から笑い声が聞こえる。
俺はゴクリと唾を飲む。
………
は?俺が怖がっている?
相手は7年だぞ?そんな訳ねぇ!!
自分の感情が分からねぇ。年下に負けたくなんてない。俺だってプライドがある。
だが、なんなんだこの焦りは。
心臓が早くなってるのを感じる。きっとこれは負けそうだから、焦っているんだ。
決して怖いなんてことが、あるわけない。
道路奥の住宅を警戒する。
ヤバッ!
ダダダダ!!
木の影に隠れるがバレたようで、撃たれている。
奴ではないな。
あの楽しそうに笑ってる奴はさっきもエイムが確実だった。
弾がバラけているこいつは違う。
だが、それはもう公園が包囲されてるってことじゃないか?
「南東はもう抑えられてんぞ!!」
「西側もだ!」
「ふざけんな!包囲までが早えぇよ!」
「今外周に位置している人は牽制射撃しつつ、手薄な所を探ってくれ!今復活したての人は、フラッグ南側に集合、部隊を再編して1点突破、包囲を崩す!!」
「「「了解」」」
「まずい!外周の木が燃やされてる!」
「ッ!?ハーヴィンか!?リオン!消火を手伝ってくれ!!」
「了解、今行く!」
俺の位置からでも見える程に火の手が上がっている。
アーベルと同じ炎適正のやつに何ヶ所か撃ち込まれたようだ。
ここから見えるとこでも南側から3箇所くらいは燃えている。南正面は火の手がかなり強いのか、黒煙がもうもうと立ち上がっていた。
あまりに燃えてしまうと身を隠す場所が減り、不利になる。
水適正のリオンも一緒なら消火できるが、全ては間に合わないだろう。
ガサッ!
背後で音がした。
反射的に振り返り銃口を向ける。
するとそこに喉を抑えて、こちらに何かを喋ろうとしている、ドネルがいた。
「ごポッ」
口から血を吐き出す。ドネルは器官に血が入ったのか言葉を紡ぐことが出来ないでいた。
その間も喉を抑えた手からは血が滲んでいる。
ついにはドネルのそのデカイ身体が膝から落ち、前に倒れる。
「てk……」
敵襲だ!!もう、公園に入られてる!
クソが!!喉をナイフでやられた。
これはまずい…
振り向くとあのニヤリと笑った顔がこっちを見ていた。
「……カメッ!?」
てめぇー。
俺も血が喉に溜まって上手く言えない。
「死んだらまた3分後に会いましょう」
そう言って手を振られた。
全身の力が抜けていく。
クソッ、すぐにポッドにら戻らない。
おそらく数秒、数十秒ではあるが、やけに長い時間にも思えた。
「聞けー!!もう公園内にリリーナ・ランドルフが
いる!急いで殺せ!!」
ポッドに戻るなり叫ぶ。
アイツなんなんだ。ナイフで刺されるまで気付かなかった。
奴らの担任であるレイン中佐は近接戦闘の腕を買われて、すぐに中佐に昇進したと聞く。
そのレイン中佐から教わっているのであれば、近接戦も相当な実力の可能性があるか。
「クソ!やられた!」
「北東で殺された!」
味方の視点をモニターでチェックするが、未だ奴が倒されていない。
どんどん被害が拡大していく。
あ、れ?
既にほとんど外周見張り組のモニターが消えている?
「いたぞ!!」
フラッグ南側に集まっていたメンバーが気付いたようだ。
しかし、フラッグを挟んで北側にいるリリーナからフラググレネードを投げ込まれた。
急いで散開した所でモニターが切れる。
む、リスポーン可能になったため、ボタンを押し、復活する。
視界が切り替わり、公園内に戻ってくる。
俺の視界には少し左にフラッグが見える。
って事は……
1歩動き出出そうとした瞬間に、目の前が暗くなる。
俺はまたポッドに戻ってきた。
は?
……やられたのか!?
復活直後、1秒くらいしかなかったはずだぞ。
急いでモニターを確認する。
「は?」
5人しか生きていない。12人いるんだぞ。
「ア、アイツを止めろ!!」
「北の生け垣の方だ!」
ナンシーがベンチ裏に隠れ、奴の方を狙う。
奴は北側にいるはずだ。
「どこ!?」
ナンシーの視界からは生け垣の裏にいるのか、奴の姿が見えない。
ドッドッドッドッ!
突然、ベンチが撃たれる。弾がベンチを貫通してナンシーがやられる。
奴1人に全て荒らされている。
まだ生きている、スコットにモニターを移す。
スコットは木を盾にしている。スコットからも生け垣が邪魔して見えない。
お、誰かが復活した。
ドッドッドッ!
復活したそばから殺される。よく見るとフラッグ周辺に死体がたくさん倒れている。
リスポーンする度にさっきのように、やられているのか。
だが……
「見えた」
そう、マズルフラッシュが見えた。やはり北の生け垣の裏、すぐにマズルフラッシュのあった場所に標準を合わせてトリガーを…
スコットの視界がブラックアウトした。
あのタイミングで奴にやられた?
すぐにモニターを移す。
俺の疑問はすぐに解消される。
「ちょっ!?南から撃たれてる!!スナイパー!!」
ちょうど映したアグノラからの通信だ。アグノラの視界には南側の木々が燃えた後が見える。
最も燃えた部分は視界が開けており、おそらく集中的に燃やされたことが分かる。
南は7年の本隊が攻めてきていたルートだ。
そこからも前線を上げられている。
北側のリリーナ・ランドルフと挟まれた形になっている。
俺達が7年に完全に手玉に取られている…
「ふざけんなッ!」
リスポーンボタンを力任せに押し、参戦する。あの野郎さえ倒せば押し返せる。
全ての起点はリリーナ・ランドルフだ。
残りの奴らも優秀かもしれないが、優秀な奴なら俺たちの学年にもいる。
あの心底楽しそうに撃ちまわり、こちらに大打撃を与えている死神みたいなアイツさえ止めれば立て直せる。
リスポーンした瞬間に、北側に振り向き走り出す。
プツン……
走り出したはずの俺はもうポッドに戻っていた。
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