2.異変
ジョロジョロと水はでるが……期待したよりも……
くそ!全然勢いが出ないじゃないか!
「ふぬ〜」
「すごーい!お水が、出てるー!」
シアちゃんだけは手を叩いて喜んでくれてるみたいだ。
手から、いや魔石から水を出しながら出力を調整しようとするが上手くいかない。
そのままいきんでみても、魔力をもっと流そうとしても、それ以上は強く水は出てくれなかった。
でも、まだ出せるし、練習の時の脱力感から言って、まだもう半分くらい出せそうだ。測れてないけど、コップどころじゃない。
バケツ2杯くらいいけたんじゃないだろうか。芝生がビチョビョに濡れている。
「り、リリー?魔力は大丈夫なのか?」
父さんがびっくりした顔でこちらを見ている。よく見るとみんなびっくりしたような、唖然としているような顔だ。
「魔力?そういえばランク1魔石の時と同じくらいの脱力感なんだね。出る量は増えたけど、勢いはあんまりでない…」
それが悲しい。本で読んだから分かる。ランク2魔石の出力としてはそこまで凄くはない。戦闘に使えるレベルの、魔術師達はランク2の時点で水鉄砲のように飛ばせるらしい。
私は魔術師の適正がないのかもしれない。
「そうだね、水の勢いはランク2魔石としては一般的なレベルかな。でも、1分近く出てるなんて事はまずないんだよ」
んー、つまり魔力の量は人より多いってことでいいのかな?基準がイマイチ分からないけど、やっぱり私は間違ってなかったね。
「私の魔力が多いってことだよね。でも、魔術師の適正はなさそう……」
父さんが慰めるように、私の頭をポンポンする。
「魔術師の適正は珍しいからね。ないかもしれないけど、このアルステリア帝国全域でもその年に1人か2人しかいないんだ。そのくらい珍しい」
流石に、選ばれし魔術師になれるほど、チートな転生ではなかった。
「でもね、さっきの水の量を見るかぎり、リリーの魔力保有量は多い。つまり、全員が使える防御魔法はみんなよりも使えるってことだ。」
「防御魔法!?なにそれ!!!?」
防御魔法だと!?そんなのあるなら早く教えて欲しかったよ!あ、隠れて練習してたんだけどさ…
「一般にランク2魔石から使える魔法なんだ。名前の通り、防御に使う魔法でね。シールドと呼ばれる透明なバリアを身体の周りに張ることが出来るんだ。こんな風にね」
父さんが言い終わる瞬間、うっすらとだけど、父さんの周りに膜が見える。ガラスのような感じで中は見えるけど、ガラスと違って継ぎ目などはないから少し分かりにくい。
「これが?触っても大丈夫?」
「大丈夫だよ」
許可が出たので、恐る恐る手を伸ばす。
ん、硬い何かがある。やっぱりガラスみたい。防御魔法だから防弾ガラスみたいなイメージなのかな。指紋はつかないけど。
「実はランク2の魔石をプレゼントしたのは、これをミリーにも教えたいと思ってたからなんだよ。うちの娘の安全をなるべく確保したいからね。」
「父さんありがと」
そのお陰で許可まで取ってくれたのか。ちょっと親バカも入ってるかもしれないけど、嬉しいプレゼントだ。
「小さい頃から練習すれば、起動も早くなるからね、より安全だ」
割と親バカかもしれないけど、私のためでもあるのでここは気にしない。
「早く練習したい!!」
「ハイハイ、それは明日からよ!今日はまずケーキ食べちゃいましょ」
母さんの号令で食事に戻る。
ケーキを食べようとすると、何か凄い視線を感じた。見ると、物凄いキラッキラした目でこっちを見つめている。
「シ、シアちゃん、どうしたの?」
「リリーちゃん凄い!!」
興奮した様子で話す。
「そ、そうかな。シアちゃんも適正が水なら練習すれば出来るよ。シアちゃんの適正は?」
「まだ分かんない!!でも私もやれるようになる!!」
分からないのか。まだ魔法使った事ないのかな。
「おいおい、リリーよ。なんか勘違いしてないか!?」
「ん?ザックさんどうゆうこと?」
「普通はな、6歳で魔法適正を検査するんだ。魔力量が安定しなくて6歳まではどの属性も上手く発現しないんだ」
「え?」
「だからもっと小さいときから出来てるお前さんを俺は天才児って言ってんだぞ。俺はお前がやたら大人びてるから言ってる訳じゃないんだ」
「お、ザックぅー、うちの娘のことよく分かってるじゃないか。そうなんだよ、うちの子は俺に似て天才なんだ」
「はいはい、隊長のその話は既に耳にタコが出来るくらい聞いてるよ!」
「あら、あなた!リリーは私に似て天才なのよ!」
「おっとー!?こりゃまた話が長くなるぞ!」
「そうなりそうね…
でもうちの娘も凄いのよ!」
「おいおい。リサまで勘弁してくれよ。
……シアはなぁ!努力家なんだぞぉ!リリー、シアはな、もう自転車乗れるんだぞ!何度転んだってへこたれないんだ。目標に向かって頑張れる、強い子なんだぞぉ!」
大人達が子供自慢を初めてしまった。結構呑んでるし、テンション爆アゲで騒いでいる。
この日はうるさい大人とキラキラした目のシアちゃんに囲まれながら、ケーキを食べた。
それから1週間がたった。もちろん毎日練習している。魔力を魔石に通すのは同じだけど、射出すると言うより、膜を張るように魔力を流す必要がある。本当にシールドなんだ。時間をかければ張れるけど、まだ発動に時間がかかる。
父さんみたいに出来ないと使い物にならないんだろう。まだまだ練習が必要だ。
やっぱりというか、母さんも防御魔法が使えた。コツなどを教わりながらやっているが、最終的にはひたすら反復練習らしい。息をするように発動出来るようにならないといけない。
ちなみに軍人はまずこれを出来ることが大前提の基礎らしい。そりゃ、みんなが練習すれば出来る魔法だし、生存率が変わるのだから必須だろう。
私も別に軍人になるつもりはないが、転生したからにはそう簡単に死にたくない。前世は不本意な死に方したし、せっかく貰った命、幸せに長生きしてやる。
そのためにはやっぱり強さって大事だと思う。でも特にチート能力はいみたいだから、強くなるには純粋に早くから努力するって方法を取るしかないと思っている。魔力量についてはそのお陰で、一般より成長しているようだし。
マジで努力は裏切らないんだな。多分、精神年齢が子供だったら続けられなかったな。
この世界は楽しいし、充実した日々を過ごしている。
そんな幸せな日常は突然変化する。
深夜、寝静まり、しんとした家に音が鳴り響く。
ガタンッ!
「ん…」
その突然の音に私は意識を取り戻す。
なんだろう。相変わらず静かな室内。
先程の音は気のせいだったのでは、夢だったかもと思い始めた。
時刻を確認すると夜中の2時…
尿意を感じ、一旦トイレに行ってまた寝ることにする。
自分の部屋から出てトイレに向かうところで、背後から口を塞がれる。
「ンン!?」
振り向こうとしたが強く抑えられており、それは叶わない。
チクッと首筋に痛みを感じる。
私は何が起きたか理解出来ないまま、そのまま意識を手放した。
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