28.対9年生
「シンディ!」
テレーズ長官は7年生の担任である私を呼ぶ。
「はい…」
「これは生徒達が考えたことなんだよな?」
「はい、間違いなく。
…クラス全員が彼女の手足となることが最良と判断して行っています」
「あのようなことをして、一か八かでも狙っているのですかな?7年生が勝つにはそれしかないですか……ハッハッハ」
モンティーヌ先生が反応する。
しかし、午前中も目撃している先生達からの返事はなかった。
モニター室からは全ての動きが複数モニターで確認でき、各人の音声も分かる。
リリーナ達は敵フラッグへ向けて全員で走り出していた。
リリーナの目が紅く輝きを放っている。あれはリリーナ・ランドルフの血統スキルであるレッドアイを使用していることが分かる。
〖全員、私に続け!〗
〖〖〖了解!〗〗〗
隊列作りながら、リリーナにクラスメイト全員がついて行っている。いい隊列だが、フラッグの守りは誰もいない。
誰か1人でも敵を逃せば、フラッグへと一直線だ。
負けは必至である。
それに引き換え、9年生は6名がフラッグ防衛に残り、もう6名で攻め込んでいる。防衛位置も可能な限り前線を上げるように散らばっているが、お互いがカバーに入れるようによく考えられた配置でバランスも取れている。
攻撃部隊となっている6人は3名ずつに別れて、偵察しながら、7年生を見逃さないと慎重に進んでいる。
しかし、リリーナ達は真っ直ぐに最短距離で、先行している9年生3名に向かっていた。
〖カンナ班1つ右の路地へ!〗
〖了解〗
ハンドサインでリリーナ達が停止する。
〖カンナ班、角まで進んだらストップ。私達の正面の路地から敵がくる。カウント後発砲!
カウント、3、2、1、今!〗
ダダダ!!
リリーナな指示で路地から出てくる所の9年生を瞬殺する。
さらに路地を進んでまた止まった。
〖ベルク!ジュスト!前方、赤い屋根の家、2階の1番右を撃ち抜け〗
〖了解!〗
ダダダダダダ!!
〖ナ〜イス!キル完了。
カンナ班はその建物の内部で待機〗
〖了解〗
〖シア、マッド、正面の3階建て、屋上に構えて!〗
リリーナについていた、シアとマッドが素早く構える。
〖屋上…右端!3、2、1、今!〗
ドッ!ドッ!
〖ナイスキル!〗
リリーナの的確な指示により次々にキルを増やす。
「な、なんなんだ、これは……?」
モンティーヌ先生が動揺し立ち上がるのも無理はない。リリーナのレッドアイは、同じレッドアイ保持者の彼女の父、シルヴァン隊長よりかなり長時間運用している。
リリーナ自身の指揮能力の高さも相まって、凄まじいまでの精度を挙げている。
今も残りの攻撃部隊3名を追い詰めようと動いていた。
「……ククッ、そうか。そんなことが可能なのか……」
テレーズ長官が何か納得したような素振りをしている。
「ちょ、長官??」
「あぁ、君は知らないのだったな。
リリーナ・ランドルフは【レッドイーグル】の娘だ」
「ッ!?あ、あのアルステリアの英雄の!?」
「そう、レッドイーグルの本名はシルヴァン・ランドルフ、リリーナは一人娘であり、シルヴァンと同じ血統スキル:レッドアイの保持者でもある」
「……た、確かに目が紅く輝いています。
す、全てを見通すと言われる目、ですね」
「確かに全てを見通す目として知られているが、実際はそんな能力ではない。
それは世間的なプロパガンダだな。
本来の能力は壁など遮蔽物があっても、敵の位置が見えるという物だ。
それを活かした立ち回りがそのように見えるだけだ。まるで全てが見えているように扱えるのは、本人の戦闘能力だな」
「そうだったのですか。いや、それでも充分に強い。
…?
しかし、彼女のレッドアイは途切れ途切れの不完全なものに見えるのですが?」
そうなんだ。
シルヴァン隊長はレッドアイを発動すると、数分間目が紅く輝き続け、その間見えている。そういう能力だ。
普段の訓練でも彼女が能力を使うと強過ぎるため、ほとんど制限を設けていた。
そもそも、能力なしでも強いのだ、訓練時にそれは困ってしまう点だった。
故にリリーナがレッドアイを本気で使った所を私は見たことがなかったのだ。
私の想定を超えた力だった。
「あれは不完全なのではない。恐らく、リリーナはレッドアイの発動と停止をこまめに切り替えている」
「ぇ?」
「定期的に見るだけで、動きをほぼ網羅できるのであれば充分ということだろう。
レッドアイは魔力消費が大きい。節約しつつ、最大限能力を活かす。
理にかなっている。
本当にそんな事ができるのかという話は、目の前で見てしまったら、そうなのだと受け入れる他ないだろう。
ハッハッハッ!!
ほら、彼女自身も大した腕前だ!!」
モニターには最後の9年生攻撃部隊が木の塀を壁抜きさせて倒れ、ニヤリと笑ったリリーナが敵フラッグへまた前進していく所だった。
モンティーヌ先生はリリーナをみて少し怯えた素振りを見せる。
「そんな……」
そうだろう、そうだろう。
いいぞリリーナ!
溜まっていたストレスが少し発散されている気がする。
「し、しかし、ここを守りきれば、節約したとはいえ、いくらなんでも魔力がもたないはず!」
む、それは確かに言えている。
だからこそ、この攻撃で決めてほしい。
午前中の8年生相手はこのまま押し切っていた。
……頼むぞ!みんな!!
_______________
「敵防衛線に到達。カンナ班はその建物2階の敵を」
「「了解」」
「イーノス班は正面を引き付けて」
「「「了解」」」
「アッシュ班は隣の通路からイーノス班の援護を!」
「「了解」」
私達は私のレッドアイをベースに進軍し、都度個別に分かれる形をとっている。
あらかじめ誰がどの班になるかを決めているため、スムーズに分かれることが可能だ。
カンナ班:カンナ、ミロ
イーノス班:イーノス、ベルク、ジュスト、マッド、ミシェル
アッシュ班:アッシュ、ハーヴィン
シア班:シア、ロブ
といった具合だ。
状況に応じて、各班が対応する。
主力はイーノス班。
ベルクとジュストは身体が大きく力があるため、機関銃を装備している。
この世界は私みたいな華奢な体格でも機関銃が撃てる。
前世基準だとその時点で異常だが、やはり体格が良い彼らはさらに安定感が増す。レッドアイで壁抜きするにはちょうどいい。
そんなイーノス班に敵を引き付けてもらう。既に最初の攻撃部隊だった奴らがリスポーンしている。
ん!?また回り込もうとしている奴がいるな。
「こっち」
シアとロブを連れて、回り込む敵を狩る。
ハンドサインで停止。
銃を構える。
今回の私のメイン武器はアサルトライフルの【スピノ】を使用している。
連射速度は遅いが一撃の威力が高い。壁抜きを多用する予定の今回はこの武器がいいと判断した。
ドッドッドッドッ!
出てきた瞬間には発砲し、すぐに処理する。
次だ。
一瞬、イーノス達を確認する。
うん、指示通りに出来ている。敵の複数を引き付けて、そこに留めている。
カンナ班が倒したまま2階から援護している形だ。
カンナは言わずもがなで足が速い。血統スキルのアクセルもあり鬼に金棒だ。だが、次にミロも速い。
いい遊撃として動けている。
「カンナ、もうすぐその建物に敵が2人回り込んでくる。東から屋根伝いに隣へ移動、後ろを取って!」
「了解」
「リリーナ!まずい、敵の血統スキルだ!ベルクがやられた!」
アサルトライフル【スピノ】≒SCAR-H
見た目などはこちらのイメージで。但し、あくまでも性能はゲーム〖Hero of War 虹色の戦争〗を元となっており、実銃とは必ずしも同じではありません。
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