27.試合開始
学年対抗訓練の日、当日となった。
この1週間はフラッグ戦のルールの理解度を上げたり、動きを確認したりと学年対抗訓練に力を入れてた内容の訓練だった。
今回、7年生の担任である私は作戦に口出ししてはいけないことになっている。
これはあくまでも訓練だ。
生徒達が自ら考え、立案した作戦で戦い、良い点やダメだった点を改善していく。
机上の作戦だけでなく、実際に行って失敗してもいい。よく学ぶこと。次に活かすことが趣旨だからだ。
ただ、私も作戦内容は把握している。
どんな作戦でもその中での動きを確認して評価、今後のアドバイスをしなければならないからだ。
生徒達のやる気もものすごい。色々あったからだが…私も是非勝ってほしい。
既に私自身が出来ることはもうないが、だからこそ緊張もしている。
演習場:クライシスサークル、その中で対角線上の端にお互いのフラッグが設置されている。
長方形のフィールドよりも、抑えなければいけないルートが多く、12名では全てのルートを抑えることは不可能に近い。
そもそも、学年対抗訓練は基本的に7年生が不利で、9年生が有利だ。
7年生はこの演習場:クライシスサークルでの訓練はここ1週間が初めてで、それも時間が決められていたのだ。
8年生以降でメインに使うようになる場所なのだからマップ理解度が違う。
リリーナならば勝てるのでは……
との想いはあるが、1週間の訓練で果たして通用するのだろうか!?
私が学生の頃と比較しても、リリーナは突出しているが、1人で勝てるルールでもないのだ。
何度も言うが、私は信じるしかない。
彼女たちが立てた作戦が通じることを。
リリーナの指示に従うという常識ならば有り得ない作戦を。
「大丈夫ですか?」
準備中のモニターを見てソワソワしている私を見て、ラリー先生が声を掛けてくれる。
「…大丈夫です。信じるしか出来る事がないのも、やるせないものですね」
「そうですね。私も去年はそうでした。前回の反省点を訓練する1年だったようにも思います」
「…やはり?」
「はい、昨年の8、9年生にコテンパンにやられましたね。まぁ、いい勉強になりましたよ」
「分かっているつもりですが、なかなか難しいですね」
「そうですね。過去7年生が勝った事はないそうです」
やっぱり、1年の経験値の差は大きいんだな。
ラリー先生は私の3つ上の世代。ちょうど対抗戦は行っていないが、感覚は同じだろう。
「みな、揃っているな!」
モニター室にテレーズ長官が入室してくる。
学年対抗訓練は長官もご覧になる。
モニター室に私と8年生の担任であるラリー先生、教頭先生、テレーズ長官に加えて、15名くらいの先生方がいる。
9年生の担任であるモンティーヌ先生と今の時間、6年生以下の授業がない先生はみんなここにいる形だ。
軍学校には軍の階級のない普通の教師達もいる。
そんな教師たちもイベントは見学したいらしい。モニタールームは生徒の音声も聞こえる。さらに血飛沫も全てがしっかり見えるのだが、歴の長い先生は慣れたもので、かなり人気だ。
1名新米の先生がいるが大丈夫か?
「いやぁ、私も楽しみにしていたんだ。生徒達の演習はなかなか見ることが出来ないのでな。今日明日はしっかり見せてもらうぞ!
ラリー、8年生達はどうだ?」
「みんな去年よりかなり練度が上がっていますね。連携から個人の実力、成長した所をご覧になれるかと思います」
ラリー先生は生徒の成長に自信を持っている。
「僕が学生の頃よりも練度は高いと思いますよ」
「ほう、そこまで言うか。楽しみだな。
シンディのほうはどうだ?」
「生徒達は気合いがすごい入っています。まだまだ至らぬ点はありますが、もしかしてと、思わせてくれるレベルがあるかと」
テレーズ長官がニヤリと笑う。
「ほほう。
それでシンディのお気に入りの方はどうなっている?
7年になってからは忙しくて話も聞けていなかったからな」
「えー……その、なんと言いますか」
「どうした?珍しく歯切れが悪いな」
「……まずはご覧頂いた方が分かるかと。恐らく口で説明しても上手く伝えられるか分かりません。
あらかじめ言わせて頂きますと、7年生の作戦は〖リリーナの指指示に従う〗です」
「ぶはっ!?ハッハッハ!なんだその作戦は!?」
「しょ、正気ですか!?いくらレイン先生が口を出せないとはいえ!?」
皆さんびっくりしますよね……
あー、話を聞いてるだけだった皆さんも「え?」って顔している。
「ククッ、それは前代未聞だな。では見てみようか!」
「はい、お願いします!」
「それでは定刻となりましたので、7年生、及び8年生は各ポッドに入り、フィールドに移動してください」
教頭先生がアナウンスを行う。
全ての準備が整ったのを確認して、合図を出した。
「それではこれより7年生対8年生のフラッグ戦を始めます!」
ビーーーーー!!という開始音と共に全員が動き出す。
ビーーーーー!!
試合終了のブザーがなり響く。
「……………」
観戦していた先生達の声が消えている。
先程とは違う意味で驚き、立ち直れないでいた。
「しょ、勝者、7年生!」
教頭先生も驚きながら宣言する。
かくゆう私も驚いている。やりうるとは思っていたがここまでとは……
あそこまで使えるなんて。
リリーナが「本気でやります」と言っていた、その意味をまだ理解していなかった。
3時間あった試合予定時間はかなり前倒しで終了し、お昼までまだまだ時間が残されていた。
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午後になって、ようやく因縁の9年生の相手だ。
午前中に8年生を相手に動きを確認し、みんないい動きだ。
私に迷いなく従ってくれる。
チーム〖月光〗を率いていた頃に戻ったような、そんな錯覚さえある。
「リリちゃん思う存分やっちゃお!」
「任せて!」
大きく息を吸って吐く。私の集中力も高める。
この作戦は私にかかっている。想定より長い休憩を挟んでいるため、連戦の割に魔力はまだまだ問題ない。
「全員気合いを入れろ!!今回の敵はただの敵ではない。怨敵である!完膚なきまでに、叩き潰すぞ!」
「「「了解!!」」」
髭ダルマ先生達に嫌がらせされた恨みを、正式にぶつけることができる。
全員気合い充分だ。
ビーーーーー!!!
試合開始の合図だ。
開始直後はフラッグ周囲30メートルからスタートする。フラッグ設置場所は公園のようになっており、リスポーンはこの公園だ。
向こうは直線500メートル先の公園。
私達は私を先頭に全員で真っ直ぐ敵フラッグへ走り出す。
住宅が所狭しと並んでおり、視界が悪く遠くまで見通すことは出来ない。
しかし、私の目ははっきりと奴らを追っていた。
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