26.揉め事
学年対抗訓練に向けて訓練の1週間だ。
レイン先生からの説明を聞くと、対抗戦はまだやったことの無い演習場:クライシスサークルで行われるらしい。
本番までは7、8、9年生で使用出来る時間が均等に割り振られ、訓練することになる。
演習場:クライシスサークルは文字通り外縁部が直径700mの円形フィールドで、住宅街を模して建物がたくさんあるのが特徴で、市街地の戦闘を想定している。
いやぁー、モニターで見るのとは訳が違うね。
「すっげー」
「でけぇー!」「街じゃん」
「おぉぉ」
みんなも見ちゃうよね。
高くても3階建て位の家々が並び、ひしめき合っている。路地もたくさんあってかなり入り組んでいる。
これ初見で覚えるのめっちゃ大変じゃない?覚え切れる訳ないのでは?
私は詳細を思い出すだけだから、もうかなり補完されているけどさ。
でも、私達不利じゃんね。
マップの理解度は戦績にかなり直結すると思う。そりゃエイム力とか実力面でも色々な要素があるが、実力が同じだとしたら、マップを知っている者と知らない者なら知っている方が有利なのは言うまでもない。
ここの窓から向こうの入口が見える。
ここを走ると屋上から見られやすい。
この直線は隠れる場所がなく、無防備になりやすい。
色んなパターンがある。
7年生はこれを限られた時間で覚えるのか……
実践を想定したと言われればそれで終わりではあるが、不利なもんは不利だね。
「さあ諸君!時間がないぞ!今はスコアを気にしなくていい!
全員、時間いっぱい動き続けて、なるべく覚えるんだ!!」
レイン先生がここで最初に、訓練させるのはハンドガン縛りのフリー・フォー・オールだ。
ハンドガンは他の武器と比べて射程が短い。このマップだと適正距離は室内戦くらいだろう。
その代わり、すごく走りやすい。
レガシーアイテムを利用しているため、ルールを設定する必要があっただけで、ほんとに今日は走り回れということだ。
今日の私はマップの中で記憶の薄い部分やギミックが健在なのかを確かめていた。
そうこうしているうちに1回目の練習が終わってしまった。
演習場:クライシスサークルの使用は後2回しか残されていない。
「リリー、どう?覚えられてる?」
「まぁ、ほぼ把握したかな」
思い出したとも言う。
「マジ?私なんて全然だよ。なんでリリーは動ける上に頭もいいのよ」
カンナごめん。私は知っているだけなんだ…
「室内もちゃんとあるから大変だよね」
ミシェルも初見で覚えるのはなかなか苦労しているようだ。
「さすがリリちゃんです。やはりリリちゃんは神!」
なんか、シアの私に対する評価がおかしくなってきている気がするんだよなぁ。
それに未だに一緒のベッドで寝ようとしてくる。さすがに狭くなってきてるぞ?
あの内気だったシアはすっかりなりを潜めたが、おかしな方向に行っている気がしないでもない……
「これで作戦も考えなきゃでしょ!?思ったよりも時間がないね」
不安を訴えるカンナ。私もかなり時間がないと思うよ。
「さっそく、みんなの意見を合わせながら作戦を立てよう」
「うん」
「いっそげ、いっそげ」
ミシェルの肩をカンナが押しながら、教室へ向かう。
2回目はフラッグ戦のルールで戦闘を行い、感覚を慣らした。
問題が起きたのは3回目。
いつものように時間で演習ルームに移動すると、何やら揉めているようで、中に入れない。
「これが終わるまで待て!」
上級生、胸のパッチを見る限り9年生のようだ。
「ですが、既に時間が過ぎています」
イーノスが上級生と話している。
「貴様、上級生に口ごたえする気か?」
「しかし、私達も時間が限られているのです」
「だ、か、ら、ほんの少し待つだけで良いと言っている。上級生が少し待てって言ってんだぞ!
上級生の命令には従え」
なんだ!?あの高圧的なやつは。
周りの上級生はニヤニヤしている。あの高圧的な短髪の赤い髪の毛をしたムカつく野郎がリーダーか?
猿っぽい顔しやがって。赤猿先輩だな。
随分、舐めた態度をしている。
む、ドアの奥に9年生担任の髭が特徴的な先生。私達は髭ダルマ先生と呼んでいる(本名は忘れた)。
その髭ダルマ先生がニヤニヤとこちらを見ているな。
これ、レイン先生が呼ばれているから先に行っていろって言ってたのと関係あるのでは?
あいつ確信犯だろ!?
軍は立場に厳しい。学校でもあるが、その辺の罰則はしっかり作られている。
理不尽な要求であれば拒否する事が出来る。
ただ、今回は上級生に非はあるが、少し待てと言われただけと捉えられる可能性がある。
まだ無理して反抗する材料が不十分だろう。
あの顔、どう見ても分かっててやっていそうなんだが……
「どのくらいかかりますか?」
「どのくらいって言われてもな、もうすぐだ!
も、う、す、ぐ!」
なんと言うムカつく態度。赤猿先輩め!
「おっと、お前!こっちの情報を見ようしたな!」
赤猿先輩の隣にいた、ごっつい体格の先輩がアッシュに目をつける。
「い、いえ、そんなことは」
アッシュはいてもたってもいられず、覗こうとしたようで、目をつけられてしまう。
「いや、確かに見たよなぁ!?作戦が漏れたらどうすんだぁ!!」
ごっつい先輩はその体格もあり、威圧感がある。
うーん、ゴッツ先輩……
いや赤猿先輩もいるから…
ゴリラ先輩かな……
「あ、いや、何も。本当に、情報はなにも、分からないです。すいません」
アッシュはゴリラ先輩に詰められ、小声になりながらおずおずと下がる。
「あぁ?他に文句あるのか!?」
赤猿先輩もゴリラ先輩も見渡すようにガンを飛ばしている。
赤猿先輩にミシェルが見られてビクッと震えている。
あの野郎!!
なにミシェルにガン飛ばしてやがっ……ん?
シアに抱きしめられる。2人を見ると軽く首を振っている。
今はやめとけって?
カンナが前に出ながらミシェルを抱きしめ、私を隠す。シアが私に耳打ちをしてきた。
「今は耐えて…試合で…」
……ん、頭に血が上ってたかな。
シアもムカついている顔だ。後ろ姿しか見えないが恐らくカンナもだろう。
カンナはいつの間にか背が大きくなって、私、前が見えない。
そうだね、私が絶対償わせるからね!
「何をしている!?」
レイン先生が到着した。
「先生!9年生が時間を過ぎても訓練していて…」
「いえ、少し待って貰っていただけです」
赤猿先輩がすぐに用意していたであろうセリフを言う。
「いやぁー、レイン先生すいませんね。生徒達が練習熱心なもので!もう、終わりましたので、どうぞどうぞ!」
レイン先生が何か言う前に、髭ダルマ先生が割り込んでくる。
「モンティーヌ先生、決められた時間を守って頂かなくては困ります」
「えぇ、すみません。次回からは気を付けますので」
……次回なんて無い。分かっててやってるな。
「それでは。我々は早々に失礼しますね」
ゾロゾロと9年生が出ていく。
うーん、9年生も12名。
うん?さっきまでここを塞いでいた3人以外は本気で悪いと思っているような……
本当に申し訳なく思っているような顔をしている……
あぁ、そうだよ、そうだよな。
こんなこと全員がやる訳が無い。
ポッドなどがある演習ルームに入ると、時計が遅れていた。
やっぱり、知らない人達はまだ時間じゃないと思っていたんだろう。
髭ダルマ先生も最悪時計のせいにして言い逃れ出来る。
小賢しい奴だ。
今回の一件で7年生のやる気はかつてないほど高まっている。
アイツらマジで絶対泣かせてやるからな!
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