25.シンディ・レインの事情
「それではこれで今日の訓練を終わります」
「レイン先生、ありがとうございました」
授業、もとい訓練が終わり、放課後となる。私達教師陣は会議のために職員室に集まっていた。
私のクラスも、もう早いもので7年生になってからもう、秋になる。そろそろ学年対抗訓練が始まる時期だからだ。
学年対抗訓練は、7年生、8年生、9年生で行われる、文字通り学年対抗で演習を行う訓練だ。
例年、春から正規軍と同じ訓練に参加したりと訓練がメインになっている9年生が勝っている。
8年生が健闘することはあるが、やはりこの年齢の1年の経験は大きい。
「……そして平時からもですが、各人の能力について先生方から教えることは禁止です。いつもと違う敵。敵の能力が分からない戦場。また、そういった情報収集が鍵となる訓練にしましょう。
以上が今年の学年対抗訓練の内容です。
それでは来週月曜日に発表、再来週に本番となりますのでよろしくお願いします。」
教頭先生が説明を終え、会議が終了する。
「レイン先生、今年の7年生は優秀だそうですね」
くっ、早く離れたかったが、嫌なのに絡まれたな……
「えぇ、自慢の生徒達です」
「毎日のように放課後も演習に付き合っていると聞いております。練習熱心なことですな」
「え、えぇ、演習が楽しくて仕方がないようで……」
「ふむ、やはりレイン先生はお若いからか厳しい訓練が苦手と見える……
いや、訓練でもお優しいのでしょうな!精神面の訓練は私が担当しても宜しいのですよ!」
この嫌味ったらしい発言をしているのは、髭が特徴的な9年生の担任、ジャレル・モンティーヌ少佐。
年下の私が中佐だからか、私のことをよく思っていない。
いや、食事の誘いを断ってからだったか!?
気にしてなかったからあんまり覚えていないが、最近は直接嫌味ったらしいことを言うようになってきた。
軍学校では一応先輩であるのだが、ここは軍管轄でもある。私が上官だと忘れているのだろうか……
忘れているのかもな。私が18歳の頃に今の7年生を受け持つことになったのだから…
軍学校を卒業してすぐ、私の血統スキルの関係もありアルノー長官指揮下となった。
長官からの私への命令はリリーナの育成と監視、また、将来的に私の部隊を作成する上での人材育成だ。
後半は試験的な試みらしいが、私としても嬉しい話だったので、入学したばかりの彼女たちは最初から気合いを入れまくった私の指導で苦労したかもしれない。
「生徒達は精神面でも成長しています。なかなかの練度になっていますよ」
「ほう、それはいい!私のクラスと対戦した際はせいぜい健闘して欲しいですな。我々としても余りに差があると訓練になりませんからな」
ムカつく!!
こいつ、いよいよハッキリ言ってくるな!こんなに機会でもないと余り接点がないからと、気にしないようにしていたが、そっちがその気ならいいでしょう。
「私の生徒たちをあまり舐めない方がいいですよ!」
いつもは流していたのに、今日ばかりは言い返してしまう。
こんなやつ、まともに相手しなくてもいいのに、イライラしてしまう。
……あぁ、頑張っているあの子達をバカにされたからか。
自分でも思った以上にずっと一緒にやってきたあの子達に凄く情が移っているようだ。
まぁ、最近は放課後の訓練は私も一緒に部隊の中に入ったりして訓練している。
将来、部隊を組むなら、尚更いい訓練になるし、私自身も強くなった思う。
特に1名、問題というか、学生とは思えない子がいるので、私も常に本気なのだ。
学年対抗訓練はみんなをもっと上のレベルへと成長させてくれるだろう。
「今日は一段と絡まれましたね」
「あ、ラリー先生」
「すみません、お見苦しいところを…」
ラリー先生は8年生の担任だ。私と同じくテレーズ長官に将来の自身の部隊を作るように言われている人でもある。
「いえ、私も間に入れず申し訳ない。モンティーヌさんの先程の言動は記録していまして……後ほど、テレーズ長官に話しておきます」
え!?そんなことしてたのか。
「同じ教師の立場ですが、上官のレインさんにあのような態度。勝手ながら私が我慢出来ませんでした。すみません」
「あ、いえ、謝る必要はありません。それにあの威勢も対抗戦で崩れるかと」
「かなり自信があるようですね。私も生徒達に発破かけなきゃいけないですね」
「お互い良い訓練としましょう!」
「はい。よろしくお願いします」
翌週のホームルームでみんなに周知する。
「対抗戦のゲームルールはフラッグ戦となる。自軍の元にあるフラッグを取られたら負けとなる。
生き返る回数は無限だが、死ぬと3分間のインターバルが発生する。
この時間で攻められるので要注意だな。
また、リスポーン位置はフラッグ周囲30m以内にランダムとなるため、前線からは遠ざかるからな。
戦闘時間は3時間。3時間以内にどちらもフラッグ奪取がなかった場合は、戦闘中、最も敵フラッグに近付いたチームの勝利となる。最終位置の測定ではなく、誰か1人でも1度近付いていればそれが優先されるので注意だな。
初日は君たち7年生対8年生、午後に9年生と試合することになる。翌日は8年生対9年生の対戦となるので2日目は見学が可能だ。
初日は情報を伏せるために、上級生達は見学出来ないので思う存分戦っていい。
なお、録画は後学のために全て終了後、授業として全員で視聴するので変なことすると見られるぞ。
ここで活躍すればモテるかもな!」
「おぉ」
男子諸君らがザワつく。やっぱり男の子はこの方がやる気が出るのか……
ラリーさんの言う通りだったな。
「ふひひ」
男子生徒たちの顔が若干引き攣る。
……うん、君ならこうゆうの楽しくて仕方がないと思ってたよ。
声を押し殺そうとしているが、顔に出ているからよく分かる。
凄く楽しみな顔だ。
今回ばかりはそれが頼もしいな。
「リリーナ」
「っ!?はい!!」
怒られると思ったのか、すぐに姿勢を正してこちらを見る。
「全力でやっていいぞ。上級生、特に9年生をコテンパンにしてやれ!」
パァ!とゆう効果音が聞こえるくらい、いい笑顔になった。
「はい!!任せてください!ぶっ殺してやります!」
私が促したからだが、やりすぎたかもしれない。
私がイラついたのはモンティーヌだったのだが……
上級生達には悪いことしたかもしれない。
「う、うむ、その意気だ」
「……先生がリリちゃんを抑えない。何かありました?」
「確かに!いつもリリーには規制するのに!」
「あ、いやそれは…」
「あ!あの髭ダルマ先生じゃない!?」
っ!?カンナよ、何故分かるんだ!?
「なるほど!!
今のレイン先生の反応で分かっちゃいました。モンティーヌ先生はレイン先生に気があり、声を掛けたが振られてしまった。その逆恨みでいつもネチネチ嫌味を言われたりしている。今回の対抗訓練についても言ってきたことでしょう。
もし、我々のクラスに負けたら私の物になれと!……きっとそんな所でしょう!」
ミシェルは大人しい子だと思っていたが、恋愛系が好きなのか、熱弁していた。
「「おぉ……」」男子諸君がなるほど!と納得している。
だからなんでそんな分かるんだ!?
前半はほぼ合っているのがなんとも否定しきれない。
「い、いや、そこまでは言われていないが……」
「よし!みんな!レイン先生を守るため、髭ダルマ先生をコテンパンにしてやるぞ!」
「「「「「おう!!」」」」」
いや、戦うのは生徒たちなんだが……
私が何か言う前に、どんどん生徒達のやる気が上がってしまった。
少しでも面白いと思って頂けれれば、
ブックマークやいいね評価等して頂けると、モチベーションも上がって非常に嬉しいです!




