19.悩み
シアちゃんは優しく問いかけてくれる。
「怖いの?」
「……うん」
「そっかぁー、どんなところが怖いの?」
どんなところと言われても...
「すごく痛いし...さ、さっきも、あ、足が飛んでっちゃって……」
「あちゃー、爆発系か。それは痛いかも」
「リリーちゃんはなんでそんなに楽しそうなの?」
私は気になってつい質問した。
「え!?んー、銃を撃つのも楽しいんだけど、やっぱり、敵を倒すのが楽しいかな」
「やられるのは怖くないの?」
「そりゃぁ、やられたら悔しいけどね。私は今度こそってなるタイプかな」
っ.....
リリーちゃんは強いからそんなことが言えるんだよ。
と言いかけて思い留まる。
それはリリーちゃんの努力を否定する気がして...
これまでも私はリリーちゃんの訓練を見てきたから。
毎日遅くまで、放課後もやっている。銃が解禁されてからはずっと射撃ブースに篭っている。
人一倍努力しているリリーちゃんが強いことに疑問はない。
「強くなれば楽しいって思えるのかな?」
「んー、ミシェルは優しいからね。いざ本当の戦闘では思えないかも……
でも、演習は本当に死ぬ訳じゃないよ。
ゲームというか、遊びみたいなものだから、倒して楽しいって考えたらいいんじゃないかな!?
あ!それに痛いことも減るかもしれないね」
「そうかな……」
「うん、それに演習は何度でも出来るけど、実際に敵と戦ったら、本当に死んじゃうよ。
今、練習しておかないと直ぐに死んじゃうかもしれないよ」
「そう、だよね……」
リリーちゃんの言ってることは正しい。
本番は死ぬ。
戦わなきゃ死んじゃう。皆と一緒にいることも出来ない。
「そう「リリー!!」!?」
リリーちゃんが返事しようとしたところで、右奥の通路からカンナちゃんが出てきた。
「ハハッ」
ニヤっと笑ったリリーちゃんが私から離れる。
それを待っていたかのようにカンナちゃんが銃を撃った。
リリーちゃんは障害物を巧みに使って躱している。
しかし、地面に血痕がある。多分最初に私から離れる時に被弾したようだ。でも、そんなこと感じさせない動き。
絶対痛いはずなのに……
既に2人とも座り込んだ私のことなど、とうに眼中にない様子。
カンナちゃんが少しずつ距離を詰めているところで、リリーちゃんが反撃に移った。
ドン!という音と共に発射されるが、カンナちゃんの姿がブレて高速で移動する。
血統スキル【アクセル】。超加速して移動する技。今のカンナちゃんは4m程動ける。
カンナちゃん曰く、魔力がある限り連続でも、発動出来るらしい。
凄い、交わした。
カンナちゃんは連続でアクセルを使用して距離を詰めている。
しかし、距離近付いたタイミングで
「うっ」
あ!?リリーちゃんがアクセルの切れ間に撃ち込んで、カンナちゃんを捉えた。腹部に当たったのか体勢をすこし崩す。
次弾がリリーちゃんから放たれる。
「おりゃぁあ!!」
シールドを張った上でアクセルを!?凄い、同時に出来るんだ!?
カンナちゃんがシールドを張ったまま超加速して消える。
「ハハッ!」
笑いながらリリーちゃんが自分の後ろに向けて発砲した。
「うグッ」
いつの間にかリリーちゃんの後ろにいた、カンナちゃんが倒れる。何が起きたのか一瞬過ぎてわからない。でも多分、カンナちゃんの奥の手が破られたみたいだった。
「アクセルの裏取りは戦術の基本、つってね。ハッハッハッー!!」
すっごく楽しそうな顔をしたリリーちゃんが笑う。
ビーーーーー!!!!!
「演習終了だ。各自一旦戻ってこい。
ちなみにだが、デバイスの操作でも戻って来れるぞ!」
え?……
さっきは必死で自殺したのに、リリちゃんの言う通りレイン先生はいじわるだ。
デバイスを操作すると確かに奥の方に存在した。
<演習場から退出する>の文字。
私は迷わずタッチする。
一瞬の目眩の後、ポッドの自分自身に戻ってきた。
「悔し〜!なんで反応出来たのー?」
すごく悔しそうなカンナちゃんがリリーちゃんに聞く。
「ふっふっふ、私には全てお見通しなのだよ」
リリーちゃんは何やら満足そうな表情でウンウンとしていた。
2人のやり取りはとても楽しそうに見えた。
そこに撃たれて痛いなんて感じはなく、純粋に、勝つために頑張っていた。
私は勝とうとしただろうか……
全然していなかった気がする。
痛いのが怖くて震えてただけだった。
2人を見てると私のダメさ加減も辛い。リリーちゃんの言う通り、震えてるだけじゃ勝てないし、余計痛いだけかも……
なんとかしたい。
ごめん、リリーちゃんまた練習に付き合って欲しいよ。
_______________
「皆、初めてことで大変だっただろう!よくやったな。
今後はこのような演習が多くなる!実戦で動けるようによく訓練するように。
さて、皆ほとんど見れてないだろう、初戦のスコアはこれだ」
1.リリーナランドルフ<キル:30、デス:0>
2.カンナ・クサナギ <キル:6、デス:3>
3.シア・フォーデン <キル:5、デス4>
4.イーノス・ストゥーキー<キル:4、デス:5>
5.ハーヴィン・コッド <キル:3、デス4>
6.ロブ・フリップ <キル:3、デス:5>
7.アッシュエドワーズ<キル:1、デス4>
8.ベルク・ウィスロー<キル:1、デス6>
9.マッド・ベイル <キル:1、デス:6>
10.ミロ・クーパー <キル:1、デス:7>
11.ジュスト・フラーデ <キル:1、デス:7>
12.ミシェル・クウィントン <キル:0、デス:5>
私はモニターでずっと見ていたから分かるが、しっかり見る余裕はなかっただろう。
私も途中から笑えてくる始末だった。
普通、初戦はほとんどどんぐりの背比べだ。座学では既に教えているが、実戦は初めてなんだ。
焦って射撃精度も落ち、クリアリングも不十分になる。考えながら動くのは分かっていても、最初から動けるかは別だ。
あいつ、心底楽しそうに動き回って、新兵の硬さなんて全くない。
冷静に裏をとったりと、立ち回りが歴戦の兵士かのようだ。
昨年の映像を見たがあれこそが最初の演習だろう。私が学生の頃も昨年とほとんど同じような感じだ。
皆おっかなびっくり動いている。
あいつ本当に13歳か?
私でも自信を持って勝てると言えないんだが……
あんなのが混じっていたせいで、トラウマにならなければいいんだがな。
1番危なそうなミシェルは自分でフォローしていたから、悪いことにはならないだろう。
「リリちゃんさすがだね!」
「シアもだんだん動きが良くなってたよ!いい感じ!」
「そう!?リリちゃんに教わった事、思い出して頑張ったんだ」
「よしよし、偉いねー」
シアやカンナ、ミシェルもリリーナの影響を受け、明らかに実力が上がっている。
これは頼もしいことだ。
しかし、どうしたものか…
こんなに突出していると、訓練方法を見直さなければならないな。
こんな悩みが出てくるとは。
長官にも相談だな…
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