1.期待
ん、目が上手く開かない...
こんなにまぶたが重いのは眠過ぎるからだろうか...
「□■□■□■」
ん?なにか声が聞こえるけど、よく聞き取れない。
配信もつけっぱなしなはずだ。
「あー、あーー!『悪い、寝てたわ!』」
話そうとしたが、言葉にならない。なんというか赤ちゃんみたいな声がでた。
え?今の俺から?
ようやっと、目が空いた俺には目の前に黒髪で長さは長いかな?肩下くらいで纏められている。そんなかなり美人な女の人の顔があり、若干泣いている。
俺の知らない人がこっちを見て微笑んでいる。
「あー!『なんで?』」
「□■□■□■!」
今度は口周りの髭をしっかと整えた、暗い茶髪の渋めイケメンの顔が目の前にくる。
必死でからだを動かすが、なかなか思い通りに動かない。しかし、自分で動かして見えた手は間違いなく赤ちゃんの手。
ん?
ん??
俺は配信してたよな?そして寝落ちしただけだったと思ったんだけど。え?これはいわゆる転生ってこと?
ってかいつの間にか死んだの?
あれか?あのエナドリ飲み過ぎたか?確かにもう無くなるところだったから、一晩で12本目だったかも。
うん、よく考えたらカフェイン中毒で死んでもおかしくないくらいは飲んでるかも。やっちまってるじゃん。
まだまだこれからって時だったのに、調子に乗っちゃったかな。恋人もいないし、両親とかちょっと心残りはあるけど、どうしようもないのなら、この世界でやっていくしかない。
不安とワクワクが両方ある。
「□■□■□」
なんか話しかけられてるけど、全く分からない。言語チートはないのか。
まぁ、いいさ、現代知識で無双してもいいだろう。何かチート能力があるかもしれない!
魔法があれば俺TUEEEEってできるかも!夢が広がるな!
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とか、俺もそう思っていた時期がありました。
なんだかんだで3歳になりました。
ここ3年でこの世界のことがある程度分かってきた。父さんはこの国、アルステリア帝国の軍人だ。父さんは何かの部隊長らしいけど、それ以上は分からない。よく分からないが多分給料はいい方なんだろう。母さんは美人だし、自分も容姿に期待出来るじゃないだろうか。
色々とこの世界についてわかってきたけど、この世界の生活水準は大体前世と一緒だ。唯一違うことは魔法があること!!
そう!魔法はあった!
よくある異世界ファンタジーだ。
ただ現象を起こすには特殊な金属が必要で、魔石とかミスリルと呼ばれる。これを媒介にして、様々な現象を発現させるようだ。
術者の魔力に呼応して、炎や氷などを生み出す。個人の魔力の質で効果が、魔力量で出力が決まるが、ミスリルがなければ発動出来ないらしい。
一般にも普及する程度にはミスリルは出回っているらしく、俺も今の俺が握れる程度…1cm程度の小石みたいなミスリルを使って魔法を行使している。
今持っているのはミスリル、ランク1の加工無し品だ。
ランクは大きさと純度で変わる見たいだが、ランク1の一般普及のものはやはり効率は低い。
それ以上の物は全部軍の管理下に置かれており、思ってた異世界ファンタジーとは毛色がちょっと違った。
早い話が一般人はライター程度の炎を出すくらいしか出来ない。
その程度らしいから、普及はしているが、だからどうしたというレベル。
とても戦闘など出来るレベルではない。軍用のミスリルがあってもそれはあまり変わらず、魔術師と呼ばれるレベルは人口の1%程度らしい。
逆にそのお陰か文明レベルはよくある異世界ファンタジーよりかなり近代的で、トイレとかも綺麗でその点は良かった。
俺に魔術師の適正があるのか分からない。俺TUEEEEってできるかは分からないけど、前世との違いに感動した俺はきっと魔力量は幼い頃から限界まで消費すれば最大量が増えると見込んで頑張っている。
俺の適正は水のようで、ミスリルを握った手からポタポタしか出ないけど水を出すことができる。
色々試したけど、炎とか雷とかは出来なかった。
なんか脱力感もあるし魔力を使ってる感覚はある。ステータスなどは確認できないので、予想しかできないけど...
しかし、そこはコップに溜まる量で測る事にした。
なんとか1杯コップを貯めれるようになってきたのだ。目に見える形で成果があってモチベーションが保てて、水で良かったかも。
この調子でとりあえず魔力を高めよう。
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あれから、私はあまりにも不自然にはならないようにしつつも、しかし、親から天才児と呼ばれている。
まぁ、前世22歳が中身なのだからそりゃそうなるだろう。
「キャー、流石私の子よー!天才よぉー!!」
「な!?凄いぞ!天才だぁ!!」
と、すごい褒められている。
成長してからガッカリされるのが今は怖い。元々高校を卒業して、会社勤めから趣味だったゲームが上手くて、大会で勝てたからプロになれた口だ。
頭はいい方だったけど、こんな期待されるような、天才児と呼ばれる程じゃないんだ。それが心苦しい。
そんな思いもあって、勉強はちゃんとしている。
母さんは優しいけど、勉強の時はガチなので気は抜けない。父さんも可愛がってくれるけど、軍の仕事かの関係か、何日も帰って来ない時がある。最近はいつにも増して、忙しそうだった。
そんな傍ら、魔力量アップの水を出す日々を過ごしていた。
「うちのエースの天才児は元気だったかぁー?」
この日は私の5歳の誕生日。
ようやく仕事が一段落したようで、みんなでバーベキューパーティの予定だ。家は一軒家だし庭も広くて、ホームパーティにはちょうどいい。
そんな訳で、目の前に短髪に柄シャツを着た、なかなかにラフな格好をした、見るからに調子のいいおっさんがいる。
無精髭だが、人当たりのいい笑顔で見るからにムードメーカーみたいな陽気なおっさん。
「1年ぶりですから、リリーは覚えてないんじゃないですか?」
お気づきだろうか?
そう、リリーは私の新しい名前。
本当はリリーナと言うんだけど、みんなリリーって呼ぶ。実は私は女の子だったんだ。
最初はすごいビビったけど、5年も経つと流石に受け入れている。なんなら、母さんに似て美人になるだろうな!
実際、慣れるためにも一人称を変えなきゃいけないと思って、一人称は私にする事にした。
「母さん、覚えてるよ。ザックさんですよね」
私の交友関係は5歳ということもあり、とても狭い。大して苦労せずとも覚えている。父さんの同僚で忙しくなる前は何度かうちにも来ている。
「おぉ!流石天才児!!じゃあ、俺の家族も覚えておいてくれ!家内のリサと娘のシアだ!シアは君と同い年だ。仲良くしてくれよ。」
実際には赤ちゃんの頃にも会っているけど、覚えてるんけないもんな。
普通は…ここはあまりにも丁寧になりすぎない程度に挨拶する。
「はじめまして、よろしくです」
「まぁ、リリーちゃんは本当に偉いわね!リサよ!よろしくね。」
シアと呼ばれた娘はリサさんの後ろに隠れ気味にこっちを見ている。
「シアちゃん、よろしくね」
「...うん」
彼女はめっちゃ人見知りしているようだ。まぁ、多分普通の5歳児はよくあることだろう。
食事が進みだんだんとシアちゃんも打ち解けてきてくれた。
文化的には前世と大体同じだろう。
食事ももうすぐ終わるというところで、父さんがあらたまった様子できりだす。
「じゃあ、そろそろ渡そうか。リリーナ、誕生日おめでとう」
そういって渡されたのは、青く透き通ったひし形のミスリルのようだ。大きさは1cmくらいだが、ネックレスになるようにチェーンもついている。
「父さんこれは?」
「これはランク2の魔石だよ。リリーは魔石が好きみたいだからね」
これがランク2の魔石か!ランク1に比べたら、全然違う!透明度があって、綺麗だ。
「おお!これが!?ありがとー!」
これはテンションが上がるぞ。ん?言った覚えはないぞ?
「なんで私が魔石好きだって?」
「そりゃ、こんなちっちゃい子供、1人にしてる訳ないだろ?全部見てるぞ!」
「なっ!?」
……ずっと見られてたのか。
「年相応にはしゃいでで可愛いかったわね〜」
これは恥ずい。見られていたのを知らなかったのも恥ずかしいが、よく考えたらそりゃそうだ。動けるようになってからすぐにやり始めたんだから、そんな小さい子供が何かしてたらそりゃ見てるか。
「リリーちゃん、いいなー。パパ私の誕生日もあれがいい!!」
椅子から足をパタパタさせながら、シアちゃんが物欲しそうな顔をしている。
「うっ…シアの5歳の誕生日まであと3ヶ月か、ギリギリ間に合うか」
ザックさんが少し思案顔をしている。
「きっとパパが許可取ってくれるから、シアもお勉強頑張らないとだよ」
リサさんが追い討ちと教育を同時におこなっている。世の母はみんなやり手なのか。
でも許可か…
忘れてたけど、確かにランク2からは軍が管理しているって言っていた。
「父さん、許可って……」
「大丈夫だ、ランク2の魔石であればちゃんと申請して、問題なしと許可を得られれば購入出来るんだ。ま、父さんが軍人だから出来た事だな。あぁ、それと父さんがいない時は、家の外に持って行っちゃダメだぞ!」
「うん、分かった」
前世の銃みたいな物だとすれば分かりやすいのかな。銃社会の海外は所持には許可が必要らしいし。まぁ、この世界でも成人するまでは父さんの許可が必要なのだろう。
家の中だけでも水魔法の練習なら出来るし。早く試してみたい。
「ふふっ、試してみたくてうずうずしてるじゃない。し。ちょうど外だし、リリー、魔法を見せて」
「おぉ!それは是非ともみたいですなぁ」
「みたいみたい!魔法みたい!!」
ザックさんもシアちゃんも前のめりになる。
「お父さんにもちゃんとリリーの魔法を見せておくれ」
「うん!」
今まではずっとランク1だったから、ランク2の魔石でどの程度変わるだろうか。ワクワクする。
自分の可能性を信じたい。自分でも興奮が分かるくらいに鼓動を感じる。
「じゃ、じゃあ、いくよ」
少しみんなから離れて正面に移動する。魔石を右手に持って、正面に突き出し、左手を添える。
目を閉じ、いつもの様に体内の魔力を感じで魔石に流す。イメージは魔石に力を流してはその力を発射するイメージ。
そんなイメージだが、今まではずっと魔石から水がしみでるくらいだ。確実に量は増えてきてコップ4杯くらいだ。しかし、ランク2なら水鉄砲のように飛ばせるだろうか。
魔石に魔石が流れるのが分かる。
いっけー!
ジョロジョロジョロー
魔石からは水道の蛇口を捻ったような水が排出された。
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