146.一時の休息
城壁東側の制圧は、あっけないほど早く終わった。
「制圧だ」
ショーンさんが短く言う。
その足元には、既に動かなくなったメラリア兵達が倒れていた。
毒に侵され、動けなくなった者。
少し離れたところには、氷に貫かれ、身体を凍結され、逃げることも出来なかった者。
シアは静かに手を下ろす。
シアの能力で先程凍結された地面が、白い霧を立ち上らせていた。
メラリア軍は抗えなかったのだ。
ショーンさんの毒にも。
シアの氷にも。
「アラン、合図を」
「了解っす」
ショーンさんの指示でアランさんが信号弾を準備する。
城壁の外へ視線を向ける。
左眼を使うまでもない。
正面戦闘はまだ続いている。
ネームド【炎帝】とネームド【ガイア】。
この二人の戦闘は、もうファンタジーだった。二人とも銃器を凌駕する威力の魔法を行使する。
「ハハッ……ゲームが違うやん……」
私はその様子に笑ってしまう。前世のゲームではありえない。バランス調整しろよ。と苦情が入るレベルの魔法の行使。
爆炎が上がり、地面が抉れ、空気そのものが震えている。
「じゃ、行きますね」
ヒュゥゥゥゥ――――パンッ!!
アランさんが信号弾を打ち上げた。
─────────
赤い光が空に咲く。
城壁の外。
正面の主力部隊にも、その信号弾は、はっきりと見えた。
「フッ……」
ニヤリと笑うのは、ネームド【炎帝】である。
当然、ガイアも城壁の状態は分かっていた。
最後まで悟られないようにしていただけ……
だが、この信号弾を合図に、炎帝とガイアの動きが一瞬止まる。
お互い理解したのだ。
………………完全に均衡が崩れたことを。
ガイアが抑えていたのは、炎帝ただ一人。
アルステリア軍全体ではない。
ガイアだけでは、第3師団の進軍を止める余裕はなかった。
そして今、決定的となる。
メラリア軍が守るべき城壁の防衛線は、既に崩壊している。
アルステリア軍、第3師団。
トニーさん率いる主力部隊が、一斉に進軍を開始した。
「……限界だな」
遠目にも分かる。
最後まで抵抗していたガイアだったが、撤退を始める。
司令官であるケラーの指示の元、メラリア軍は既に組織だった撤退を始めていた。
リリーナ達の開けた城壁の穴。そこへアルステリア軍が広がっていく。
炎帝が炎を纏いながら、ゆっくりと歩き出す。
「フフ……やはりこの私の前に立ちはだかるには、少々役者不足だったようだな」
誰に聞かせるでもなく、そう言う。
「世界は美しき炎によって導かれるべきだ」
……相変わらずであった。
そばにいた兵士も何も言わない。それだけの力が確かにある。
炎帝とともに、第3師団が城壁へと。
アルステリア軍が、レストデーンの街へと入る。
───────────
アルステリア軍第3師団と私達は、ようやく合流を果たす。
捕虜だった第1師団の兵士達約100名は、かなり疲労の色が濃い。動ける者も、ここで拠点防衛が限界だった。
「流石、ショーンくんだ。私は信じていたよ」
炎帝、デイビッドさんは合流するなり、ショーンさんに話しかける。
「ハハッ、今回はみんなのおかげでしたよ……
マジで……」
ショーンさんが少し疲れた様子で対応する。
「謙遜……ではなさそうだね。話題の新ネームドかな?」
「大概はそうですね。あぁ、でも…第1を助けられたのは、アランやシア達の活躍ありきっすね」
「ほう。アランくんは分かるが、シアくん?とは、初耳の子だ」
「えー、あそこでリリーナと水分補給してる、背の高い子です」
デイビッドさんはショーンさんの視線の先、私の隣にいるシアを見つける。
「ちなみにザックさんの娘ですよ」
「なに??それは挨拶しなければ!」
デイビッドさんはこちらに近付いてくる。
「むむ!リリーナくん。眼帯がないようだが、大丈夫かね?」
デイビッドさんが私の状態に気付いて声をかけてくる。
「えぇ、エンドの奴に撃たれました」
傷は大したことないし、もうイーノスに治療してもらった。もう問題ない。
「……エンドが?」
心なしか、デイビッドさんの表情が真面目になった気がした。
「初弾はこれがないとやられてましたね。後はシールドで防いだんですけど……」
「ん?ふむ。
それは君が研究室に派遣されてる理由だね?油断しているところに撃つのが、エンドの定石だ。気を付けるといいよ」
「ですね……痛感しました」
「…学んだようだね。
更に強く成りなさい。それがネームドの使命だよ。
我々はアルステリアの牙だ。
我々は敵国の脅威でなければならないのだよ」
それは…確かに……その通りだね。
デイビッドさん、ただの変な人ではないようだ。
「理由があって眼帯をしていたのなら、代わりを探した方がいいね……」
デイビッドさんがキョロキョロしだす。なにか代わりになりそうなのを探そうとしているようだ。
私は慌てて制止する。
「あっ、大丈夫です。今、オルガさんが直してくれてるんで」
捕虜だった第1師団の兵士が拾ってくれていたらしい。それはもう大事そうに持っていたとのことだが、私はいったいなんだと思われているんだ。
「そうか!?流石はオルガくんだ。ネームドの牙が何たるかを分かっている」
デイビッドさん、その牙ってやつ、大好きだな……
「君はシアくんだね?」
「はいッ!シア・フォーデン少佐です!」
話を振られると思っていなかったシアだったが、驚きつつも反応する。
「君も活躍したと聞いたよ。ザックさんの娘さんだそうだね」
「はいッ!ありがとうございます!そうですッ!父をご存知ですか?」
「もちろんだとも。
ザックさん…そして、シルヴァンさんも、素晴らしい方たちだったよ。
彼等は正しく英雄だ。
そして次世代が育っている様子。君たちにも期待しているよ。
最強である私に教わりたくなったら、いつでも声をかけるといい。私は導くのも仕事だからね」
「「はいッ」」
ふ…む……?
「デイビッドさんって、思ったよりもいい人だね」
デイビッドさんが立ち去った後、シアがそう話す。
ねぇ?
最初の印象よりもデイビッドさんって、意外とまともかもしれない。
発言は独特だけど、不合理なことは言ってないんだよなぁ……
「おっ!?オルガさん。ありがとうございます」
そんな事を考えていると、オルガさんが眼帯を直してくれたみたいだ。
「いいのよ。長官の言ってた意味、よく分かったわ……」
「ん??」
なんのことだろう。オルガさんは私が首を傾げると、
「まぁ、いいのよ」
といって私に眼帯を着けてくれる。
「はい、出来た。痛みは大丈夫?」
「はい。もう大丈夫です」
私は再びレッドアイを起動する。
「……もう、能力を使っても痛くないですね」
うん。うん。
周囲に敵はいない。
痛みももうない。
さぁ、完全にレストデーンを奪い返そう。
そして……
エンドも、やってやる。
レストデーン奪還戦第2ラウンドだ!
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