145.抱擁
side:リリーナ
私の視界は真っ暗だ。
私たちに覆い被さる、さっきまで城壁だった瓦礫。
今の爆発。
絶対、エンドが仕掛けたんだ。
……ヤバかった。
危なく城壁の崩壊に巻き込まれるところだった。シールドを広げて、一緒に来ていたシア達も含めて何とか助かった。
瓦礫を押し退けるため、更にシールドを押し広げる。
そうしないと生き埋めになる。
「んんん゛ッ!!」
崩れ落ちた城壁の破片が、軋む音を立てながら押し上げられていく。
巨大な石塊が宙に浮き、そのまま横へとずり落ちる。
「……ッ……はぁ……ッ」
やばい……キツい。
ここまで魔力を一度に消費したことはない。
私の魔力タンクはまだ残量があるけど、魔力を行使するための蛇口の大きさを超えて無理やり流した状態だ。そのため、蛇口に亀裂が入っている。そんなイメージが分かりやすいだろうか。
【ジュラ】の実験で最大出力が伸びていて良かった。じゃなきゃ、皆を守れなかった……
無理やり魔力を流したせいか、胸が焼けるように熱く、呼吸が乱れる。
肺が空気を求めて悲鳴を上げていた。
それでも……
左眼のレッドアイを使う。
荒い呼吸を整えながら、瓦礫の隙間から顔を上げ、まだ残っている城壁を見る。
だが……
「…はぁ…はぁ…いない」
既にエンドの姿はない。
爆破の直前まで、確かにそこにいた。
この左眼は、奴を捉えていた。
でも、さっきの崩落は私も見続けられなかった。
……見失った。
瓦礫。
粉塵。
崩壊の混乱。
その全てが、奴の姿を覆い隠していた。
ドクンッ
ドクンッ
鼓動が早くなる……
「リリーナ!!大丈夫か!?」
「はぁ…はぁ……はいッ……」
そう答えながらも、私の視線はショーンさんを向いていなかった。
周囲を見渡し、エンドを探す。
左眼のレッドアイと右の肉眼、合わせ技で探す。
レッドアイに映る世界では敵はすぐに判別できる。
ただ、ハイライトされた無数の敵影が多過ぎる……
城壁の上。
市街地。
撤退していく反応。
迎撃のために残っている反応。
「……どこ…?…」
あの男……父さんと母さんを殺した仇が、さっきまでここにいたのに。
この戦場に、確かにいるのに……
見つからない。
視線を動かす。
探す。
探す。
探す。
焦りが、胸を締め付ける。
見失っただけで、呼吸が浅くなる。
まだ先程のシールド出力で回復していない魔力流路が悲鳴を上げ、身体の内側から痛みが発生している。痛みで、思考が鈍っていた。
どこ??
分からない……
それでも…………
探すのをやめられない。
「リリちゃん!!」
不意に、身体が引き寄せられた。
「……え……」
柔らかく、温かい感触が私を包む。
シアだった。
シアが、私を強く抱き締めていた。
「焦らないで……」
その声は、静かで、優しかった。
「……ッ……」
自分の呼吸が、どれだけ乱れていたのか。
……視界が狭まっていた。
……痛みで汗が滲んでいた。
……私の思考は、一点に固まりすぎていたようだ。
「……エンドを……」
私は言葉を絞り出す。
「……見失った」
「…うん」
シアはそう言って、抱き締める力が少しだけ強くなった。
それだけで私の焦りが少しずつ落ち着いていくのが分かった。
「リリーナ?一旦、休め」
今度は、ショーンさんの声。いつの間にか私の隣に来ていた。
ショーンさんは周囲を見る。
崩壊した城壁。
混乱する敵部隊。
「まずは城壁を制圧する。
ここを起点に、城壁を完全に落とすんだ。そして正面の第3師団を引き入れるんだ。それで、レストデーン奪還だ」
現実的な判断だと思う。
戦術的に、ショーンさんの話は正しい。
分かっている。
頭では分かっている。けど……
「……ッ……」
歯を食いしばる。
悔しい。
目の前にいた仇を、逃した。
ここで殺せたかもしれないのに。
「……リリちゃん」
シアが、私の顔を覗き込み、ムニッとほっぺを掴む。
その目を見て、ハッとした。
シアの目は泣きそうだった。
まだ私は見えていなかったようだ。ようやく、周りが見えてくる。
痛み。呼吸が乱れ、汗だくの私を心配しているシアやショーンさん。
私は魔力流路の痛みで、相当な顔色をしていたようだ。
先程は私が皆を瓦礫から守った。
でも今は、立ち止まっていた私のことを皆が守っている状態だった。
皆、私を説得しようとしていたのではない。
シールドのため、魔力の大出力を発揮した私を心配していたのだ。
「……」
ゆっくりと、息を吸う。
ふぅーと長めに吐く。
痛みと焦りで狭くなっていた視界が広がり、思考が戻る。
「……すみません。取り乱しました」
小さく、でもはっきりと言った。
「リリー。一旦、魔力を切って休んで」
姿を表したオルガさんが私に微笑み、肩に手を置く。すぐに私とオルガさんが透明になる。
「ここまで来れば俺たちで十分だ。
さっきのシールドどんだけ魔力を使うのか...えぐいだろ!?。お前は回復するまで休んでろ」
「……お願いします……」
今度はショーンさんが皆を率いて、城壁の制圧に進む。私はオルガさんに守られ、久しぶりにレッドアイの使用を止めた。
ビキビキと痛みを発していた酷使した魔力流路が止まり、痛みが和らぐ。
エンドは逃がしたけど、でも、まだこの戦場にいる。
次こそ必ず……
「あなたは十分やってるわ。先輩達にも任せなさい」
シアの次はオルガさんが、私を包んでいる。
痛みが和らぐ。
途中までは冷静だったのに、城壁の崩壊。
そして、シア達にまで危険が迫ったから、焦ってしまった。
あの頃、前世の試合……
笑っても、話していても、私は状況を俯瞰して見ていたはず。
途中までは出来てたのに。
痛くても…
それはもう、めっちゃ痛くても……
思考を鈍らせない。
前世ではなかったパターン。肉体的な痛み。
それが課題かな?
私はまだ強くなれる……
オルガさんは見えないが、その体温はとても暖かい。
まだ痛みはあるが、私の思考は次を見据えていた。
───────────
side:エンド
あの質量の崩壊に巻き込まれても、耐えるシールド……
耐えた上で、その後すぐに、俺を探そうとしていた。
すぐに俺はメラリア兵達に紛れて撤退している。
一筋縄にはいかない。
アイツはきちんと準備した上で、対応しないと倒せない相手だ。
「エンドさん、どうします?」
直轄部隊のスミンが聞いてくる。
「……奴のせいで計画が全ておじゃんだ。このまま撤退しつつ、ポイントクロスに向かう」
ケラー達、メラリア共和国の誰にもバレないように探したからか、アレを見つけるのに5年もかかった。
知っているのは、このために育てた直轄部隊のスミン達3名のみ。信頼できる者のみだ。
レストデーンにあるとの情報を得てからは、もう13年にもなる。
長い時間、待ち望んでいた。
……失敗したくなかった。
贄が溜まっているのか、出来ればもう少し時間をかけて調査してからにしたかったが…
「分かりました。……やるんですね」
俺が言った行先だけで、スミンは察していた。真面目な表情で少し俯く。
レストデーンがアルステリア帝国の元に戻ってしまえば、いつ使えるか分からない。
それどころか見つかってしまう可能性すらある。
あのレガシーアイテムは祭壇から動かせない。
「あぁ……やるしかない」
今回もこの地では沢山の血が流れている。
この機は逃せない……
やるしかない………
「【生者の柩】を起動する」
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