139.3人
みんな無事で良かった。
危なかったわー。何とか間に合ったようだ。
……なんか、めっちゃ撃たれたけど。
地下施設の埃っぽい空気の中で、私はシールドを解いた。
皆の張り詰めていた緊張が一気にほどける。
飛び付いてきたシアが私を抱き上げる。
……あれ?
私がよしよしするターンなはずなのに、体格差で私の足は地面から離れている。
「ほんとに、無事で良かったよ」
シアに抱き上げられたまま、私は少し笑う。とりあえず、私はシアの頭をよしよしする。
シアの体温が、今日は妙に温かく感じた。
「リリちゃんだ!リリちゃんだぁ!!」
「はいはい、よしよし。もう大丈夫だよ」
若干幼児退行して、涙ぐむシアの頭を撫でながら、私は周囲を見渡す。
「イーノスも、ハーヴィンも無事で良かったよ」
「おう、なんとかな」
「ハハッ、リリーを見たら、なんか肩の力が抜けちゃったよ……」
ハーヴィンは腕を組みながらも、どこか安堵したように笑っている。
イーノスはほっと息を吐いていた。
皆が無事で本当に良かった。
「みんな、ちゃんと揃ってる」
それだけで、胸がいっぱいになる。
ゴリッ
「ン……イタイ……」
シアがおでこを抑える。あぁ、忘れてた。
「あははッ。研究室の試作品だね」
首にかけていたネックレス型の試作品。
自動防御装置【ジュラ】試作八式。
結局、様々な調整の末にシールドはガチガチだが、魔力はめちゃくちゃ食うという、ピーキーな性能になり過ぎて、汎用性は皆無。
現状は私しか使えない、魔力ドカ食い装置となっている。
研究室からそのままの勢いで持ってきて、じゃあ、とりあえずそのまま実戦で使って状態を報告するように、とアルル室長やシモーヌ副室長に言われている代物だ。
シアの突進には流石に反応しないようだが、私の胸に顔を埋めたシアの額にはダメージを与えたようだ。
そんな事をしていると、
「私もいるわよ?」
入口の影から、すっと姿を現したのはオルガさん。
外を最終確認してくれていたオルガさんが合流する。
入口付近にいた第1師団の兵士が数人びっくりして飛び上がっていた。
「オルガッ!ハハッ、リリーナと一緒だったか!」
ショーンさんもオルガさんに気付く。
軽く手を振る彼女に、場の空気が更に和らぐ。顔に希望が、目に見えて出ている。
ネームドが3人。
【絶命】
【消失】
そして……【隻眼の死神】
疲弊していた兵士達には、彼らの存在は非常に心強かった。
「ショーン、久しぶりね」
「久しぶりだな!お前はいつも気配がなさすぎるな!あいつらめっちゃびっくりしてたぞ!」
ショーンさんが驚いてた兵士を見て笑っている。ショーンさん、笑い過ぎだろ……
「それが仕事だもの……」
淡々としたやり取りに、私は少しだけ笑ってしまう。
けれど、笑っている時間は長く続かない。
「……完全に位置は割れたわ。増援が来るのも時間の問題よ」
地下施設の空気が、再び引き締まる。
時間がない。即席の作戦会議が始まった。
「逃げ道はほぼ潰れてる。地下ルートはガイアの影響で不安定だ」
「向こうから掘り出し作業をしているけど、まだ時間がかかるわ」
「待てば包囲されるな」
出てくる言葉は、どれも明るくない。
「……攻めるしかないですよね!?」
もはや、これしか選択肢はないだろう。
正面では、【炎帝】デイビッドさんと第3師団団長トニーさんが今も攻めている。
そこへ、背後からぶっ潰す。100人……はいないかな?
それだけの伏兵が突如湧き出すのは、メラリア軍は避けたかったはずだ。
「内側から潰しましょう」
私が言うと、全員の視線が集まった。
あれ?なんか反応が悪い?
「…………どうしました?」
「…………リリーナ、お前、悪い顔してるぞ?」
ショーンさんが苦笑いしながら、そんなことを言ってくる。
オルガさんの表情も少し引き気味だ。
………
……………だって、ちょっと楽しそうじゃないですか?
おい、そこの同級生達。
分かってた…みたいな顔しない。
「私が道を開きます。みんなは続いてください」
短い沈黙のあと、ショーンが頷く。
「ふッ。全員!!すぐに出発だ!!指揮は死神がとる。お前ら遅れるなよ!!」
「「「おぉ!!」」」
──────────
地下施設を出る。
そして、外に出た瞬間――
「……うわ」
第1師団の兵士の一人が声を漏らした。
地上は、静まり返っていた。
辺り一面に転がる、メラリア兵の死体。
的確に顔を撃たれ、首を斬られ、心臓を一突きされた死体。
最近はもう、私は敵を殺すことに慣れてしまっていた。効率的に殺す。
ゲームと同じだ。
……じゃなきゃ、私の大切な仲間を失うのだ。
ショーンさんが苦笑いする。
「……これ、全部か?」
オルガさんが肩をすくめた。
「ほとんど、この子よ」
第1師団の兵士達が、私を見る。
驚愕。畏怖。そして――賞賛。
「すげぇ……」
「これが……ネームド……」
「透明になれたんで、余裕です!」
何かおかしなことを言っただろうか。
ショーンが額を押さえる。
「オルガ単体じゃ、この規模は厳しいだろ」
「何言ってるんですか?オルガさんだけでもできます!舐めないでください!!」
ショーンさんめ!オルガさんを見くびっているな!?
「こう、言ってるけど?」
「この子、何故か…私の評価が高いのよ………」
「オルガさんはもっと自分に自信を持ってください。オルガさんは可愛い。それが答えです」
オルガさんに困った顔をされる。私も言っててよく分からなくなった……
ファン目線の感情が入り込んできちゃうな。
うし。私は気にせず、城壁の方角を見る。
遠くで炎が上がる。土煙が舞う。
乾いた銃声が響いている。
正面戦闘は、まだ続いている。
私は一歩、前へ出た。
「さぁ、行きましょう!」
赤い瞳が、戦場を射抜く。沢山の赤い点。
「今度は、私達が仕掛ける番です」
背後で、73名の第1師団の兵士達が武器を構える。
私は城壁に向かって、ゆっくりと歩き出した。
硬直していた戦況はここから一気に動き出す。
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