13.まだ
遠くでベンチに座るリリーナが急に倒れた!
どうしたんだ!?具合でも悪いのか!?
僕は急いで校舎からグランドの端まで走る。
徐々に近づくにつれリリーナの姿がはっきりと見えてくる。
あ、れ、?
ベンチに倒れたと思ったリリーナは、何故かベンチに置かれたクッションの方へ顔を突っ伏している。
…………倒れた拍子に怪我をしないように置かれている?
「な、なにを、しているんだ?」
「ん?あぁ、イーノスか...」
虚ろげな眼差しで軽くこっちをみたリリーナはなんでもない様子で話す。
「ちょっとスキルの使い過ぎで魔力をかなり使ったから、休憩してるだけ」
「は?魔力欠乏か!?何してるんだ!!一歩間違えたら死ぬこともあるんだぞ!!」
なにを考えているんだ。
魔力欠乏で死んだ事例は何件もある。魔力は使わないと伸びないと言われているが、使い過ぎは危険なんだぞ!!
「そうなんだ、それは知らなかったなぁー」
「いや、なんで落ち着いているんだ!?倒れる程使ったんだぞ!
僕の魔法は魔力欠乏には効かないんだぞ!?大丈夫なのか?」
「加減は分かってるよ。今は動くのダルだけだから大丈夫だって!ずっとやってるんだから」
「そ、そうなのか…?」
でも、ダルいくらいってかなり魔力を使った状態なんじゃないだろうか?
僕も頑張って回復させた後は疲労感がかなりでるが、倒れ込む程ではない気がする。
「あれ?さっき、僕って言った?」
「そ、そんなわけないだろ!」
言ったかな?あれ?焦っていて覚えていない。
「言った!絶対言った!!」
もう元気そうにクッションから起き上がり、ニコニコと言ってくる。
「言ってない!我がそんなこと言うわけがない!」
「あー、それ頑張って喋ってたんだー!」
「頑張ってない!」
「そっちの口調の方がいいのに!話しやすいじゃん!」
っ!?
「そ、そうなのか?」
「うん…なんか距離を置かれてる感じするよ」
そう言われると辛いな。確かに、もう5年生なのにクラスメイトと仲良くなったと言いきれない……
「なんでそんな口調にしてんの?」
リリーナが真っ直ぐにこっちの目を見て聞いてくる。
「……少しでも強くなれるかと思って」
「それは権力的なこと?」
笑われるかと思ったが意外にもはっきり聞いてくる。
「い、いや、戦闘面の方かな」
「じゃあ、その口調は違うんじゃない?あの口調は強さと言うより、威厳...?権威?が強い感じだから」
あ、れ?
考えたこともなかった……
確かにヴァンリ皇帝は権威的な強さであって、戦闘面ということではない。
いや、強いらしいとは聞いたことはあるが、ネームドを超えるような強さという訳じゃないはずだ。
「……」
しかし、少しでも強くなるには?
口調なんて関係ない…そうだけど……
……しかし、僕より強いリリーナの言うことに反論できない。
「……そ、うかも?」
「そうそう!そんな感じがいいよ!」
っ!!
リリーナがニコッと屈託なく笑う。
その笑顔は僕の凝り固まった考えを溶かした。
途端に、今までのことが恥ずかしくなってくる。
「わ、わかった!ま、まぁ、君が無事なら良かったよ」
僕はもう、リリーナの顔を見ることが出来ず、逃げるようにその場を後にした。
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今日の訓練。
CQBって言ったかな。つまり、近接戦闘の訓練だ。
このゲームってFPSだよね?……シューティングしてないんだけど!?
ゲーマーだったけど、こんなゲームをやってたからか、エアガンを購入したこともある。あ、予約したゲームコラボのエアガン打ってみたかったな。
いや、この世界は本物があるんだった...
子供は基礎からって感じでずっとこんな地味な訓練が続いている。
今日の組手相手はハーヴィンからだ。
「おっし!お願いします!!」
「よろしくお願いします!」
「よし、はじめ!!」
レイン先生から開始号令がかかる!
ハーヴィンとは体格差が大きくなってきた。私の身長があんまり伸びない。おかしい。
胸もあんまりない……
何故だ。お母さんはそれなりだったじゃん。
おっと違うことを考えている場合じゃなかった。
ハーヴィンが右腕でフェイントを入れ、左腕で本命のゴム製ナイフがくる。フェイントを手で払い、本命のナイフはハーヴィンの懐に潜り込みながら躱す。
ハーヴィンの腹に左こぶしを入れる。
「ぅ」
我慢された。
ハーヴィンが1本引きながら、左手で掴みにかかってきた。左手で逆にハーヴィンの手首を掴み、足を掛けながら回り込んで体勢を崩す。
そのまま左手の関節をキメながら背中に乗り右手のナイフを突きつける。
「そこまで!」
「いててて、やっぱ強いねリリーナは」
「……」
さっきの...
今までなら腹への一撃でもっと楽に体勢を崩せたはず……
「リリーナ!?」
「あぁ!ごめんごめん!ちょっと考えてて...」
「リリーナ、ちょっと私とやるか」
う、先生か...気合い入れないとな
「はい!お願いします!」
「ハーヴィン、合図を頼む」
「分かりました!」
レイン先生と向き合う。距離は2mくらい。しかし、いつも思うが、向き合うと凄い圧を感じる。
ふぅー、集中する。
「では、はじめ!!」
ハーヴィンによる合図がかかる。
レイン先生と同時に踏み込む。素早く蹴りがきた為、シールドを部分展開、レイン先生の足が止まるのを横目で確認しながら懐に入る。
右手のナイフをお腹に向けて振るが、今度は先生のシールドに阻まれる。
その隙に片足で回転しながら飛び上がった先生が私の後頭部に裏拳を入れようとするのを、前に進んで躱し、素早く切り返す。
振り向いた瞬間に、顔の前まで先生の拳が迫っていた。慌てて横に逸れて躱す。
そこから先生の連撃を必死で捌くが、先程の崩れた体勢では後手に回ってしまい、腹に一撃貰ってしまった。
「ぐっ」
直ぐにバックステップで距離をとる……が、先生は追って来なかった。
「ふむ……、リリーナはナイフを両手に持った方がいいんじゃないか?」
「両手に?」
「そうだ。リリーナは反応速度がいい。敵の攻撃に合わせる選択肢が多いほうが自由に動けるだろう。それに、体格の差が出てきたのでは無いか?」
レイン先生にはお見通しか...
「……はい」
「リーチに差があるとその分対処を迫られる。しかし、リリーナは懐に入れる技術があるんだ。殴るなどじゃなく、その一撃で仕留めることが出来ればそれでいい。
リリーナにはリーチの長い武器をよりもその方が使い易いんじゃないか」
そうか、そうすればいいのか。
「なるほど……」
ナイフ2本か!それはそれでかっこいいじゃん!!
あ、待って!!銃は!?シューティングは!?
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