133.増援部隊?
新シールド装置の開発は、困難を極めていた。
魔力変換効率の再調整。
安全装置の再検証。
出力上限の確認。
私の稼働テスト用に試作装置は完成していたが、その調整がなかなか上手くいかない。
魔力変換効率が悪過ぎるのが直らないのだ。簡単に言うと、魔力量が多くないと使い物にならない。
アルルさん曰く、私くらいしか実用的に使えないみたい。起動だけなら他のネームドでも可能らしいけど。
私も研究室に来てからずっと魔力を込めているからか、多分、魔力総量が増えたと思う。実感できるくらいには、魔力を込めるのが楽になったし……
そんなこんなで、充実した毎日を過ごしていた。
――なのに。
「……え?」
ふと、机の上に無造作に置かれた、アルルさんの通信端末。そこに映っていた情報に、私は手を止める。
第1師団の被害甚大。
レストデーン奪還作戦本確始動。
炎帝の活躍。
「……なに、それ」
胸の奥が、じわりと熱くなる。
「どういう、こと……?」
画面を食い入るように見つめる。
だが……自分に向けた出撃命令は来ていない。
「……なんで?」
理解した瞬間、感情が一気に噴き上がった。研究室から飛び出して特務機関へ走り出す。
「ちょっと、行ってきます!!」
「リリーちゃん!?」
背後で私を呼んだ声が聞こえたが、それどころではなかった。
帝都からノーステリアへ向かう間に情報収集を行う。と言っても、そのままの勢いできたため、駅にあった新聞だ。
ネームド【炎帝】と共にレストデーン奪還作戦が開始されている。
私は心拍数が上がって、落ち着かないまま、特務機関施設に直行する。
辺りはすっかり暗くなっているが、まだ帰っていないだろう。
──────────────
「テレーズ長官!!」
特務機関の長官執務室の扉を勢いよく開く。
「説明してください!」
私は部屋へ入るなり叫ぶ。
「どうして!レストデーンのこと!私に何も!」
私は興奮して片言になってしまったが、その単語だけで、テレーズ長官は察したようだ。静かに息を吐いた。
「……リリーナ」
「私は、戦えますよ!」
「分かっている」
テレーズ長官は苦々しい表情を浮かべていた。
「リリーナ。君は、もう……既にあまりにも多くを背負っている。かなりの負担を掛けた……
これ以上、精神的な負荷をかけるべきではないと判断したんだ」
「それが理由ですか?」
感情が昂り、私の声は震えていた。
「私、守られるだけ?みんなが血を流してるのに?私だけ、ここで……何も知らずにいろって?」
テレーズ長官は言葉に詰まる。
「……逆効果、でしたね」
一緒に話を聞いていたアリスが苦笑いを浮かべる。
「当たり前です!」
私は一歩踏み出した。
「私は……一緒に戦いたかった。置いていかれるのが、一番つらいんです……!」
沈黙。
やがて、テレーズ長官は小さく頷いた。
「……追加部隊として、出撃を許可する。研究室へは私の方から連絡しておこう」
「……ありがとう……ございます」
テレーズ長官は話せば分かる人で良かった。
私は私の大切な人達が死ぬことが許せない。
ましてや、私はこの世界がどんなところか知っている。ゲームで知ってるなんて話せないけど、それでも私は前世では世界一を取ったくらいには自信がある。
……護りたいんだ。
「ちょうど遅れて向かう者がいる。一緒に向かってくれ」
増援?均衡状態を破るため?いや、元々決まってた感じ?私を除け者にして?
「その部隊と一緒に行けばいいんですね」
「部隊じゃないぞ。同行者はネームド【消失】のオルガだ」
その名を聞いた瞬間。
「……え?」
先程までの怒りが、ふっと途切れた。
─────────
リリーナの出ていった執務室。
「はぁ………」
テレーズは大きなため息を吐く。
「運気が逃げちゃいますよ?」
アリスはそう言いつつも、テレーズのためにコーヒーを入れ始めた。
「完全に裏目に出ましたね……」
「あぁ、メンタルケアのためにも、少しは休んで欲しかったんだが……
見誤ったな」
「でも、少しはリフレッシュになったんじゃないですかね?」
「だといいがな。怒ってたぞ?」
「それなんですが……
確かに出撃命令は出してませんが、情報統制まではしていないですよね?」
アリスがコーヒーを差し出しながら、気になっていた事を問う。
「ありがとう。ん?そうだな」
「リリーちゃん、内緒にされてたって思ってないですか?」
テレーズがコーヒーを飲もうと近付けた手が止まる。リリーナの言った言葉が思い出される。
『どうして!レストデーンのこと!私に何も!』
『私、守られるだけ?みんなが血を流してるのに?私だけ、ここで……何も知らずにいろって?』
「アイツ、もしかして、知らなかったのか?これだけ連日ニュースになっているのに??」
「………多分、そうだと思います。はは……」
「あの馬鹿。ニュースくらい見ろ!」
テレーズは天を仰いでから、コーヒーを1口飲み、心を落ち着ける。
「……ふぅ。とりあえず、リリーナの行動原理は分かった。
アイツがその気なら、とことん活躍してもらおうじゃないか」
テレーズはリリーナの運用方針を練り始める。見誤ったことで沈んだ気持ちは盛り返し、その顔は嬉々としていた。
────────────
車両格納庫。
そこに立っていた女性を見て、私は思わず瞬きをした。
「……すご……」
銀色の髪は淡く。
銀と黒の配色をした軽装を身にまとっているが、存在感が異常に濃い。
その輪郭は現実離れしていて――
「……かわわぁーー」
なんだこの可愛いと美人を両立した人は!ゲームのグラフィックが実物に勝ててない。
すんごいわ。
「ん?なんて?」
オルガが片眉を上げる。
「えっ!?あっ、えッ」
私は焦って、まともに返答できなかった。
「ふふッ。放送通りだけど、違うわね」
「??」
くすっと笑い、よく分からないことを言っている。
最初に言ったのは私かも知れないけど。
「私はオルガ。ネームド【消失】。よろしくね。【隻眼の死神】さん」
「よ、よよろしゅくお願いしやっす!」
私はもう、それはそれは元気よく返事する。思いっきり噛んだけど、そんな事は関係ない。
ルンドバード連邦国のネームド【ギャップ】と、人気を二分する程のキャラだった。
【ギャップ】が毒舌イカれロリキャラだったのに、毒舌イカれギャルに成長しており、非常に残念だったのは記憶に新しい。
それに対して、この見事なまでにゲーム通り。
いや……それ以上のオルガさんは、私の癒しである。
あれ??
なんでこの人、歳とってないんだ?
ゲーム【Hero of War 虹色の戦争】の舞台は、父さんの時代。
13年前くらい?
ストーリーはラストシーンしか思い出してないけど、そんくらい前のはず。
そこからプレイヤブルキャラは成長している。
【ギャップ】が1番分かりやすい。ロリからギャルになってた。ショーンさんだって、おじさんになった。
…………
…………………オルガさん??
「どうしたの?」
「あ、いえ、その……」
ゲーム時代が20歳だと仮定したとしても、33歳か……だとしたら、まだ分かる……のか?
垢抜けたとかそんな感じじゃないんだけど……?
オルガさんをジッと見て固まっている私に向かって、軽く手を振ってくる。
そして、
「行くよッ」
と笑顔で声を掛けてくれる。
よしッ!
私は考えるのをやめた!
推しが尊い。それでいいじゃないか!
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