127.最高戦力達
アルステリア帝国ウエストテリア軍基地。
突如、前線になったここでは、どの兵士も慌ただしく動いていた。
そんな基地に巨大な魔力反応が一つ、到着する。
「相変わらず、迎えが地味だな」
艶のある声が響く。
赤を基調とした外套。無駄に装飾の多い戦装束。背中には牙のマークが描かれている。
──ネームド【炎帝】
デイビッド・ジャクソンである。
「戦場は舞台、そして私は主役だ。ならば、出迎えはもっと華やかであるべきだろう?」
「……軍事基地に何を求めてるんですか」
ショーンは溜め息混じりに返す。
その表情には、露骨な疲労が浮かんでいた。
「おや? 久しぶりの共闘だというのに、随分と冷たいじゃないか」
炎帝は自分の髪を軽く整えながら言う。
「年長者への敬意が足りないんじゃないか?」
「敬意を払える要素があれば、払いますよ」
ショーンの一言にデイビッドは一瞬きょとんとした顔をして、それから大袈裟に肩を竦める。
「手厳しい。だが、それもまた良い。嫉妬というのは、若さの証だ」
「……誰が誰に嫉妬してるっつうんすか?」
「決まっているだろう? 私に、だ」
ショーンはそれ以上返す気力を失い、視線を逸らした。
(この人、やっぱり苦手だわ……)
魔力量も戦闘能力も、疑いようのない本物。
だが、それと人格は別問題である。
「まぁ、状況は聞いている」
炎帝は、急に声音を落とした。
「敵はネームド【ジ・オール】。加えて、カルロス君達が人質に取られている。最悪、レガシーウェポン【シーラン】を使用してくる可能性が高いと……」
「ええ。第1師団は、それで壊滅しました」
その言葉に、デイビッドの目が細くなる。
「……ふむ。なるほど」
口元に、薄く笑み。
「ならば尚更、私が出る意味がある」
「自信満々っすね」
「当然だ。私は炎帝だぞ?」
呆れと同時に、ショーンは覚悟を固める。
この男と組む以上、自身も気合いを入れなければ死に直結する。
こんなんでも事実、アルステリア帝国のネームドなのだから。
「参謀本部が彼女の派遣も決定しました。少し遅れるみたいですね」
「む?彼女?……それはどっちのことだい?」
「あッ!?」
(アイツもネームドになったんだったな。……同じでいいのか、自信が無くなってきてるが……)
「オルガの方っすね」
「フム…新ネームドの少女にも会ってみたかったのだがな」
「……びっくりしますよ」
ショーンは少しニヤついた後、前を向いた。
「行きますか。レストデーン奪還作戦、開始です」
炎帝は一歩前に出て、両腕を広げる。
「さあ、反撃を始めようか。舞台は整った」
魔力が噴き上がる。
アルステリアはレストデーンに兵力を向ける。
──────────────
レストデーン、メラリア軍基地。
「皆様のお陰で、第1師団の制圧は想定以上の成果となりました」
丁寧で、落ち着いた口調。
簡素だが堅牢な作戦室で、ハインツ・ケラーは一礼する。
「いやぁ、見事な作戦でしたよ。ハインツさん」
【ガイア】が豪快に笑う。
「ジ・オールさんの現場指揮のお陰です。正面衝突を避け、確実に要を叩く。言うは易しですが誰にでもできるものじゃありませんぜ」
「同感だねぇ〜」
【スペクター】が淡々と続ける。
「それを計画する者も、実行する者も、どっちもとんでもないですねぇ。誘導、分断、殲滅まで、全てに無駄がない」
【ジ・オール】は腕を組んだまま、短く頷いた。
「シーランをあそこまで使ったんだ。負ける方がおかしい……」
「シーラン専用の魔力部隊創設。長年計画されていた成果がようやっと実を結びました。まだ7名しかいませんがね」
「それだけいれば充分な強さでしたわ!ハッハッハ」
ガイアと将官達はその戦果に笑う。
ただ一人――【エンド】だけは、何も言わず、壁際に立ち、視線を伏せたまま沈黙を保っていた。
ケラーは、それを気に留めることもなく、再び口を開いた。
「ですが、これは終わりではありません」
穏やかな声に、緊張が戻る。
「アルステリアは、必ず反撃してきます」
「ネームドを投入か……」
スペクターが言う。
「誰が来るか?あの新ネームドの嬢ちゃんか?」
「捕虜がいることを考えれば、【消失】か【絶命】は来るだろうな」
ジ・オールが静かに告げる。
ガイアが舌打ちする。
「面倒なのが来るな」
「ええ。」
ケラーは肯定した。
「だからこそ、防衛を固めます。城壁に加え市街戦も想定し、レーダー網も再構築しています。捕虜区画の警備も強化しますよ」
「徹底交戦する、ということか」
ジ・オールが問う。
「はい」
ケラーは微笑んだ。
「ここは既にメラリアの“拠点”です。奪われるわけにはいきません。
1番分かりやすい敵ネームドは【炎帝】でしょうね。【炎帝】さんが来たらガイアさんの出番ですよ?相性がいいですから。危険を冒す必要はありません。彼をその場に止めて頂けるだけで結構です」
「おうよ!」
「アルステリアの新ネームド【隻眼の死神】さんは情報が少ないので、ジ・オールさんに監視をお願いしますよ」
その言葉に、ジ・オールの口角がわずかに上がる。
「良い判断だ」
「恐縮です」
ケラーは一礼する。
「我々は、もう守る段階に入っています。メラリア首脳陣の要求も達成した今。ここを守れば確実に主導権を握ることができるでしょう」
エンドが、ほんの一瞬だけ顔を上げる。だが、何も言わず、また沈黙する。
ケラーはそれを見逃さない。
(エンドさんが静かなのは、いつものことですが……先の言葉に反応した?後でお話を聞かなければなりませんかね……)
作戦自体に不安はない。
「皆様」
ケラーは穏やかに、しかし、はっきりと言った。
「レストデーンは、落ちません」
戦闘が激化していく。
――レストデーン攻防戦の始まりだった。
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