124.偵察任務
ハーヴィンを隊長とする5人の小隊は状況を確認するため、防衛線まで進んでいた。
5人はハーヴィンを筆頭に体力に自信のある若いメンバーで構成されており、移動速度は第1師団の中でもピカイチである。直ぐに現場付近まで到着した。
ハーヴィンは息を殺し、瓦礫に身を預けたまま前方を睨む。
焦げた土の匂いが、微かに鼻を突く。ハーヴィンは危険な空気を感じ取っていた。
「いるな……」
双眼鏡で確認する視界の先、崩れた塹壕の向こう。
メラリア共和国軍の部隊が、静かに進んでいる。
数は多くない。ここから見えるのは20名ほど。先行部隊だろうが、動きに無駄がない。索敵、警戒、配置。
明らかに実戦慣れした部隊である。
そして、その中央。
一人の兵士が、肩に担ぐ兵器を構えていた。
「……あれは」
ハーヴィンの喉が鳴る。
筒状の砲身。
全長はライフルより少し短い程度。グレネードランチャーと同等のサイズ。
しかし、グレネードランチャーにあるような、弾倉が見られない。代わりに銃の中心部には真っ黒な魔石のようなもの。それがクルクルと不規則に回っている。
「あれは……レガシーウェポン…【シーラン】」
ハーヴィンの傍らにいたキースがその正体を呟く。ハーヴィン小隊はそれを目撃しただけで、冷や汗が止まらなかった。
ハーヴィンは座学の成績は芳しくない。それでも覚えるほど、シンディに重要だと教わったこと。
教本の記述が脳裏を過る。
レガシーウェポン【シーラン】。それは世界で5種しか確認されぬ古の兵器。現代科学では再現不可能な構造はレガシーアイテムと同様だが、レガシーアイテムとの明確な違いは兵器であること。
中でも【シーラン】はメラリアが保有するレガシーウェポンであり、着弾地点の一切を超高熱で焼却する。
遮蔽物、装甲車両…………人…関係なく燃やし尽くすのだ。
ハーヴィンは知る由もないが、白亜三式はメラリア共和国のシーランに対抗するために、シーランを参考にマリー博士が開発したものである。
範囲は直径30m程と白亜三式よりも狭い。だが、人1人が携行でき、最大6連射可能、建物ごと焼却することを考えればそれは、破格の性能である。
弾丸は魔力。残弾が0になった段階でシーランを握る者から強制的に6発分の魔力を吸い上げる。6連射と弾丸についてはメラリアの上層部と実行部隊しか知らない情報でもあるが……
まずもって、アルステリアが把握している情報だけでも脅威であることは変わらない。なんせ、拠点防衛における障害物が一切意味をなさないのだから。
「隊長……」
キースの声。
震えてはいない。だが、息が浅い。
「ああ。見間違いじゃない」
ハーヴィンは低く命じる。
「全員、音を立てるな。無線も切れ。姿勢を低く保て」
(くそ……ここで見つかったら終わりだ)
メラリア兵が、シーランを構え、照準の微調整を行う。
狙いは…………
…………………………前線のトーチカだった。
ポンッとその威力に反して軽い音がする。
アルステリアのトーチカへ着弾し、世界を白く染め上げる。その熱量は30mの範囲で白亜三式と同じように閉じ込められ、その内部だけを完全に消滅させる。
ハーヴィン達は目を細め、直視できない程の光が収まる。
ようやく見えた彼らの目には、前線のトーチカが1つ消え去っているのが見える。円形に抉り取られたような跡。
コンクリート製のトーチカが、融解している。それほどの熱。
範囲内は生物だけでなく、無機物にまで死を与える。
絶句したハーヴィンが視線を敵兵に戻した時、ふと、男と目が合う。
ほとんど条件反射で叫ぶ。
「撤退だッ!!今すぐ!」
「「了解ッ」」
来た道を全力で駆ける。
ハーヴィンは見た。その男の鋭い眼光を。直感で理解した。
――その男が【ジ・オール】であることを。
戦場全て見えるというメラリアのネームドである。全力で、全速力で、足を動かし、逃げる。
ハーヴィンにはどこまで見えてるかは分からない。だが、双眼鏡越しであるにも関わらず、確実に目があった。
殿を務めるハーヴィンの耳を裂いたのは、ポンッ、という音だった。
「ッ!散開――!」
言い切る前に、世界が爆ぜた。
ドォォォォンッ!!!
背後から閃光が走り、地面が……空間が……歪む。ハーヴィン達の直ぐ後ろに着弾したのだ。
「急げぇぇー!!」
目の前の林に入り、撹乱しなければハーヴィン達に逃げ道はなかった。
…………だが、【シーラン】の有効性はその威力だけではない。
ポンッと妙に軽い音で発射される弾丸は、連射だろうと威力が落ちることはない。先程までと同様の威力を秘めて飛来する。
そして、それはハーヴィンの目の前へ……
「ッ!?」
カッ!!!
着弾点から広がる閃光と灼熱の渦。
今度は確実に、直撃圏内。
ハーヴィンは咄嗟に前を行く、キースの腕を掴み、全力で後方へ跳ぶ。足の裏から炎を放出して推進力とする。リリーナに教わった高速移動方法である。
目の前が真っ白になり、その閃光にやられた目が眩む。少しして、ようやく目が見えてくる。目の前には円形に跡形もなく焼却された一帯。
「……ぁ…………」
あまりの出来事に、微かにしか声が出ないハーヴィン。
ハーヴィンはギギギと音が鳴るかのようにゆっくりと自身の右手を見る。右手には、確かに掴んだキースの手。
しかし、その手は肘から先がなくなっていた……
少しでも面白いと思って頂けれれば、
ブックマークやいいね評価等して頂けると、モチベーションも上がって非常に嬉しいです!




