123.第1師団
ここはウエストテリアとレストデーンの間。現在、対メラリアとの戦闘拠点である。
「カカカッ!お前、アレが好きなのか?」
「ち、違うっすよ!?そういうんじゃないっす!」
「なんだ、違ぇのか。つまんねぇな。でも、同期なら色々と知ってるだろ?実際どうなんだ?」
ハーヴィンは、その中にある師団長の天幕に来ている。
当然、目の前にいるのはこの戦場を預かる第1師団師団長のカルロス少将である。
1週間前、リリーナがネームドになった。
この前線でも新ネームド誕生の話で持ち切りだ。いや、前線であるからこそ、士気を上げるために情報は即座に拡散されていた。
そんな中、カルロスは何処からか、ハーヴィンがリリーナと同期だったことを聞き付けたらしい。
話を聞きたくて、朝早くからハーヴィンはこうして呼ばれたのである。
「リリーナは……とにかく強くて、ヤバいっすよ」
「……ったく。ハーヴィン。どう強くてヤバいんだよ?」
(コイツはやれば出来る。動きもいいし、間違いなく強い方だ。ただなぁ……指示を上手く言語化出来てねぇんだよな)
「どうって……こう…えー……」
(そ、そう言われても、リリーナをどう説明したらいいのか、俺も分からねぇ)
「んじゃー、質問を変えるわ。【レッドイーグル】シルヴァン・ランドルフの娘ってのは本当なのか?」
「本当ッスよ!」
「ふーん……となると、プロパガンダ的に祭り上げられてるだけの可能性もあんのか?
いや、あの特務の長官がそんなことするか?参謀総長ならやりそうだが……」
「ぷ、プロ…バイダ?ってなんスか?」
「……………」
「???」
しばし見つめ合う2人。
こういう奴だったな、と諦めたようにカルロスは説明を始める。
「あー、この場合は、本来の実力がないのに、話題性ってだけで、軍の士気向上のためにネームドになったって感じだ」
「えぇッ!?リリーナはバカ強いッスよ!?」
「だから俺は、それを聞きてぇんだよ。演習はしてたんだろ?」
「はいッス!何度もやってます」
「じゃ、そん時の話だ。リリーナ・ランドルフにどう殺られた?」
「おぉ!?それなら分かるっス。
リリーナは、俺が気付く前に先に撃ってきます。
んまぁー、先手を取れた事は一度もないッスね!
俺たちの間では、『死角は作るな!』を合言葉にやってました」
「死角は作るな、か……んなもん、当たり前だろうがッ!」
「す、すいませんッ!」
(とはいえだ。その当たり前を忠実に行うのは難しい。
人の視界は限られる。自身の立ち位置、移動方向――全てが立ち回りに現れる。
コイツがその辺をしっかり出来ているのは、そのためか……)
「それで、どうしても出来ちまう死角から撃たれるのか?」
「あっ、死角はないですよ?みんなで見てるんで!」
「あぁ。チーム戦の話だったか」
「ハイっす!リリーナ対、俺たち11人ですね」
「はぁあッ!?」
想定していない答えに、カルロスは思わず変な声を上げた。
「何言って……はぁ??
マジで1対11で演習やってたのか?」
「そうッス!たまに先生も加わって、リリーナ対12人ッスね。
こうでもしないと、リリーナは抑えられないんで」
「なんじゃそりゃ!?」
「あッ!?でも、流石にリリーナも、先生が加わる時は能力有りですよ!」
「はぁ?そもそも、能力無しでやってたのかよ!?」
「はいッス。そういえば、リリーナはレイン先生から、いつも何かしらの制限をされてましたね」
「まて、まて、まて、まて……
急に情報量が多すぎるわ!
レインって、近接戦闘の天才って呼ばれてた奴か?」
「多分そうッス!それは聞いたことあるッス」
「確かに、軍学校に派遣されたって噂は聞いたことあるが…………
もしかして、近接も教わったんか?」
「はいッス。俺らの担任の先生なんで!」
「なら、近接戦闘も出来んだろなぁ……」
「俺らの中でも、唯一、先生とまともに張り合えますからねぇ」
「なッ!?」
カルロスは一旦頭を抱え、残り半分になっていたコーヒーを一気に飲み干す。
「…………ふぅ。
マジもんのネームドっつうことか。とんでもねぇのが出てきたな。
まぁ、なんにせよアルステリアとしてはプラスだ。
ハーヴィン。ここも準備が出来次第、またレストデーン奪還に動く。
気合い入れてけよ!」
「はいッ!」
ハーヴィンは、リリーナが認められたことが嬉しく、元気良く返事をした。
そのまま上機嫌に、天幕を後にする。
ドォォォォン!!!
突如として、地の底から突き上げるような地響きが響き渡った。
「ッ!?なんだッ?」
すぐにカルロスが天幕から飛び出し、状況を確認する。
遠くの空に立ち上る黒煙。それはレストデーンの方向――第1師団の防衛線がある付近だった。
(まさか、メラリアの攻勢!?)
カルロスも無警戒だった訳ではない。昼夜を問わず監視は続けている。
それでも、メラリアから攻めてくる確率は低いと考えていたからこその驚きだった。
この前線基地を抜いたとしても、その先に控えるのはウエストテリア。
アルステリア4大都市の1つであり、5年前のエーテルノヴァによる魔力不全状態でも攻略出来なかった場所だ。
無理に攻めてくるよりも、レストデーンの防衛に徹したほうが、遥かに被害は少なく済む。
だが、この状況は……
「ハーヴィンッ!
今すぐ小隊を率いて偵察に行け!
ただし、深追いはするな!確認したら、即ここまで戻ってこい!」
「はいッ!」
ハーヴィンは駆け出す。時間がない。
自身の小隊の天幕へ向かい、休憩中だった部下達を叩き起こし、黒煙の上がる前線へ向かうために。
「オラ!警鐘を鳴らせ!!メラリアが攻めてきたぞ!」
(チッ……偵察兵から、まだ何の連絡も来てねぇのが逆にヤバさを感じるぜ……)
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ハーヴィンが小隊の天幕を跳ね上げると、最初に目に入ったのは、木箱に腰掛けて銃の整備をしている男だった。
「……来たか、隊長」
キースは顔も上げず、淡々とそう言った。
小隊の中でも古株で、ハーヴィンより2つ年上。ハーヴィンにとっても頼りになる男だ。
「聞こえたか?」
「あれだけの地響きがあればな。嫌でも目は覚めるさ」
キースはボルトを引き、弾倉を確認してから立ち上がる。
「メラリアだな」
「ああ。カルロス少将直々の命令だ。偵察のみ、深追い禁止」
「……一番面倒なやつだな」
そう言いながらも、キースの表情に迷いはない。
確認のための短い会話だったが、ハーヴィンも含め、全員装備を整えていた。
「ハーヴィン隊、任務開始!」
ハーヴィンの声に、ハーヴィン小隊の4人は直ぐに動きだす。前線へ向かう途中、キースがハーヴィンの隣に並んだ。
「さっき、師団長に呼ばれてただろ」
「……おう。リリーナの話だ」
「やっぱりか」
キースは小さく鼻で笑う。
「噂になってるぞ。『ヤベェのが出てきた』ってな」
「言い方悪すぎだろ?」
「前線の兵士は、だいたいそんなもんだ」
少し間を置いて、キースは続けた。
「だが……そのヤベェ死神が味方にいるってのは、悪くないな」
黒煙が、徐々に近付いてくる。
空気が焦げ臭くなり、遠くで断続的な爆発音が聞こえ始めた。
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