119.やらかし
新ネームド誕生のニュースはアルステリア帝国全土に一気に駆け巡った。
中継映像も何度も放送され、リリーナの姿が共有されていく。
初めに人々はその新ネームドの想像と違う、幼い姿に目を奪われた。そして、心の何処かで疑問が生まれる。本当に強いのか? 聞いていた功績は本当なのか? と。
だが、その次の瞬間には、雰囲気が変わる。冷酷に、淡々と敵を倒すその姿を目撃することとなったのだ。
そのためか国民の評価は上々である。
ネームドはまだ少女であった。だが、その実力は間違いないと。彼女は狙われた皇帝陛下を護ったのだと。
話題性は抜群であった。アルステリア帝国の何処に行っても、リリーナ・ランドルフの話題で持ち切りである。
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「あの射撃は陛下じゃなくて、私を狙ってたみたいですねー」
演説後の会食は中止され、リリーナ達は特務機関の施設へと戻ってきていた。暗くなり、遅れて戻ってきたテレーズから事の顛末を聞いていた。
「即日、ネームドを処理したかったのだろう。だから陛下よりリリーナを優先した。リリーナの言っていたコートの人物、調べたところ、やはりルンドバードの手の者なのは確実だ。本人はまだ認めていないがな」
「ですよねー。モロにレッドアイに映ってましたから」
「便利だな、スパイまで分かるとは。シルヴァンも戦場以外での使用はなかったからな」
「直前に告知したのに、それでも紛れ込んでるんですね」
「ずっとアルステリアにいるからこそ、紛れ込めるんだろう。狙撃してきた奴だって、帝都に10年以上住んでるようだからな」
「あっ! そうだリリーナ! お前、なんだあのシールドは!?」
ずっと聞いていただけだった、ショーンが思い出したかのように立ち上がる。
「何がです?」
「陛下を護った、あのバカでかいシールドだよ!」
「あー、やっぱ凄いですね! ランク5の魔石は! 魔力を突っ込めば突っ込んだだけ、しっかり効果が出ます!」
「なっ!? そういえば、演習の時の魔石って……」
「ん? 昨日ですか? ずっとランク2ですよ? それしか持ってないんですし」
「ははっ! そうか。学生の頃からそのままノウレアだったんだもんな。(コイツ、ランク2であの硬さだったのかよ……)」
「私達はこれからどうするんです?」
「とりあえず、今日はこれで終わりだ。明日はオフだから、自由にしていいぞ。明後日はここに来るんだ。帝都にいるうちに研究室に行くからな」
「研究室!? 私がですか?」
「そうだ。お前が持ってきた【ジュラ】って装置があっただろう? それについて色々と聞きたいらしいのと、ちょっと試作品を試して欲しいようだ」
「そういえば……ありましたね」
「お前、また忘れてたな!? それに、マリー博士がいた場所だぞ?」
「おぉ!? 母さんの!? それは興味あります」
「少なくとも1ヶ月は、そこで色々やらされるだろうから覚悟しておけ。研究室にいるのは、クセが強いやつばかりだからな」
「えっ? そんなにですか? 私も前線に行かなくていいんですか? シア達はもう行くんですよね?(シア達、大丈夫かな……)」
テレーズは、そんなリリーナの頭をポンポンっと優しく叩く。
(そんなに前線に行きたいのか? こっちとしては、もう少し内地で過ごして、メンタルケアに努めたいんだがな……)
「そんなに焦るな。みんなを信じることも大事だぞ」
「…はい。それは分かりますが……」
リリーナは少し俯いてしまう。
「ノードを奪還してから、メラリアもルンドバードも動きが見られていてな。現在、特務機関はレストデーンとクウィントン方面に分かれて、作戦を行う予定だ。
だがな、研究室では試作品の実証試験を行うらしい。こっちはリリーナ。お前が適任なんだよ。
想定では、かなりの魔力量が必要らしいんだ。そして、この試作品が上手くいけば、みんなの生存率が上がる。それはお前も望むところだろ?」
「確かに……そのほうが、結果的に助けられますねッ!」
「ふっ、だろう?」
「クウィントン方面は、俺が先に行っている。是非、クウィントン方面へ来てくれ!」
フリードが欲望ダダ漏れの意見を述べる。
「はぁ…………それは情勢次第だろうが。全く、シルヴァンがいた頃みたいだな」
「ははッ! 違いないっすね」
テレーズもショーンも、呆れながらも楽しそうにしていた。
「ぬあッ!!」
「どうしたッ!?」
リリーナが叫び、周りが驚く。
「長官ッ! 給料って、いつ出ますか!? 私、お金がありません!!」
「………………ん?」
「ん?」
テレーズもリリーナも、頭に?マークが浮かぶ。
「ちょ、ちょっと待て……、アリス!!」
テレーズに呼ばれ、隣で事務作業中であったアリスが、こちらに来る。
「どうかしましたか?」
「アリス、リリーナに褒賞の件、話してないのか?」
「え? 話しましたよ?」
全員の顔が、アリスからリリーナへと移る。
「あれ? アリスさん……ちなみに、いつ?」
「今朝ですね。出発前に、新しいカードと褒賞金の話をしましたが……覚えてないです?」
「あはは…………………………(ヤバい! あの時は具合悪過ぎて、全部聞き流してた!)……」
リリーナが自身のバッグを開けて探し出す。すると、すぐにカードが見つかった。
「すいません。気をつけます………」
「褒賞金の話も…?」
「はい。すいません。もう一度、お願いできますか?」
リリーナはもう、やってしまった顔で謝るしかなかった。
「ふふッ、普段は普通の女の子ですね。分かりました。まずですが、リリーナさんは特務機関に所属して、まだ日が浅いので、今月分はまだです。
それで、本来は終わるのですが、今回、功績が功績ですので、皇帝陛下から褒賞金が支給されることになりました。リリーナさんの口座が凍結しておりましたので、今回、別口座を作らせてもらってます。それが、そのカードですね。
後ほど、ご本人として、凍結解除に銀行へお願いします」
「ありがとうございます。そういえば、アリスさんに色々話しかけられた記憶はあります」
「こちらこそ、すみません。具合の悪いタイミングだったようで……」
「いえ、私が二日酔いだったせいなので……はい」
「いいんですよ。久しぶりにかえって来たんですから。当然です」
「くっ、優しいのが心に染みるぜ……」
「ぷっはっは!! もう奢んねぇぞー」
全面的にリリーナが悪いため、罪悪感が凄かった。その様子を見て、ショーンは爆笑である。
「リリー、いつでも奢るぞ!? 毎日でもいい。なんなら家に来るか? クレアもきっと喜ぶ! おぉ!? それがいい!!」
「フリード、落ち着け。お前は当分、クウィントン側だろうが!」
ひとりで盛り上がり始めたフリードは、テレーズに止められていた。
「あっ、じゃあ、リリーナさん。明日、一緒に買い物しましょう!!」
アリスからの提案は、二つ返事で了承したのだった。
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