117.任命式
私は今、帝都に向かっている。
午前に移動して、本日の午後からネームド就任の式典という訳だ。だが、私はそれどころではない。
「う゛ぅ……うぇ〜」
具合が悪い。明らかに昨日はっちゃけ過ぎた。最後の方は記憶がない。この新幹線の大したことのない小さな揺れが辛い。具合悪過ぎてみんなの会話も入って来ない。
今世では初めての二日酔い。しんど過ぎる。
ノウレアではいつ敵が来るかわからないから、飲んでも一杯までだった。
枷が無くなり、テンションに任せてどこまでも飲んだらこれである。
帝都行きの新幹線のトイレには、大変お世話になりました。
ようやく、帝都に到着する。
ノーステリアから一緒に来ているのはテレーズ長官とショーンさん、フリードさん、秘書官であるアリスさんだけである。ほかのみんなは式典には参加しない。中継もされるらしいので、それで見るようだ。
「さ、着いたぞ」
体感的にとても長い移動時間を経て、特務機関の帝都支部にようやく到着する。
「うぅ……やっとだぁぁ」
「まだ具合悪いのか?」
「はい゛……」
「調子に乗ってぐびぐび飲んでたからな。当然だな」
ショーンさんが揶揄ってくるが、反論する元気がない。
「水をもっと飲むんだ。楽になる」
「ありがとう゛ございます……」
フリードさんから水を受け取り、一気に飲み干す。
ふぅー、水が美味い。今日のフリードさんはずっと介抱してくれている。今はそれが本当にありがたい。後でお礼しないとね。
帝都についてから少しゆっくりしていると、どこかに行っていたアリスさんが戻ってくる。
「テレーズ長官ッ、準備、全てバッチリです!」
アリスさんが何か持って、こちらに近づいてくる。
「ふっ……アレも間に合ったか。ありがとう」
「職人さんもノリノリだったみたいですね」
「よーし、リリーナ! まずはこいつを受け取れ」
「これ……」
長官から渡されたのは、木箱。中には魔石が入っていた。デカい。しかも、凄い透明度だ。めちゃくちゃ綺麗なこの魔石は、向こう側が見えるほどである。
「それがランク5の魔石だ。ネームドだけに支給される、最高級品だぞ」
「すっごい……」
私が使っていたランク2の魔石から、一気にランクアップした。
「ほらほら、式典までそんなに時間が無いぞ。今日からネームドとして、式典時はアリスの持ってる衣装になるからな。着替えて準備するんだ」
「了解です゛! ありがとうございます゛!」
私はアリスさんから式典用の衣装を受け取る。包みを開けると、黒を基調にした豪華な衣装が現れる。
「おぉ……」
思わず声が出る。凄い。私のボキャブラリーじゃ表現が難しいが、とにかく凄い。生地からして高そうだ。式典用ということで、スカートなのか。戦場には向かないかもだけど、豪華って感じの衣装だ。
あ、ゲームならこれで戦闘もするのか!?
もう一つの小さめの箱も確認する。
「ん? これは……!?」
私はそれを見て、思わず顔を上げ、テレーズ長官を見る。
「いいだろう?」
「はいっ!」
テレーズ長官はニヤリと笑い、ショーンさんも気付いてサムズアップする。アリスさんはずっとニコニコだった。
フリードさんは…………静かに泣いていた。
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新しいネームドが誕生するという話は、お昼に緊急速報としてアルステリア帝国全土に放送された。他国の襲撃などを警戒した情報統制の結果である。
そして13時過ぎ、ヴァンリ・フォン・アルステリア皇帝陛下が住まう宮殿には、この国の権威が集結していた。
荘厳な部屋の中、最奥の壁には龍をモチーフにしたアルステリア帝国の国旗が掲げられている。その下に座るのは、ヴァンリ皇帝陛下その人。
その隣には皇帝陛下の妻である皇后リーヌ、反対側には皇太子ヴァロンが座る。歳は13歳。まだその豪華な椅子に対して小さく見える。
なお、皇女である妹もいるが、今日の式典には参加していなかった。
そこに皇帝陛下達を筆頭に、左に並ぶのがワルター宰相を含めた政治を司る大臣達。反対側には軍部を司る参謀本部総長ダニエル大将が立ち、特務機関長官テレーズ、クリス・ウォズ大将と最高位の幹部が並んでいた。
ネームドになることは、アルステリア軍における最高戦力となることを意味する。それは誰もが憧れる栄誉であった。
それだけではない。最年少であり、軍属になって一ヶ月と経たずにネームドとなる異例の人物がいるとのことで、大将達幹部も注目している。
この式典後は、宮殿の広場に集まった国民へ挨拶も行われる。急遽周知されたことなど関係ないとばかりに、既に広場は盛り上がり始めていた。それだけ久しぶりのネームドは、国民からの注目も熱い。
そんな大注目の大事な式典を前に、二日酔いで頭を押さえた少女がいた。
「う゛……頭痛い……」
「まだ治ってないか?」
リリーナの先導を行う先輩ネームド、ショーンも苦笑する。
「もう時間だぞ。さっきの説明、覚えてるよな? いいか、俺の後についてきて、俺は中央付近で止まる。お前はそのまま進んで、皇帝陛下の手前まで行くんだぞ?」
「は゛い。大丈夫です」
「ククッ、顔色悪りぃなぁ」
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side:ワルター宰相
「リリーナ・ランドルフ! 入場!! 先導は【絶命】ショーン・ウォルマンである!」
宰相である私は、噂の人物を見極めようと眼光を鋭くする。
まずはショーン・ウォルマンが、豪華絢爛な扉から入場してくる。黒を基調に紫のアクセントが付いた、ネームド【絶命】専用の軍服を身に纏い、堂々としている。
我らがアルステリア帝国の最高戦力。やはり、オーラから違う。
続いて入ってきたのが……あれが……隻眼の死神か。
こちらも黒を基調にしたスカートとタイツ。上衣も黒をメインに赤をアクセントにしており、手には真っ黒な手袋。露出は少ないが、フリル調も取り入れられ、どこか女の子らしさも感じさせる。
そして最も目立つのが、その左眼を隠す黒い眼帯だ。左眼を中心に、顔の左側が大きく覆われている。目の位置には赤で牙のマークが描かれていた。
アルステリア帝国という大きな龍の牙となる、ネームドだけが許された紋章である。
奇しくもそれは、リリーナ・ランドルフの父、【レッドイーグル】シルヴァン・ランドルフのスカーフと同じであった。
少女と聞いていた。歳は18だが、幼く見えるとも……。
確かにその通りに見える。だが……
なんだ、この異様な雰囲気は……。
顔は色白で、目は虚ろだ。時々眉間に皺を寄せ、険しい表情も浮かべている。宰相として様々な人物と接してきたが、こんなにも気配がちぐはぐな者がいただろうか。
年相応の雰囲気などない。計り知れない何か……そんな印象を与える。
ヴァロン皇太子など、若干怯えの混じった眼差しで見ている。皇太子だけではない。大臣達も似たようなものだろう。
少女……18歳と聞いて侮っていた者達は、その異様な雰囲気に飲まれ、息を呑む音が漏れる。
リリーナ・ランドルフの功績を、陛下が読み上げられた。
その間も彼女は陛下に頭を垂れ、微動だにしない。
五年間孤立したノウレアの防衛、ネームド【ギャップ】の撃退、ノードの解放……その全てが、実質的には彼女一人によるものだという。
事実確認を終えてもなお、信じ難かった功績は、彼女を目の前にして、ようやく納得せざるを得ない説得力を持っていた。
「以上をもって、リリーナ・ランドルフをネームド、【隻眼の死神】とし、我がアルステリア帝国の牙となることを、ここに宣言する!!」
「はッ!! 謹んでお受け致します!」
五年前、国土を一気に奪われたアルステリア帝国に、希望の光が灯った瞬間である。
ザックの魔石は返却済みで、リリーナは昔プレゼントされた魔石を使っています。
ちなみにショーンは胸(心臓)の位置に紫で牙マークです。
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