115.親と子
公園のベンチに座るアグノラとナンシーの会話に入ってきたのは、アグノラの父、ショーンであった。
「なに?」
先程までナンシーと話していたトーンよりも低く、突き放した口調だ。
それに若干怯んだショーンであったが、意を決して話す。
「イーノスやロブとの差はそこまでないって言ったんだ」
「は?結果見てないわけ?」
「見てるさ。後から動画も見たからそれぞれの動きも見返したさ。アグノラ……お前のことも」
「じゃあ、分かるじゃん!私が1番ダメだったの!唯一倒したのだって、たまたま背後を取れたロジェさんだけ!後はもうずっと殺られてた!」
アグノラは感情が抑えられなくなり、怒りか、悲しみか、悔しさか。その目には涙が滲んでいる。
そんなアグノラをショーンは真っ直ぐ見つめる。
「今回はそうだったかも知れない。だけどな、アイツらとは能力にそんな差がある訳じゃない。少し直せばお前も強くなれる」
「それが分かんないっての!」
「俺がいる。俺が教える」
ショーンはアグノラの両肩に優しく手を置いて、語る。
「今さらッ!?全然…教えてくれなかった癖に!」
「アグノラ……今までごめんな。母ちゃんが死んでから、ちゃんと話せてなかったよな。寮生活の合間にも、俺が軍務でいないせいで会えない時も多かった………お前が軍所属になってからも、ちゃんと時間を取れてなかった。
父ちゃんな……
本当はお前が大好きなんだ。娘だぞ!?可愛くない訳ないだろ!?
それなのに、お前に嫌がられてる気がしてな……
それが怖くて逃げてたんだ」
「それ…は……」
アグノラには心当たりがあった。母が亡くなり、事ある毎にショーンにキツい言い方をしてしまったこと。アグノラとて、ショーンが嫌いな訳ではない。むしろ、ネームドである父のことを誇りに思っている。だが、直接会うとどうしても、素直になれなかった。どうしても強く当たってしまうのだ。
ショーンも娘が大好きであるが、そうであるが故に強く当たられたことで必要以上に考え込んでしまっていた。昔はそんな2人の間に母がいたため、上手く回っていたのだが、もういない。
ショーンが不安になり距離が空くと、今度はアグノラが不安になる……
悪循環……コミュニケーション不足であった。
傍から見たらなんてことないことかもしれない。だが、2人は今日まで拗らせてしまっていたのだ。
「ちゃんと向き合ってなかった…
アグノラ……お前は俺の娘だ。俺の1番なんだ。強くなりたいなら父ちゃんが教える。アイツらなんて目じゃないくらい強くしてやる!」
もうアグノラの目に留まっていた雫は頬を伝っていた。真っ直ぐなショーンの言葉にアグノラはもう堪えられなかった。
「う゛ん゛ッ」
2人は抱き合う。母が亡くなってから8年振りの抱擁であった。
「父さん……」
「ん?」
「ごめんね……父さん、ありがとっ」
アグノラがやっと素直になれた瞬間だった。ショーンは嬉しくてもう顔がふにゃふにゃである。
「う゛ッ、苦しい……」
「おぉ!?すまんッ!ついッ!」
思わず力が入ったショーンは慌てて離す。
一部始終を見ていたナンシーはニヤニヤと満足そうにその様子を見ていた。
「っと、ナンシーだな。アグノラと仲良くしてくれてるようでありがとうな。良かったら、この後みんなで飯行かねぇか?」
「あり、あっ、でも、今日は親子水入らずの方が……」
「いいじゃん!ナンシーも行こうよ!これからは訓練もつけてくれるっていうし、たくさん話せるから…」
少し恥ずかしそうに言うアグノラ。そこまで言われると断れないナンシーは同意する。
「いい店があるんだ。あそこの焼き鳥はうめぇぞ」
3人は歩いて移動し始める。距離の縮まった彼らはもう大丈夫だろう。2人の会話は昔のようになっていた。
「ねぇ、私強くなれるんだよね?」
「もちろんだ。戦闘に関しては父ちゃんは自信があるんだぞ?ロジェやニコなら直ぐに追いつくだろう」
「ほうほう!」
「ん?イーノス君やロブ君よりもロジェさんやニコさんのが弱いんですか?」
「そうだぞ?今日の結果の通りだぞ?
ロジェやニコとはそこまで差はない。立ち回りとか改善すれば直ぐに追いつく程度の差でしかない。だが、イーノスやロブは素の魔力が多いな。アイツらあの歳でかなりの魔力してやがる。
狂気の世代つったか……確かに異常だな」
アグノラもナンシーも勘違いしていた。自分たちよりも前に特務機関に所属しており、1つ上のため、学生時代の彼らも知っている2人は知らず知らずに格上と認識していたのだ。
「わ、私でも追いつけますか?」
「ナンシーは氷だったか。氷魔法については難しいが、基本的なことなら教えられる。アグノラの友達だ。2人とも一緒に教えるよ」
「ありがとうございます!」
「狂気の世代……後輩達は思ってた以上に強いって訳ね」
「氷魔法もシアちゃんに全然敵わないからなぁ…あんなでっかい氷柱を一瞬で作ってたし」
「シアはあの中でも頭1つ抜けてるからな。中佐連中じゃ勝てんだろう」
「なるほどねー。
で、さ……その狂気の世代筆頭のリリーナについて、戦闘に自信のあるネームドさんはどう思うの?」
「!?ハハハッ!そうか!そうだったな!」
ショーンは笑った後、真面目な顔になる。
「はぁ………リリーナ、ありゃ飛んでもないバケモンだな。俺と近接でまともにやり合える時点でまずいないんだが、まだ見せたこともなかったはずの毒液飛ばしを初見で躱しやがった。知ってるフリードでも反応出来ねぇやつをだぞ?
そもそも、アイツ相手に俺の得意な接近戦に持ち込むのも大変で、接近戦でも勝てる保証はねぇと来たもんだ。
アランの奴が徹底的にリリーナを避けてた気持ちが分かっちまった」
「アランさんそうだったんですか!?」
「おう、〈あのギャップ相手に圧倒してたんですよ?絶対嫌ですね!〉って、言ってたからな。幸い笑い声で何となく方向も分かるし」
「そ、そんなに……」
「やっぱ、誰が見てもリリーナはオカシイんだ」
「ククッ……まぁ、だが、根は良い奴だ」
「それは分かります。クウィントンでも私達を必死に逃がしてくれました……」
「実は今日もアイツにアグノラにちゃんと向き合えって怒られたし」
「えッ!?そうだったの!?ハハハッ!そりゃお礼言わないとね」
「そうだな」
少し遅くなった晩御飯に向かう3人。向かう先はショーン行きつけのお店。しかし、そこで先に宴会をしているもの達がいることをまだ知らない……
大晦日ですね。今年5月末に始めたこの作品が12月にランキングに入り、最近沢山の方に読まれるようになりました。嬉しいですね。来年も更新頑張って参りますので、引き続き来年もよろしくお願いします。
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