112.敵はリリーナ
「ククッ、始まったようだな……」
ニヤリといつもの笑みを浮かべたテレーズは、満足そうにモニターを見ている。
テレーズたち、観戦者は全員がモニタールームから高笑いし始めたリリーナを見ていた。
「本当に、楽しそうね」
「皆、トラウマにならなきゃいいんですが…」
クレアは楽しそうなリリーナに微笑みを浮かべ、シンディは他の出場者を心配していた。
そんな知っているメンバーを他所に、初めて見た特務機関の兵士たちは、気づかないうちにモニターから1歩後退していた。
「笑ってる…」
「ロジェが一方的にやられたぞ…」
「……眼帯……隻眼の死神!?」
「あ、あれが……」
隻眼の死神の情報が流れたのは最近のことである。眼帯をしていて、ノウレアを5年間守り、敵兵に恐れられ死神と言われた指揮官。少女の外見という点は彼らには届いていなかったのだ。
ロジェが言っていたように、眼帯という特徴だけでは断定しきれない。ましてやノウレアの話が衝撃的で、モニターに映る少女と結びつけられなかったのだ。
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「リリーナのやつ、早速暴れてやがるな」
ショーンは素早くマガジンを交換しながら、まだ少し遠い笑い声を聞いていた。マガジン交換を終え、再び動き出す。
ジッとしていてもリリーナには勝てない。さらに、自分の位置はリリーナにバレていると考えて立ち回らなければならない厄介極まりない存在となっていた。リリーナの前世、ゲームの話であれば、それは完全にチーターなのだが……
ここは現実、ショーンは考える。リリーナを倒すにはどうしたらいいかと。
「こっちも行くしかないか」
対応できないほどの連戦にするしかない。お互い見えている状態でスタートするわけじゃない以上、どうしても発見するという点において遅れを取るのだ。
幸いリリーナは隠密的に動いているわけじゃない。銃にはサプレッサーもなく、発砲している。おまけに笑い声まである。
誰かと戦闘さえしてくれれば場所の特定は容易である。
このような考えはショーンだけではなかった。フリードも同じである。そして、昔からリリーナと戦闘していたシア、イーノス、ロブの3人までも同じ考えで動き始めていた。
結果……リリーナと一定の距離を開けて取り囲むように、5人が集結したのである。
奇しくも相談も無しに出来上がったリリーナ討伐隊は、何も知らないその他のメンバーにリリーナの死の鎌が振り下ろされ、リリーナの確実な位置を補足できるチャンスを待つ。
リリーナとの距離はそれなりに開いている。あまり近いとリリーナの標的にされるからだ。その間も、ロジェが、ニコが、クリフが……犠牲になる。
この状況が動くまで、時間はそれほどかからなかった。
シアの潜伏した場所からドロシーがリリーナのいる方向へ向かうのが、壁の隙間から一瞬見える。偶然の発見であった。
「今の、ドロシーさん………ここだ」
シアは魔力を練り上げる。一気に、短時間で生成するために。
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「リリーナは……あっちね。せっかくだから手合わせ頂きましょう」
ドロシーはリリーナの方へ向かう。ドロシーは自身の能力、サイレントステップを使用して音もなく近づく。同じ能力でも、ワイリーのそれとは実力に差がある。ワイリーの場合、走ると僅かにだが音がするのだ。静かな場所ではバレる可能性がある。しかし、ドロシーの場合は完全に無音。
能力を使ったドロシーを足音で判別することは不可能であった。
(これでもバレてると思って動かなきゃいけないのね。全く……理不尽ね)
ドロシーもそんな経験はないため、心の中で嘆いていた。それでもジッとしてはいられない。無駄のない動きで進み、レンガの壁を背にする。
「そこにいるのは誰ですかねー。
……はっはっーん!ドロシーさんですかね!」
「ほんとッ…敵に回したくないわッ!」
ドロシーは用意していた手榴弾をリリーナの声の方向へ投げる。マップの構造は分かっていたため、大体の位置は検討がついていた。
ドンッ!という爆発音とともに、ドロシーは背にしていた壁を蹴り上がって乗り越えながら、リリーナのいるであろう場所を撃つ。
着地した時、爆発の煙が収まる位置には誰もいない。
「どこッ!?」
ドロシーの視界にはリリーナが見当たらない。
音は消えないはず……
そう考え耳を澄ました瞬間、背後で音がした。ドロシーが振り返る。顔から振り返りながらも、銃口も向ける。今はバトルロワイヤル。味方はいないのだから、音がしたらそれは敵だ。
だが、視界に先程自分が駆け上がった壁を飛び越えてきたリリーナを捉えた時、ドロシーの意識はポッドへと戻された。
「よっとぉ!」
壁を超えながらドロシーを撃ち倒したリリーナが、着地する。
「ッ!?」
その時、リリーナは異変を感じてシールドを張る。すぐにピシッと亀裂が入る。リリーナのその反応速度を持ってして何とか間に合ったシールドに弾丸が撃ち込まれたのだ。
すぐにリリーナは走りだす。どこから撃たれたかは分かっていた。壁に囲まれたこの一帯はそこまで背の高いものはない。そんな中に、氷の柱がそびえ立っている。そのてっぺんにいるのは、現在アルステリアで最も氷属性魔術が秀でているであろう人物……
シア・フォーデンである。
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