10.訓練始動
本格的に訓練が始まった。
しかし、結局最初はグランドを走らされた。鬼ごっこじゃなく、単純に30分間マラソンだったが。
…うん、普通に疲れる。
その後は全員にランク2の魔石が配られ、シールドの練習となった。
みんな手元の魔石に集中する。
「ふっ!」
私はあれ以来練習していたお陰で、1今では秒もかからず発動できる。死にたくないしね。
「っ!…リリーナ、君は既にシールドが使えるのか?」
「はい!いっぱい練習しました」
「…そうか。では、リリーナはこの時間、シールドの耐久性向上訓練を行うこととしよう」
「はい!」
やった、正直できるからこの時間どうしようと思っていたところだ。
「私が今から攻撃を加える。私が良いと言うまでシールドで耐え続けるのだ!」
そう言いながら、訓練場脇からレイン先生は木刀を持ってきた。
「それでは、いくぞ!」
「はい!」
私は素早くシールドを展開する。
木刀が上段から振り下ろされる。流れるように、そして、鋭い。
ガキン!
少しだが、ヒビがはいる。マジか!?ここ2年で早さだけじゃなくて硬さも自信あったんだが…
レイン先生、剣かなり使える人なのでは?
やべ、レイン先生が2撃目を加えようとしている。
むっ!!
ガキン!
今度は更にヒビがはいる。やばっ!!
もう一度くる、シールドを維持しなければ!魔石に魔力を追加する。
パキンッ!!
「うぐっ」
シールドが割れ、私の脇腹に木刀がはいる。
「……」
痛ったい。めっちゃ痛いじゃん。
「イッタっ」
「な、なかなかやるな。その歳でそれだけのシールドはそういないぞ!
ん!?諸君、手が止まっているぞ!リリーナのようにシールドをはれるようにならなければ、生存率が6割下がると言われている!
この数字は大きいぞ!!まずは展開速度を3秒以内にすることが目標だ!何度もシールドを展開して感覚を覚えるように」
「「「はい」」」
そう、クラス全体に言ったと思ったら、ニッコリと笑ってこちらを振り向く。
「じゃ、みんなができるようになるまで、リリーナは私と一緒に耐久性向上だ」
「は、はいぃぃぃ〜」
めっちゃ笑顔なんですけどー!!
やっぱりこの先生Sだよ!!絶対そうだ!
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放課後、生徒達は各サークルで各々の能力を伸ばそうと練習していた。
サークル参加は4年生からである。
既に1から3年生はみな下校時間となっている。
1年生担任のシンディ・レインは特務機関長官の部屋へ来ていた。
「お電話したシンディ・レインです」
「許可する!入れ」
やや、緊張した面持ちでレインは入室する。まだ若いレインからしたら、特務機関長官テレーズ・アルノーはかなり上の上官であった。
「失礼します」
「まぁ、座れ」
「はい、失礼します」
アルノーに勧められるがまま、高そうな革製のソファに腰掛ける。
「私もそろそろ休憩しようと思っていたところだ。コーヒーでいいかな?」
「あ、ありがとうございます」
アルノーは部屋にあるコーヒーメーカーを使用してコーヒーを2人分いれる。
角砂糖のボックスと共にテーブルに置き、3個自分のカップへ入れた。
「糖分が欲しくなるのでな。君も好きに使っていいぞ」
「ありがとうございます」
未だ緊張した面持ちのレインが1つ入れ、コーヒーを1口飲んだ。
「そんなに固くなるな。リリーナ・ランドルフの件だろ?」
「はい、長官の仰っていたとおりでした。リリーナ・ランドルフは異常です」
アルノーはやはりとほくそ笑む。既に分かっていたかのように。
「鱗片が出てきたか。入学式から3ヶ月か、ん?本格的な訓練が始まった頃か?」
「はい、本日からシールド展開訓練を開始したところです」
「それでシールドの展開が早かったと…」
アルノーがうんうん、と頷いている。
「そ、それだけではなく、硬度も異常でした。」
「硬度も?」
「はい、展開は1秒もかかっていませんでした。それだけでも驚愕だったのですが、耐久性もかなり高いです。既にタンクレベルの硬度に届きうるかと」
「そんなにか!?」
ここで初めてアルノーも驚く。アルノーは既にザックからシールドの展開などの話は聞いていた。だからこそ、入学式の段階で担任となるレインに話していたのだ。
曰く、大人顔負けの思考をしている
曰く、5歳で既にシールドを展開できる
…と。
リリーナ・ランドルフに関してなにかあったら、直ぐに連絡するようにとしていた。
「耐久性向上ということで、私がリリーナを木刀で攻撃しました。彼女のシールドは木刀とはいえ私が全力で振っても一撃耐えます。2発打ち込まないといけませんでした」
「近接戦闘の天才と言われた君のをか……ははっ」
アルノーは顔を抑え笑いを堪えるが、どうしても笑いがこぼれる。
「ザックから聞いてはいたんだがな…想像以上だな」
「正直、最初は長官が何故彼女を気にするのか分かりませんでした。鬼ごっこの時点では彼女は普通の体力でしたので…」
「ふむ、体力は普通なのだな」
「はい、逃げ方は工夫してましたが、これまでも秀才達はいましたから、長官がわざわざ目かけるレベルなのだろうかと…」
「一般公募は秀才が集まるからな。頭がキレる者はいる」
「はい…、しかし、彼女は血統スキル保持者です。かなりの逸材ですね」
「あぁ、シルヴァンと同じレッドアイを使える。このご時世にやっとの朗報だな。ふぅ」
アルノーは直近の問題を思い出し目頭を押さえる。
「そんなに悪いのですか?」
「君には知っておいてもらうか…
メラリア共和国内で軍事準備と思われる動きがみられた。我々も秘密裏ではあるが準備を始めている。
……優秀な人材はいくらいてもいい」
「……分かりました。心得ておきます」
「ふっ、そう気負うな。私も君くらいの頃に担任を受け持った事がある。より良いと思う方へ導いてやればいい。私達の思っている以上に、子供達の成長は早いぞ!
そういえば、お前はシルヴァンに鍛えられただろう?同じ事をすればいい」
レインは少し想いを馳せる。軍学校の演習で自分達の指導教員だったシルヴァン隊長を…
「私にできるでしょうか?」
「大丈夫だ。君の知っている事をひとつひとつ教えればいいだけだ。それが君の成長にも繋がる。」
「ありがとうございます」
「今年の新入生はリリーナ以外だとどんな感じなんだ?聞かせてくれ?」
「そうですね、才能の鱗片としてはまずカンナ・クサナギなど身のこなしがいいですね……」
その日、未来の可能性を知れてアルノーは少し肩が軽くなった。
「また、なにかあったら是非教えてくれ。いい気分転換になる。いいコーヒーを用意しよう」
「はっ!また御一緒させてください!」
この日より、2人は定期的に情報交換を行うのだった。
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