102.真の姿
side:エメット
俺は隻眼の死神に対するルンドバード軍の警戒が強まったことで、結果的にノウレアで遅れをとったことは不問となった。奴が強い所為で負った責任は、奴が強い所為で解消されるという、なんとも煮え切らない結果だ。
俺としては助かったが、ルンドバード軍としては警戒しなければいけない者が増えた形である。喜ばしいとは言えない。
何とか拘束を解かれた俺は、荷物を返してもらい、案内の兵士に連れられ歩いてきた。ファティが呼んでいるのだそうだ。だが、俺はまだ参謀室の大きな建物を出ていない。それなのに、案内の兵士はこちらですと言って、去ってしまった。
目の前には先程の部屋とも似た豪華な扉がある。いつまでもここにいられないので、ノックする。
「はーい!あ!?エメットさん!!」
扉を開けてくれたファティは、満面の笑みを浮かべ、俺に抱きついてくる。この危機には俺の危機感知は反応しないようだ。予想外の行動すぎて、そのまま抱き着かれる。
「あ、え?ファ、ファティ!?」
「ふふっ、エメットさん、声が上擦ってますよ」
「そ、それはファティが急にくるから……」
「しょうがないじゃないですか。エメットさんが殺されちゃうかと思ったんですよ」
上目遣いで言ってくるファティに俺はたじろぐ。
「そんなに責任追求されるのだろうか……」
「最悪の場合は…………お父さん、厳しい人なので」
ファティが離れてくれたのでようやっと、冷静になれる。
「やはり、ソロモン軍務卿は……」
「はい。私はファティ・エリオット。ソロモン・エリオットの娘です」
「つまりギャップ殿の妹?」
「はい。カーラ・エリオットは私の姉になります。ただ、お父さんはお姉ちゃんが養子だからか、私と態度が違うんですよね……」
なるほど、合点がいった。ギャップ殿は養子だが、ファティは実子なんだ。ギャップ殿がその能力で拾われたという噂は本当だったのか。
「ソロモン軍務卿は本当に……」
「あはは、ですね。正直、もう、私しかお父さんに意見できる人がいないですよね」
乾いた笑いを浮かべる彼女は、出迎えてくれた笑顔とは違い、影が見える。だが、俺にはどうしたらいいか分からない。
「エメットさんには謝らないといけません。私、本当は参謀室諜報部に所属していたんです」
「だろうと思ったよ」
参謀室諜報部。誰が諜報部かは秘匿されていて分からない機密の部署。参謀室お抱えであり各ルンドバード軍の内部不正なんかを参謀室へ伝える役割をしている。正式報告以外の細かな点、不正、昇進や処分に至るまで色々な情報を収集しているのだ。
ソロモン軍務卿の娘がただの通信兵であるわけがない。思えば、度々、鋭い質問をしてきていた。
「失望しましたか?」
彼女は不安そうにこちらを見る。その職務内容から参謀室諜報部は恐れられている。
「いや、妙に優秀だと思っていたからな。合点がいったところだ。それにさっきは、助けてくれただろ?」
「分かっちゃいました?状況的には凄く重い責任とまではならないかとも、思ったのです。でも……どうしても、悪い方向に行ったらと考えるとエメットさんが心配になって…つい………」
少し頬を赤らめる彼女に勘違いしてしまいそうになる。
「あ!エメットさん!姉さんを紹介しますね!ちょっとついてきて貰えますか」
話を変えるかのように切り出したファティに頷く。
「あ、あぁ」
連れて行かれた先は、医療棟の個室。しかもかなり大きいこの部屋はVIPルームだろう。ルンドバード最高戦力は流石の待遇だ。
部屋に入ると入院着に着替えたギャップ殿がいた。
「お姉ちゃん、大丈夫?傷は開いてない?」
「大丈夫だよ」
ギャップ殿の目は優しく、この2人は本当の姉妹のようだった。
「ファティ、その男、さっき拘束されていた?」
「紹介するね!こちらエメット・カーンさん。危機感知の能力で凄いんだよ!」
「危機感知…エメット……なんか聞いた事あるかも……」
「えー!結構有名だと思うのにー」
「それで、エメットはなぜ妹と?」
ギャップ殿の目が鋭くなる。
「わ、私もファティ、殿に連れられ、何がなんだか……」
困ってファティを見ると、何故か笑顔だ。
「ふふっ、エメットさんは私と一緒にノウレアに行っててね、隻眼の死神とも対峙したの!!」
「隻眼の死神っ!?」
ギャップ殿の目が開かれる。
「アイツの弱点とか!何か情報はあるの?」
「い、いえ、そこまで大きな物は……私はライトニングさんが殺られてすぐに逃げたので」
「ないのか……ん、そういえば、ファティもライトニングがやられたとか言ってたね」
「そうだよ!ライトニングさんもやられちゃったんだから」
「次は…絶対勝たなきゃ…絶対………」
ギャップ殿の表情が曇る。腕が震える腕を隠すように、自分を抱きしめたのを俺は見逃さなかった。
さっきのソロモン軍務卿の話……
〈次はないぞ〉
……
俺よりも詳しく知る娘達が本気だと考えているのだ。そうなのだろう。
ソロモン軍務卿は冷徹だ。ましてやギャップ殿は強さで養子になった人だ。尚更、それが失われたら容赦なく処分、それくらいするのだろう。
「お姉ちゃん……」
ファティがギャップ殿を抱きしめる。ギャップ殿は嗜虐的な性格だと聞いているし、前に遠くから見た事のあるギャップ殿は噂通りだった。だが、今、ここにいるギャップ殿は父親に怯える少女に見える。これが彼女の本当の姿……
精神的に不安定でファティが心の拠り所なのだ。
「お姉ちゃん、作戦会議しよう。隻眼の死神に会ったのはルンドバードで2人だけなんだから!
エメットさんいいですよね?」
「か、構わない」
どうしてか、俺はファティの上目遣いに敵わないらしい。これは拒否する理由もないから問題ないが。
「お姉ちゃんも少しでも勝率を上げて絶対倒そ?」
「うん。頑張る」
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