100.変わり目
壁越しに赤くハイライトされた敵を撃つ。多少距離があっても関係ない。リリーナの撃つ銃はマリアから借りたスナイパーライフル【モントニア】であるからだ。この時ばかりは眼帯で隠していない、スコープを覗く目も紅く輝いていた。
ドンッ。リリーナが打ち出した弾丸は、司令部を囲う目隠しフェンスをものともせず突き破り、敵を撃ち抜く。モントニアはボルトアクションである。やはりセミオート式に比べて威力は高く、敵兵は胴に風穴が空いていた。
リリーナは素早くボルトを引き、戻す。その間に次の敵を照準に入れる。視界はスコープから逸らさない。ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ……………
「……これは…また……」
「これもか……」
「……」
シンディとクレア以外は見た事なかったスナイパーライフルを使うリリーナの姿。どう見ても使い慣れており、スムーズなコッキングに連射速度は熟練のスナイパーと遜色がないことにみんな驚く。
リリーナは学生時代から自由時間はほとんど訓練場に籠ってずっと銃を撃っているような奴である。上達は必然であった。
1つ目のマガジンを打ち終わり、2つ目を装填したタイミングで、司令部にアラームが響き渡った。そのけたたましい音は壁外のレッド部隊までしっかりと聞こえる。
「あはッ、流石にバレましたね」
ドンッ
「私達は周囲の警戒を!リリーはそっちに専念してね」
ドンッ
「さっすがクレアさん!話が早い」
ドンッ
「こっちに一瞥もくれずに撃ち続けてる子がよく言うわ……シンディは供給に専念していいわ。この調子だとすぐに無くなるから。周囲は私達が確認する」
「分かりました」
「おっしゃ。じゃ、俺はこっちを見てくる」
「了解っす。俺はこっちですね」
しばらく、リリーナの発砲音と司令部のアラームが響き続けていた。
_______________
リリーナに撃たれていたルンドバード軍ノード司令部は大混乱であった。
「何が起きている!?」
「襲撃だぁあ!!!」
「敵はどこだぁ!?」
「どこから??」
「おい、急げ!!建物の中に!!」
「えッ?」
ドサッと、とある兵士が倒れる。ほんの少し間を開けてまた1人倒れる。敵の位置が分からないのに、仲間が次々に死んでいく。新兵でなくてもパニックになるのは無理もなかった。
その場で伏せた者も、走って逃げた者も、ゴミ箱の中に身を隠した者も……同様に血を流す。
「外はもう全滅ですッ!?」
「クソッ!?何がおきてる!?」
指揮官であるエドマンドも冷静になろうと努めているが、状況が掴めずにいた。
「西館!!誰か通信取れるか!?」
エドマンドは状況把握の為に、館内通信機で呼び出した。だが、司令部中央に位置する司令室よりも被害を直接見ている現場はよりパニックになっている。
「み、みんな死んじまった!死んじまった!!」
「おい!俺はエドマンドだ!状況を伝えろ!西館はどうなってる?」
「えっ?司令?……司令!!襲撃だ!」
「分かってる!!敵は!?」
「分かんないっすよ!みんなどこからか撃たれて………でも…敵の姿が見えないですよ!!」
「なぜだ!?大体の方向でもいい!」
「た、多分、西です!!今、俺背中が壁なんで、だからまだ生きッ……………、、、」
そこで通信が急に切れる。
「おい!?どうした?おい!!
………………」
呼びかけるが、もはや、何も聞こえて来ない。静寂が包み、誰も声には出さないが、何が起きたのかは分かっている。
通話中に殺られたのだと。
「……司令部を放棄する!!」
エドマンドはそう決断する他なかった。それは実質ノードを明け渡すことと同義である。それは司令室にいた全員が理解していた。しかし、反対するものはいない。既に防衛線はギリギリの状態であり、隻眼の死神と思われる部隊にはノードへの侵入を許してしまっているのだ。司令部が強襲された時点でほとんど詰んでいた。
「どうせ、この襲撃も隻眼の死神なんだろうな……何もんだ?ノウレアから出しちゃ行けないやつが出てきたんじゃないだろうな……」
エドマンドは自分の想像に冷や汗を浮かべる。
「いや、今は一刻も早く撤退だ!!急げ!前線にも伝えろ!全員クウィントンまで撤退する!!」
「「はっ!!」」
この後、司令部から車両で逃げるルンドバード軍は半数が運転手死亡に伴う、事故に遭う事になる。結果、この日司令部に残っていた兵士83名のうち、生き残ったのは9名であった。
ルンドバード連邦国のノード完全撤退。それはクウィントン襲撃以来、実に5年振りの勝利であった。ようやくルンドバードよりノードを奪還できたアルステリア帝国はノード→ノウレアの補給路が確立される。
これでアルステリア帝国が奪われた都市は残すところ、西のレストデーンと北のクウィントンとなった。
アルステリア軍によるノード奪還の報は、すぐにレストデーンを支配下に置いたメラリア共和国にも届けられる。
「ノードが墜ちた?ノードにはギャップがいたでしょう?」
「しょ、詳細はまだ不明ですが、ノード陥落は確実のようです」
「ふむ……、こちらもなにか手を考えなければいけませんね。至急、将官を集めてください」
「はっ!!」
報告を受けた、髪の長い男は、3分の1程度残されたコーヒーを一気に飲み干して思考を巡らせる。
「何があったにせよ、ルンドバードの想定外な何かがあったのでしょう……ここも荒れそうですね」
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