9.鬼ごっこ
「鬼ごっこを行う」
おぉ、確かに体力作りと言っても、内容は7歳に合わせられている。
「終了まではグラウンドからでないこと。
鬼は私で固定になる。一定速度以上は出さないからそこは安心していい。代わりに捕まった者はその場で腕立て伏せを10回するように。
腕立てが終わればまた逃げる番だ。終了時間は15時、それまで鬼ごっこだ」
え…、ほぼ2時間あるだが、ずっとやるのか?
「あと、校舎の方から君たちの様子を記録している。具体的には捕まった回数や狙われている最中に逃げた時間などを記録している。
後でスコアになる予定だから、頑張って走るように。言うまでもないが初めてだから釘を刺しておくと、余裕があるのに、腕立て伏せをゆっくりやって休むなどの場合は減点対象となる。
最後にアドバイスをしよう。
休む時は他の人が狙われている時にすること。あと障害物を上手く使うことだ。
いいな!
では、スタートだ!10秒後追いかけるぞ」
パンっと両手をたたく。
…っ!
1泊おくれて、生徒達ら一斉に走り出す。思い思いにとりあえず鬼から距離をとる。
全員立っていたのは1番校舎側の入口付近となる。
グラウンドは長方形で、120m×80m程度の広さ。ジャンルジムや平均台、うんていなど、様々な物が校舎とは反対側に置かれていた。
「……3、2、1、0!では行くぞ!」
カウントダウンを終え、走り出したレイン先生はスタスタと1番近かった長めの髪を1本に結った、お下げ髪の子との距離を詰める。体格差もあるため、あっという間に捕まってしまう。
「んっ!?はぁはぁ」
「さぁ、ミシェル、腕立てだ。頑張れ!」
「は、はい」
再び先生が走り出す。捕まえたからと言って、長い間止まる訳ではなかった。今度は線の細い男子がターゲットになり直ぐに捕まった。
「まだまだ行くぞ、そら頑張れ」
次々に捕まっていく。
先生は一定以上速度は出さないと言っていたが、普通に早い。1年生達はまだ体格が小さいのもあるが、誰1人先生より早い速度では走れていない。
「はぁ、はぁ、はぁ」
ついに私達も狙われている。
「リリちゃん先に行って…あ!」
シアがすぐ後ろで捕まった。
「はい、捕まえた。次は…」
あ、目が合った。
私はすぐさま駆け出す。ジャンルジムの角のポールを掴んで急カーブを行い、軽く振り向く。
ヤバい、直ぐ後ろだ。
もう一度、ジャングルジムの角を掴んで、カーブする。ジャングルジムを使ってUターンする形になるが、すぐ後ろに足音がする。
直線じゃ無理だ。もう一度だ!
またジャングルジムの角を掴んで曲がる。
「っ!?」
角を掴んだ手を上から掴まれた。
「はい、リリーナもアウトだ!」
振り返ると凄く楽しそうな顔をしたレイン先生がいた。説明の時と違って生き生きしている。
くそぅ、子供相手に無双しやがって!この先生Sっ気が強いな。
「さ、次は…」
にこやかに去っていく。
仕方ない、腕立てするか…
1.2.3.4.5.6.7.8.9.10っと。
まだ最初だからいいけど、これまだまだ続くのは辛いかも。
顔挙げ先生の位置を確認する。次に狙われているのは私と同じ黒髪をした子だ。その長い髪はポニーテールのようにまとめている。
確かあの子は…カンナ・クサナギ。
「ふっ!」
レイン先生との距離が近付いた瞬間、カンナの身体がブレて1mほど距離を開けた。
ヤバい!
アレって多分、スペシャルスキルの【アクセル】だ。あれはネームドキャラ、【忍】の技だったはず。移動距離が短いけど、それはまだ幼いからだろう。
あの子、忍の血縁者なんじゃないか。
ん、もう一度、アクセルを行って距離を稼いだけど、あぁ、直ぐに追いつかれてしまった。
あの速さを持ってしても無理だったか。
その後も誰もかれもが捕まっては腕立てを繰り返す。誰も逃げ切れる者は出なかった。
「はぁっはぁっはぁっはぁっ」
結局、クラスメイトが全員ほとんどの休みなく走ることとなった。
みんな息をするので精一杯で声を発せられない状態だった。
「はい!みんなよく頑張りました!明日の午後も同じだから、今日はしっかり体を休めるように!」
これ、明日もやるの?
私、体力面は普通の7歳だよ、かなり辛い。
先生やべぇー、ずっと走ってたはずなのに息がきれていない。
次の日、私は筋肉痛というもう1人の先生に襲われていた。少しでも動かせばピリッと衝撃が走る。
全身筋肉痛状態であった。
それでも鬼教官の鬼ごっこは今日もスタートする。
「みんな筋肉痛か?それは日頃の運動不足だ。これから起きなくなってくるから大丈夫だ」
「せ、先生、今日は大丈夫じゃないです…」
「大丈夫だ!動いて忘れればいいんだ!」
なんつー、理論だ。
「ほらほら、なにを言ったって今日のメニューは変わらないぞ」
「いやだよぉ!もうやめる!!」
ちょっとやんちゃそうな子が宣言する。
「僕ももうヤダ!」
もう1人続く。
「ほほぅ、ここは軍学校だぞ?
君たちは入学した時点で訓練から逃げる事は出来ない。
そもそも、軍学校は強制参加ではない!
それぞれの理由がなんであれ、軍学校卒業の特権を希望して入学してきたわけだ。
軍学校を合格して卒業すればその時点で少佐以上が確定しているが、それはそれ相応の能力を保証していることと他ならない」
そうだったんだー。
私、知らずに返事してたねー。エリートコースって聞いてただけだし、やることは変わんなかったからいいか。
「そんな、部下の命を率いる人材を育てるんだ、半端な人材は不利益だ。多少キツくもなる。
まぁ、毎年中退者は何名かいるし、卒業試験もある。本当に無理だと思ったら、正式に中退申請するように。
ただ、6年生までは親御さんの許可が必要だ」
親と言う言葉で、やんちゃ坊主が少し怯んだようだ。まぁ、まだ子供なんだ、訓練はイヤなものだろう。目的がはっきりしてないなら尚更だ。
「ちなみにだがな。
まだその考えはないようだが、走るのを諦めるなよ。
その時は普通に蹴り飛ばす。
まだ1年生の最初だからこんな形で基本的に説明しているが、高学年になると即、罰が発生するから覚えて置くように」
あー、やっぱそうゆうのもあるんだ。聞く限り、最初から部下を率いるんだから厳しくもなるよな。無能な指揮官は敵よりも怖い。
「さぁ、分からったら、今日の分を始めるぞ!
よーい!スタート!!」
っ!まずは距離を稼ぐ。
「シア、遊具の方にいくよ」
「分かった!」
やはり、直線は追いつかれる。現状、直線で勝てるのはカンナ・クシナダのアクセル使用時のみだ。障害物の多い遊具の付近で差を広げないとキツい。
しかし、捕まらないことは出来なかった。そもそもの身体能力が違い過ぎるのだ。色んな手を打った。ジャングルジムの中に入ったり、登ったり。木の周りを回ってみたり。
少しの時間稼ぐのが精一杯だった。
そんな地獄の鬼ごっこは3ヶ月間続き、みんなの表情が変わって来た頃…
「よし、3ヶ月行った鬼ごっこも終わりだ。全員今日から本格的に訓練を始める!」
まだ、訓練は始まっていなかったようだ……
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