3話 恋人
片桐瑞穂との帰り道は地獄だった。
この女の彼氏、野上君から親の仇でも見るような目を向けられクラスからは稀有な物を見るような目を向けられる。
完全な見せ物となった俺の立場は弱い。
何せ陰キャなのだ。
社会の小さな縮図たる教室内では陰キャは下等民だ。
スクールカーストなる縦社会で陰キャの立場は極めて低い。
そこにいる事を校則で守られてるとはいえクラス内で声の大きな陽キャはヒエラルキーでは上位の存在だ。
イケメンでサッカー部に所属し女子人気の高い野上君を敵に回すメリットなど有ろうはずはなくむしろデメリットしかない。
何より片桐瑞穂と距離を開けていたい俺にメリットなどあろうはずもなくその瑞穂の言動でクラス内でボッチ化…ならまだいい方でイジメの対象になるなど願い下げだ。
「どうして野上君をフッたりしたんだ?明らかに優良物件だったのに?」
「はあ?……アンタがいったんでしょ?彼氏いるから私とは一緒に…いれないって。」
「はぁ?」
「何よ。」
「いや……」
その物言いだと俺の為に野上をフッたように聞こえるのだが言葉通りに受け取って良いのだろうか?
野上のような優良物件を捨ててまで俺を優先する理由はなんだろうか。
「アイツ前から嫌いだったのよ、無駄に自信過剰だし偉そうだし私の事ただの穴としか見てないの丸わかりだし他の娘達はあんなののドコが良いのかしら。」
「穴ってお前…」
「なに動揺してんのよキモっ」
「ぐぅ…でも実際付き合ってたじゃねーか」
「女友達に舐められない様にするためには彼氏が必要なのよ、野上はネームバリューだけは一人前だからね、告ってきたとき即効でOKしたわよ」
「なら尚更俺と一緒にいてもメリットお前に無くないか?お前も俺が陰キャなの良く知ってるだろ?」
「朝からなんなのよ?アンタ私と一緒にいたくないの?」
「……そんなの…普通にいたくないだろ……」
「はぁ?どうしてよ?」
「どうしてって……お前…」
昔告白してフラれた相手と一緒にいたいなど普通思わない。
気まずくて無理だろう。
そりゃフラれてもへこたれない鋼のメンタルを持ってる奴もいるだろうが俺はそんな強くない。
「アンタ私の事好きなんでしょ?中学の時告ってきたくらいだし…その後も未練がましくつきまとってたし…なら普通に私と一緒にいれてラッキーじゃないの?」
「いつの話してんだ、もう2年以上前だぞ?いつまでもお前の事なんか好きじゃない」
「嘘ね。アンタは私の事好きなままよ、」
「何を根拠に…」
「いつも私の後コソコソ付けてきてたし私に話しかけたそうにモジモジしてたでしょ!ふん」
「勘違いも甚だしいな、昔ならともかく今お前に対して恋愛感情なんかもうねーよ、野上とかに逆恨みされるかも知れないしいい迷惑だ、俺に関わらないでくれ。」
そう吐き捨てて俺は速歩きでその場から逃げる様に立ち去る、しかし瑞穂はそれを許してはくれない。
「待ちなさいよ!逃さないわよ…提案があるの…。」
「提案…?」
「アンタ私の恋人になりなさい。」
「恋び…と……はぁ!?」
「アンタ明日学校に来ても野上に逆恨みされるだけよ?アイツはクラス内で立場だけは大きいからね、アンタを守ってくれる奴なんていないでしょうね?」
「そ…それは…」
「私の彼氏になれば立場がアンタを守ってくれるわ、私もアンタに気を使わなくて良くなるし一石二鳥ね。」
「アレで気を使ってたのかよ?」
「何?使わなくてもよかったの?陰キャのアンタの立場をこれでも考慮してあげてたのよ?私。」
「………。」
「どのみちアンタには私と恋人になるしか道は残されてないの!わかる?」
「わからないな…何故お前は俺の恋人なんてポジに拘るんだ、お前俺の事好きでも何でもないだろ?」
「………。別に良いでしょ…そんな事、兎に角アンタは私の恋人になるの。決まりなの!」
横暴は物言いで瑞穂はそんな事を言う。
クドいかもしれないけどコイツは1度俺の告白を蹴っている。
しかも馬鹿にするニュアンスでだ。
その後も人を厄介者みたいに扱って縁を切ろうとすらしてた。
今更こんな事を言われても信じるなんて無理だし、何か裏があると考えるのは自然な事だと思う。
コイツが何を考えて俺と恋人関係を結びたいなんて考えたのか知らないけど今更こんな都合よく話が進む方がおかしいのだ。
「言っとくけど断るなんてさせないからね…もし断ったらクラスの皆を使ってアンタの居場所無くすから!」
「悪魔か、お前」
「悪魔って…ふふ、厨二臭くて笑える…流石貴樹ね」
「うっ…うるせー」
「ふふ、安心しなよ、せっかく私と恋人になれたんだし何か特典がないとね?オッパイとかお尻でも触らせてあげようか?」
「はぁ!?」
瑞穂は妖艶な表情で自身の胸をアピールするような姿勢を取る。
形のいい胸に目が吸い寄せられる。
コイツは身内贔屓とか抜きに普通に美人だ。
きれいな黒髪とクドくない程度のメイクが実年齢以上に大人びた印象をもたらしている。
制服をラフに着崩しているがスタイルがいいのでファッションとして成立している。センスがいいのだ。
清楚系ギャルに位置づけられるキャラ。
だからこそ妖艶な表情がとても良く似合うし正直ドキリとさせられる。
高校生でこんな顔が出来るのはコイツくらいのものだろう。舐められてると自覚してはいてもどうしても思わず生唾を飲み下してしまう。
「ふふやっぱりアンタ満更でもないんじゃん!」
「うるせーよ。」
「強がっちゃってダサーぃ」
「ちっ、」
俺はぶっきらぼうに歩き出す。
こんな性悪女とこれ以上一緒にいたくない。
しかしコイツの言葉を無視するわけにはいかない
俺はカースト底辺の陰キャ
アイツはカースト上位の陽キャで美少女。
教室内でのヒエラルキーはあっちに有利。
アイツが何か言えばたちまち俺の立場が危うく…いや最悪の場合無くなる可能性だってある。
ただでさえ野上から逆恨みされているかもしれないのだから…。
プラスに物を考える必要があるのかも知れない。
少なくともコイツは美人だ、それは間違いない。
昔好きだった相手と付き合えるんだ、良く考えれば別に損な話じゃない。
胸やお尻を触っていいといったんだ、俺みたいな陰キャが今後触れる保証なんてない。
後でアレ無しとか言われるかもしれない。
でもこのままだと一生触れないままだ。
欲望に忠実で何が悪い!
開き直って何が悪い!
童貞なめんな!
それに野上から恨みをかってるし無理に断ってもコイツの事だから本当に俺の立場が危ぶまれかねない。
だったら…
「わかったよ…お前の彼氏…やるよ」
「最初からそう言えば良いのよ。どうせアンタにはそれしかないんだしね♪」
昔フラれた相手から告白?まがいの事をされそれに了承する事を半ば強制的にされた。
中学最後の期間、そして高校入学から最初の半年間、
幼馴染みにフラれ腐っていたあの頃の俺には…。
こんな事になるとはあの時の俺には予想も想像も出来てはいなかった。
瑞穂にたいする恋愛感情は無い。
これは本当だ。
しかし曲がりなりにも初恋の相手、好みな外見の女子と付き合えるのだ。
一抹の不安を感じながらも確かな高揚感を俺は感じていた。
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