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基本塩対応な清楚系ギャルの幼馴染みに昔告白してフラれた筈なのに最近やたら距離が近いのは何故だろうか  作者: ムラタカ


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番外編 8話 最終回





「突然申し訳ありません…私…片桐瑞穂といいます、お時間よろしいですか?」





そこに現れたのは片桐瑞穂だった。

誠吾は驚愕する、だってそれはそうだろう。

先程彼女の事について友人と話していたのだ。

それがこのタイミングでこんな所に介入してくるなんて出来過ぎも良いところだろう。

とても厄介な予感しかしなかった。


「それで貴方が早苗さんで間違い無いのですよね?」


「確かに私は早苗だけど君みたいな子に目の敵にされる覚えはありませんよ?」


「目の敵だなんて…私は貴方に感謝してるんです!貴方のお陰で私は生きる希望を持つ事が出来たんですから…」


「はて…?間違いないなら君と私は初対面だとおもいますけども?」


「はい…この世界では確かに初対面ですね…」


「この世界?」



片桐瑞穂はウチのクラスではもの静かな美少女で通っている。

それがこんな厨ニ的言い回しをしていれば違和感は凄まじい物がある。

貴樹からあの話を聞いて無ければ意味がわからない所だった。



(片桐瑞穂って例の友人君の幼馴染みちゃんでしょ?なんなの?この子?)

(俺が聞きたいよ!)

 

誠吾と早苗はヒソヒソと小声で話あうがそんな二人を瑞穂はニコニコと見ているだけで特に何かを言ってくる訳ではない。

それが余計に不安を駆り立てる。



「早苗さん…私は貴方に感謝しています…今の貴方には私が何を言っているのかわからないでしょうけどいずれ貴方にも解る日が来ます。」


「ええ、全く解らないですね、私と貴方は今日会ったばかりで面識すらありませんがそれなのに貴方は随分と知った様な事を言うのですね?」


「それは仕方の無い事ですから、ですが貴方と私…これから知り合い、友好を育んで行ければ良いですから」


「まぁ…友達になりたいってことでしょうか?それなら貴方みたいな綺麗な子と御近付きになれるのはやぶさかではないですが…」



一見すると普通に話が進んでいる様に見える。

しかし明らかに齟齬というか食い違いがある。

それはなんなのか…強いていうならば彼女は…片桐瑞穂はここには珠寺早苗しかいないと言わんばかりに視界に入れていない事か。

誠吾の存在等は彼女にとっては路頭の石ころにも等しい存在なのかも知れない。



「ところで貴方?」


「………!?俺っ?」


誠吾はおっかなびっくりと自分に人差し指を向ける


「貴方以外に誰がいるのですか?まぁ…そんな事はどうでもいい、何故早苗さんと一緒にいるのかしら?それもそんなに馴れ馴れしく…汚らわしい。」


「は?」「へ?」


「貴樹から聞いていたでしょ?彼女はいずれ貴樹の伴侶となる女性です、貴方みたいな何処の馬の骨とも知れない相手が出しゃばって良い相手じゃないのよ?」


「ふっ…ふざけんなよ!いきなり出てきて訳わかんね〜事言ってんなよ!」


「訳わかんね〜事…ね…、貴樹が親切に貴方に言っていたじゃない?夢の中で見た未来の世界の話を…、貴樹もまるで私を狂人みたいに言ってたし帰ったらお仕置きしなくちゃだけど…それはそうと…彼女は未来に結ばれる相手が既にいるのよ?貴方は早苗さんに浮気させる気なのかしら?」



誠吾には彼女が何を言ってるのかもはや何一つとして理解出来なかった。

彼女は自身を狂人と定義したがまんざら間違った表現では無いのではないか?

貴樹から聞いた夢の中の未来の話。

荒唐無稽に思えてもそれが彼女にしてみれば唯一無二の事実で現実なのだろう。


「浮気も何もここでの早苗さんの彼氏は俺だ!片桐が言う未来の夢の事なんて俺にとってはしったこっちゃねーんだよ!お前の方こそ出しゃばってくんな!こちとら小学校からの付き合いなんだよ!」


「わからない人ね…、未来は確定された現実なのよ?理解出来るかしら?早苗さんは将来貴樹と結ばれ幸せな家庭を築き瞬君を授かるの!貴方みたいな訳のわからない男が近ずいていい…」


「いい加減にしてくれませんか?」


「っ!?」


瑞穂の言葉に被せる様に早苗は言葉を発する。

その声には妙な力が籠っていて流暢に話していた瑞穂すらも黙らせてしまえる程の迫力があった。



「さっきから黙って聞いていれば何ですか貴方?確定された未来?現実?馬鹿も休み休み言ってくださいよ?そもそもここにいる誠吾が言う様に私は誠吾と付き合っているんですよ?浮気させたいのはむしろ貴方の方じゃないですか?」


「私はより良い未来の為にも…貴方にとってより好ましい理想の…」


「軽いですね~、凄く薄っぺらい戯言ですよ。貴方がどんな体験をしてここに来るに至ったかは知りませんし興味もありませんが余り私の彼氏を侮辱するのであればいい加減私も怒りますよ?」


「早苗さん…貴方は何も理解してない…貴方の幸せは貴樹と結ばれて始めて結実するんですよ?それを理解出来ないのは仕方のないことなのかも知れないけどそれでは貴方がかわいそうですよ?」



この女…有に事欠いてめちゃくちゃ言ってくれるな…

少しは貴樹を介して仲良くなったつもりでいたけど結局は外面の部分しか見てなかったってわけか…。



「要らぬお節介だと言ってるんです、私の幸せは私が決める…他人に…ましてや貴方の様な狂言回し屋に決められるモノではありません…決めて良い物じゃないんですよ!」



しかし普段は早苗さんからあまり好きとかアプローチされないし弟みたいな扱いをされる事が多かったからかこうして早苗さんの口から明確に好きだと言う意思を聞けるのは素直に嬉しい。



「何故よ…どうしてわからないの?どうしてわかってくれないの?貴方が愛するべき相手は貴樹なのよ!貴樹じゃないと駄目なのよ!そうだ…そうだわ…アイツ……アイツがいるから早苗さんは私の言葉を聞いてくれない…アイツがいなければ……」



ブツブツと呪詛の様に言葉を発する瑞穂だがその血走った目からは明確な殺意が滲み出ている。

普段の瑞穂なら軽率でお粗末な行動を取ったりはしない。しかし彼女は今その軽率で短絡的な行動に出ようとしていた。

なりふり構わず実行しようとしていた。

それは裏を返せば彼女からそれだけ余裕が失われているからなのだろうが。

瑞穂はスカートのポケットからカッターナイフを取り出すと刃をカチカチと出すと同時に誠吾に向かって走り出す。

一切の迷いの無い行動だった。


「はっ?」


しかし

誠吾の前に躍り出た早苗は容易く瑞穂の攻撃を躱して手のひらを叩き瑞穂はカッターナイフを手放す事となる。

呆気に取られた瑞穂だが間髪入れず早苗にそのまま両手を拘束され自由を奪われる。



「うぐぐぅ……」


「見下げ果てたとはこの事ですね…貴方今何をしようとしたんですか?今自分が何をしようとしたか理解していますか?」


「離して…この男を!この男〜!」


「ひぃ…」


「誠吾…警察に連絡して!」


「で…でも…」


「はやく!!」



そんな…こんなのおかしい…

早苗さんは…こんな私にも優しくしてくれた…

まるで聖母のような優しさで薄汚れて余命幾ばくもないゴミの様な私を受け入れてくれた…。

貴樹と瞬君という宝物を抱えながら私という異物を受け入れる器量の大きさをもった大らかな人だった…

それがコレはなんだ…。

こんなの早苗さんじゃない…

早苗さんは…私の知ってる早苗さんは…こんなのじゃない…!!

私は…私…は!


「あ…あ…あぁァァァあぁァァァぁぁあ!!!」


「あっこらっ!」



早苗の拘束を無理矢理に力技で外し瑞穂は逃げ出していった。


「早苗さん警察に電話って…何番…?」


「はぁ…もういいよ…逃げられちゃったし…」


「………。大丈夫なのかな…」


「コレにこりたら変な絡み方はもうしてこないでしょう…」


「………。」






瑞穂はガムシャラに…ただガムシャラに走っていた。

それはいつかのデジャブ…あるいは夢の中の再現。

信じてた物に裏切られたという一方的な思い込み。


私の中で早苗さんは絶対的な存在だ。

夢の未来で堕ちるところまで堕ちたどうしょうもない自分を最後に迎え入れてくれたのが未来の貴樹と早苗さん…そして瞬君だった。

所詮は夢。

あの夢は私にとって都合が良過ぎた。

何もかもがご都合主義の塊の様な世界。

今にして思う。

あれは結局私が貴樹と離れたくないから見ていた文字通りの夢なんじゃないのかと…。

夢はその人の記憶で構成されているという。

つまり早苗さんも瞬君も実在しない。

私が無意識に作り出した夢。

幻なんだ。


実在しないんだ。



「瑞穂!」


「たか……き?」


気が付けば息が上がり白い吐息が口から沢山でている。

ハアハアと息は定まらず冬を間近に捉えた季節なのに額に汗がびっしりだ。

衣服にも汗がびっしりこびりついてて急いで乾かさないと風をひいてしまう。

そんな私の腕を誰かが掴んでいた。

掴んでる相手は…目の前の男の子は貴樹だった。



「どうしてアンタがこんな所にいるのよ?」


「誠吾から電話があったんだよ…で、お前を探し回ってたら偶然見つけた。」


「そう…結局いつも私を見つけるのは貴樹なんだね…」


「お前…誠吾や珠寺さんとかにおそいかかったんだって?勘弁してくれよ…ただでさえ最近ヤバい事ばっかしてんだから大人しくしてくれ…」


「なんだ…気づいてたの?そりゃそーよね…全部貴樹の為と思ってしてたんだけど貴樹には迷惑だったわね…」


「あぁ…正直迷惑だ。」


「ふふ…ハッキリ言うなぁ………、ねぇ?」


「……なに?」


「私の見た夢ってなんなのかな?貴樹はやっぱり私の事妄想厨ニ病女とか思ってるのかしら?」


「正直半分は…」


「ふふ…ひどーい」


「でも半分はあるんじゃないかとは思ってる…」


「…………。」


「でもさ俺のアニオタ的な持論でいくともうお前の見た未来の世界にはこの時間軸では辿り着けないじゃないのか?」


「……どうして?」


「怒らずに聞いてくれよ…お前の見た未来の世界はお前が俺を切り捨ててそのまま成人して身を切り捨てて生きて来た末の世界だ。早苗さんや瞬君とやらがいる世界にいくにはお前はもう一度俺を切り捨てて身売りして堕ちる必要があるんじゃないのか?」


「そ…そんなの嫌よ!どうして私がまたあんな!」


「だから怒るなって…可能性の話だよ…これは…それに多分もうそれを実行したとしても手遅れだよ。」


「どうしてよ?」


「夢の中で悲惨な目にあったお前が早苗さんにあったのは40過ぎてからなんだろ?もし珠寺さんが本当にお前の言う早苗さんなら高校生時点のお前は面識を持ったら駄目なんだと思うぞ…」


「……、どうでも良いけどどうしてアンタそんなにタイムトラベルに詳しいの?おかしくない?」


「言っただろ…アニメ知識だよ…」


「……今のアニメって凄いのね…」


「…兎に角…もう無駄な努力はやめとねけよ、これからは自分の事だけ考えて生きていけばそれでいいだろ?」


「なによそれ…私の事だけって何よ…私にはもう何もない…空っぽよ…」


「……。」


「そんな下手な励ましをした事を後悔する事になるわよ?貴樹?」


「え?あ…おう…。」


「しまらないわね…」



貴樹と瑞穂は手をつなぎ共に夜の町のなかを歩き去っていった。





この先この二人がどういう道を進んでいくのかはあえて語らない。

なんだかんだで付き合うかも知れないし結局は最後まで付き合わずそれぞれ別の道を進んで行くのかもしれない。

無数に枝分かれした時間は無数の未来へと分岐していく。

その世界にはその数だけ無限の可能性がある。

もしこの世界に神様がいるのならちょっとしたきっかけで人は無限の可能性を導きだすのだからこれが面白いと感じない訳はない。

だから神様はコレからも彼等人間の観測を続けて行くだろう。


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― 新着の感想 ―
どっちなんだいっ!
一気読みさせてもらった。とても面白かった。
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