番外編 1話 後日談
あれから貴樹は瑞穂とそれなりの距離感を維持して幼馴染みとしての付き合いを続けている。
あの出来事は二人の距離間を良くも悪くも調整するきっかけとなり二人は以前にも増して互いの距離を縮めていた。
一部のクラスメイトからは付合っていると思われているがそれは当人達が否定していた。
もっとも男女としての距離間は確かにバグってはいた。
「貴樹〜、グレープとってぇ〜。」
「自分で取れよ…」
「私に動けっていうの?アンタは?」
「はぁ…」
グレープとはみんな大好きジュースのファ◯タグレープ、炭酸飲料だ。
普段の彼女はコンビニ等で手早く購入できる炭酸飲料を好むのだが周囲からは何かとお高く止まっている気難しい美女なイメージがありもっと高級で洒落た物を好むと勝手に勘違いされている。
彼女が家に上がり込んできた時に出した物は既に空で人のベッドの上でゴロゴロと怠惰を謳歌していた。
あの一件以降大人しくなっていた彼女だが日を追う事に元の尊大な態度が顔を出す様になり今ではすっかり元通りだ。
いや、あつかましくなった分前よりも質が悪いかも知れない。
ただ以前のように彼女面してくる事はなくなりどちらかといえば姉と妹…そのどちらの特徴も併せ持った様なキャラを往復する幼馴染みとしての振る舞いが彼女の今のデフォルトの姿だ。
時に甘えてきたり時に大人びて達観した態度を取ったりとそのキャラは安定しない。
恐らくは例の夢の影響が彼女の人格に影響しているのかもしれない。
兎にも角にも昨今の彼女は憑き物が落ちたみたいでそれが垢抜けた魅力となって周囲の男達これまで以上に魅了した。
以前にも増して男がすり寄ってくる頻度が増えているが俺含めて誰とも付き合う気は無いらしい。
もっとも生涯を独身で過す気は無いらしく運命的な出会いに期待はしていてもがっついて行く気は無いようだ。
「貴樹の部屋は漫画が多くて暇潰しに事欠かないしね、それに自分で買う必要がないのが良い。」
「暇潰しで居座られたらこっちはタマったもんじゃないけどな」
「何?美少女がいて緊張する?あたしとアンタでそんなん今更だけど…あっ、オナニー出来ないから?」
「アホか!」
「別に気にしないではじめていいよ?」
「出来るか!」
なんてアホなやり取りは今の俺達にとっての日常に成り果てているが少し前を思い返せば今の現状は奇跡の上に成り立っている。
まさかこんな形でこいつと和解出来るなんて思ってもみなかったから俺にとっても今が夢なんじゃないかと思えてくる。
今にして思えばあの夢は本当に何だったのだろうか?
瑞穂が見たという夢。
未来とも言えるその内容は瑞穂の話を聞いてる限り妙に生々しく現実感がある奇妙なモノだった。
あの夢がきっかけで瑞穂のネジ曲がった性根のいくつかは矯正された様に見える。
それにアイツの男遊びの頻度は一時期確かに酷いモノで頼めばヤラせて貰えるなんて噂もあったくらいだ。
まぁ当人が言うに夢のなかでは百戦錬磨だったらしいが現実では経験ゼロ、処女であるらしい。
経験豊富な処女ってなんだろうか?
パワーワード過ぎるな。
そんな彼女の今の生き甲斐は俺の運命の相手、早苗さんを見つけ俺と引き合わせる事らしい。
名前以外は何処の誰かもわかっていない状態で夢の中の俺とその某早苗さんが何処でどうやって知り合ったか等何もわかってはいないのだからどうやって引き合わせるつもりなのか知らないがいらないお節介だけはごめん被りたい。
「でもお前漫画なんて読まなかったじゃん幼稚だとか言ってさ、どうしていきなり読み始めたの?」
「読んで見たらハマッちゃってさ、子供だった頃の自分の目の狭さに愕然とするよね?萬月とか小説好きだけどいまなら解る気がするわ」
「萬月さんは読むジャンルがアホみたいに広いから漫画と同じ感覚だと後悔するよ?」
「まぁ字ばっかりは今も苦手かな〜」
「ふ〜ん…」
「まぁ…ホントは瞬君…アンタと早苗さんの間に出来た子供と一緒に読んでたら超面白くってさ…年も忘れて馬鹿みたいにハマって瞬君と一緒に感想言い合ってたわ。」
「なんかもう…色々凄いな…」
「そ~でしょ!瞬君は私にとっても天使だったわ」
私にとっても…。
未来の俺とまだ見ぬ未来の俺の奥さん。
その間に生まれた瞬君なる存在。
瑞穂をして天使と言わしめるのだから俺と未来の奥さんにとっては何にも代えがたい天使なんだろう。
「実感わかね〜」
「アンタに実感が籠もらなくても私にはあるの!今の私にとって早苗さんへの借りを返す事が一番大事なのよ!」
「つっても夢の中の話だろ?実在するのか怪しいぞ?」
「もし私の見た夢が意味のあるモノなら私早苗さんは実在すると思うの…、じゃないと駄目なのよ…。」
「……。」
夢は夢、幻だ。
もし夢の中で知り合った存在が現実にいるならそれはもう奇跡的な現実で必然になる。
そんな超能力的な力がコイツにあったならそれは凄い事だろう。
所詮高校生でしかない俺にはそんな程度の事しか考えられなかった。
数ヶ月の昏睡状態から目覚め多少のリハビリ期間を設けた後彼女、片桐瑞穂は学校に復学した。
塚本恵梨香の広まった動画が彼女による物だとは誰も知らない。
俺と萬月に塚本本人を除いては。
ちなみに瑞穂は塚本にこの件に付いては謝る気も謝罪の意思もないのだそうだ。
なんなら忘れてたまでありそうだ。
彼女の体感ではもう何十年も前の事らしく特に気に止めてもいなかった事らしいのであーそんな事もあったな程度の事らしい。
「後で謝る事になるようなら最初からやらなければいいだけだし向こうも謝るくらいで溜飲下げてなんてくれないでしょ?無駄な話よ、謝罪なんて。まぁ…私なりの誠意は示しにいくつもり。」
との事だ。
「誠意って…また変な事しに行くんじゃないだろな?」
「貴樹に迷惑はかけないわよ、まぁ義理をたてに行くだけ。」
ハッキリ言って悪い予感しかしないが俺に迷惑はかけないと言うしまぁいいか…。
……いいのかな?
わからないな…。
とにかくとばっちりはゴメンだぞ、瑞穂。
これからポツポツと番外編的なものを定期的に投稿していきたいと思ってます。