2話 片桐瑞穂の言動
「何よ…?」
久方ぶりに声をかけて来たのは元幼馴染みの片桐瑞穂だった。
彼女との交流があったのはまだ俺達が中学3年の時まで遡らなければならないのだ。
俺が告白して瑞穂に彼氏がいるのに私に告白とかどうとかと言う理由でフラれてから疎遠になって現在に至る。
疎遠になっても関係を修復したかった俺は情けない話だが高1の中頃くらいの時期までは彼女に声をまだかけていた。
その結果が「きしょっ」とか「ストーカーよそういうの」とか言われた次第だ。
上げればもっと沢山あるけどキリがないのでここでは省略させてもらう。
兎にも角にもそんな高校生活がはじまってからの半年で俺の瑞穂への恋愛感情はゴリゴリと削られていった。
おまけに俺をフった理由の彼氏とは高校入学とほぼ同時期に別れたらしく新しい彼氏をつくってるのだから始末におえない。
俺にもワンチャンあるかもしれないと思った俺自身も含めて……。
「いいのかよ?」
「何が?」
「彼氏に心配されるんじゃないのか」
「はぁ?」
マズい!今のはマズった。
今の言い方じゃまるで彼氏君に浮気を疑われるんじゃないのかと言ってるのと同義だ。
いや、言いたい事はそれで間違って無いのだが今のこいつの彼氏はサッカー部に所属してる女人気の高いイケメン陽キャの野上君だ。
野上と俺では月とスッポン。
ロボアニメにおける主役機と量産機くらいの差がある。
え?量産機ディスってるの?
違うそうじゃない!
俺だって量産機は大好きさ!
……兎に角今の言い方では野上君がアンタみたいな陰キャに嫉妬する訳ないじゃん!なにチョーシ乗ってるの?ウザっ!とか言われかねない。
そう思って身構えてると
「別にそんなんどーでもいいよ」
「へ?」
「何よ?」
「いや…」
どーでもいいよとはどーいう事だろうか?
どーでもいいとはどーでもいいという事か?
なんか哲学じみて来て少し混乱する。
少し質問を変えてみよう。
「俺と一緒だと学校の友達連中に舐められるんじゃないのか?」
「だからそんなのどーでもいいのよ」
「どーでもいいってそんな筈ないだろ?俺みたいな陰キャと一緒だとお前も同類に扱われるんだろ?なんか知らんが別に無理しなくて良いよ、どーせ俺の母親あたりとかに頼まれて…」
「なんなの?」
「へ?」
「何……よ…アンタ…私と一緒にいたくないの?」
「一緒にって…お前……」
何言ってんの?
と問い返したい。
いや、問い返したら良いのだが何故か戸惑われた。
得体が知れない不気味さと気持ち悪さがあって下手に言葉を発したら後悔しそうだと思ったのかも知れない。
「そっか…なら俺コンビニ寄ってくから先に行けよ…じゃーな…」
上手い事まけたかな。
実の所コンビニなんて寄っても特に買いたい物も無いのだがアイツと学校なんか行きたく無いのでここで時間を潰そう。
そう思ったのだが…
「何?買いたい物あるならはやくしなよ」
「……………。」
ついて来ている!?
何故いるのか…?
俺なんか放っといてさっさと学校いって陽キャ友達達と楽しい楽しいおしゃべりに興じていればいいだろうがよ。
「何か言いたい事あるならいいなよ?」
「いや…無いよ別に」
「そんな訳ないじゃん!言いたい事あるならハッキリいいなよ!」
「立ち読みしたいんだよ…待たせたら悪いから先に行ってくれよ」
「……待ってる。」
「遅刻するかも知れないぞ?」
「馬鹿じゃないの?立ち読みして遅刻とかダサすぎ」
「ならはやく行けよ」
「………。」
凄い形相で睨みつけてくる。
何故か知らないがこいつは俺と学校に行きたいらしい、自分でも中々の自惚れ様だと思うけどこんな態度取られたらそう思うのは仕方ない事だと思うのだが…。
当の本人はどう思ってるのか知らないが朝から疲れたくない俺としてはもう観念するしか無く瑞穂と一緒に学校に行く事にした。
別の言い方をするなら折れたと言った方が正しいかもしれない。
学校は家の近所にあり俺と瑞穂は基本歩いて登校している。
自転車で行きたい所だが学校側が面倒くさいルールを提示してきていて歩いて来れる距離の生徒は原則歩き通学が義務付けられている。
まぁ一部の生徒は自転車で近くまで来て適当な場所に駐輪して通学とかしてるヤツもいるが抜き打ち撤去とかもあって帰りに自転車が無くなってるとかザラだ。
結果歩き通学に皆落ち着くのだ。
こういった頭の固い昭和的時代錯誤な考え方は老害っぽくて嫌になる。
伝統とかクソ食らえだ
「落ち着かない。」
登校して自分の席に付いて言葉にした開口一番のセリフがコレだ。
皆コチラをコソコソ盗み見ている。
聞こえるか聞こえないかギリギリくらいの声量でコソコソ話している。
声は聞こえなくとも奴等の話してる内容は大体察せれる。
このクラスでは一番可愛いと噂の女子である片桐瑞穂と俺みたいな名前も覚えてもらえてるかすら怪しい陰キャ男子が一緒に登校してきたのだ。
どういう関係か何故この組み合わせなのか気にはなるだろう。
こうなる事は普通に想像出来た筈だ。
なのに瑞穂と一緒に学校に行くというシチュエーションに頭の処理機能がバグってしまい、理解出来なくて完全に失念していた。
しかしこんなのは序の口で瑞穂は何故か休み時間やそれ以外の小さなタイミングにわざわざ俺の所に来て一言二言残して戻って行くという良くわからない行動を終始取り続けていた。
おかげで昼過ぎには瑞穂を狙っていた何人かの男子に睨まれる事となり俺としてはいい迷惑だった。
そんな事があった今日一日もなんとか終わりを迎えそうな時、瑞穂がまた陽キャ連中とどこそこに遊びに行くという話をしている時だった。
メンバーの中には瑞穂の彼氏であるサッカー部所属のイケメン男子の野上君も含まれていたのだが……。
聞きたくも無いのに二人の会話が耳に届いてしまった。
「は?今何てった?」
「だから私と別れて欲しいの」
「おいおい…じょーだんキツイぜ?別れるって俺と?お前が?」
「だからそう言ってるじゃん」
「いやいや、意味わかんねーって!何でそんな話になる訳?」
「だから野上の事もう好きじゃなくなったの。なのに付き合ってても意味無くない?」
「いや…ちょっと待てって!急過ぎっだろ!?」
「私は前から別れたいって思ってたの。だから別に急じゃないし」
「いや、お前マジ自己中過ぎっだろ!なんなんそれ!お前俺の事ナメてんの?」
「はぁ~面倒くさ!ナメてるとかナメてないとか今そんな話してんじゃないじゃん」
「いやいやそう言う話でしょコレ、お前ちょーしコイてると後悔するぞマジで?」
「別にいいじゃんもう…アンタ私以外にも沢山女の子侍らせてるじゃん」
「あぁ?アイツ等はそーゆんじゃ無いだろ!」
「彼女の前で他の女とデレデレしてるだけで別れたいってじゅーぶんな理由になると思うけど?」
俺が所属するクラス内で陽キャグループの2大トップとされるカップルが大喧嘩をはじめた。
見るに絶えない言い合いだ。
本来なら陽キャ同士の言い合いなど陰キャである俺には関係がないので無視して帰るところだが片方が片桐瑞穂…俺の元幼馴染みだ。
今朝から妙なムーブを繰り返すアイツが今度は女子にとっては優良物件であるはずの野上と別れるって言っているのだ。
嫌な予感しかしない。
「兎に角私もうアンタと付き合う気無いから」
「ちょっと待てよ…おい!」
野上の静止も聞かず片桐はコチラ…俺の方にツカツカと歩いてくる。
まじかよ…
「ほら帰るよ貴樹」
最悪だ…。
教室の中でアレだけの騒ぎを起こした後彼女は当然の権利の様に俺に話しかけて来た。
明日からどうすればいいんだよこれ……。
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