19話 決別
塚本と野上がいたしてる動画はクラス中に一気に拡散した。今やクラス内で知らない奴はいないだろうと言っても過言ではないスピードで広まっている。
他クラスに流れるのも時間の問題…いやもしかしたら流れてるかもしれない。
塚本と萬月が学校を休んでるのは恐らく…十中八九この動画が原因だろう。
不幸中の幸いだったのは動画は今の所教師陣には流れていないと思われる所だ。
萬月はともかく塚本に対しては何かしら先生からの有り難いお言葉があると思っていたがそういう雰囲気はなかった事から先生達は動画にかんしては知らないと考えるのが妥当だ。
もともとクラスのグループラインは生徒達が管理していて学校側はノータッチだ。
ラインを見てなかった俺が朝まで知らなかった物を先生達が知るワケもない。
あとは野上が必死に拡散を阻止するようにハーレム女子達に呼びかけていたのも大きい。
塚本を気づかっての行動では勿論ない。
野上としては学校でやってるのがバレたら停学か最悪退学も十分にあり得る話なので必死だ。
もっともこの件でハーレムから脱退する女子は確実に多くなる、それでも未だにハーレムが健在なのはもともと野上がハーレムメンバーの女子をつまんでいたのを他のハーレムメンバーも知ってたからか野上の謎のカリスマ?によるものなのか。
まぁそんな事はどうでもいい。
この動画の拡散を行った張本人は今も変わらず平然と学校に来ている。
まるで私は関係ありませんと。
そう態度が物語っている。
俺は1限目の授業が終わるやいなや学校から飛び出した。
もともと気が向かない時は勝手にサボったりしていたくらいだ、別に気にしないで早退する。
一応は翔吾に言ってあるので多分大丈夫だろう。
学校を飛び出して萬月さんの家に向かおうとしてある事を思い出した。
それは俺が萬月さんの家を知らない事だ。
朝から萬月さんのスマホに連絡を繰り返しているが繋がる事は一向にない。
居ても立っても居られない気持ちのまま学校を飛び出して結局これでは意味もない…。
はぁ…とため息をついて俺は近くの公園へと向かう。
なんの偶然か運の良い事に萬月さんはその公園にいた。
しかも塚本も一緒だ。
それだけなら良かったのだけど彼女等の眼の前にはいかにもガラの悪そうな不良が3人。
卑しい笑みを二人に向けて下衆た笑顔を向けていた。
明らかに絡まれている。
助けないといけないけど正攻法で助けられたら苦労はしない。
1対3だ。
喧嘩なんかしたこともない非力な陰キャオタクがガラの悪そうな不良から二人を助ける方法。
定番だけど大声で助けを呼ぶ。
誰だって構わない。
実際に助けてもらえるとは思ってない。
周囲に少しでも声が届く様に助けて下さい
女の子が不良に襲われていますと叫ぶ。
「はぁ!!?」
「ちっ!マジかよ!?」
散歩をしていた近所のおばさんやおじさんがこちらを気にかけている。
萬月さんと塚本に声をかけていた不良たちは突然の事態に狼狽えだす。
周囲をキョロキョロ見回して一瞬俺と目があったがそのままそそくさと逃げていった。
「中原君!?どうしてここに…?」
「偶然立ち寄った公園で二人を見つけてそれで絡まれてるのかと思って……」
「はぁ…とりまここじゃ誰かさんのおかげで目立つし別のとこにいくわよ?」
「そうですね…」
「え…?あっ…ああ。」
女子二人と俺は公園を後にして近くのファミレスに向かった。
「とりま助けてくれてありがとう、礼はしとくわ」
「あ、それは良いんだけどあいつ等は?」
「雅君の差し金か他の何かとかじゃないの?まっ、もうどーでもいいけど…」
「どーでも良いってそんな事は…」
塚本はそれこそどうでも良さそうにコーラに口をつける。泣きはらした後なのか目元に涙の跡がある。
そのせいで化粧が滲んでゾンビみたいな顔になってるがそれは化粧だけが理由じゃなさそうだ。
隣の萬月さんはさっきからずっと黙って下を向いている。
「一つ言っておきたいんだけど動画を拡散したのは…」
「いーよ、知ってるから…どいつもこいつも…どうせ片桐でしょ?少し考えたら解るわよ。」
「え?」
「コイツも朝から私の所に謝りにきてさ、なんであんたが謝りに来るのって感じ?しょーじき傑作っしょ?」
「……じゃ塚本は…」
「萬月を恨んじゃいないよ…コイツは実際拡散なんてしてないからね…あのクソ女マジでやってくれたわ…」
「私が…迂闊でした…片桐さんに協力を頼んだばっかりに…彼女は危険だってわかってたのに…。」
色々すっ飛ばして何故この二人は少し仲良くなってるんだろうか?
連帯責任的親和性とかそんな感じか?
「そんな気にすんなって…センコー達には流れてないみたいだし最悪な事にはなってないよ…」
「でも…」
「まぁ退学とか停学食らうよりはマシだよ、雅君からは縁切られるだろうけどまぁ潮時だってね、つーかなんであんたがそんな責任感じてるワケ?本来ざまぁって言うところでしょ?」
「こんな結末は望んで無かったです、私はただ平凡に日々を過ごしたいだけ…なんです…。」
「平凡なやつが動画で脅してはこないよ…」
「…ごめんなさい……」
「まぁこれで雅くん止める約束はできなくなったね、そこはメンゴだわ」
「そんなの…」
「それでアンタはなんでわざわざこんな所に来てるの?学校どーしたのよ?」
「朝学校来たら二人はいないし動画は拡散されてるし憶測や噂がクラス内に心頭してるし…萬月さんは電話に出ないから心配で…。」
「へぇ…アンタぱっとしない見た目の割に行動力鬼ヤバじゃん」
「ごめんなさい…あとで連絡するつもりだったんです、学校をサボらせてしまうなんて…私…。」
「気にしないでくれ、俺が勝手にやった事だしそれよりも…」
「それこそ気にしないでよ、あんた等に同情なんてされたら惨めになるだけだ…それに潮時だったのよ…雅君…野上は私を愛してなんてくれない…彼が好きなのは自分だけ、野上を捨てた片桐の方が正しかったって事ね。
いつか愛してくれるんじゃないかと尽くしてきたけどアイツは自分以外見えてない、ハーレムを大っきくする以外まるで興味ないしたまにかけてくれた耳あたりのいい言葉も全部そのため…本当はわかってたのよ…。」
「塚本…。」
「塚本さん…」
「学校には明日から行くよ…まぁ私の居場所なんてもう無いだろうけどね…じゃーね……これあたしの分の代金だ、それと萬月…今まで悪かったね。」
塚本は何処かに歩き去って行った。
彼女の背中が一人にしてくれと、追って来るなとそう言ってるみたいで俺も萬月さんもその場から動けないでいた。
「こんなつもりじゃなかった…私は人の人生をめちゃくちゃにしたいなんて思って無かった…」
「誰だってそうだよ…。みんな自分が大事だ…自分のためなら他人を差し出す事なんて珍しくない、でもこれは違うよ…こんなのただの死体蹴りだ…。」
「彼女は何がしたいんですか?私にはわかりません…」
「話すよ…今日…アイツと…俺もいい加減ハッキリしたいから…。」
学校が終わる頃に俺は帰宅してくる瑞穂を待ち構えていた。
アイツはなんの警戒心もなく俺の前で清々しいまでに可憐な笑顔を見せてきた。
「よぉ、瑞穂」
「もぉ〜貴樹、アンタ何処行ってたのよ?途中から消えてるし勝手にいなくなるなんて私聞いてないよ?ラインも既読無視するしなにサマのつもり?」
「あの動画拡散したのお前だよな?」
「ちょっと今私の……はぁ~そうだよ?つーか私以外いないでしょ?わかりきった事聞かないでくれる?」
「何故あんな事した?お前萬月に丸投げしてただろ!」
「だって焦れったいんだもん、オマケに中途半端な事してるし、あーゆーのは徹底的に潰しとくのが後々良いのよ?感謝してよね?」
「萬月は萬月自身が決めた選択が最善だと思ったからああしたんだ!あんな結末萬月は望んでないだろ!」
「はあ?ばかじゃないの?中途半端だっていってるの!青臭いガキの理屈より合理性を優先したのよ私は、中途半端なだけじゃ結局同じ事の繰り返しなの!そんな事もわからないの?」
「わからないな…」
「はぁ~本当貴樹は馬鹿よね…私がしっかりとアンタを監視してないと駄目ねぇ〜…」
「安心しろよ、金輪際お前の世話にはならねーよ」
「はぁ?」
「今わかった…俺が好きだった瑞穂はもういない…今のお前は未来の瑞穂で俺の好きだった瑞穂ですらない…もう別人なんだ。」
「はぁ?何言ってるの…私はかわったじゃない!」
「俺の知ってる瑞穂はここまでクソじゃなかった…すくなくともこんな人でなしじゃ無かった」
「はぁ~あんまちょーし乗らないでよ?貴樹」
「瑞穂俺と別れてくれ。」
「はぁ?何言って…」
「俺はもうお前と恋人ごっこするのが心底嫌になったんだ…だから別れてくれ…。」