18話 拡散
最近特に思う事がある。
幼馴染みって何なんだろうって。
幼稚園とか小学校とかから関わりがある知人の事をそういうが別に関わりが薄くても幼馴染みって言うのだろうか?
馴染みとあるのだから係わりが薄いと幼馴染みとしての定義に半するから違うのかもな…。
すくなくとも俺にとって瑞穂は間違いなく幼馴染みだ。
付き合いは幼稚園からだし家族間での交流もある。
しかし幼馴染みだからと言って相手を気にかけ続ける必要があるのだろうか
もともと潰えかけていた絆、交流だ。
瑞穂が見たという不可思議な夢。
それが無ければアイツは俺など眼中になかっただろう。
俺が好きだから付きまとってるワケじゃないのは理解している。
夢に見た未来が現実になるのが怖いからその対策として俺とつき合ってるだけ。
そんな事はとっくに分かりきってる。
つまるところ保身の為の行動でそこに愛や恋なんて絡む要素はもともと無いんだ。
俺自身再三言ってきたしクドいのも承知だが恋愛感情は無い。
なら何故恋人なんてやってるのか?
何故別れないのか?
正直面倒臭いし瑞穂と一緒になった所で俺の未来が明るくなるとはどうしても思えない。
むしろ詰んでる?
好きだった事を免罪符に現状に甘んじている。
結局俺は怖いだけなんだ。
だから現状にすがろうとする。
でも今のままではいけない。
もう答えは出てるんだ。
迷う事は無いハズだ。
現在俺は萬月さんの付き添いでとある人物との対話をおこなっていた。
と言っても俺はあくまで付き添い。
対話は萬月さんが主導で行っている。
対話を試みている相手は顔をタコの様に真っ赤にして怒りをあらわにしたかと思えば今度は顔を真っ青にして泣き出し頭を抱えてさながらこの世の終わりを嘆く赤子の様に喚いたりそのリアクションは見ていて飽きない。
ソレもその筈で自分のあられもない姿が映し出された映像を見せられ彼女にとってはとんでもない提案…いや指示をだされたのだからこうもなるだろうと言ったところだ。
「ふざけんなよ!てめぇ!こんな事してただで済むと思ってんのかよ!」
まるで女子とは到底思えない汚い言葉を唾と同時に吐き出すのは塚本恵梨香。
野上ハーレムのリーダー的にポジションに君臨しクラスのファッションリーダーという立場すら持つトップカーストギャルだ。
「ただでも何も、私は貴方に選択権を委ねているだけですよ?」
「てめぇ……!!」
萬月さんの手にはスマホが握られていり。
そこには塚本と野上のとある映像が映し出されている。
野上の上に跨って腰をふりだらしない顔をしている塚本の顔が映し出されていた。
「どうして…こんな…」
「場所をわきまえずこういう事をしているからとしか言えませんね…まぁ自業自得ですよ。」
「消せよ!この変態女」
「消しても構いませんがさっき言った事をちゃんと実行に移して下さいよ?」
「ふざけんなよ!そんな事出来るワケないだろ!」
「ならこちらも出来ませんね?」
「お前!くぅ…」
「簡単な事ですよ?最愛の野上君に中原君の事好きになったから貴方のハーレムから出ていきますって言えばいいだけですよ?」
「ふざけんな!言えるワケ無いだろ!私は!私はぁ!」
「言えないならこの映像をバラまきます」
「止めろ!やめてぇ…それだけは……やめてぇ…」
「………。」
いつもは強気でさながら女王様の如く振る舞う塚本は今や見るに絶えない矮小な存在に成り果てていた。
塚本は自身を絶対な存在だと自負してきた。
教室という小さな世界ではあっても彼女はその小さな世界で女王様として君臨し振る舞って来た。
最愛たる野上の彼女達としてのポジションにおいても一番発言権がある。
揺るがないと思っていた。
自分に楯突く奴なんていないと思っていた。
なのに、こんな奴が…。
野上は彼女達にとって絶対だ。
いうなれば王様。
王様は妻を沢山娶るものと聞く。
なら王様たる野上がハーレムを作るのは至極当然の事。
その中で一番の発言権をもち女王の如く振る舞う事が許されている自分は正に正妻といっても過言ではないのではないか?
彼女の中でそんな論理が組み上げられていた。
なのにそれをこんな雑魚女に台無しにされる?
ありえないだろそんなの!!
「理解していますか?この映像が世間に流れれば貴方の人生は破滅ですよ?良いのですか?」
「良いわけ無いだろ!だから消せよ!」
「それは出来ませんね?これはひ弱で矮小な私が貴方に意見するためのカードなんですから消せるワケないじゃないですか?」
「ふざけやがってこの雑魚女!」
「言葉をもっと選んでいただけますか?気まぐれに送信したくなりますよ?」
「うぐっ!消して…下さいよ…」
「何度も言わせないで下さい…貴方が野上君から中原君に乗り換えれば消すとそう言ってるじゃないですか」
「無理よぉ…私…本当に雅くんが好きなのぉ…諦められないよぉ…」
「ならこの映像は拡散でいいんですね?」
「うぅ~…そんなの駄目…駄目よぉ…」
土下座
膝をついて地面に頭をつける塚本を驚く程に冷たい能面で見下ろす萬月さん。
付き添いで来てるだけの俺でさえその顔からは畏怖を感じる程だ。
当事者である塚本からしたらどれ程のプレッシャーか、
それは塚本本人にしかわからないだろう。
「もう……いい…拡散したいならすればいいでしょ…やりたけりゃやれよ!」
「正気ですか?コレを拡散すれば貴方の学校生活は…いえ、将来は悲惨なモノになりますよ?」
「知るか!雅くんを裏切るくらいなら学校生活の一つや2つ差し出してやる!」
「何故ですか?あの男は貴方に振り向く事はない、それどころかこの映像が拡散されれば簡単に貴方を切り捨てますよ?」
「そんな事は分かってるんだよ!でも好きなんだよ!好きなんだから仕方ないだろ!雅くんを裏切って助かっても意味ないんだよ!雅くんを裏切った過去を引きずってずっと生きて行くくらいなら人生なんか捨ててやる!」
「貴方……」
塚本の言葉に嘘はない。
彼女は自身の保身より叶う事のない恋を優先した。
馬鹿で愚かな選択だ。
しかし人としてもっとも純粋で単純な思いだ。
それを見たからかどうかは知らないけど…。
「はぁ…、止めです、馬鹿馬鹿しくなりました。」
「は?止め?何言ってるんのよ…アンタ…?」
「拡散は辞めておきます、好きにその無駄な恋を完遂したらいいじゃないですか?」
「拡散を…やめ…る?」
「なんですか?してほしいのですか?拡散?」
「ちっちがう!違う!止めて拡散止めて!」
「だから止めると言ってるじゃないですか?」
「でもどうして…?」
「言ってるでしょ…馬鹿らしくなっただけです…。私はただ静かに毎日を過ごしたいだけ…貴方が…いえ…貴方達が私に干渉してこないなら私も貴方にもう何もしない。」
「見逃してくれるの…?」
「貴方達が私に干渉してこないなら」
「わかったわ…もう2度とあんたに関わらない…雅くんにも手を出させない…約束…する。」
「ありがとうございます。」
塚本はこちらを警戒しながらも去っていった。
結果的に萬月さんは瑞穂が用意した脅し材料を文字通り脅す事だけに使い実力行使には使わなかった。
萬月さんも塚本には恨みの一つや2つあっただろうに…。
「よかったの?」
「あんな姿見せられたら興が冷めちゃいます、それにもともとこうするつもりでした」
「……やさしいんだな。」
「……、そんなんじゃありませんよ…人の人生をめちゃくちゃにするだけの度胸?勇気が無かっただけです。それに彼女が手出ししないって約束してくれました、それで十分です。」
「そっか…」
これで俺と萬月の関係も終わりとなる。
野上が企てた嘘告騒動も白紙となった。
野上と瑞穂のあれやこれやはまだ続いてくだろうがそれは萬月には関係のない事。
彼女はこれからも教室の隅っこで物静かに読書にふけって行くモノと思っていた。
のだが…。
翌日学校に来てみると事態は急変していた。
まず最初の違和感は教室の中が妙に騒がしい。
皆何かの話題に盛り上がっている。
ついで気付いた違和感。
萬月と塚本が学校を休んでいる事。
何か…何か嫌な予感がした。
そこに俺の数少ない友人の誠吾が話しかけて来た
「いやぁ…凄い事になってるな貴樹」
「なに?俺知らないんだけど?」
「お前クラスのグループチャットみてないの?大炎上だぜ?」
誠吾はそう言って俺に自身のスマホを見せてくれる。
そこにはあり得ない物が映し出されていた。
「はっ!?何だよ…これ…」
「驚くよな?俺もダチから送られてきてビビったよ」
「あり得ない…こんな…っ!アイツ……」
そこには塚本と野上がアレをやってる映像が流れていた。
この映像は萬月とあともう一人しか持っていない。
萬月は拡散しないと言っていた。
彼女が拡散した人物じゃないのは明らかだ。
こんな事をしでかした張本人。
「何考えてんだ…アイツ……。」
そう…瑞穂以外にありえないのだ。
クソヒロインからヒロイン取ったらただのクソになりますね。