17話 躍進
結局のところこれといった妙案が生まれる事も無く時間は流れていった。
萬月楓と中原貴樹はダメ元で再度片桐瑞穂に同盟に入らないか持ちかけた。
しかし二人の懸念とは裏腹に…
「わかったわ…入ってあげる」
と瑞穂は嘘みたいにあっさりと了承してみせた。
呆気にとられる二人だが萬月楓は下手に瑞穂を刺激したくないので下手な詮索は悪手と考えて何も言いはしなかった、しかし…。
「どういう心境の変化だ?前はあれ程嫌がってたのに?」
「何?貴樹は私に協力してほしくないの?同盟に入れって言ってきたのは貴方達でしょ?」
「何年お前の幼馴染みやってると思ってる?絶対に何か企んでるだろ?」
「はぁ〜やだやだ!入らないと言えば入れって言うし入るって言ったら意味のわからない勘繰りしてくるし貴樹ってそーゆー所ウザいよね?」
「なっ!?お前なぁ〜」
幼馴染みゆえの距離感か貴樹は瑞穂に遠慮なく思った事を言っている。
萬月楓には無理な事だった。
「萬月さんは私が同盟に入るの嫌?」
「え?私…ですか?」
「貴方以外誰がいるの?」
「……。」
「ふふ、覚えてるかしら?私貴方が言ったように貴方の事を利用する事にしたわ。」
「そうですか…」
「私は貴樹との付き合いを野上に邪魔されたくない。
貴方は野上一派から脱退したい。
利害は一致しているものね?そこで私考えたのよ」
「考えた…ですか…?」
「ええ、こちらもハーレムを作ればいいのよ?」
「……え?はあ!?何言ってるんだお前?」
「聞こえなかった?ハーレムを作るのよ。」
「いや、え?」
「意味がわからないのですが?」
「私は元々貴樹と別れる気なんて更々ないわ、貴方の為に譲歩なんて冗談じゃない、でも貴方は私から貴樹を奪えないと困るのよね?なら貴樹を優柔不断男にしてしまえばいい。私も萬月さんもどちらも選べない、どちらか二人なんて選べないって優柔不断男になってもらえばいい。」
「はぁ?まてまてまて!意味がマジでわからないぞ?そんな事をしてなんの意味があるんだ?」
「野上はあれで無駄にプライドの高い男よ?貴樹が私も萬月さんも両方手に入れた、ましてや仮にも自分の女だと思ってた萬月さんを取られるなんて屈辱的だと思はない?」
「ちょ…ちよっと待ってください!野上君を挑発してなんの意味があるんです!それじゃ中原君へのヘイトが増すだけ…彼にコレ以上迷惑をかける意味がないですよ、」
「言ったでしょ?野上はプライドが無駄に高いの、高いプライドをへし折ることさえ出来れば立ち直るのに相当な時間を要するわ、そこに追い打ちをかければ再起は難しいでしようね?」
「お前の言いたい事は解るけどどうやってプライドを折るんだよ!」
「簡単よ?野上は貴樹を完全に見下してる。そんな相手から私を奪い取る事も出来ずあまつさえ自分の女を取られたなら大きな心の傷をおう事になる。」
「いくらなんでもそれだけで心を折るのは無理ですよ…追い打ちって言ってましたけど何か考えがあるんですか?」
「う〜ん、貴樹がハーレムメンバー一人か二人籠絡できたらハヤイんだけどね〜」
「いや…そんなの無理だよ…」
「わかってるわよ、貴樹にそんなの望んでないから大丈夫!」
「ひでぇ…」
「では…具体的に何をするんですか?」
「脅すのよ。」
「お…脅す…?」
「ほんとうはあまり使いたい手ではないんだけどね」
瑞穂はUSBメモリーのような物を萬月に手渡した。
それを受け取った萬月は呆気に取られた顔をしている。
「コレは?」
「塚本恵梨香と野上のあ〜んな映像が入ってるわ」
「はあ!!?」
「えぇ!?」
「ふふ。」
「あ〜んって…まさか…」
「そ!嘘だと思うなら帰ってから再生してみたらいいわ、本当だってわかるから。」
「お…お前何処でそんな物…」
「簡単よ?野上は盛のついた猿だからね、ハーレムメンバーの誰かしらとほぼ毎日やってるわ。証拠を押えるなんて簡単よ?」
「ま…まじかよアイツ…」
「安心してね!私と一応萬月さんもアイツとはやってないから!」
「そんな事聞いてない!」
「え〜?気になる癖にぃ〜。」
「ちょっと待ってください…それをどうするんですか?まさかそれで野上君を脅すんですか?」
「違う違う野上じゃなくて脅すのは塚本さんの方」
「塚本さんですか…なるほど……えげつない事を考えますね貴方…。」
「ふふ。」
「ちょっとまて…どういう事だよ?わからないぞ?」
「簡単よ?コレを使って塚本さんを脅すのよ、ネットに流されたくなかったら私達の言う事を聞けってね」
「……お前…」
塚本は野上ハーレムグループのリーダー的ポジにいる女生徒だ。
アルバイトでドクモをやってる最先端の美少女ギャルでカースト上位女子の仲間内ではファッションリーダー的存在である。
カースト上位の女子というのはプライドが高い。
自身の立ち位置を大事にしているし他者の声にも敏感だ。
またドクモをやってることから自身の美貌にも自信を持っているし世間的な認知度も当然他の生徒と比べて段違いだ。
もし…はめ取り映像なんかが流出すれば世間的、将来的地位を失い一生消えない傷を残す事になる。
彼女等は油断しきっていた。
教室の中で馬鹿でかい声で瑞穂の悪口を言っていたのだ。
それがどうして本人の耳に入らないと断言出来ようか。どうしていたしている場面を抑えられる事なんてないと断言出来ようか。
瑞穂は全て知っている。
一度アイツ等をギャフンと痛い目に合してやりたいと常々思っていたのだ。
「コレを使えば塚本は私達の命令に従う他ない。野上から貴樹に乗り換えた事にして野上を精神的にいたぶればいい。私も手に入れられず萬月さんにも逃げられトドメに塚本にまで見捨てられる、野上を潰すのにこれ以上は無いわ。」
「あ……悪魔か…お前…」
「ふふ、悪魔って相変わらず厨二くさいわね貴樹?」
「こ…こんな非人道的な手段を思いつけるなんて…」
「何ビビッてんの?貴方がやるのよ?萬月さん?」
「へ?私?」
「そうよ?」
「そ…そんな!無理です!」
「どうして?貴方野上グループから抜け出したいのでしょ?これは間接的に野上グループを潰す行為よ?もう貴方は野上達にいびられる事はなくなるのよ?」
「それでもこんな…」
「貴方言ったじゃない?私を利用してって?」
「それは…」
「まてよ!瑞穂…!」
「何よ?貴樹」
「俺がやるよ。」
「はぁ?駄目よ」
「どうして!誰がやっても変わりはないだろ!」
「彼女は野上グループから抜け出したいのよ?なら彼女自身がやらないと意味ないと思わない?」
「お前尤もらしい事いって彼女を困らせたいだけなんじゃないのか?」
「はあ?さっきからなんなの?貴樹妙に萬月さんを庇うわね?もしかして惚れたりしたの?駄目よ!アンタは私の彼氏なの!浮気なんて駄目よ!」
「そんな話してないだろ!ただ俺は!」
「いいです…中原君…やる…私がやります…。貴方の言う通りです、これは私の問題、私がやらないと駄目なんです。」
「いいのか?本当に?」
「はい。」
「そっか…」
「ふふ。そうこなくちゃ」
かくして今後の指針は決まった。
幸か不幸か瑞穂を加えた事で話は大きな躍進を見せた。
それが良い事か悪い事かはわからない。
しかし今後を決める大きな一歩になるのは間違いなかった。