14話 野上雅之
野上雅之という人間は対外的には顔が良いだけの男という評価を受けている人物だ。
サッカー部に1年の頃から参加しているが別にサッカーが好きなワケでも得意なワケでもない。
実力的にも平均値で隠し持った才能があるとかそんな事はない。
実のところサッカーどころか運動自体が好きではない。
では何故やってるのか。
単純明快だ。
女にモテるから、ただそれだけだ。
下手だったらモテるワケもないが平均値、つまり普通にプレーするだけなら問題はない。
後は爽やかに微笑みかければなんら問題はない。
それだけで女はキャーキャーと黄色い歓声を馬鹿みたいに飛ばしてくれる。
女はサッカーが好きなのではない。
サッカーをやってるイケメンが好きなのだ。
そんな彼にとって顔はアイデンティティであり全てだ。
逆に言えば顔というメリットを取り払えば凡才な男でしかないのだが…。
「雅君見て見て〜、このアクセチョー可愛いでしょー」
「え〜そんなのよりこの爪みてよ〜、ネイル凝ってるでしょ〜」
「雅!今度遊びに行ってもいい?」
「いっぺんに話しかけんな!俺は一人しかいないんだからさ?な?心配しなくてよお前等の事全部まとめて愛してるぜ?」
「や〜ん雅くーん!すてきー」
「エリのネイルは凝ってんな!俺じゃそんな細いの描けないわ、あとメメは今度な、いま別の子が来るからそのあと。な」
「え〜仕方ないなーメメ待ってるからね?雅!」
「雅之なら出来るよ!雅之はすごいからね!」
「はは!買いかぶり過ぎだって!」
つまんね〜話しばっかふって来やがってそんなんどーでもいいからチチのひとつでも揉ませてから話しかけてこいよクソ女共が。
どいつもこいつもくだらねえ量産女共がよ。
ああ…瑞穂…。
アイツは良かった。
顔も体も最高だ。
この学校には二人の超絶美少女がいる。
この学校の2大女神なんて言われてる連中だ。
何もあのレベルを欲してるわけじゃねぇ。
瑞穂のレベルで十分なんだよ。
なのにあの自己中メンヘラ女…
俺を捨ててあんなつまらねぇクソ雑魚男に行きやがった…。
許せねぇ…絶対に許せねぇ!
ありえないだろ?
俺にはこの顔がある!
この顔でいままでのし上がってきたんだ。
アイツは顔も含めて何もかも平凡な雑魚男の所に行きやがった。
ありえねぇだろそんなん?
瑞穂もあの雑魚男もまとめて絶望にたたき落としてやる。
瑞穂の行動は彼のちっぽけな自尊心を傷付けるには十分だった。
彼とて最初からこの様な捻くれた人間性だった訳では無い。
ただ昔から言われてきた。
親から親戚からクラスメイトから友人から教師から恋人から。
雅之は顔は良いけど平凡だね…と。
それなりに努力はしたつもりだ。
しかし何も実を結ばなかった。
何かの才能が花開く事は無かった。
馬鹿ではないが天才でもない。
要領は悪くないが良いワケでもない。
運動神経は悪くないが良いワケでもない。
平凡。
そう、野上雅之は平凡だった。
ただ顔が良いだけの凡人だった。
貴樹から言わせてもらうなら顔が良いだけでも羨ましいじゃないかと言うだろうが自尊心の塊であるこの男はそんなことでは満足しない。
顔が良いという事はそれだけ彼はコレまで甘い汁をすすって生きて来たという事。
言うなれば瑞穂の男版みたいな人間性を持った存在。
それが野上雅之という男なのだ。
(俺の勘だとああいうナヨナヨした脆弱雑魚男は萬月みたいな大人しい女が好みだ、アイツいつも黙ってて人形みたいでキモいが俺の為に少しはやくにたってくれよな、なんせ俺の事が好きなんだから愛する俺の為に働けるならアイツも本望だろう。)
「どったの雅ちん!また悪い顔してる〜!」
「俺そんな顔してた?ごめんね?」
「全然大丈ー夫〜、かよちゃん雅ちんの悪い顔も大好きー!」
「萬月の事を考えてたんですか?やけますねぇ〜」
「おいおい、やく要素あるかあの仏頂女に?」
「ポイント稼ぎであんな冴えない男の彼氏やるなんて私なら嘘でもごめんですからねぇ〜」
「はは!お前は俺のお気に入りだからな!そんな事しないさ。」
「やん!もー!いけないですよ!こんな所で」
教室のど真ん中でいちゃつくハーレムメンバーとその中心にいる男、野上雅之。
当然ハーレムに加わってない普通の女子や男子達からは汚物を見るような視線を向けられているが野上と彼女等はそんなの何も気にしてはいない。
何故なら彼女等はこのクラスにおけるカースト上位組。
ドクモをアルバイトとして掛け持ちしているクラス2の美少女ギャルの塚本恵梨香
雅くん呼び
低身長ロリ巨乳でかわいい系、ハーレム入りするまでは男子達のアイドルだった水野圭代
雅ちん呼び
依存度合いの高い妹系美少女の安藤メメ
雅呼び
一線級の美少女を束ねるハーレムメンバーを従えるイケメン野上のチームに一言ものもうす事が出来る者など同じ土俵に入れる存在だけ。
そう瑞穂くらいのものだが彼女は今そんな事どうでもよかったしそもそも今この場にはいない。
でなければ大声で馬鹿みたいに萬月に嘘告させスパイみたいな事をさせてる事がバレるのだから。
瑞穂がいない今彼等彼女等は大いに盛り上がっている。
野上はハーレムを束ねるイケメンだ。
これって一種の才能なのでは?
と考える事も出来る。
凡人にこんな事が可能なのかと問われれば勿論不可能と答えるしか出来無いだろう。
しかし彼には女を引き付ける美顔があった。
加えてサッカーをやってたこともプラスに作用していた。
サッカーをやってるイケメンかっこいいという先入観もさることながらそのために体付きががっしりして良くも悪くも女が好む体型を維持できていた。
加えて昨今の女子の中にはちょいワル系を好む気風があり彼女等のような普通の男子に飽きた美少女等は野上のような男を落としたいという願望があった。
勿論それだけでハーレム等出来る筈もない。
野上はハーレムの維持に生まれてはじめて全力の努力を費やしている。
自分は顔がいい。
その利点を活かし徹頭徹尾活用している。
その成果がこのハーレムなのだ。
彼と瑞穂が決定的に異なる点を上げるなら野上は隠れた努力家といえる所だろう。
まぁ努力でハーレムが出来るなら誰だってやる。
しかし世のハーレムを形成してる男性が圧倒的に少ない事からそれが一筋縄でない事は事実が証明してる。
つまるところ野上にってハーレム形成は彼にとって唯一神が与えた才能といって差し支えないだろう。
「とりま俺の目的は一つだよ、あのクソ女を絶望させてやりたいだけさ。」
「でもあの子が帰って来たら私達も捨てられちゃうんでしょ?そんなの嫌だけど?」
「何度も言わせんな、俺はお前等皆愛してるんだ、捨てるわけないだろ?それに言ってるだろ?あの女は絶望させたいだけなんだよ」
「絶望させたいだけ?」
「ああ、あの女を絶望の淵に叩き込むのさ…。雑魚男に捨てられて絶望してるアイツを救った後に依存させて散々使い古した後ボロ雑巾みたいに捨ててやる」
「うわぁ雅くんまた悪い顔してるね。」
「ひひっ!でもいい気味だよね!雅ちんのお気に入りだってちょーしのってるからバチがあたったんだよね〜
ざまぁ!」
「あの女メメも嫌い!」
瑞穂にこの事を伝えるクラスメイトはいない。
彼等に楯突くメリットが無いのもそうだが瑞穂に媚を売るメリットもまた無いからだ。
瑞穂はモテるので彼女を恋人にしたい連中はここで媚を売っておけばワンチャンと考える事もできそうだが皆瑞穂がそんな簡単に落とせる女ではないと理解している。
そんな事より野上に復讐されて痛い目を見てる所を見たいという欲求のほうが大きいのだ。
それを野上は理解しているからこそ教室内で言いたい放題なのだ。
「まってろよ瑞穂…。」
端正な顔を歪に歪めながら野上はほくそ笑んだ。
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