11話 電話
「まさか手紙の人が萬月さんだったなんてね…」
「あんまり驚いてないみたいですね?」
「いやいや、驚いてるよ。」
萬月楓
あの野上の取り巻きをやってた女グループの1人だ。
もっとも彼女自身は大人しい文学少女なタイプの娘で他の取り巻きがこれぞギャルな見た目の派手な外見に対してなんでこんな大人しそうな子が?と思わなくもない印象を持つ子だ。
事実最近の彼女は取り巻き…野上ハーレムから一歩下がったポジションにいてそこまで意欲的に野上の取り巻きに興じてる風には見えなかったりする。
「どうして萬月さんが?君は野上が好きなんじゃないの?」
「野上君の事は好きです…でも他の子達はとても綺麗で…私なんかじゃ太刀打ち出来ないの…」
「だから俺?」
「その…私…中原君のことは前からずっと見ていて…一途な所がいいなって…」
「一途…ね…」
「だから私…中原君ともっと仲良くしたいんです…最初は友達からでもいい…どうか、私と…」
そういっておずおずと彼女は手を差し出して来た
僕はその手を取るかどうするか一瞬躊躇したけど茂みの奥に瑞穂の影を見て彼女の手を取る決意をした。
すると彼女は僕の手に何か小さな紙クズをそっと渡して来た。
(そのまま受け取って下さい…彼女が見てます)
俺はそのまま彼女から紙クズを受け取りそれをそっと胸ポケットにしまった。
「ありがとうございます…とても嬉しいです…。」
この女…
何か企んでるのか?
この紙クズには何が?
それに瑞穂が見てることも折込済みなのか?
辞めてほしい。
俺を巻き込んで裏でこそこそ暗躍みたいなのするの…
胃が痛くなる。
それにこれもう嘘告より酷い事になってる。
「それじゃ私行きますね…じゃね…中原君…」
そういって彼女は去っていった。
こういうのって普通彼氏になった男子と一緒に下校とかって流れじゃないの?
まずはお友達からって流れだからそれにならった感じなのか?
まぁ瑞穂が見てる前でそんな風にも出来ないと…?
「終わった?じゃ帰ろうよ貴樹」
「え?あ…ああ…」
物思いにふける間もなく瑞穂は茂みから出てきてそんな事を言ってくる。
もうワケがわからない。
なんなの…コレ…。
「もう解ったでしょ?あれは嘘告。あの子は別に貴樹が好きで告白してきたんじゃない。」
「どうしてそう言い切れる?」
「私見たのよ」
「見たって…何を?」
「野上が取り巻きに命令してたの…私からアンタを取り上げろってね…」
「俺を取り上げる…?」
「アンタが別の子と付き合いだせば私はフリーになる、そこを付け込もうとしてるんでしょ?無事に野上は私を手に入れたら頃合いをみてアンタから自分の取り巻きを回収すればいいってそんな話を偶然聞いたわ」
「何だそりゃ…」
「あの子は野上ハーレムの中で一番発言権がない子なのよ…だからアンタに告白する役を他の取り巻きの子から擦り付けられたんでしょ?つまりあの子はアンタに気なんて一切ないの…わかる?」
「なるほど…?」
「だからアンタはそれにショックを受ける必要なんてないの…私がアンタの側にその…いるんだから…」
瑞穂は頬を赤らめそんな事を言ってくるが俺は今それどころではない。
嘘告どうのは最初から疑ってたのでそれ程ショックではないしそんなことよりこの胸ポケットに入っている紙クズのほうが余程気がかりだ。
両者共の家の前でそれじゃとわかれの挨拶を済ませ帰宅。
別れ際瑞穂が妙にソワソワしていたが気が付かない素振りをして無事帰宅。
ベッドに雑にカバンを投げ捨て俺は胸ポケットにしまった紙クズを取り出した。
そこにはこう書かれていた。
「私の連絡先の番号です。21時頃に連絡ください。折り返し連絡します。」
そこには電話番号とラインのIDが記されていた。
俺と何か話したい事があるという事か…?
それから俺は飯と風呂を済ませ規定の時間に電話をしてみる。
数コールしたが繋がらず何だやっぱり揶揄われただけかと電話を切ったがその後直ぐにスマホが振動し画面を見てみると萬月さんの番号が表示されていた。
そう言えば折り返すって書いてあったか…
「もしもし…えと…中原ですけど…」
「はい…大丈夫ですよ、私は萬月です、中原君」
当たり前だか電話の向こうの相手は萬月さんだった。
「先ずは電話を下さった事に感謝します。ありがとうございます。」
「いや、」
「それとごめんなさい。」
「え?」
「もうお気づきかとおもいますが私は貴方の事が好きであの様な場を用意したわけではありません」
「分かってはいてもそうハッキリ言われると流石に来るものがあるね。」
「本当にごめんなさい。もし許されるなら私の出来る範囲でいかようにも貴方の要望には答えたいと思ってます、それがこんな事をした私が貴方に出来る誠意だと思ってます。」
「そんな安請け合いしていいの?」
「それだけの事をしたって自覚はありますから…」
「……で…どういった経緯か聞いてもいいの?」
「はい…ある程度片洞さんから聞いてるかと思いますが私の貴方への告白は野上君からの指示です。」
「野上君ね…やっぱりまだ瑞穂に未練があったんだアイツ…あっ……彼…」
「ふふ、別に野上君に気を使わなくていいですよ、私は彼にもう入れ込んでないですから…」
「え?そうなの?」
「実のところ取り巻きから抜けたいと思ってましてね」
「えぇ!?野上が好きでハーレムメンバーの一員やってたんじゃないの?」
「前まではそうでしたが昨今の彼にもうそんな感情はありませんね」
「はぇ~、理由を聞いても…?」
「私…昔から気が弱くて…強く出られたら断りきれない悪癖があるんです、不良に絡まれてどうすればいいかわからず彼等の言いなりになるしか無いと思ってた時に野上君が助けてくれてそれで片思いをしたんですよ…」
「は…、はぁ…」
「いつか彼に思いを伝えれたらと彼の側に出来るだけ一緒にいようと思ってたんですがその内私みたいな子達が増えていって気付けば野上君を取り巻くハーレムみたいになってました。
野上君はその子達を使い勝手のいい道具みたいに扱ってまして…その子達もその子達で野上君に気に入られたいからとめちゃくちゃな事をしてまして…」
「めちゃくちゃって具体的になにを…?」
「今回みたいな事ですね…」
「今回みたいな?」
「こうして貴方達みたいなカップルの間に女の子を差し向けて浮気させてから別れさせ、横から傷心の女の子に甘い言葉で籠絡して掠め取るみたいな事ですね…。」
瑞穂が言ってた通りの事態になってるな…
ただのイケメンかとおもってたら普通にクズじゃん。
噂で聞いた事がある。
彼女を野上に取られた男の噂話だ。
そいつの場合は単純に寝取られたらしいが不思議と野上へのバッシングの声は聞かない。
なんでも彼氏のほうが彼女を放ったらかしにしたり適当にあしらったりしてて自業自得の色が強かったらしいしそんな彼女に野上は救いをもたらしたって女子の間で持ち上げられているらしい。
男からしたらそんなアホなって話だが結局は噂でしかなく実際の話かどうかはわからない。
しかし現実的に考えて現代世界でなんのチート能力ももたない顔が良いだけの野上に実際にハーレムなんて作れるわけがない。
それこそ催眠だとか洗脳だとかの精神系チート能力はこの手の話には一種のお約束として出てくるけどそんな都合のいいものがあるなら世界はとっくに破綻してる。
だとすればそういういかさま?詐欺?みたいな事をして女子の心に土足で入り込んでいる方がまだ現実的だ。
そのためには手段を講じる必要がある。
たとえば精神的に弱った女子の心に漬け込むとかまさにうってつけだと思う。
つまり…
「君は野上が瑞穂を僕から取り戻す為に差し向けられた刺客みたいな物…と?」
「刺客ですか…ふふ…そうですね、その表現が適切です。しかしここで一つ訂正させてほしい事があります」
「訂正?」
「はい…私は自分の意志で行動してます、今私が貴方とこうして会話をしている事含めて私の意志なんです。」
「それって…野上は関係ないってこと?」
「はい。」
うん?どゆこと?
「私は野上君のハーレムから抜け出したいんですよ、だから申し訳ありませんがそのために貴方を利用させてもらいます。」
え?
つまり…この子
最初からその為に俺に近づいたのか…
うわぁ…
また面倒くさい事になりそうだ……。
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