10話 ラブレター
ラブレター。
それは青春を謳歌する学生にとってその青春を何倍にも華々しく昇華させる魅惑のアイテムだ。
俺みたいなもてるなんて言葉から程遠い位置にいる陰キャオタク男子にとって貰える事がまず奇跡。
希望の象徴であり華々しい未来の可能性を示す道標なのだ。
しかし浮かれてばかりはいられない。
近年のオタクにとって嘘告などはオタクとしての必須知識でありもっとも警戒すべき罠だ。
その警戒レベルはNTRやBSSなどの悪魔的所業に匹敵するほどに悪辣で非人道的。
まさに外道のソレだ。
俺みたいな陰キャにラブレターなどまず嘘告イベントの発生をいの一番に疑ってかかるのが妥当だろう。
この封筒の中身を見るのに一番的確な場所はトイレの個室と相場が決まっているが今の俺にはトイレに1人で行くのはハードミッションだ。
立場的にラブレターを誰かに見られるのはそのまま死を意味するので数少ないご友人誠吾にも相談できない。
そもそもトイレに行って帰って来たばかりなのにトイレに逆戻りなどトイレがお友達の哀れな奴だと認定されかねないのだ。
しかしこのラ……ラブレターの中身を見たいという気持ちを抑え込むのはまさに至難の技。
だから俺は考えた、安全に人目がつかないラブレターの見方を。
それは実に単純。
絶対に誰もトイレに来ない時間を狙えばいいのだ。
「先生すいません…」
「うん?なんだ中原?」
「トイレ行きたくて…」
「なら早く行って来い」
「ありがとうございます。」
授業中にトイレに行く事だ。
念のために教室から離れたトイレがいい、まさか追っては来ないだろうが念の為3年のトイレとかを使わせて貰おう。
どーでもいいことだけど陰キャには授業中に先生にトイレに行くと言うだけで一騒動だ。
トイレに行くのを馬鹿にされないか。
先生から駄目と言われないか?
単純に授業中に声を出すのが怖いとか…
まぁそんなところだ。
昔はそんな事考えた事も無かったけど陰キャが染み付いてからはどーにもね。
「どれどれ……」
手紙には
「一目惚れで貴方の事が好きになりました、この思いをどうか貴方に伝えるチャンスを私に下さい。放課後校舎裏の木の下で待ってます」
と書かれている。
間違いない…これはラブレターだ。
ラブレターだけど不審な点が目立つ。
まず差出人の名前がない。
誰からの手紙かわからないんだ。
一気に嘘告っぽさが大きくなったな。
しかしそう決めつけるのは早計かもしれない。
行くだけならアリか…?
でもゾロゾロと出てきた奴らに笑い者にされるのは嫌だな…。
とりあえず行くしかないだろ。
例え笑い者になる未来が確定していても。
え?
彼女いるのに行くのかって?
人を待たせたら駄目だからね、うん。
仕方ないね。
手紙を読み終えた俺はトイレから出ると3年の教室が並ぶ一階から俺達2年の教室がある2階に移動する。
すると男子生徒3人くらいが談笑している声が聞こえた。
空き教室から声は聞こえていて声から察するに教室の中にいるのはいつぞやのトイレで俺を奇襲した陰湿陽キャ達だった。
声で判別つくとかキモいと思われそうだけど声豚としての性質も備える俺みたいなオタクは日々アニメキャラでどの声優さんが演じているかキャラ間の聞き分けという特技をデフォルトで備えているのはオタクとしての嗜みだ。
いわゆる駄目絶対音感というやつだ。
「たりーよなぁ、マジであのクソ陰キャ何処行ったよマジで」
「ナマイキだよなアイツ!瑞穂ちゃんにあんなデレデレされてるのに俺は興味ありませんみたいな態度とってよマジでむかつくわ」
「童貞くさくてマジ笑えるわ」
「いやいやもう捨ててるかもだぜ?」
「ありえねーしょ!」
マジで教室から抜け出してきてたのかよ。
真面目に授業受けとけよ不良どもめ。
しかし話の内容下品過ぎて草生えるな。
陽キャのくせに彼女とかいないのアイツ等に問題あるだけなんじゃないか?
陽キャもあんなんばっかじゃないんだろうけど俺の中の陽キャ苦手意識が加速するな…。
「いやいや、あの童貞野郎からは無理だろうけど瑞穂ちゃんクソエロいじゃん、色々リードしてもらってるとか思うとふつーにムカツくわ!」
「あーありえる!瑞穂ちゃんガード硬そうにみえて下はゆるゆるっぽい。」
「頼めばやらしてくれたりして。」
「あーまじであのクソ陰キャむかつく!」
「アイツがいなけりゃ瑞穂ちゃんと童貞捨てれたかもしれんと思うと殺意マシマシだわくそが!」
「ははー!!ダセー俺なんか去年元カノで卒業済みだもんな!」
「この裏切りもんがよ!」
本当にクソみたいな会話だ。
ヤッタとかやってないとか心底どうでもいい。
見つからないように教室に戻っておこう。
「でも野上もエグい事考えたよな…、」
その後の連中の話し声は俺には聞こえていなかった。
「貴樹一緒に帰ろう。」
放課後、ここ最近ではすっかり定番になった瑞穂との帰宅だが今日はどうしても避けられない用がある。
勿論ラブレターの件だ。
ラブレター貰ったからその相手と会ってくるわ!
なんて馬鹿正直に言ってはいそうですかとはならないのは誰の目から見ても明らか過ぎるのでなんとか口実を作らなければならない。
しかし何を言おうが瑞穂は絶対に自分もついて行くと言い出しかねない。
さてどうしたものか。
「どうしたの?帰ろうよ」
「悪い今日ちと用事がであってさ」
「なに?用事って…。」
「先生に頼み事されててさ、男手が欲しいって…」
「それ嘘だよね?」
「はひ!?」
「私も付いて行くよ。」
「いや、だから男手がな?」
「いいよ、そんな嘘付かなくても…」
怖いんですけど…
なんでバレてんだ嘘って…
つか決めつけじゃね?
嘘って決まったわけじゃないじゃん
何を根拠に嘘って断定してんだコイツ…。
まぁ嘘なんだけど……。
「どうしたの?早く行こうよ…?」
「あ…いや…だからだな…」
「なに?もしかして告白でもされるの?」
「ぶふぉあ!!?」
「…………。」
「は?そ…そそそんなわけ……」
「動揺し過ぎなんだけど?これから告白されに行きますって言ってるようなものだよ?それ?」
「イヤに冷静ね…?」
「そう見える?」
見えるからそう言ってるのだ。
コイツは怒りを内に溜め込むタイプではないし言いたい事はハッキリと言うタイプだ。
これまでの言動から俺が誰かに告白される場合でこんな冷静に澄まし顔でいられる理由がないのだが?
「行きなよ…まってるから」
「止めないのかよ…」
「止める必要がないもん」
「何故?俺これから告白されにいくんだぞ?」
「嘘告よ、それ」
「な……、なんで…そんな事わかるんだよ」
「いいから行きなよ、いくんでしょ?」
嘘告。
やはりそうなのか?
でも何故?
俺みたいな陰キャに?
そもそも何故瑞穂は嘘告だと知ってる?
わからない事だらけだがとりあえず瑞穂の許可は得た。
もう嘘告だと確定してるなら俺はそのつもりで事に当たらなければいけない。
待ち合わせの場所。
放課後に校舎裏の木の下
俺はそこに向かった。
そこには1人の女の子が本当にいた。
1人だ、他に誰かが隠れてる気配はない。
「ありがとう、来てくれて。嬉しいよ。」
肩口まである黒髪
メガネをかけているせいで一見地味な印象を持つが顔は整っていて美人だ。
制服はきっちりと来ていて瑞穂みたいに着崩してるとかはない。
瑞穂がなんちゃって清楚とするならこちらは文学系を強く印象つける本物の清楚系とでも言えばいいのか?
瑞穂ほどではないにしろ十分に美少女といって差し支えない外見の女子。
しかしそんな印象は俺が彼女に持つ第1印象に全てかき消される。
「手紙の相手は萬月さんだったのか」
「うん、驚かせてごめんね中原君」
彼女と俺は知り合いだ。
それはそう。当たり前だ。
俺と彼女はクラスメイト。
そして彼女は瑞穂の元彼、野上の取り巻きの1人なのだ。
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