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七話 VSタランチュラ怪人

三ヶ月前、とある町にジュンはいた。

そこは寂れていて人口も少なく、居住者以外は名前もしらないようなところだ。


そしてこの町の森の中にある平坦な場所に、道がある。

木々によって青空は見えないが木漏れ日はあり、遠くも見回せる家族層向けのハイキングコースである。

平日は人が少なく閑散としているため、少し寂しい雰囲気があるところだ。


そこでジュンはボコボコにされていた。

それはかなり仕方ない事ではある、ジュンは1人なのに無数の怪人に囲まれていたのだ。 

とにかく重くて取り回しの効きづらい武器しか持っていないから、集団で囲まれて殴られたり蹴られたりして負けた。


「なんでだ?お前なんで明らかに負ける戦いやったんだー?」

囲まれてボコボコにされている真っ最中のジュンに、しゃがれた声がかけられる。

ジュンは声の主を見る事は出来なかった、視界には緑や青や赤といた色ばかりが飛び込んできていた。

色とりどりの怪人達が視界を塞ぎまくっている。

しかし声の主がどんな奴かはわかる。

怪人のボス的存在だ、声を聴くだけで強さがわかる程の威圧感があった。

ジュンはそのボスを最強怪人と呼ぶ事にした。多分最強だから。



ふと、ジュンは聞く。

ガン、ガンと、周りで金属音がする。

遠くから銃声がしていたし、怪人の数体が倒れていく。


銃痕がその死体にはあった。

つまり誰かが銃を撃ってジュンを助けてくれた。

「……誰だ?」

無数の足音が遠くから聞こえてくる。

まだ怪人に囲まれていてまるで遠くが見えないので、耳を澄ましてみれば

「俺達の町を守れ‼」

「うおおおお!‼ここは故郷なんだ‼」

なんてジュンの知らない人達の声がしていた。


察するに、この寂れた町の中にも守るために戦う者がいて走ってきているらしい。

であるならば、立ち上がって共闘すべきだ。

だがしかしそれは叶わなかった

「君は邪魔だなぁ」

そんな声がかけられた直後ジュンの体が突然空へ投げられた。

最強怪人の手によって。


高く、高く、飛んで、何メートルも放物線を描いて飛びながらジュンは見た。

町中が青く巨大な光に包まれていく姿を。

そしてその光が融けるように消えた時、元はあったはずのたくさんが消えていた。

抉れた地面だけがどこまでもどこまでも広がっている。

家も人も木も。やって来たはずの勇敢な戦士達もいなくなっている、遠くを見回しても。

ジュンは自分の目を疑った。


空からどさりと地面に落ちて、ジュンはあちこち骨が折れた。

立ち上がる事は出来ない程折れた。

しかし痛みなんか気にならないほど、驚いていたから平気だった。


唯一、町の跡に残っているのはぽつんと立っている人型の存在。

どことなく気の抜ける普通の顔をしている。単なる普通の人間にしかそいつは見えない。

だが、本当は絶対に違うとジュンにはわかる。

何もかも消滅した中で、なぜこいつだけが残っている?それを考えればこいつが絶対にまともな存在ではないとわかる。

では何か、答えは簡単。

「この町をお前が消したのか……”人間怪人”‼‼」

ようやく怪人のボスをジュンは見ることが出来た。


「そうだよ、2年ぶりに町を壊したけどやっぱべつに楽しくないなー」

そんな事を怪人は感慨無く。

ジュンは攻撃したかったが体が動かない。折れたり砕けたり明らかにあちこち体がイカれた。


「……なぜ俺ごと殺さなかった」

口はどうにか動くので質問する。

いつかまた戦う時、攻略のヒントを探るために。

「だってお前この町出身じゃないし根付いてもいないだろう、ここには戦うためにやってきただけだけの部外者なわけだ」

「それが理由になるのか?」

「町を滅ぼす時は町から余計なものを掃除してからなんだ、殺したり追い出したりしてさ、つまり“俺は純粋な町を滅ぼしたい”んだ」

あっけからんと怪人は言う。町をどう滅ぼすかこだわっているのだと。

まるでゲームであえて難しい条件をつけて遊ぶ"しばりプレイ"をしているかのようだ。


「破壊モ――ド!」

ジュンは巨砲を無理矢理出す。べつに狙いをつけられるわけじゃないが、適当に撃ちまくって当たればいいかと思った。次なんて考えるのは悠長すぎた。

どうやってもここで倒さないといけない相手がここにいるのだ。


話してより強く実感したが人間怪人はあまりにも危険だ。

要するに気分で人をどう殺すか決めている怪人なのだこいつは。

もしも気が変われば片っ端から人間を殺してもおかしくない。

そんな”人間怪人”は今すぐ倒さないといけない”最強怪人”だ。


しかしジュンはあてずっぽうの射撃すら出来なかった、いつの間にか足が宙に浮いていて手に力が入らなくなっていたのだ。最強怪人がジュンの首を握りしめ持ち上げていたから。

「!?」

いつ接近されたかのにも、首をいつ絞められたのかも気づけない速度で攻められた。

「こっちも聞きたいことがあるんだ」

「……なにを?」

「何でお前は関係すらない奴らを守るのか今度は聞かせてくれよ」


そしてジュンの首に力がこめられ……意識は遠のいていく

「次はこの町から南に5kmのとこを襲うから、三か月くらい待っててくれ」

怪人はジュンに語り掛ける、まるで待ち合わせでもしているように。

---------------------------------------------

ジュンは目覚めた。

体中汗でびっちょりしていた。

先程の怪人との戦いを夢で見ていたのだ。



三か月前のあの時、首を絞められたあとしばらくして目覚めたら怪人すらいなくなっていたのを覚えている。

怪人が純粋な町を滅ぼしたいという変なこだわりがあったおかげで助かったのだ。

実力的には完全に負けていた。

「……しかし、新聞読みながら寝たから過去の夢が?」

ジュンは呟く、その手には握りしめられしわくちゃになった新聞があった。


開いてみれば"三か月前一夜で消滅した町、怪奇事件の真相に迫る"と書いてある。

最強怪人によって滅ぼされた町は、怪人を知らぬ者達から火山噴火で滅んだという考察がされている。

大間違いなので理論がめちゃくちゃだった、しかし仕方ないとジュンは思う。

怪人が滅ぼしたなんて真相を本気で当てられるのは、実際に真相を見たか頭がおかしいかどちらかだろう。


ぺらり、と新聞をめくる。

今度は"アイドル逮捕!ゼロちゃん倫理観ゼロ!"とあった。

ジュンの仲間になった彼女は結構問題になっているらしい。男を何人か監禁していたから逮捕されて。

「……ゼロさん逮捕されちゃったなー、出所は戦いに間に合うかな」

結構ジュンは困っていた。

一応三か月前より強くなったとはいえ、最強怪人ソロ討伐はまだまだ難しいだろう。


なのに、おそらくもうすぐ最強怪人はやってくる。


以前出会った老人と普通に別れてしまったことを今さらながら後悔する。

彼を仲間にするのは難しいだろうが、せめて“俺の仲間になってくれそうな知り合いいませんか?”とでも聞くくらいはしておくべきだった。

今は切羽詰まった状況なのに。


「とりあえずゼロさんがボスと戦うまでに出所してくれればいいけど……」

「そこ!授業中に寝た上に新聞を読んでおまけに独り言をやめろ!」

ジュンは先生に叱られた。

実は今教室にいるのだ。授業を受けている真っ最中なのだ。


なのにジュンは新聞を堂々と読んでいたのだ。

「すまないが、これは必要な事なのさ先生」

しかしこいつはまるで反省しない。


先生はため息をついて呆れ、無視して朝礼を続ける。

……猪怪人と戦ってからもう二週間程たった。

その間毎日遅刻したし、宿題は一切やって来ていないし、テストの点数も尋常でないほど悪い。

もはや叱る気にもなってもらえないレベルで教師から諦められていた。


「盾石の隣も酒を飲むな……!おいウィナ‼」

先生が”ウィナ”と呼んで叱ったのはジュンの隣の席にいる男子生徒だった。。

彼はお酒をガブガブ飲んでいる変な奴だ。

それにファッションも独特だ、舌先に銀のピアスがついている。

現代となっては珍しいタイプの人間だ。


「酒飲んじゃダメっすか、留年してるからもう成人になんすけど、うえっぷ」

さらに酒を飲みながらウィナはたずねる。

「飲んでいいわけないだろう、高校だぞここ」

「ダメなら、帰ります」

ウィナは席から立ち上がり、本当に教室を出て行こうとしていた。

「今年単位が足りないと退学になるぞ?それでいいのか」

「退学にしておいてください」

「馬鹿野郎!ふざけるな‼お前はまだ腐りきっていない!盾石とは違う!」

「盾石と同じですよ、高校卒業したところで俺じゃあ就職も進学も無理でしょうし」

ウィナは煽るよう手をひらひらさせる。


どっちも自分の事腐り切ってるって思ってるんだなーなんて驚きながら、ジュンはウィナと先生のやり取りを眺める。

ウィナ自身には興味が無いが、人を殺すようなおかしさだったら警戒せねばならないと思うから。

この前不良に殺されかけたし、クラスメイトにも注意を払うべきだろう。


「諦めるな‼ウィナ‼人生これからだ!」

先生はウィナの舐め腐った態度が気に入らないようだった。

「そういう主張嫌いなんすよね、俺は何も考えず感じずただ死ぬのを待つロボットになるのが夢なんです」

「ならなぜ学校に来ている?‼お前の言ってる事はおかしい!本当はそうじゃないとお前もわかっているんだろう」

熱血だなーと先生を評しながら、ジュンはせんべいを食べ始めた。

「暇なんっす、流石に死ぬまでじっとしていられるほど強い精神じゃない」

「自分を変えようとは思わないのか」

「自分とか、世の中とか、そういうのが良くなってほしい気持ちはぜんっぜん無いんですよね」

先生の怒りが爆発するとともに、廊下で爆発音がした。


教室中がざわつく。先生も驚いて、辺りを見回す。

教室にいるほとんどが怯えていた。

最近は怪人の被害者がたくさんでているから、皆結構臆病になっていた。


「それじゃあ帰りまーす、俺は別に退学になっていいんで」

しかしウィナは一切異常に怯まず、ガラガラと教室のドアを開ける。

「ま、待て‼」

静止されたが聞かず、廊下へ出て行った。

「あの先生!俺も帰ります」

ジュンも宣言して立ち上がる。

「お前ら爆発音がしたんだぞ!?下手に動いて危険な目に遭ったらどうする!?」

ジュンは無視してズレ空間に入る。

それから廊下に飛び出る。


すぐさま状況を確認する。

廊下に人はいない、先程出たはずのウィナすらもいない。

学校が襲撃されすぎて生徒達の避難は異常なまで速くなっているのだ。


そして廊下に獲物を見つけられずに困惑した、タランチュラ怪人が突っ立っていた。


「学校にばっか怪人出る!」

ジュンは巨砲を右腕に纏い戦闘に入った。

すぐさま怪人もジュンに気づいて攻撃してきた、無数の棘を飛ばして。

「遠距離タイプの敵か‼厄介‼」

ジュンは素早く棘を巨砲の連射モードで撃ち落とす。

しかしいくつか撃ち漏らした。


「マズイッ‼‼」

棘はジュンから少し離れたところで爆発した。

幸いかすっただけで済み、怪我も大したことはない。

だくだく血が流れるが死なない程度だ。

しかし直撃していれば死んでいた。


「……早く倒さないとまずいな」

しかし反撃は無理だった敵は延々と棘を飛ばし続けて来たから。

そうこられては、連射モードでジュンは棘を撃ち落とし続けるしかなかった。

迎撃を止めた瞬間四方八方から棘に貫かれ肉体は爆散するだろう。

下手に攻勢に出れない。


ジュンは迷う。

棘を飛ばされ、自分がそれを迎撃し、またしても棘が飛ばされてのループをどう切り抜けるか。

とりあえずダメージ受けるの前提で相手を撃つしかない、と覚悟をきめた時

「隙を作ってやるよ」


突然ジュンの後ろから、男の声がかかった。

撃ちつづけながら顔だけ振り向く。ウィナがいた。

「酒飲んでた人‼ズレ空間に入れたのか?!」

「あぁ」

「避難したのかと思ったけど」

「最初は皆と一緒に避難しようとしたが……床に穴が開いてて逃げれなかったんだ」

「あぁなるほど」


今回の怪人は爆発する棘を使う。流れ弾がどこかしらに当たってしまったのだろう。

そして戦うしかないと判断したウィナは、鞭をその手に持ってきていた。


鉄でできている、茨のような鞭。それが彼の武器だろう。


「その鞭、強そうだね」

「話はいいからはやく撃っちまえ、殺せ」

「だが、下手に防御を止めれば危険なんだ、わかるだろう?」

ウィナは行動で“大丈夫”と示す。

鞭を一振りして、迫って来ていた棘を全て空中で撃ち落としたのだ。


「あっ、いける」

これなら防御を考えなくていい。

ジュンは怪人をとっとと精密モードで撃って倒した。

タランチュラ怪人は脳みそをぶちまけて死んだ、今回も一撃で倒す事が出来た。


手助けのおかげで完勝である。


やはりジュンは仲間の力が欲しかった。

1人では出来ないことが出来るようになり、より皆を守る事が出来るようになる。

今回のようにソロでは厳しい相手にも簡単に勝てる。


目の前にいるウィナの力は特に欲しい。

それは巨砲とかなり相性がいいから。

今回のように敵から守ってもらいつつ、巨砲の強力な一撃をぶっぱなせればもっと楽に戦える。


「ありがとさん、助かったぜ」

だが、とりあえずジュンは礼からした、だがいつの間にかウィナはもういない。

廊下のずいぶん先まで歩いていってしまっている。

「お――い‼‼」

ジュンは大声で彼を呼ぶ。

「なんだ、帰り道塞いでる奴はもう倒したから用はねぇだろ」

「今度最強の怪人が来るから一緒に戦ってくれないかい‼‼」

「断る!」

ウィナは即答だった、まぁ当たり前である。

普通は理由すら無く最強の怪人と戦いたいやつはいない

のでジュンは意義を説明する事にした。

「この町全土を一瞬で消滅させてくる相手が来る、戦わなきゃ俺も君も皆も死ぬ!守るんだ‼」

「……俺は町の外に逃げるぜ」

「友達や家族もいるんじゃないのかい?そういう存在を危険なところにおいていくのはよくないだろ」

ジュンは家族も友もいなかったが、自分にもいるような口ぶりを使った。

ウィナが戦う雰囲気を作るためにそこら辺は誤魔化したのだ。


しかし「本当はみんな死にたいかもしれないじゃねーか、だから俺は誰も助けない」

ウィナはとんでもない事を言った。

「たぶん生きたい人のほうが多いと思うけど」

ジュンは冷静に返答する、しかしそれが無駄な事はわかっていた。

ウィナは、こういう論を聞いた程度で考え方を変えるような人間じゃあないだろう。

「俺が人を守りたくない理由聞いただろ、うぜーから黙ってろ」

やはり彼の反応は予想がついたものであった。

「……だけど仲間にはなってほしいから、このままじゃいけないと思うから」

「うぜっ死ね」

ウィナがジュンに向かって鞭を振り回し牽制する。

鞭は床や壁にあたって、あちこちを軽々しく抉っていく。

恐らく威力は、アスファルトを砕く程度だろう。

当たれば死ぬかもしれないので出来ればジュンは近づきたくない。

仲間になってくれと説得はしたいが、距離を取りっぱなしのまま立ち止まる。


ウィナは舌打ちをし、その場を歩き去っていく。

ジュンは追わなかった。

いまここでそうしても彼を仲間にするのは相当に難しそうだ。


だいたい仲間になったとしてまともに戦ってくれるかは微妙なところだ、妙な精神性の奴だし。

しかしそういう奴だからこそ出来る事もあるだろうとジュンは思う。


ジュンはウィナを一切諦めていないのであった。




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