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六話 VS サナギ怪人

最近、山で殺人事件が起こった。

人間が中途半端に食い散らかされたのだ、まるで虫に喰われた葉っぱのように。

被害者は5人、キャンプ中の家族。


いつも通り犯人は怪人である……といっても今回は普段の怪人と違う。

怪人だが、普段と違い人型じゃない。

見た目がただのデッカイ芋虫なのだ、うねうねしている緑色の。


さて、今日のジュンはそいつを倒しに山へやって来た。


そして発見し、怪人へと連射モードで弾丸をぶちまけたのだが……


月が降り始める頃の夜

「くそ、逃げられた」

ジュンは焦っていた。少し歩いてあたりを確認し、そしてまた歩くを繰り返す。

倒さなければならない相手、芋虫怪人がジュンから逃げてから一時間以上たった。

「あぁもう、あいつ芋虫のわりに速かった‼」

なので今探している真っ最中だ。



「どこだろう、どこにもいないように思えてくる、だけども存在だけは確実にあるはずだ」

キョロキョロ見回しても、自然ばっかりだ。

しかも夜だからあんまりにも視界が悪い、足元も見えずらい。

ジュンは何度もよろける。

そうとう足を取られる地面環境であった。

「マズイね、自然が敵だなんてあんまりにも強大じゃないか」

全方位を警戒しながら歩いていると、がんと頭をうつ、硬いものに。

「なんだ?」

なににぶつかったのか、目をこらしてみればドアがあった。

視界を広くしてみれば、山小屋のようだ。



もし人がいるなら、危険を伝えておかなければならない。

仮に人がここにいるなら伝えねばならない、今は絶対に外に出ないように。

芋虫怪人はきっとこの近くにいるのだから。

とっとと探しに行きたい気持ちを抑える。ノックする、しかし返事は来ない。

「夜分遅くにすみません‼‼」

なにも返事はこない。

「うおーいおいおい‼うおーい!」

ジュンは叫んでみた、やっている当人ですら耳が痛くなるくらい。返事は来ない。


もしかしていないのか?と疑い、とりあえずドアを壊そうかと迷い始めた頃。

「うるさい‼‼」

老人の男が出て来た。

「……誰もいない?」

しかし、彼はジュンの目の前で変な事を言う。


「あぁ、俺はズレ空間から出てないのか」

ジュンは気づいた、怪人と戦うために入ったズレ空間から出ていない。

だから認識されないのだ。

しかし出る必要は無かった。

「まさかもしかしてズレ空間じゃな、懐かしい……」と老人が言ったから。


老人は珍しい事にこの空間を知っているらしく、ジュンと同じように入って来た

そして、しっかりとジュンに顔を向ける。

「若いの、なんのようだ」

「芋虫みたいな化物がここら辺にいるから注意してって伝えようとしてた」

「ワシは一応自衛くらいは出来る、安心しろ」

老人は両腕をクロスさせる、そこにはメリケンサックが装備されていた。

さっきまでは絶対にそんなもの無かったが、最初っからさもあったかのようにそこにある。

つまりジュンの巨砲やゼロの剣と同じく、それがズレ空間で彼の使える武器という事だ。


「……もし戦えるなら俺の仲間になってくれないか」

ジュンはあまりにもいきなりの勧誘とわかっていたが聞いて、どんな奴でも仲間は欲しい。

普通の怪人との戦いでも結構苦戦するし。

「いやじゃ、ワシは出来るだけ戦いたくない」

まぁ当然断られた。

「そのうちさ、この街全部滅ぼす怪人が来るからそいつとだけでも戦ってくれないか」

「ワシはもう老いた、そのレベルの敵に対しては足手纏いにしかならん」

「そっか、それなら仲間になる気もおきないか……でも気をつけてくれよ、芋虫怪人は見た目より素早いから」

ジュンは勧誘を諦める。

してその場を立ち去ろうと背を老人に向けた。

「あぁ待て」

しかし呼び止められ立ち止まった。

「ワシは山に住んで長い、怪人の居場所も検討がつく、だから案内する」

「ありがとう」

「言っておくが仲間になるつもりはないぞ、これは庭の掃除をするようなものじゃからな」

「べつにいいさ、一期一会でも助けてくれるならありがたいんだ」

ジュンは案内人を得た。


彼らは怪人を倒しにぐんぐん進む。

夜だったが老人はジュンの前に出てサクサクと進む。

ジュンは彼の足跡をたどるように、よたよた後ろをついていく。


老人はメリケンサックで邪魔な枝や葉をかきわけていた。

どこを歩けば楽なのかも熟知しているようだった。

しかしそんな彼を見てジュンに一抹の疑問が湧く。

彼は正面切って戦うのはもうキツイだろうが、補助にまわるくらいの身体能力はあるように見える。

どう考えても一緒に戦ってくれたら助かるくらいの強さはある。

「足手まといにならない実力はあるぜあなた、やっぱり仲間になってくれないか?」

なので聞いてみた。


老人は立ち止まって、ジュンに振り返る。

「ワシは人を守ろうと長い間怪人と戦った、人の幸せは尊いと感じていたからだ」

「へぇ」

老人の答えは質問の答えになっていないんじゃないかと思ったが、ジュンは指摘せず大人しく話を聞いた。


老人は再び前を向いて、ハッキリとした目的地を持って歩き始める。

「ところがだ、疑問が湧いた」

「疑問っていうと……つまり気になる事が出来たってことか」

「お前はなぜ怪人が人を襲うと思う?」

「襲いたいと思ったから、それだけだろう?」

「それだけの理由ならば無いのと一緒だ」

「理由について納得したくないなら、奴らを災害みたいなものと思えば」

「災害とは違う、意思疎通の出来る災害などあるか、奴らは特別だ」

「特別でも、皆を守るためには倒さないといけない相手だ」

ジュンの返事は、結構てきとうであった。

老人の言葉がよくわからないのに、無理して会話をしようとするから、会話の意味が通じているかはあまり考えられなかった。


老人は少しの間黙る。しばらくしてから少し喉を這いずるような声でまた語る。

「ワシは皆を守ろうとして奴らに死を与えてきた、その度に血と断末魔が返って来て、自分の中にあるおぞましいものが引きずり出されているような気がしていた、怪人と大して自分が変わらないのではという疑念がこべりついた」

ジュンにはよくわからなかった、彼の言葉の内容のほとんどが。

解る事もある、それは彼を怪人と再び戦わせるのは不可能だという事だ。

それほどまで、老人の言葉は重い。


「べつに自分が怪人になってもいいんじゃあないか、怪人だからって人を守っちゃいけないわけでもない」

「殺す生き方だけしか選べない……それは地獄ではないか?」

よくわからないままジュンはとりあえず言葉を返していく。

「どうだろう、怪人達のだいたいはその生き方を受け入れるって気するけど」

「だとすればむしろ可哀想に思えてくる」

「……他人の生き方は勝手に評価出来るものかい?」

「戦うだけの生き方しか選べんものは見るだけで悲しくなる」

結局老人の言葉は、ジュンにはよくわからないまま終わった。

老人が立ち止まり、指を差したのだ。


差されたものは広い円形の空間。

そこには木々がまるでないたった一本だけ、異常なサイズの木がある。

そこにはやはり異常なサイズの蛹がついていた。

枯葉のように錆びついた色のそれは、きっと芋虫怪人が成虫になる過程。


「……芋虫怪人が、羽化しようとしているのか」

ジュンは察した。奴は成長するタイプの怪人だったのだ。


そして、ピキリと、蛹にひびが入る。

中から成虫が破っているところだろう。

そして、無言で巨砲を右腕に纏った。精密モードで狙いをつける。

蛹から出た瞬間に撃とうと。


ギリギリ間に合ったな、とジュンは既にほっとしていた。

もし少しでも遅れたら空を飛ぶ怪人を逃がし切っていた。

そして飛べるという事は行動範囲が広がるという事でもあり、遠くにいかれる事もあっただろう。

下手をすればジュンが対処できない事態となり、怪人の殺しを一切止められない状況になるところであった。



蛹から怪人が出てくる、芋虫怪人は蝶怪人になっていた。

鮮やかな羽と、細くしなやかな体を持つ優雅で美しい怪人だ。

しかしそんな事どうでもいいといわんばかりにジュンは出て来た隙を狙って撃った。

命中した、蝶怪人の羽をぶち抜いた。

怪人は落ちそうになって蛹にしがみつく。


地面に落下しないよう、羽をばたつかせもがいている。


ジュンはそんな相手にも容赦しない、二撃目の狙いをつける。

「なぜ、人を守ろうとする?」

ぼそりと老人は呟いた。

「……そうしようと思ったから」

ジュンも同じように、言葉を雰囲気で伝えた。

老人は察した。

それからジュンは巨砲で射撃した。

必死で世界に飛び立とうとしていた蝶怪人の脳天を撃ち抜いた。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼‼‼」

悲鳴をあげながら回転落下をし、怪人は血をまき散らす、誰も知らない場所で人を守った彼らにビチャビチャとかかる。その生臭いさやべっとりこべりつく死の感触、二人は何も意にも介さない。

二人とも何も感じる事すら出来なかった。

気持ち悪いだとか、吐きそうだとかそういう感覚も無い。


そして蝶怪人は地面に落ちて死に、いつも通り死体は消える。

元から無かったかのように。

ジュン達の戦いがあった事を否定するかのように、返り血も消えた。


「我々ばかりが守ったとて失うだけ、では不公平で無いか」

老人はまたぼそり。

「だとしても俺は皆を守るのさ」

「やはりそういう考え方はもう出来ん、だから仲間にはなれんよ」

老人はそれだけ言って、自分が辿って来た道を戻る。

怪人が死んだ現場にはもう目もくれない。

「……俺もそろそろ帰るぜ、そんじゃあさよならだ」

ジュンも来た道を戻っていく。




「……さよならじゃあ無かったな」

「ワシら来た道一緒じゃからな」

しばらくしてジュンは老人に追いついた、ぜんぜんさよならじゃなかった。

帰り道は同じなのでこういう事もあるのだ。


しかし再会したって特に会話は無い。

彼らのつながりはあまりにも希薄であった。


しかし、それでもつながりはつながりだ。

ジュンは彼も守ろう、と思った。

もとからみんなを守ろうと思って戦ってきたが、再度強く思う。

あの老人も守ろう、みんなを守ろう、街を滅ぼし全てを滅ぼす最強の怪人から。

ジュンはそう思った。





今回は直接戦闘自体は少なかったですね。

芋虫怪人との戦いは省略ですし、芋虫怪人が進化した蝶怪人は実力を発揮される前に倒されるし。


ですが今回の怪人もしっかり個性があるんです。

まず激レアな性質を持っています、それは進化するという性質。

カマキリ怪人とかはカマキリ怪人として生まれてきましたし、猪怪人も猪怪人として生まれました。

形態変化する能力を持った怪人はほとんどいません。


ちなみに、この怪人は不意打ち的な攻撃のおかげであっさり倒せましたが……もしも倒せなければ相当な強敵になっていたことでしょう。


普通蝶より遅い芋虫状態でジュンに“速い”と言われるような怪人です、蝶になった時の速度は恐ろしいものと考えられます。

ほぼ確実に二話の猪怪人より速いでしょう。


しかもこの怪人は飛べます、飛ばれれば大半の攻撃は届きません。

ジュンは一応遠距離攻撃を使えるので攻撃は可能ですが……当然警戒され命中させるのは難しいでしょう。


つまりジュンが勝てたのは、ただただちょうどいいタイミングで攻撃出来たからというだけですね。

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