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五話 怪人とはまた別の怖さがあるヤツ

さんさん照り付ける太陽の下では、単なる広めの歩道が地獄になる。

建物などが日差しを防いでくれないし、熱を帯びた地面も人にダメージを与える。

普通に歩くだけで熱中症になりかねない場所。

そんな中で、ジュンは汗をかかずカマドウマ怪人をあっさり倒した。


今回は苦戦なく精密モードの弾丸一発で済んだので、怪人との戦いは語る事が無い。


「こういう怪人ばっかりなら楽でいいなぁ」

ジュンはズレ空間から出ようとして、妙な視線を感じ止めた。

あたりを見回せば、遠くのビルの屋上になにかがいる。


それは双眼鏡を構えた人間だ、ジュンを見張っている様子であった。

「ストーカーかー、なんでだろ、双眼鏡使ってまでのぞいてくる」


なんとなく、ジュンは監視者に向けて手をふってみた。

――――――――――――――――――――――――――――

ビルの屋上にいて、ジュンを監視しているのはゼロであった。


転落防止柵に座って、双眼鏡をのぞき込んでいるところだ。

以前ジュンが人を守る事を疑問視した結果がコレだ。


そんな滅茶苦茶な彼女でも驚くことはある。

双眼鏡ごしにジュンから手を振られた事だ、何キロメートルも監視対象から離れているのに。

「嘘ッ!?」

ゼロは、驚きのあまりふらりとよろけ……「堕ちる落ちるおちる!」

焦って慌てて安全な位置に戻ろうともがく、だが無意味、ゼロの体は完全に空へ投げ出されてしまった。

このままだと転落死だ。

――――――――――――――――――――――――――

一方、ゼロが落ちそうなのを見てジュンも焦っていた。

このままではゼロは落下死してしまう、どうするか。

「ッそうだ‼‼」名案をジュンは思いついた。

「精密モード!最低威力かつ衝撃力最大で‼」

巨砲は色々調整出来る、普通の戦闘では最大威力以外あんま意味無いので使わない機能だが……

今は役にたつ。


ぐんぐん地上に向かって落ちていくゼロに狙いを定め……彼女を撃った。

彼女の体は凄まじい衝撃力によって弾き飛ばされ、グルグル回転しながら屋上に戻った。

「よしっ!落ちるのは回避!」


まぁ落下死回避できたのはいいのだが。

ゼロは屋上で何度かバウンドして……ピクリとも動かなくなった。

「……あれ?死んでない?やばくない?」

ジュンの首筋を汗が伝う。

今の状況は完全に予想外だ。

―――――――――――――――――――――――――――――――

ジュンは壁を登って屋上に来た。ゼロが死んだか確かめるために。

もし死んでいれば救急車を呼びつつ心臓マッサージをしなければならないだろう。


顔をのぞき込むと、呼吸はしているとわかる。

どうやら銃撃されて気絶しているだけらしい、死んでない。


「良かった、守りきれた」

ほっとして気が抜けたから……ジュンは次の瞬間やって来る攻撃を避けられなかった。

「ウォオオオオオ!!!なんだお前ェエエエエ‼‼」

ゼロは起きた、その瞬間目の前のジュンに驚いて殴った。

「いて」 

本気のパンチらしく、ジュンの奥歯が抜けた。

「あっ、ごめん」

意外な事にゼロは素直に謝罪した。

「いいよべつに」

ごめんね、いいよ。の精神でジュンは抜けた奥歯を取り、ズブリと刺し直した。


「いやー良かった、守れた、そんじゃあ俺帰る」

ジュンはゼロの生存に喜び、家に帰ろうと立ち上がる。

「なんで私がストーカーしてたのか聞かないのはおかしい」

「興味無いし、お前仲間に誘ってもむだだろ」

「私は……人に興味ある、他人がわかればで自分もわかるかもしれない、から」

「へー」

「あのさ、ここは私の家、かもしれないんだ」

ゼロは下……つまりこのビルを指さして語り出した。

「らしいって?」

彼女は語りたいのだと悟ってジュンは質問してあげた。

「4年前から記憶喪失……なのかもしれない、私がいつからズレ空間に入れるかとかアイドルになった経緯とか、このビルを買った経緯とかは全然覚えてないから」

「まさか最強怪人に襲われた?俺がもうすぐ戦う相手のアイツ」

「なにか知っている?」

「あいつ記憶を奪う力も持ってるからね」

「襲われた記憶はないぜ」

「襲われた記憶自体も奪われたんだろう、あいつ結構能力に幅あるし」

「お前変、その最強怪人に詳しすぎるかも」

「だって戦った事あるし、敗けて逃げ帰ったけど」

「なるほど、敗けた事があるのに立ち向かっていくと」

「そりゃあ」

「ついてきて」

突然ゼロはどこかに向かって歩き出した。

基本彼女の言動は唐突である。

しかし、ジュンは文句一つ出さず慌ててついていく。


屋上のドアを開け、しばらく階段を下りた。

―――――――――――――――――――――――――

2人の辿り着いた無機質な部屋には、隙間なくでっかいタンスが並んでいた、何個も何個も。

「ここは収納スペース」

「って事は何かをしまってるわけだ」

「その通り、見たらびっくりするかも」

タンスの中からゼロが一つ開くと、人間1人が寝転べる程度の空間があった。

……しかしその広さよりも特筆すべき事がある、タンスの中に人がいる事だ。

手錠をかけられ足には鉄球をつけられた全裸の男がぶち込まれている。弱っているのが一目でわかる程、顔色は悪かった。


「大丈夫か?‼」

ジュンは慌てて男に問いかける。

「あー俺ちょっとさー、気の迷いで悪い事しちゃったんだよねー、それでゼロさんに閉じ込められて一か月もここに居るんだ、助けて」

男はぺらペら早口で巻くしてる、ジュンに必死で救いを求める。

「金‼‼金もやるからさ!その女殺してくれ‼‼そんで俺を助けてくれ‼‼」

ジュンがそれを聞いてどう思うかなんて一切考慮せず、男は救いを求める。

事情はよくわからないが、一か月も彼は閉じ込められていたらしいのだ。

おかしくなってもしょうがないだろう。

助けてやらないと、とジュンは思ったが行動に移すのはまだ早いとも思う。

この家はまだヤバそうな雰囲気がある、下手に動くよりもまず状況をもっと調べる事をジュンは優先した。


しかしジュンのその消極的な態度を見て男は激怒する。

「死ねよ!無駄に期待させやがって‼死ね‼テメェなんて死ね‼ゴミが‼‼」

男は荒れ狂っていたが、手錠と足枷によってただ芋虫のようにもがくしか出来ていない。

惨めという言葉がよく似合う。


「はいそれじゃあ今日のご飯」

ゼロはドッグフードの袋をいつの間にやら持っていた、それをガサガサ鳴らして男に見せる。

「いや俺ってさ、人間なわけで人間のご飯が食べたいわけですよだから……」

「コレでダメならお前にやるご飯ないかも」

ゼロに声をかけられた瞬間、急に男は涙目になった。

かなり深く強いトラウマを植え付けられているらしく、ガタガタ怯えながら涙目で震えている。

「わ、わかりました、ください、喜んで食べさせていただきます」

ゼロはタンスの中へとドッグフードをぶちまけた。

男は余程飢えているらしく、犬用の餌をグチャグチャと貪り始めた。

犬用に作られたものだから人間が食べて美味しいものではないのに、それでも食べないという選択肢は彼に存在しない。


「ついでに水飲めば?」

ゼロは男の頭からペットボトルの水をかける。

水は男の首筋や耳裏を経由して床にボロボロ落ち、ドッグフードをふやかした。

しかし男は食事を止めない、吐きそうな顏で食べ続ける。




「この前みたいにゲロ吐いたら自分で掃除してね」

ゼロは、とても気だるげにタンスをしめ鍵をかけ直した。

それっきり、あわれな男の声はしない。

防音加工のタンスらしい。


ジュンは、彼を絶対に助けると誓った、きっとこの家に訪問者がやって来たとしてもこの中にいる被害者に気づけない。

つまり自分が彼を助けなければ、死ぬまで監禁されているだろうから。


「それじゃあ次の奴を見せる」

「まだああいう人いるの?」

ゼロが次のタンスを開けば、また後ろ手に縛られた足に鉄球をつけられた全裸の男がいた。

彼女はまたしても水とドッグフードをやった。

そうやってたくさんのタンスを開いて開いて開き続け、結局拘束された男は15人いた。

「……こんなに人が捕まってるのを見るのは始めてだ」

「どいつもこいつも私の彼氏や夫、マネージャーを名乗った嘘つきだった」

「へぇ」

「私の記憶がないなら簡単に騙せると思って私を貶めようとどいつもこいつもやって来るから、ムカついて捕まえてる‼」

本当にゼロはイライラしていたようで、タンスを勢いよく殴りつける。

「ぐああああ‼‼‼」

ゼロは身を縮めて唸った、タンスが硬すぎてむしろ彼女が骨折した。

まぁそれはそれとして、ジュンは彼女の過去を察した。


人類絶滅を望んでもおかしくない程度に人の悪意を見てきたのだろう。

きっとここでタンスの中に入っている者だけでなく、たくさんの悪い人を見て来たのだ。


しかしだからといって、あのまま死んでいくであろう男達をジュンには見捨てられない。

彼らを守るためには何といえばいいのか、ジュンは考えた。

出来ることならゼロと戦わずに、どうすればいい。


「……監禁するより警察呼んだ方がいいんじゃないかい、引き取ってもらえるわけだし」

結果的にジュンは普通の事を言うだけだった。

「警察って何?その記憶消されてるかも」

ゼロの言葉を聞いてジュンは心の中でガッツポーズを決める。

普通の事を言ったのは、ベストの選択だった。

悪い人達を彼女が監禁しているのは、悪い人は警察に突き出すという常識を忘れているからなようだ。

ならばその常識を思い出させてやれば、彼女も滅茶苦茶な監禁はしないだろう。


ジュンは警察についての説明をした。

その結果「私がこいつらに餌をやらなくていい方法があるって事!?」と大喜びしてゼロは110番した、捕まえた男どもを引き取ってもらうために。


それから、警察を待ちながら二人で話す。

「15人も悪意持ちが来たのによく自分を守れたね、記憶喪失だったのに」

「……私はSNSの裏垢に日記を残してたおかげで、色々状況把握できた」

「へぇ、そりゃよかったじゃないか」

ジュンはSNSに疎く裏垢についてはよくわからなかった。しかしなにやら凄い事だろうなと思って感心した。

「過去の私の発言は悪意まみれだった、タンスの奴らよりひどいかもしれない悪意」

「そうかい」

ジュンにとっては彼女の悪意などどうでもいい事であった。


突如ゼロはスマホを取り出しジュンに見せた。

「……なんだいそれは?」

画面には暴言が無数に乗っている。

"A子死ね"や"マネージャーくたばれ"といった悪意満ち溢れる言葉がたくさん。

「私の裏垢だ」自嘲気味にゼロは笑ってスマホをしまった。


「結局悪意を嫌悪する私でも悪意まみれ、そんな人間本当に守る価値なんてあるのか?」

「人を守るかどうかに、価値って関係あるのかい?」

「……は?」

ゼロが目を丸くきょとんとした、彼女にとってジュンの価値観は非常に興味深く理解が難しいものだったがゆえに。しばらくその表情のまま沈黙。

「ん、俺が変な事言ったか?」

ジュンに問われゼロは首を振った、縦に。

「……手伝ってやろうお前の戦い」

それから彼女は唐突に切り出した。


「あ、じゃあありがとう」

ジュンはその申し出を快く受け入れる、元々この状況は望んでいたことだ。

驚くことは何も無い。

「お前が人を守るために戦う理由、探ってみたいかもと思った、お前意味不明だから」

「だから人を、守ろうって思ったからだって」

「……もう何も聞かない、聞き続けてもまともには答えてくれないかもしれないし」

ゼロの表情は笑みだったが、それに諦念が含まれているのは見て取れる、

ジュンはこういう時に相応しい発言がわからずとりあえず微笑んでおいた。


これにてジュンは戦う仲間を得たわけだ。



ちなみにやって来た警察の手によってゼロも捕まった。

たしかに詐欺をしようとした男達は悪いけど、そいつらを監禁して通報もせず、長期にわたり非人道的な扱いをしていたゼロも無罪放免とはいかなかったのである。

今回はカマドウマ怪人が出てきましたが……すぐやられちゃいましたね‼

こいつについて語ってもしょうがないので、ジュンの住む世界の謎をちょっと明かしちゃいましょう。


ジュンやゼロのように”ズレ空間”に入れる人は、彼らが住む世界にわずかにいます。

さらに、入れる者は皆武器を持っています。

ジュンやゼロに武器があるのと同じく。


ちなみに武器の種類を選ぶ事は一切できず、ズレ空間に入れるようになった瞬間完全にランダムで決まります。


ではそもそもどうやってズレ空間に入れるようになるのか……というと、完全に運です。

ジュースを飲んでいる時、走っている時、寝ている時、掃除している時、何もしていない時など……ズレ空間に入る能力は誰でもいつでも覚醒します。能力の持ち主は急に自然発生するのです。


そして覚醒の瞬間、自分は何かが変わったと腹の奥底から自覚が湧いてきます。

覚醒の後どうするかは本人次第です、一切ズレ空間に入る力を使わなくても何にも問題ありません。


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