四話 VSキノコ怪人
ジュンが初対面のよく知らない人に頼みたい事とは?‼
「仲間になってくれないか?」という事だった。
「え……?なんで?」
当然ゼロの反応も微妙だ。急に頼む事では決してない。
「俺は来月やって来る最強の怪人を倒しさないといけないけど1人じゃ厳しい、ので仲間になってほしい」
「だから何?私危ない事嫌だし、仲間になる義理もないかも」
ジュンに説明されてもゼロの反応は芳しくない、理由なく敵と戦うなんて普通は嫌だ。
戦いは美しいものではない。
当然の事ながら怪我はするし、疲れるし、嫌な思いもたくさんする。
おまけに死、生涯残るような怪我、トラウマといった取り返しのつかないことになるリスクもある。
なのでジュンは、受け入れやすそうな意義を説明することにした。
べつに理由があっても戦いは嫌なものだが、無いよりはマシだろう。
「最強の怪人はほっといたら人をたくさん殺す、君の周りの人間も殺されるかもしれないんだぜ、じゃあ守るべきじゃないのかい?」
「……ん?それは喜ばしいかも」
ゼロの返答はかなり衝撃的であろう。
人が殺されて嬉しいかもなんて……どう考えてもまともじゃないが彼女は本心から言っているようである。
「ちょっと冷たくないかい?」
「私は優しいよ」
「そうかい?」
「ほんとはみんな殺したいのに、死ねと願うだけで終わらせてる」
「へーそうなのか」
まぁジュンは他人がどんな思いを抱いていようと大して興味ないので、大して驚く事もなかった。
みんなを守れればそれでいいのだ。
だからただ目の前の彼女をどう説得すれば仲間にできるかだけ考えていた。
とりあえずグイグイ行っても逆効果なことは確かだろう、ので
「じゃあ気が変わったら連絡してくれ」
引いてみる。
ゼロに伝えたい事を簡潔に伝え、話は終わりだ。
ジュンは住処へ帰った。
それからいくら待っても連絡は来なかった。
ーーーーーーーーー次の日、学校にて。
ジュンは猪怪人と戦った廊下に飛び出る。
「ギャーッギャッギャッ!きのこっこ‼」
きのこ怪人が暴れまわっているのだ。
頭にはキノコのかさがある、体自体おそらくキノコ。
何もかもキノコでできていやがる怪人だ。
そいつは胞子を頭から吹き出して人を麻痺させていく。
現に廊下にいる殆どの生徒が倒れている、計70人ぐらい。
「麻痺……みんなの心臓や肺が止められたら不味いね」
ジュンは速攻した。
連射モードの巨砲で何発も命中させ怪人の体を穴だらけにした、その穴達から胞子が吹き出た。
「まずいな!」
すぐに射撃をやめる。どうやら怪我からも胞子は噴き出すらしい。
……きのこ怪人は「いてェエエエエ‼‼いたいいいいい‼‼穴だらけでエエエエエ」と転げまわり余計に胞子をまき散らす。
ジュンが撃てば当たる程隙だらけだったが、心理的に撃てない。
撃てば余計に胞子が飛び散ってしまう。
できるだけ少ない攻撃で倒さねばならない、下手に撃てば周囲を殺す。
ふと、“破壊モード”が脳裏に浮かんだ。あれなら胞子ごと消しとばせる。
ジュンはすぐさま首を横に降る、自分のだした案を強く否定する。
だってそれは破壊力だけを目的とした最強かつ最悪の力。
全てを壊し滅ぼし、あとには何も残さない。
そんなもの学校の廊下で使えば、校舎どころか生徒を消滅させる。
……つくづく使えねーモードだとジュンは思う。
存在しているから常に頭に選択肢として浮かんでくるが、守る相手を殺しちゃあ意味がないので使えない。
けれどもついついアレを使えばと考えてしまう。
存在自体が思考を邪魔してくる。
「……精密モードオン」
仕方無しに巨砲を精密モードにした。
威力ならこれでもある程度持ってる、急所さえ狙えば即死させられるだろう。
ごろごろ転がっていたキノコ怪人は起き上がって、いつのまにかジュンの方を向いて動き回っていた。
狙いをつけさせないために、反復横とびしたり飛び跳ねたりしだす。
「当たらん!お前の動きは遅い!」
「……まずいね」
キノコ怪人が達者なのは口ばかりでそんなに速くない、普通の人間並の速度だ。
正直アリ怪人よりはるかに弱い相手、弾を当てるだけなら余裕である。
だから急所をぶち抜いて即死させれば簡単に勝てる。
しかしジュンに疑問があった。
そもそも”キノコの急所"はどこだ?
これまで戦ってきた怪人は猪だのカマキリなど何となくどこを撃てばいいかわかる奴らだったが、今回は違う。
きのことはいえ人型だし胸や頭部を撃てば即死するか?となんとなく思う。
だが仮に間違っていれば胞子は飛び散る。
倒れている人々はさらに毒を受ける。そうなれば危険だろう。
どうしようか、ジュンは迷う。
そんな彼の後ろから声がかかった、いきなりだった。
「……あなただけで倒せないのなら!」
なんて女性の凛とした声。
「なんだッ?‼」
唐突に、女性が現われジュンの横をすり抜けてキノコ怪人に走っていく。
彼女が何者か……所属だけはわかる、同じ学校の生徒だ。
だって女子用制服を着ている。
しかしそれ以外の事はジュンには一切わからない。
そんな謎の女子生徒はいきなり現れて戦闘に協力してくれた。
彼女は二本の剣を持ったいわゆる二刀流で、真面目そうな美人である。
そんな彼女は躊躇なくキノコ怪人に切りかかった。
キノコ怪人は必死で斬撃を避ける。
女性は斬りつける、怪人は避ける。
二本の剣からまさしく流れるようにとめどない攻撃を繰り出し、キノコ怪人は避けるだけで精いっぱいであった。
そして、いつの間にか自然とキノコ怪人が背をジュンに向けるようにしていて隙だらけだ。
ジュンは頷く。
つまり女性がキノコ怪人を引き付け隙を作るから、その間に最大威力の射撃をぶち込めという作戦だろう。ジュンはそう解釈した。
「……あなたが何者か知らないけれども、助けてくれて感謝!」
しかし、キノコ怪人の急所がどこかは全然わからないままだ。いくらしっかりねらって当てれるという確信が得られてもそもそもどこを狙えばいいのだ?
「まぁ、いつまでも撃たないわけにはいかないか」
毒を受けた被害者達は徐々に衰弱していっているし、悠長に構えていたとしても良い作戦が生まれるとは思えない。
だから、撃つべきだ。
「精密モード……‼」
ジュンがなるべくキノコ怪人を破壊できるよう狙いをつけだしたその時
「儀解体‼‼」
なにやら女性が技名っぽい事を言うとともに、怪人がバラバラになった。
女性が何にも考えず、怪人を剣で滅多切りにしたのだ。
ジュンの解釈は間違いだった、女性は別にジュンと協力しようとしていたのではない。
ジュンにとって丁度良く怪人を動かしていたのは、ただの偶然。
この女は別に胞子が出まくってもいいやと考えていた。
当然バラバラになった怪人の体それぞれから胞子が大量に噴き出る。
きのこ怪人はバラバラになってもまだ生きているらしく、胞子はどんどん広がっていこうとしていた。
女性は飛びのき胞子を躱せたが、床に倒れている生徒達はこのままでは危険だ。
もっとたくさんの毒を受けてしまう。
だから怪人はバラバラになって、このままでは胞子は広がっていしまう。
「胞子がッ‼広がって人が……連射モード‼バラバラの肉体でも潰せば‼‼」
ジュンは焦り叫び慌てながら弾を撃つ。
連射モードの弾でバラバラになった体を撃ちまくる。
急所もクソも考えず、とにかく撃ちまくる。
バチュンバチュンバチュンと、キノコ怪人の体ははじけ潰れていく。
その度に胞子は噴き出すが構っていられない、ジュンは必死で撃ち続ける。
そしてしばらくすると幸いなことにちゃちゃっと殺せたらく、怪人の死体がいつものように消滅した。
そして胞子も広がる前に消滅した。
急所がどこかわからないなら、全部の個所に攻撃してみればそれでよかった。
戦いは終わった。
場の雰囲気も緩む、ジュンは床にへたり込むように座った。
ただの強敵と戦うよりも、力を発揮できない敵と戦う方がもどかしくて疲かれる。
「……ふ――ッ、とりあえず仲間になってくれないか」
ジュンは休憩しながら女性にたずねてみた。
いきなりだとわかっていたが”最強怪人”はなりふり構わず仲間を集めないと決して勝てない相手だ。
「まず仲間にはならない、というか前断ったの覚えてないの?」
「過去はあまり覚えてない、振り返る事もないしね」
「……スタジオ、アリ怪人」
女性のセリフでジュンは全てを理解した。
「あぁ、あの人ね」
アリ怪人との戦いの時ズレ空間に入って来た女性がいた。
ゼロと名乗っていた彼女だ。
今はファッションが普通なせいでわかりにくいが、確かに昨日会ったゼロだ。
仲間に勧誘したら断られたあの。
「とりあえずありがとう、俺だけじゃあ攻撃の決心はつかなかったからさ」
「べつにいいわ、あいつの範囲攻撃は私も死ぬかもしれないから戦っただけ」
「へぇ、それじゃあ最強の怪人とも戦ってくれないかい?そうしないと街ごと壊されて君も死ぬかもしれない」
「私金もってるから、遠くに引っ越せばいいだけかも」
「たしかに、それじゃあ君は一緒にたたかってくれないか……」
「……しかしお前って同じクラスなのに私を知らないのね、めっちゃ凄いかもってくらいのアイドルなのに」
「あんま人に興味無いし……」
あっけからんとジュンは答える。
ゼロは鳩が豆鉄砲を食ラッタ用な顔で立ち尽くした。
ふと、ピーポーと救急車の音がする。
胞子で倒れた人がたくさん出たので誰かが通報したのだろう。
ジュンはズレ空間から出た。
窓から校庭に到着した救急車に「ここに傷病者います!ここです!70人くらい!」呼びかける。
そんな彼を尻目にゼロは、頭を抱える。
「人を興味ない程度に思ってるなら、なぜ命懸けで守ってるの……?わからない……」
一切合切、ジュンの事がゼロには理解出来なかった。
ズキリという頭痛までし、苦虫を噛んで強く味わっているような顔をしていた。
今回ジュンが戦った相手はキノコ怪人でしたね。
ジュンは苦戦しましたが、能力だけで考えればはわりと有利なんですよ。
だって遠距離武器ですから、胞子が噴出しても届かない安全圏からじゃんじゃん撃てるんですから。
逆に今回始めてまともに戦ったゼロさんは、キノコ怪人と相性悪いですね。
彼女の武器……剣を使って攻撃するには近寄らなければならず、胞子の反撃を受けやすくなりますから。
でも性格的にはジュンが不利でゼロは有利でしたね。
周りの被害を気にして攻撃出来ないジュンと、気にせず攻撃出来るゼロなので。
危険な怪人をとっとと倒すという観点から見ればジュンよりもゼロが巨砲を持っている方が人間社会にとっては有益かもしれません。
でもなるべく人を守ろうとするジュンの方が、巨砲という武器を持つにふさわしい気がします。




