二話 VS猪怪人
“巨砲”によってカマキリ怪人を倒した男には名前がある。
盾石ジュンだ。
盾石が性でジュンが名。
なぜわざわざこんな話をするかというと、現在彼が高校の教室にいるからだ。
なので男という呼び方を続ければ、ジュンとそれ以外の生徒が非常に紛らわしい。
ちなみに今は朝礼中。
ジュンが先生から怒られていた。
「お前いい加減遅刻をやめろ!留年したいか?」
先生は真面目なトーンだった。
「したいわけじゃないけど、まぁしてもいいですね」
しかしジュンはどことなく面倒くさそうだ。
遅刻には慣れている。よく怪人と朝戦って時間を取られるから。
だがそういう経験は表情に出るのでより先生を苛立たせる。
「お前なんだそのふざけた態度は!まるで反省していないみたいな顔をして!」
「ふざけてないです、べつに留年しても本当にいいだけなんです」
先生は激昂する。
それは当然だ、生徒が留年していいと口にすれば、怒らねばならない。
しかし先生も忙しいし、朝礼が終わればジュンばかりに構わず教室を出ていった。
他にも業務は色々ある。
少し感情的すぎるが、やるべき事のわかっている良い先生である。
一方叱られたジュンはクソみたいな生徒だ。
堂々と居座って学校生活を送った。
どの教科も課題をやって来ないので、基本毎時間叱られた。
べつに怪人との戦いに時間を取られて出来なかったわけじゃあない、純粋にどうでもいいと思っているのでやっていないのだ。
日常生活においての彼は、怠惰を極めた人間である。
前科持ちの噂がある先生の課題も、ジュンは平気でやって来ないのだ。
それで滅茶苦茶怒られても一切気にしない。
なので周りの生徒や先生からある意味で一目置かれている。
そして昼休みになった。
ジュンは自分の席で眠りだらけていた。
外に遊びに行ったり本を読んだりはしない、ただただ気楽に休む。
怪人との戦いがいつ起きるかわからないから、わざわざ動かずに体力を残している。
しかし、そういうのほほんとした彼が気に喰わないヤツもいる。
いきなりジュンの机にナイフが突きさされた。
木片が飛び散る。
「おいおいどうしたんだよ?急だなぁ」
ジュンは寝ぼけ眼でたずねる、ナイフ使いの男子生徒に。
……ちなみにこの不良生徒は、どんなクラスにも最低一人はいる程度の不良だ。
自分の気に入らないことにわざわざ関わらない程度の度量すら持っていない。
やり場のない怒りをひたすら八つ当たりで解消しようとする、そんなやつ。
「お前学校くんなよ」
不良はジュンの胸ぐらをつかみながら理不尽な事を命令する。
どうやらそうとう苛立っているようだ。
ジュンには理解出来なかった。
彼はなぜ一度も話したことすらない人にそうやって絡むのか。
とりあえずジュンは不良クンとの話を続ける事にした。
「なんでかな?学校に俺が来ちゃいけないなんて」
「お前のそのカッコつけた態度見てて恥ずかしいんだよ」
「気にしなきゃいいじゃないか、お互い名前も知らない相手だろ?」
「うるせぇ‼学校の品格が下がるんだ!失せろ!」
不良は唾をまき散らしながら理屈なんてなく叫ぶ。
当然唾液はジュンの顔にめちゃくちゃかかり、どぶのように臭くなった。
「……ナイフを持ち出したり唾を吐いたり……そんな君の品格はどうなんだ?しかも君の唾はかなり臭いぞ、ラフレシアでも口内栽培しているのか?」
不良は舌打ちした。
それからナイフを机から引き抜いて、ジュンの首に突きつける。
「この学校を舐めるんじゃねぇ」
必死で殺意を抑え込もうとしている声であった。
だがジュンはまるで怯まない。
「生徒が人にナイフを突きつけるような学校なんて舐められて当然では?」
「んだとテメェ」
「君の行動はむしろこの学校を貶めているんじゃないか」
とんでもない事に、ジュンの発言に煽る意図は一切無い。
純粋にそう思ったから言っただけだ。
しかし不良はそう受け取ってくれない、ジュンの心底に悪意があると見誤る。
「……死ねッ‼‼」
「やだ」
ジュンは少し首を逸らす。すると不良のふるったナイフは空を切った。
「ッ‼避けた!?」
「眼球切ろうとしたじゃないか、避けるよ」
「俺を舐めてるだろ‼避けるなんて……」
余程攻撃を外したことがショックで、不良は怒りをぶつぶつと吐き出し始めた。
「おまえふざけんじゃねえよ俺の攻撃を避けやがってお前なんか自殺した方が世の中のためなんだよお前は生きてても周りに迷惑しかかけない愚図なんだだから死んだ方がいいんだ、死んだ方がいいんだ」
そしてその怒りは一気に爆発した。 とめどなく不良の怨嗟が漏れる。
やはりジュンには彼が分からなかった。
彼の行動のすべてが、しかし気にもならないので別に良かった。
「いいかげん胸ぐらをつかんでる手、離してくれるかな」
「死ねんtんふぁお@いjふぇw@いヴぉsjさわごいあえうぃj@「あsjvアアアアアアアアアア‼‼‼‼‼」
不良は奇声を上げながら、ナイフを高く大きく振りかぶる。ジュンの顔面に突き刺そうとして。
その瞬間‼‼
「ギャアアアアアアアアアアア‼‼‼」「イヤアアアアアアアア‼‼」「助けて!!」「うぎゃあああ」
無数の悲鳴が一斉に聞こえて来た。
とはいえ高校ではよくある事なので生徒達はほとんど誰も気に留めない。
ふざけあい中に悲鳴をあげるやつはよくいる。
しかし不良は人を殺すという精神的緊張状態に有った。
ので急な大声に驚く、ポトリとナイフを落とす程。
そしてジュンも悲鳴に驚いていた。しかし不良と違って大声自体に驚いたわけじゃない。
……今のが、本当に殺されそうな人間の悲鳴だと理解したのだ。
ジュンは廊下の方を見て更に耳を澄ます。
どうやら何人もの生徒たちが、転んでいるらしい。
それになんというか怪人がいそうな雰囲気だ。
……怪人が出そうな雰囲気とは具体的にどのようなものかというと、わりばしを理由なく天井に吊り下げた時の雰囲気だ。ジュンはそう感じている。
「しょうがないな」
ジュンがぐっと体の奥底に力を入れた。
その瞬間から、不良はジュンを認識できなくなる。
「ッは!?‼アイツどこ行った?‼」
不良は気を取り戻した、もはやジュンをグチャグチャの死体にする事以外もはや考えていない。
廊下の異常には一切気づいていなかった。
「おいおい、俺は目の前だぜ?」
そしてジュンは不良の目の前にいた、しかし不良はジュンに気づかない。干渉できない。
そういう空間にジュンは入った。
「この”ズレ空間”に入ったら、君のいるような空間から認識されたり干渉されたりしない、ちなみに怪人はどいつもこいつもここに入れる」
何も聞こえない不良に対して説明してやる。
この行為に意味はなく、なんとなくやろうと思ったからやっているだけだ。
「だがこっちから認識と干渉する事は出来るのさ、だから怪人は人を殺せる」
ポン、と不良の肩を叩く。
「ヒィ!」
不良は短く悲鳴を漏らした。そして立ったまま震えて動かなくなった。
「ビビっちゃって恥ずかしいねぇ……」
ジュンはカマキリ怪人と戦った時と同じように巨砲を右腕にまとい、廊下へと踊り出る。
今日もジュンは始める、殺し合いを。
廊下では怪人が暴れていた。
そいつの事は“猪怪人”と呼ぶのが相応しいだろう。そんな見た目。
怪人は猪のように姿勢を低くし、猪をゆうに越えた速さで廊下を駆け巡り生徒を次々こかしていく。
廊下に二本足で立てている者は誰もいなかった。
立ち上がろうとしたものはすぐさまこかされる。
要するに今回の相手は、人を転ばせる怪人だ。
ジュンはすぐ猪怪人を速攻殺さないといけないと理解した。
人を転ばせるだけの怪人、と聞けば大した事が無いように感じるかもしれない。
だがしかしそれは大間違いである。
頭から床に落ちたり、階段や窓から落ちたり、転んだ結果そうなれば人は死ぬ。
実際猪怪人のせいで、骨折程度の怪我人はもういる。
幸いまだ死人や生涯残るクラスの怪我は無いが……放っておけば、間違いなく大きな被害が出る。
「……巨砲”精密モード”起動」
ジュンは誰にも聞こえないボリュームで呟き、いつも通り巨砲を右腕にまとう。
猪人間はジュンに気づかず立ち上がろうとした人間をこかし続けている。
目で追うのは厳しい程速い相手だ、適当に撃っても射撃は当たらないだろう。
なのでゆっくり、正確に狙いをつける。
ジュンは巨砲を構え、そして撃つ。ただこの場にいる人間達を守るため。
巨砲の発射したものはカマキリ怪人の時と違い”弾丸”だ。
弾丸は丸く小さい、だからカマキリ怪人に撃ったものとは違って体を消滅させるような強すぎる威力は無い。
だがそれでも鉄柱を粉々に出来る程度の威力を持った弾丸が、”精密に”猪怪人の進行方向に向かっていく。
偏差射撃だ、当たれば殺せるだろうし完璧に当たる起動だった。
しかし、猪怪人はかわした。たまたま足がもつれてこけることによって。
「はずれブヒ!」
猪怪人はジュンに気づき笑う。
「そしてお前の攻撃はもう当たらんブヒ」
おまけに、人間を盾にするような軌道で駆け巡り始めた。
「運で避けてよくいきがれるね」
なんて馬鹿にしつつも、ジュンは少し困っていた。
怪人はどんどん立ち上がろうとする人をこかして傷つけるのだから早く殺さないといけない。
だが不用心な射撃は出来ない、人間がたくさんいるのだから怪人以外を殺してしまいかねない。
かといって精密射撃をしようにもジュンの位置はバレきっている分当てにくい。
カマキリ怪人に使ったあの光線も使えない。
アレは校舎を確実に壊すうえ、下手をしなくても確実に生徒を巻き込んでしまうからだ。
いちおう巨砲には読者の知らない力があと一つあるが……、それを使っても現況打破は不可能だろう。光線と同じくこの状況では誤射しかねないものだから。
「これからどんどん激しくなるブヒ!」
猪怪人は困るジュンにお構いなくあちこちへ突撃し駆け巡る、人をこかし続けながらそうしながらどんどん速度が上がっていく。
パリン、パリンと怪人の起こす風で窓ガラスが全て割れた。
強力なかまいたちによってこかされた人間の足がバッサリ切られて血が噴き出た。
あちこちで赤い噴水が増えていく。
ジュンは汗を一筋書いた、被害者はみんな治療しないと死ぬ量の出血をしている。
「お前は一撃で殺してやるブヒ!」
いきなり猪怪人がジュンに向かって突撃し頭突きをしかけくる、のでジュンは巨砲をすぐさま消してにサイドステップで避けた。
「はッ!?」
「……回避は出来るけど……反撃するのは難しいな」
今当たれば死ぬ攻撃に襲われたがジュンの感情に恐れはない。
躱すだけなら永遠にきっとできる程度の速度だったから。
対照的に猪怪人が尋常でなく驚いていた。
人間如きに自分の攻撃がかわされない自信があったのだ。
それは決して過信では無い、闘牛の数倍速い突撃なのだから。
ジュンが避けられたのは、ただコイツが凄いやつというだけだ。
「ちょっともう一回突撃してきてくれないかい?カウンターぶち込むから」
ジュンはなんとなくたずねてみる、本人も通るわけがない要求と思いながら。
「そ、そんな事するわけないブヒ……」
あたりまえの返答がやって来た。
……猪怪人はおじけづいている、本気の一撃を余裕でかわされたのだから。
出来る事ならジュンと戦いたくないと思っていた。
「ちょっといいかブヒ、お前にとっていい取引を持ち掛けてやるブヒ」
そしてなにやら賢そうなことを言い出した。
「なんだい?」
ジュンは聞いてみる、倒す策が思いつくまでの時間稼ぎに。
「わたしを邪魔しなければ、お前に変わってそこの不良を殺してやるブヒ、だからわたしと戦うなブヒ」
”そこの不良”とはジュンの机にナイフを突き刺した不良の事だ。
……その不良はジュンが急に消え、見えない相手から肩を叩かれた事に混乱していまだ立ち尽くしていた。
だから今が危険な状況と気づけていない。廊下で人が転んで窓ガラスが急に割れるのにも気づかぬほど無防備。
猪怪人は確実に彼を殺せるだろう。
ジュンの机にナイフを突き刺したり、ジュンに唾をかけたり滅茶苦茶してきた彼を殺せるだろう。
ジュンはすこし”うーん”と口にした。
それから「まぁそいつなら殺したら嬉しいかもしれないね」と心の底から言った。
「では、殺ってやるからこれからわたしのことを邪魔するなブヒ」
猪怪人は笑う。これで少しでも危険そうな相手と戦わずにすむのだと興奮し、不良に向けて、ぐんぐん突進していく。人に当たれば内臓をグチャグチャに出来る速度で。
しかしその突撃は止められた、ジュンが不良と怪人の間に割り込んで手で抑えたのだ。
「貴様っどうやって!?」
「そりゃあ狙う場所がわかってるんだから……あとはタイミングだけだろ?」
「馬鹿なブヒ!人間に耐えられる速度の突進では……!‼」
「根性さ」
超速度の突撃を止めたジュンの手の表皮がちょっと、いやかなり摩擦熱で溶けていた。
当然そんな怪我をすれば血がだくだくと溢れて止まらない、空気に触れるだけでも鋭く痛みが走る。
ジュンは気合で我慢して猪怪人の体を強く握る。肉をもぎとろうとしているかのごとき力で握る。
ダメージを受けた手でそんな事をしたから血が噴き出た。
「な!なぜ奴を庇うブヒ!気に喰わないのでは?なぜ守る!」
猪怪人にはわからなかった、なぜ守る。なぜ嫌いな相手を。なぜムかつく相手を。そうまでして守る?
「気に喰わなくても守るのさ!」
ジュンは掴んだからにはこっちのものだと言わんばかりに、巴投げで猪怪人を投げ飛ばす。
「うわああブヒィ!」
猪怪人は空中で悲鳴を上げる、身動きが取れない自分の末路はすぐにわかった。
ジュンが巴投げ終わりの体勢……仰向けのまま巨砲を出したのが猪怪人の視界に入ったのだ。
「待てブヒ!」
身動きが取れないなりに怪人は、もがく。撃つのは待ってくれと叫ぶ。
まさしく惨めで情けない姿を晒している。
「トリガーは引いた、つまり手遅れだ」
だがジュンの答えは非常に厳しいものだった。
「ブヒイイイイイイイイイイイイイイ!」
仰向けのままジュンは既に撃っていた。ちゃんと狙いはつけている。
放たれた一筋の弾丸は……猪怪人の心臓を綺麗に撃ち抜いく軌跡を描く。
ジュンの勝利だ。
床に落ちた猪怪人の死体は、前と同じように消滅した。
「……俺が安らかな眠り、祈っておいてやる」
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ジュンは教室を見てすぐ驚いた。
不良がジュンの机をジュンの椅子で必死に殴りつけていたのだ。
「クソ……盾石のヤツ逃げやがって、絶対に殺してやる」
どうやらジュンが逃げたと思っているらしく、それが気に入らないようだ。
拳から血が吹き出しても殴るのをやめない。
「うわー、こっわいねぇ……」
しかも床にはジュンの教科書やノートがちらばっている。どれもズタズタに切り裂かれていてもう使えない。明らかに新しく買ったほうがいい。
「クソ……俺は留年したのに!あいつは気にしてなくてムカつくぜ!」
不良は相当苛立っているようで、ジュンの椅子を持って窓ガラスを破壊し始めた。
先生は不良を止めに来ないのかなー、と思ってジュンはキョロキョロ辺りを見回す。
来ていない。来る気配や雰囲気もない。
クラスメートは先生を呼びに行っていないのかと驚く。
現在教室にいる奴らは、あんまりまともじゃなかった。
クスクス笑いながら「やばくねー?」とカメラに不良の奇行をおさめる者、ただ怯える者、様々だ。
どうやら今昼休みなせいで、呼びに行ってくれるタイプは外にいるらしい。
どうするかジュンは考える。
今すべきことはなにか。
……時間が経てば不良の怒りの矛先がクラスメイトに向く可能性が思い当たった。
それはまずい、確実に死人が出る。
ならば守らなければ。
ジュンは体の奥底から力を抜いてズレ空間から出た。
だから普通の人間からも認識や干渉をされるようになり……
「もっと平和に生きた方が良いと思うぜ、こわがってる人も教室にいるじゃないか」
とジュンが話しかければ
「てめぇ‼いつの間にそこに!」
不良が気づく。
「さっきからここにいたよ」
「死ね!」
不良はジュンに椅子を投げつける。しかし怪人と格闘戦して勝てるヤツになまっちょろい飛び道具なんて効果的なわけがない。
ぱしりと椅子を受け止めて、優しく床に置き直した。
「俺の方が凄いのに!周りから認められるべきなのに!ムカつくぜ!」
「へー、そうなんだ、よくわからない事を言うね……」
ジュンはまたしても意図せず煽ってしまった、つまらなそうな声色で返事をしてしまった。
それが不良を尋常でないほど怒らせる。
「ふざけやがってあgじ@おv:pvjそいjらげごぢl。vbんhdると;‼‼‼‼」
不良が怒りのあまり叫び声をあげながら、ポケットから注射器を取り出した。
それを腕に突き刺すと全身の筋肉が膨張して、元の三倍のサイズに膨れ上がる。
教室の天井を突き破りそうな程不良は大きくなった、どうやらドーピングをしたようだ。
不良は明らかに異常な状態だ。
血管は浮き出まくっていて予防接種しやすそうだし、肌は血のような赤に変色している、目から黒目が失われ全て白目だ。
「おいおい、滅茶苦茶だなぁ……でも守ってやるよ、君も」
「がうぇbじゃwてゃ殺す殺す殺す殺す殺す」
もはや不良にジュンに対する殺意以外の感情は無く、丸太の様に膨れた腕を振り回しながらジュンを追いかける。理性は全て崩壊していた。
不良のやることは腕を振り回し滅茶苦茶にパンチを撃つだけだった。
だけ、とはいえ並の相手ならは殺せるだろう。
巨大質量による攻撃というものは脅威だ。
なのでジュンを相手取った事は彼にとって不運な事である。
ジュンは並大抵の人間ではない。
余裕で不良の猛攻を避けられる。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア‼‼‼」
「おいおい、多少の言葉も失ったのか」
ジュンは避けながら考える。
どうやってこの事態を解決するか。
巨砲で撃てばすぐ終わるだろう、だが人を殺す選択肢は最初からない。
ジュンはどんな相手でも守るのだ、べつに正義や倫理に関係なくただただ守るだけだ。
そしてジュンは躊躇なく、教室の窓から飛び降りた。
ここは4階だったが、絶対死なないという確信があった。
怪人と戦ってきた彼は、自分がどのくらいまでやれるのかわかったから飛び降りたのだ。
しっかり前転回転受け身を取って無傷で着地した。
そんな彼を追いかけて不良が窓から飛び降りようとしていた。
しかし彼の体はあまりにも大きくなっていて、まともに制御が効かない。
体勢をふらりと崩し、べきべきと窓枠や壁を壊しながら不良は落下した。
当然不良は、なかば滑稽に地におちる。
受け身は取れていなかったが、ジュンの思った通り死んではいない。
膨張した異常な強化をされた肉体が彼を守ったのだ……まぁある程度のダメージはあったようで気絶した。
ドーピングした体はみるみるうちにしぼんでいき、元に戻る。
ジュンは救急車を呼んでやろうとスマホを取り出した、その瞬間不良が目覚めそうだと気づく。
きっとジュンがこの場にいっぱなしでは、また戦闘になってしまう。
不良は命を捨てても殺したいほどジュンを憎んでいる。
だからジュンはその場から逃げつつ救急車を呼んだ。
―――
こんな風に盾石ジュンはいつも戦っていた、ただ守るために。
いつか死ぬとしても、どれだけ死の危険に陥っても、守る事を決して止めないヤツが盾石ジュンであった。
今回の敵の猪怪人はカマキリ怪人と比べてジュンが苦戦していましたね。
しかし猪怪人側からしてもジュンに困ったでしょう、ジュンには突進攻撃が当たらないんですから。
つまりお互いに攻撃を通せずに、両人とも苦戦したわけです。
今回は、なかなかもどかしい戦いだったわけですね。