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十話 VS最強怪人その2

ジュンは周りを囲む怪人を巨砲で撃っては倒し、撃っては倒し、倒し倒し倒し。

しかしその度に最強怪人はその手に持った銃で怪人の卵を撃って来る。


「厳しいな‼‼連射モード……!」

一匹一匹倒しても、間に合わない。

だからといって破壊モードは無理だ、チャージ時間が致命的。

だから連射モードに変えた。

無数の弾丸で一掃しようとしてみた。


威力が低すぎて無駄だった。


「精密モード‼」

今さらモードを戻しても、生まれてしまった隙に付け込んで怪人共は一気にジュンへ飛び掛か……らなかった。


「雑魚相手に手間取りやがって」

鞭が怪人10体を一気に消しとばされた。

何が起こったのか一瞬わからなかったが……どうやらウィナがやって来てくれていたようだ。すぐそこにいる。


「なんでここに!?」

「空!」

ウィナは空を指さす、雲一つない青空。

「あぁなるほど」

ちょっと前最強怪人の弾丸が町から雲を消した。確かに勘のいい奴なら異変に気づいてもおかしくはない。


「とにかくありがとう!来てくれて!」

「手間取りやがってこの程度の相手によ!」

「君の鞭が集団戦に向いていて、俺の武器は向いてないだけだ、つまり仕方ない」

「……とにかく倒してこいあいつ」


ウィナが指差す。その先は、怪人がはびこっていて見えない。

しかし、何に向けた指かは言われずともわかる。

最強怪人だ。

「走れ!」

ウィナを信じてジュンは走る。眼の前から怪人が次々と消えていった、鞭が怪人共を倒していく。


「おおおおお!」

怪人の群れからジュンは飛び出した。

つまりそれは後ろのウィナが一人で敵に囲まれたということでもある。

だが振り返らない。


最強怪人と戦っている者が既にいる。

「ゼロさん‼‼」

ゼロだ。

あの二本の剣で戦っている。


「援護するッ!」

ジュンはすぐさま巨砲を構えた。隙をついて攻撃していくつもりだったが、なかなかその隙はない。


「なんでここに来れたの聞かないのはおかしい、投獄されてたんだよ私!」

ゼロは話すのに集中して一発蹴られた。よろけながらも剣を振って反撃する。最強怪人は身をのけぞらし避けた。

「喋りながら戦える相手じゃない‼集中するんだ!」

「牢屋にいる時物凄い振動を感じた、ので何かヤバイかもと思いここに来た」

さらにもう一発蹴りがゼロの腹に入れられた。ゼロの口から胃液と唾液が飛び散る。

「俺と喋りながら戦える相手じゃないってば!」

ゼロは流石にジュンと話すのをやめて相手とだけ向き合い始めた。


さて、戦況はこれでようやく整った。


雑魚を狩りまくるウィナの鞭。

前面に出て最強を抑えるゼロの剣。

そして最強にとどめを刺そうと狙う最大火力……ジュンの巨砲。


「なるほど……前より強くなってていいね、二人でかかってくるのか、そして乱射モードは鞭で対処……」

最強怪人は本当嬉しそうな様子だ。


「モード……なんかジュンに似てるかも……って事は他にモードが?」

「ゼロさん、そいつ威力の高い単発弾丸もある!食らっちゃダメだ」

「わかった」

ゼロはそう言われて、逆に最強怪人へと一気に距離を詰める事にした。

敵は銃を使ってるのだ、下手に距離を取ったら剣使いは一方的にやられてしまう。



ゼロは走る。

走りながらスライディングして、最強怪人が迎撃にはなった銃弾を避けた。

決して見切ったわけではない、とりあえず姿勢を低くしていたら運よく躱せただけ。

あの弾を意識して避けるなんて無理、絶対に。

今起きたのはまさしく奇跡。


破落撃(ハ・フォール)!」

ゼロは気合いれのため技名を叫び、足を切り裂いてやろうと剣を振るう……が効かず弾かれる。

儀解体(ギ・セパレート)!死殴打(シ・ルイン)!是怨恨(ゼ・カース)!御壊滅(ゴ・カタストロフ)!」

挫けずにまた振るいまくる。切れなくてもいい。滅茶苦茶に斬りまくる。

技名に意味はない、単なる気合を入れるため。

要するに鉄の塊二本持ってるみたいなもんだからと、ゼロは殴りつづける。


すべての技がダメージ無しだがそれでも無駄にはならなかった。


最強怪人の射撃を邪魔出来た。

ダメージは一切無くても蠅が飛んでいれば気になって潰したくなる。

そんな風に最強怪人の集中力を削いで、少しだけジュンへの攻撃は無になった。


……そして弾丸が飛んでこなければ狙いをつける事に集中出来る。小さいものもねらえる。

バチュン。最強怪人の眼球に弾丸が当たった、当然ジュンが撃った。

しかしがんきゅうにあたったのに効いていない。

精密モードの威力じゃ眼球ですら効果が無い。


「ジュン、こいつ攻撃効かないってわかってたのに、効くかもしれないみたいな素振りみせてたっぽい!」

ゼロが怒りを吐き捨てる。

「バレたか、記憶奪う前に大体の攻撃は食らったことあるの」

最強怪人は悪戯がバレた子供のようなバツの悪い表情を見せた。

「最後までバレないよーに戦ってみたかったんだけど、やっぱりダメか」



一瞬、空気が凍り付いた。

戦っている三人は少しの間、自然と静止して対話を始める。



「……記憶喪失だからって私たちをバカにして!」

「ちなみに他にももっと色んな人の攻撃食らったことあるよ」

ゼロはそれを聞きかなりの気持悪さをおぼえた。

怪人は色んな町を滅ぼしてきたのだろうと察せる。

ゼロも憎しみは持っているがそこまでの破壊衝動は理解出来ない。


「……なぜたくさんの町を滅ぼすそうとするの?かなりおかしいかも」

「ん?破壊しようと思ったから」

「壊そうと思ったから……って?それだけで?!周囲への恨みとかは!?」

「いやまるで無いんだけど」


「っていうかさぁ、僕の方が聞きたいんだよね、みんななぜじぶんの思ったことをしない?」

最強怪人はゼロが何を驚いているのか一切わかっていなかった。ポリポリ頭を掻く。

「それは……なんでだろうな」

ジュンがつぶやく。


「行きたくもない仕事やり続けて自殺したり、やってもいない犯罪の自白したり、やりたい事やれないなんて嫌だと思わないか!?思うがまま生きれば幸せなのに!」

「……考えられないの?好きに生きるためには邪魔なものが沢山ある事」

ゼロの返答はほぼ怒声だった。

剣を最強怪人に振るう、避けられる。

「私は取り調べ受けた事あるけど、たぶん無実の人がアレ受けたら精神的に来るかもって思った、嘘でもいいから自白して楽になりたいって思ってもおかしくない」

「そういった邪魔があるからって、諦めなくてもべつにいいだろ?」

最強怪人は堂々と力強く宣言する。

言った全てがこいつの信念に基づいた言葉だった。


「そうやってお前が人を見下せるのは人の痛みを想像できない冷たい怪物だから、だいたいの人はそこまで強くないし、お前如きじゃあ予想すらできないしがらみがあるんだよ」

ゼロは怪人の言葉に納得いかなかった。

「いや俺はけっこう賛成だ……何があっても諦める必要無いってのは良い言葉だと思う」

だがジュンは最強怪人の理屈にわりと納得していた。


「そうやってこっちの理屈に納得できるお前がなぜ街を滅ぼすのを止めようとする?」

「お前の理屈で言うんだったら……俺が人を守るのを諦める必要性も無いって事だろ」

「そうだね」

ジュンと最強怪人は笑いあう。

さも友達が他愛ない会話をして可笑しくなったように。


「ちょっと、ジュン?邪魔にならないうちに正気に戻れよお前……決戦なのに……」

「おっといけない、俺らって殺し合ってるんだった」

ジュンは我に返った、少し遅れればゼロが殴る寸前であった。


「じゃあ攻撃を引き付けてください、最大チャージに時間いるモード使います」

「わかった」

作戦は決まった。ゼロが好きを作ってその間にジュンが最大威力を打ち込む。以上。


対話の時間は終わったのでゼロは剣を振り回しながら突進する。

しかし全然当たらない。冷静にひょいひょい躱されてしまう。


儀解体(ギ・セパレート)!」

ゼロが大ぶりの一撃を繰り出そうとしたその瞬間、最強怪人がゼロの太腿に銃口を押し付け、撃った。

「っ!」

まずいことになると理解したジュンは走って援護に入ろうとした……が駄目だ。

巨砲は重たく、持って走るのは無茶。

だが今巨砲をオフにすればチャージが無駄になる。

またもう一度チャージさせてくれるほど最強怪人が甘いかは不明瞭、だからゼロが苦しんでいるのをジュンは見ているしかなかった。


もどかしい。

速く終われ早くチャージ終われ早く早く早く速く早く速く。

ジュンがどう念じても、意味はない。


重要な血管がいくつも切れたゼロからは血が吹き出していた。スプリンクラーのようだ。

ふらりと力が抜けて、彼女は膝を付く。

血は傷から靴の裏にかけて流れ蛇行を描き、靴に染み込みきれずあたりに広がってゆく。


 

失血死……放っておけば彼女は死ぬだろう。

だがそんな彼女におまけの弾丸を最強怪人はぶち込んだ。

口から多量の血を吐いてゼロは倒れる。


必死で立ち上がろうとしてもガクガクと震える体がそれを許さない。

地面を掴もうとしても指先は虚しく滑る。

寝返りをうつこともおぼつかぬ赤子に戻らされたかのように、うつ伏せで彼女は震える。


「それじゃあ……ほいっ、さらに乱射モード」

最強怪人は乱射モードで少し遠くに大量の卵を産んだ。そしてゼロの足を掴みその中へ放り投げた。


卵の群れの中にいる姿はジュンに見えなかったが、それでもわかる。

このままではゼロは生まれたての怪人たちの手によって嬲り者にされ殺される。

ジュンは彼女から目を逸らして、最強怪人と向き合い続ける。

まだチャージがすんでいない。撃てない。


「守らなくていいのか?皆を守るんだろう」

最強怪人はゼロの方向を指差した。

そこに悪意は無さげで、純粋な疑問を感じている様子だ。

「守りに行ったらチャージが無駄になる」

「チャージしなおせばいいのに変だ」

「そんなチャンスを2度目はくれないかもしれない」

「じゃあ見捨てるんだ?皆を守るんじゃないの?」

「お前を殺してからゼロさんを助ける」

「無理ってわかってるくせに、間に合わないって絶対」

「わかる気はない、絶対助けてみせる」


ジュンは強がる。

しかし本当はわかっていた、ゼロは多分死ぬ。

だがしかし助けにいったらゼロもそれ以外の沢山も死にかねない。

だから言い訳していた、“後で助ける”と。

もうゼロの周りの卵から怪人が這いずり出てるっていうのに。



「ところで、お前のモードは俺のモードに似ているよな」

ジュンは話し続ける、もう少しでチャージ完了だからちょっとでも時間を稼げごうと。

「うん、そうだね」

「乱射モードは連射モードみたいに沢山弾が出たし、狙撃モードは精密モードと同じくしっかりねらって撃つヤツ、お前の破壊モードはどんなものなんだ?見せてくれたら嬉しいねぇ……!勝負しよう、どっちの武器が強いか!」

「え、やだめんどくさい、いくよ狙撃モード‼」

ジュンはどうにかこうにか最強怪人にとっての破壊モードを使わせようとしていた、たぶん撃つまでに時間がかかる、その隙にチャージを完了させたかった。

でもジュンの狙いは失敗に終わった。


最強怪人の選んだモードは溜める時間が要らないすぐ撃てるヤツ。

ジュンはチャージが未完了。


「……クソッ、こんな、こんなとこで俺は死ぬのか!」

「結局なぜお前はなぜ人を守っていたんだ?」

怪人がトリガーを引いた。狙いは完璧にジュンの脳天。

だが発射された超強力な弾丸は、ジュンの右肩を掠め肉を抉り取っていくだけですんだ。

ジュンは死ななかった。


「……ありがたい!」

ジュンは礼を言う。ゼロに。

怪人の群れの中から一本の剣が飛び出して最強怪人の銃にあたり、狙いをずらしたのだ。

大怪我で死にかけなうえ怪人にまわりを囲まれてなお、剣を投げジュンを援護してくれた。

それはおそらく命懸けの援護である、感謝以外ジュンの気持ちは無かった。



これにてチャージは完了、何もかも壊してしまえる一撃の準備が整った。

右肩がイカれてしまっても、左手で砲撃が出来る。

ジュンは巨砲を構え、そして撃つ。ただ守るために。


発射されたレーザーは最強怪人を飲み込み、その勢いはすさまじい。

その体を空へ、空へと押し上げていく。


そして空で止まった。

何もも壊すエネルギーが最強怪人を中心にぐるぐる回る。洗濯機の中で水が回っているような廻り方。

ときどき雷雲の様にバチバチと電流を放出する



「あんなの見るのは初めてだ……なんだ?」

ジュンは困惑した。

こんな現象見たことが無い。


「不安そうだなテメェ」

「うわっ……あ、ウィナか」

ジュンは背後から急に声をかけられ驚く。

振り向けばウィナがいた、この戦場には彼もいたことを忘れていた。

だがそれ以外にも驚く事があった。

彼の肩を借りるようにしてゼロが立っている。


「ウィナ、怪人の群れはどうした?!」

「倒した」

彼の言った通り、確かにあたりは静かだった。戦闘開始直後はあれほどいた無数の怪人は影も形も無い。

「ゼロさんの周りにいた奴らも倒したの?」

「あぁ、わりと普通に倒せたぜ、あんなんザコばっかだ」

「すご」

「普通にやれたぜ」


ジュンは色々納得した。

ウィナのおかげで色々どうにかなったようだ、ゼロが助かったのも彼のおかげ。

しかし彼は嘘つきだ、怪人の群れと戦って余裕なワケが無いのに。

実際に彼の体中に出血を伴う怪我や打撲がある。

”わりと普通に倒せた”そんな一言で表せやしない死闘があったのは間違いない。


まぁでもジュンはその嘘を受け入れる事にした、べつに指摘する意味も無いし。


「んな事よりもテメェ、勝ったのか?」

ウィナは最強怪人を指さす。

「どうかな……」

しかしジュンは答えられない。

敵を中心にエネルギーが循環する現象を見るのは多分始めてで、今どうなったのか皆目見当もつかなかった。


「なんのために人を守るかは‼ワタシにはわからなかった!」

突然ゼロが叫ぶ、最強怪人に向けて。

「急にどうしたんだコイツ」「戦闘中の妙な高揚感から奇行に走る人もいる、それじゃないか?」

ウィナとジュンは当然困惑した。


「でもわかることはある!誰だって人を殺したいと思ったことはあるはずなんだ!」

ゼロはお構いなしに叫び続ける。

「階段で目の前のやつを突き落としたいとか!!嫌いなクラスメートの家に放火したいとか!そういう苛立ちをぶちまけるような"殺しをしなかった"んだ!例え思っていたとしても!」

激情のまま叫ぶ。

「思ってたって、やっちゃいけない事はきっとあるよ」


さて、レーザーの中にいる当の最強怪人は……

「あー、めっちゃ青い光の中だ、動けないなー」

わりと余裕だった。それとゼロの声はまるで届いていなかった。

「あー、やっぱこれも平気……」

退屈しのぎにポリポリと首を掻く。

「しかしなぜだ……?守る動機も記憶から消したはずなのに、なぜだろうか……何度も戦いを挑もうと思えるんだあいつ」


バキ。

唐突に音がなった。

プラスチックを踏み砕いたような、しかしそれにしてはやけに武骨すぎる音が。

たしかに最強怪人の耳に届く。


最強怪人にとって始めて聞く音だったので、最初それがなにか認識できなかった。


よくわからない不愉快な感覚があった。

彼はこれまでの生活上知らなくて当然の感覚だ、“自分の体が壊れる”という。

これまで一度も痛みを感じた事のない腕から、ぺりぺりと少しづつ皮膚がはがれていく。


「待て、なぜ!?この程度の攻撃何度か喰らってきたはずだ!なぜ今回だけ体が壊れゆく!?」


最強怪人には自分が死ぬ理由が理解出来なかった。

いや、ジュンもわからないし、ゼロやウィナもわからない。

世界中の誰もが、この怪人の体が崩れ行く原因を知る事は無い。


―――最強怪人は長い長い間街を滅ぼす事を繰り返していた。

そしてそのたびに現地の人間から抵抗にあってきた。

矢を受けた、毒を受けた、炎を受けた、水を受けた、雷を受けた、爆発を受けた、超重力を受けた。

無数の人間から、攻撃を受け続けた。 


だから最強怪人は今日ここで終わりを迎えることになる。

あまりにも長い間戦いすぎた体は、誰も気づかないほど小さなダメージが蓄積していた。

その小さな綻びをきっかけに、破壊モードが少しだけ最強怪人の体を壊した。

そして少し壊れたという事は……そこから連鎖的に壊れる事となり―――


怪人は始めて味わう死の恐怖に対し悲鳴をあげることすら出来なかった。

叫ぼうとした瞬間、レーザーの熱が体内に入って来たのだ。

口内、喉、内臓も焼けていく。

体の内側と外側両方からグチャグチャになっていく。


逃げないと‼最強怪人の心の中はそれだけだったがもう遅い。逃げられない。

崩壊はみるみるうちに進んだ。

最強怪人の体が崩れ、そして崩れたところは脆くなるからまた崩れ。

一秒もたたず最強怪人は消滅した。


最強怪人を滅ぼしたエネルギーも霧散する。

これでジュンたちの勝ちだ。


しかし地上からその様子を見ていたジュン達は喜ぶどころか呆然としていた。


「……勝った、かも?」ゼロが自身無さげに言ってしまう。

最強怪人の死体が残っていないから、ジュン達からしてみればいまいち勝った実感が湧かない。



……仮に敵がただの怪人ならば死体なんか無くて問題無いのだ、“普通あの威力を食らって死なないわけがない”と理性で判断できる。


だが今回は最強怪人が相手、まだ生きてるんじゃないかとジュン達はつい思ってしまう。

実際にもしもヤツが万全の体調なら余裕で耐えていたのは確かだから、その不安も的外れではない。


本当に自分達は勝ったと思っていいのか、戦いは終わっているのかそれともまだ続いているのか。

ジュン達は警戒を続けた、延々と静かな時間が続いた。

そして徐々に確信していく、本当に自分達が勝ったのだと。


「たぶん勝った、かも」

今度のゼロは少し自信ありげに言った。

「っシャぁ‼‼俺らの勝ちだ」

ウィナが高らかに叫び

「さっきまでのヤバイ雰囲気も無い」

ジュンが冷静に判断をする。


勝ったのだ、目的は果たされた。


この場にいる三人は、誰もが喜んでいた。

しかし興奮で気にしていないだけで死屍累々でもあった。怪我まみれ。



「あ、私牢獄に戻らなきゃいけないかも、脱獄してきたから」

そこそこダメージを食らっていたゼロはにこやかに血を吐き出す。

「そういやジュン、お前学校行った方がいいんじゃねーか?」

ウィナは額からダラダラ血を流していたし、右腕の骨が折れていた。

「ウィナも学生じゃなかったかい?」

「俺留年確定でモチベねぇ、だからバイト今から行く」

ちなみにジュンのした怪我はあんまりなかった、すり傷が無数に出来た程度。


戦った結果たくさんのものを守る事が出来た。だが彼らが新たに得たものは怪我ばかり。

それでも気にはしない。

……報酬が貰えない事は覚悟していた。この戦いはきっとどこの誰も信じてくれないから。


だから「それでは俺達は解散という事で」傷だらけの二人に向け、ジュンは明るく終わりを告げた。

「お疲れさまー」

「はぁ、ザコどもぶっ殺して疲れたぜ」


そして三人は各々の道へ向けて歩いていく、戦うため集まった三人は打ち上げとかそういうのしない。

皆すたすたと迷いなく歩いていく。

しかしふと、ジュンだけ立ち止まった。

「ゼロさん!ウィナ!」

別の二人に向けて語り掛ける。ゼロとウィナも立ち止まった。


「……俺はゼロさんが怪人に殺されそうなとき、皆を守るためにはほっとくしかないから放っておいた!すいませんでした!」

「気にしないでいいかも、私守って全員死んだら意味ないし」

ゼロの返答は本気だ、見捨てられた恨みを一切抱いてない清々しいものだ。


「……けど、ゼロさんが生きてるってわかったら、すごく安心した、まだ最強怪人を倒せてもなかったのに」

「おい結局テメェはつまり何がいいてえんだよ」

ウィナの言葉使いは荒かった。だけれども穏やかさと優しさが混じっている声色だった。

「……一緒に戦ってくれてありがとう、二人とも、二人がいなければ俺は死んでた」

ジュンは頭を下げる。

ここまで強い気持ちの謝辞は生まれて初めてであった。


「気にしないでいいかも」

「そうだぜ、俺は酒を飲みてーから戦ったんだし」

「私はジュンが戦う理由を知りたかったから戦い始めたってだけ」

「あー、なんども理由は説明したけど守ろうと思ったからなんだけど」

「だから、それじゃ納得いかなかったんだってば……まぁもう何となくわかったから、じゃあねみんな‼」


穏やかな雰囲気のままで三人は別れた。

だが彼らは血まみれ、はたから見ればただの恐ろしい集団。


街を守ったことは当人達以外知らない。


今日も怪人なんて存在しないかのように人は暮らす。

車道を車が、歩道を人が、普通に通っていく。

自分達が守られた事には気づかないまま、人は流れ行く。



その流れの中にジュン達も入っていき、日常へと戻っていった。

彼らもまた生きていく。

守ったり守られたりしながら。


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