九話 VS最強怪人その1
怪人は極稀に自然発生する生命体。
彼らが人を殺す事に意味はない、台風が人を殺すのと一緒。
彼らに殺人の動機は無い。
太陽が登り始める頃、道をジュンは歩いていた。
どこか不安になる雰囲気の不気味な場所だ、空を雲が覆い尽くしている。
人もまるでいない。
だがしかし、どんな人間でも踏み入ることのできる道だ。
つまりなんでもない普遍的な場所。
そこには周りを覆いつくす程に怪人どもがいる。ジュンは撃ち倒しながら。進んでいく。
「なんでこんなに怪人が多いんだ?」
ジュンは少しだけ気にしながら巨砲から弾を撃って、撃って、撃って、撃つ。
さも簡単なことをやっているように周りの怪人共を殺していく。
だが決して相手が弱いわけではない、どいつもこいつもアリ怪人や猪怪人よりはるかに強い。
実際以前こんな風に囲まれた時はボコボコにされた、だがあの時よりジュンは遥かに強くなっている。
さらにここら辺は人通りが少なくリラックスして戦えるという事もある。
人を守る必要が無い方はジュンは圧倒的に強い、流れ弾による周りの被害を気にしなくていいから。
楽々と怪人共を倒していく。
このままやれば一か二時間もすれば全滅させられるだろう。
とはいえジュンは敵を圧倒したって誇りもしない。
雰囲気でわかる。
最強怪人が確かに近くにいる。
今戦っている奴らはその前座に過ぎない。
だから直接ぶち当たる前にウィナやゼロを今のうちに呼びたいが、その暇がない。
「……おーい!!一回タイムにしてくれないかい?」
とりあえず叫んでみた、効果があるとは思わなかった。
だが意外と要求は通った。
ジュンの周りから怪人共が消し飛んだのだ。
道の風通しが良くなり、少し遠くに人らしきものがいた。
「やぁ、タイムだっけ?」
気さくに挨拶をして来る彼は、その手の拳銃をくるくる回す。まさしく人間と同じような見た目。
ジュンを取り囲んでいた怪人を一掃してくれたのはこいつだ。
でもジュンは感謝しない、そうしてくれたのは善意でないとわかるから。動機はただの気まぐれ。
そんなこいつは……一見普通の人間に見えるこいつこそ最強怪人だ!
観察力の高い者ならすぐに異常な存在と理解できる。
例えば激しく動いても呼吸をする様子が微塵も無い。
こいつは十年間に一度空気を吸って吐けばそれだけで生きていけるから。
そんな化物がジュンのすぐそこにいた。
「タイムにしてくれてありがとう……それじゃあ俺仲間呼んできていいか?」
礼はとりあえずして、ついでにさらなる要求をしてみる。
べつに最強怪人からしてみれば損しかない要求だが……
こいつは人を舐め腐ったようなやつだ、なので案外通るかもしれないとジュンは考えた。
「いいぞ」
いいぞなんて言いながらジュンに発砲する。言ってることと違うことを平気でしてくる。
「だめか」
ジュンは精密モードで撃ち返して敵の弾を逸らした。
敵の弾はジュンのすぐ横を通り過ぎ、空へ飛び、雲にあたった。
その瞬間町の天気すべてが青空と化した。
雲が消滅するまでの威力の弾丸だった。
「お前の能力はすべて知ってる」
ジュンは挑発するように言う。
「……」
怪人は何も答えない。
「なんか言ってもいいんだ、ここは図書館じゃないんだぜ?」
「じゃあ一言……乱射モードバージョン9発動」
ポツリと呟いて怪人は銃を撃った。
何発もの弾丸がジュンに向かって発射される。……というと誤解を招く。
その弾丸たちはありえないほどデカかった。
銃口から出るわけがないほど大きい、腕で抱えられる程の丸い弾。
それらがジュンに向かって複数の放物線を描く。
弾速は遅いがやはり圧倒的質量は危険だ、まともにあたれば命の危険がある。
「……意味無いだろそれ」
しかし、そもそも遅いから当たらない。
ジュンは少し歩く、さっきまでいた場所に弾丸がたくさん落ちた。
余裕で避けれた。
だが破裂音が鳴りジュンは驚く。
卵のような弾は破裂しその中から怪人が飛び出してくるのだ。
「……怪人の卵を弾丸にして撃ちだしたって事か?」
すぐさま何があったか理解した。
そして色々と納得する、極稀にしか発生しない怪人がやけに町にはいる理由。
何匹かは最強怪人が作っていたのだ。
そしてさらに疑問も生まれる。
こんなのは前戦った時使ってこなかったはずだ、なぜ今使う。
「前戦ったときは使ってこなかったなぁ?なんか理由でもあるのか?」
気になったので、聞いてみた。
いま生まれた怪人たちを倒しながら。
「使ったよ?その時の記憶は奪っているだけ」
「へぇ」
つまりゼロだけでなくジュンの記憶も奪われていたという事だ。
いまいちジュンには実感が湧かなかった、それはおそろしいことだ。
記憶が奪われたという"認識"が出来ないのだ、状況証拠から記憶が奪われたと"推測"するしかない。
しかしジュンは平静のまま怪人たちを倒し続ける。
「驚かないのか?」最強怪人が聞いた。
「いやぁ、もしかしてまだお前は隠した力があるかもしれないって思うと驚く暇はないね」
「なぜお前を殺さなかったのか、なぜ記憶を中途半端に奪ったのか、そういうのは聞かないのか」
「お前の事も俺の事も、興味はない」
「何にも興味がないなら……なぜお前は戦っている?」
「俺はただ、皆を守ろうと思っただけだ」
二人の会話は冷たいものだった。
相手の心を思いやるとかそんな意思は一切なく、ただただ相手の奥底を探るだけな交流。
この戦いはどちらかの死によってのみ終わる。
だが彼らのどちらにも恐れはまるでない。
さも当然の事のように、2人の殺し合いは始まった。