一話 VSカマキリ怪人
ビルの屋上には人が誰もいない。
人間ではないモノはいる。
人のようなシルエットを持つ、人型生命体だ。
「ゲギャギャギャ!!この街の奴らを切り刻んでやるぜ」
屋上ではカマキリに似たヤツが、その複眼で地ベタを歩き回る人間達を見下している。
サイズは一般的成人男性の1.5倍程、人間のような脚がついている。
このカマキリみたいなヤツの容姿を伝えるために相応しい言葉はきっと“カマキリ怪人”だろう。
カマキリ怪人は、視界に映る者達のだれから殺すか定めているところであった。
「ゲギャギャ!怪人の姿が見えないお前らは何もわからず俺に殺されるんだ!おもしれぇよな!」
怪人はその両の腕についた大鎌を振り回す、はやくその武器を使って切り刻みたいと主張しているように。
しかし恐ろしい事に、街を行く人々はまるでその様子に気づかない。
いいや、気づけない。
だって怪人の姿を見る事も感じる事も出来ないから。
「ゲギャギャギャ!!さあ待っていやがれ‼ぶっ殺してやる!」
カマキリ怪人の存在に普通の人間達は気づかない。認識が出来ない。
……わざわざ”普通の人間”という表現を使ったのは、特別な存在であれば怪人に気づけるからだ。
「残念だが、俺はわかっちまうのさ、お前みたいなやつ」
「なんだきさま!?」
カマキリ怪人は驚く、いつのまにか高校生程度の男がこの屋上にいて、己の後ろから声をかけてきたのだ。
男はカッコつけた感じに微笑み、片手をポケットに突っ込み、少し角度をつけて立っている。
なんというか、かっこつけがひどいキザであった。
「きさまは何者だ!」
「俺お前から皆を守りに来ただけの男さ」
男の右腕が一瞬白く光った。
そして、さも初めからあったかのように男の右腕に長く太い円柱のような形のものがまとわりついた。
黒光しているそれは先端部に穴があいている。
穴は広く、暗く、結構深いようだ。
男はまるで、腕に大砲を身に着けたような姿になった。
「なんだきさま、その腕につけたものはキャノンか?」
「巨砲って呼んでる」
男は無骨なその巨砲とやらを使って、カマキリ怪人の顎をぐいと押し上げる。
それからぶつぶつカマキリ怪人にとってよくわからない言葉を続けた。
「角度調節……チャージ開始……」
「なんだテメー、俺の最初の犠牲者になりに来たか?」
カマキリ怪人は男に無礼なことをされながらもまるで意にもかいさなかった。
この男は人間だから、一瞬で殺せる程度のみそっかすだ。と油断しているのだ。完全に舐め腐っている。
男はそんな思考を読んだかのように
「そんなわけないじゃないか、お前どう見ても弱いし」なんて口にした。
人を嘲るカマキリ怪人を怒らせるには、それで充分であった。
「なんだと?」
なぜ人間如きに見下されなければならないのかと、恐れないのはいいが馬鹿にされるのは許せない。
カマキリ怪人はそんなふうに感じた。
そして目の前の男を殺すため、鎌を振りかぶる。
「経験浅いだろお前、隙だらけ」
「……舐めやがって!死ね」
そして怪人は、このイラつく男を殺そうと鎌を振り下ろした。
もう手遅れだった。
「油断するから死ぬのさ」
男は巨砲を構え、そして撃つ。
巨砲の先端部分から青色の光線が発射された。
光線は大砲から空に向かってとんで行き、雲を一つ吹き飛ばしてどこまでもとんでいく。
その光線に飲み込まれた怪人の頭部はあっけなく消滅した。
触れれば太陽並に暑い光線だから当然だ。
一瞬でカマキリ怪人は死んだ。残った首から下は力無く倒れていく。
しかし、倒れきる事はなかった。
そうなる前に死体の残りはまるで最初からなかったかのように消滅したからだ。
男はその怪奇現象に驚かない、彼にとってはどうでもいいことだ。
あとには静寂だけが残る。
男の巨砲も、存在がはなっからなかったかのように消滅していた。
これにも男は驚かない。
「相手を見下して、油断するから足元すくわれるんだ」
ぼそっと呟いて、男は屋上の端によった。
人々を見下ろすためだ。
人々は平和な日常と変わらぬように、普通に生きていた。
当然この男に感謝などしない、自分達が命の危機に陥ったが救われた流れに気づいていない。
だが男はそれで良い、笑みを浮かべる。
守れただけで、彼は十分満足だから。
この物語はそんな彼が怪人と戦う物語だ。