序
初めてなろうで投稿するシリーズものです。更新は遅めですが、ぼちぼち気軽に覗いて下さい。
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大陸の中央に位置する広大なパルソリア平原は今、濛々と立ち上る黒い煤煙に包まれていた。
騎馬の蹄鉄が踏みにじる屍の丘には悲鳴と怒号が飛び交い、敗走する諸兵と、それを撃滅せんと追撃する重騎兵の鎖帷子の擦れる音がけたたましく轟く。焼ける死肉、燃え落ちる戦旗。先刻まで優勢であった皇国の軍はまさに敗れ去ろうとしていた。
突如として濃い霧の掛かる戦場の中央に上がった火の手が、瞬く間にその強い火力と季節外れの東風によって皇国軍を焼き払ったのだ。
前からは得体の知れない業火、後ろからは止まることの無い味方の突撃により戦列は乱れ、指揮は充分に行き届かない。挙げ句、その混乱に乗じ中央を難なく抜けた敵の重騎兵から横腹を刺されるが如く突撃を受け、兵は四散する。
その最中、猛追する六騎の軽騎兵を後塵に、戦場を離れようとしていた一騎の駿馬があった。
「追え!! 彼奴の首を獲ったものには国王陛下より直々に褒賞を賜れるぞ! 逃すな!!」
騎馬集団の先頭の兵が声を上げた。
鞍に前傾して長槍と盾を構え、馬を駆る敵の騎兵は、その鼻先を行く白いマントの小柄な将の首を討ち取らんと獅子をも恐れぬ勢いで追い上げる。
しかし、追われる将は己の兜やマント、馬に掛けた防具の一切を外し、その身を軽くしてさらに足を速める。
返り血が赤く染めた白いマントが追う騎兵の顔に被り一騎が脱落するが、騎兵は止まらない。
血に汚れた銀の長髪を風にたなびかせ、鎖帷子のみになったその将は、振り返る事なく一心不乱に戦場の西の森へと落ち延びていく。
その将の名は、ファルシール=フサイ=シヴァール=イル=シャー=プール=シャリム。シャリム皇国第6皇子にして、皇国史上類を見ない大敗北となるこの戦を以ってまさに今、皇太子を継ぐ位になった、齢16の少年である。