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六話 ゴブリンロンパッ!! 閉廷




かくしてなんとも不可思議な裁判は幕を開けた!


俺と夫ゴブリンは現場検証をすべく洞窟の入り口へと向かう。その間にローレッタが逃げぬようブラックライダーと妻ゴブリンが目を光らせる。


彼女は忙しなく辺りをキョロキョロと見ては汗を垂れ流す。一応、良い家系の産まれで良いものを食べてきたのだろう、キメ細やかな金髪のポニーテール。均整の取れた身体に整った顔立ち。しかしそれらは汗でじっとりと濡れ、なんとも不恰好だ。


「ふむ。まずは次男ゴブリン。これは...足跡? 相当とり乱してるな洞窟の方へ向かおうとした事が分かる」


「旦那! やっぱありましたギャ、モヒ兄ちゃんのションベン跡!」


「でかしたぞ。やはり我々の予想は正しかった訳だな。ん...?」


一冊の本が落ちている。表紙には極悪な顔をした醜いゴブリンが描かれ、ゴブリン達の足元には淫らな格好をした女性。


グラナートは、本を手に取りページを捲る。そこには、ゴブリン達に凌辱されている美しい女性達がなんとも官能的に描かれていた。

そうこの本の名は【ゴブリンデストロイヤー】。


「エロ本じゃねぇか!!!」


刹那。グラナート脳内奥底に封印されし記憶が解き放たれる。


それはかつて戦から帰り、さて自室で一休みしようとした時、部屋内に気配を感じた時の出来事であった。


サルバトーレ? かと思ったがオーラが違う。彼女は姿を消す時以外はねっとりじっとり舐め回す様なオーラを発しているのだ。自室から漏れるそのオーラは強大なモノ...そう、このオーラ。何度もいや毎日、目にする。


「魔王様。俺の部屋でなに...を? ......パァァア!!!!???」


「いや!! その、だな。グラナートよ...わしはそのだな良いと思う、ぞ...? と、年頃だしのぅ...八ハハ...」


そこに居たのは我が王、魔王様であった。魔王様は俺に用があったのだろう。王が俺の部屋に勝手に入るのはなんら問題はない。しかし、俺の卓上には、仕舞い忘れたエロ本が...!!


初めて息子のエロ本を見つけた親。そしてその場面に偶然出くわしてしまった息子のみが、展開する世界が今ここだけ氷ついた様な空気が俺達を襲う。


とてつもなく気まずい!!!


「あっ! そうか! グラナートは戦から帰り疲れておるのだったな。失敬失敬...ご飯、食堂に残しておるから...ちゃんと、だな。うん、食べるのだぞ。それに...早く寝るがよいぞ...」


王はそそくさと部屋から逃げていく。

それから数日間、俺と王の間にはなんとも言えない空気が漂っていた。忘れる筈がない! 18の時のトラウマ!


「アガっ!? アガガガッ...」


「だ、旦那!? ど、どうしたんだギャ!? まるで、ブルーオーガに唇を奪われた様な顔をしてるギャよ!?」


夫ゴブリンが身体を揺する。勢い余ったのか俺はそのまま石壁と熱いディープキスを交わす。冷たい岩の感触に俺は意識を取り戻す。


「んっ...プハァ! はぁはぁ...だ、大丈夫。気にするで、ない...」


「旦那ァ...」


「それよりもだ! このエロ本こそ確固たる証拠! さあ法廷に戻るぞ!」


一方その頃、洞窟奥地ではローレッタが悪態をついていた。


「ムキィィィ!! 早く戻ってきなさいよ! あの闇騎士が...てか闇騎士とか厨ニ臭いのよ! あぁ!! もう早く帰らないとゴブデスの新刊がぁぁ!!!」


「ヒィン」


貧乏揺すりをし耳障りな金切り声を出す姫騎士を、黒馬が小突く。

馬はとても耳が良い動物だ、レースなどでは雑音に怯えぬよう、耳にカバーを着ける馬もいるほど。


「ぷきゃ!? なにすんのよ! アンタ馬なら私を乗せなさいよ!!! 早く帰らないと、漫画が売れ切れちゃうかもしれないのよ!」


「ギャァ...早く戻ってきてくれないかしら...」


ローレッタは夫ゴブリンとグラナートが、現場検証に向かい、今こそ絶好の脱出のチャンスと近くにいる黒馬へと飛び乗った。やっとこの場から逃げれる。何、いくら敵の馬だろうが馬は馬、腹を蹴ってやれば走るだろう。そう思い、ブラックライダーに股がる。

しかし、帰ってきたのは脱出への希望ではなく後頭部への痛みだった。


ブラックライダーは気高き馬の王。こんなちんちくりんの言うことなど聞く訳がない。馬体を後ろに傾けローレッタの頭を石壁へとぶつけたのだ。


痛みに悶えるローレッタ、それを鼻で笑う馬。

その後も何度かトライしたが、結果は散々。ローレッタはその中身の無い頭に大きなたんこぶを幾つも作る事になった。


「お~い。戻ったギャよ~」


あまりの煩さに腹の子の心配をしたその時であった。二人が戻ってきたのだ。


子供の様に暴れていたローレッタは、二人の姿を目にするやいなや、慌てて狂い顔を作る。そう、これは勝ち目のない戦。同情を誘い逃がして貰うための命乞いなのだ。


「ケヒャ!? いや、もっと...ケーヒャッヒャ!!! やぁァアっと戻ったのね、ノロマな検事さん! 待ちくたびれ過ぎて、貴方の馬にかぶりつくだった...『ブヒィン!!』 ったぁ~!! ぶたなくてもいいでしょぶたなくても!! 父上にもぶたれた事ないのよ!?」


「おみゃぁ大丈夫だったギャ? 何もされてないギャ?」


「大丈夫だギャ。こちらのお馬さんが守ってくれたギャ」


「さて、俺も暇ではない。さあ初めようか! 裁判を!」


ーカンッ! カンッ!


蹄が小気味良く石を鳴らす。

境界線付近洞窟内民事裁判所。両脇に座り向かい合う。


「ヒィン!」


「私は言った通り! ゴブリンに襲われたのよ! 魔物に襲われたら戦う。常識よ!!」


ローレッタは声を張り上げ主張する。目は泳ぎに泳ぎ、勝手に泳いで何処かへ行ってしまいそうだ。


確かに彼女の発言にも一理ある。ゴブリンは魔物。人に害をなす生物。見付けたのならば倒すのが世の通り。

しかし、


「意義アリッッ!! 言葉を話し友好的な魔物は国際条約により狩る事を禁じられている! ゴブリン殺し云々の前に、これは重大な条約違反である!」


人の言葉を理解し、友好的な魔物ー善性魔物(ピュアモンスター)。数は少ないが近年、発見例が上がっている。そうした魔物に、人族と魔族は近年活発化する魔物を抑えるヒントと考え、狩る事を禁じたのだ。


「そ、そんなの知らないわよ!! そ、それにモヒカンは私にイチモツをぶらぶらさせながら笑ったのよ! それはもう襲われたも同然よ!!」


「ギャ。旦那と現場を見たが、やはりモヒ兄ちゃんは用を足してしたみたいだギャ。それにモヒ兄ちゃんは臆病で小柄だから戦えないギャ! 兄ちゃんの足跡は逃げようとして洞窟内へ続いてギャ!!」


「うむ。それにだ、そもそも何故お前は一人でこんな所にいる! 関所からもかなり離れたこの洞窟に、だ!」


「ぐっ! そ、それは...」


ローレッタの言葉が詰まる。


「ぱ、パトロールよ!」


「一人でか? こんな離れた場所に?」


「私は優秀だから!!」


「ゴブリンにアヘアヘ交尾乞いダンスをしといて?」


「ぐっ! グゥぅぅ!!」


一方的、ローレッタはもう逃げ場がない程に追い詰められる。


さて、トドメといくとしよう。


グラナートは現場で見付けた【ゴブリンデストロイヤー】を突き出す。


「そ、それは!? 私のエロ本!! 返して! 返してよぉ!!」


ローレッタは明らか取り乱し、本を取り返そうとする。

しかし、裁判官の蹄がそれを許さない。鋭い蹴りがローレッタの腹に直撃し席へと強制的に戻される。


「ぐはっ!? がっ! はぁ...はぁ...アンタ、見たんでしょ。その本。なら分かるわよね!!!? ゴブリンは人間を襲い孕み袋にするモンスターなのよ! こんなやつら善性だろうが何だろうが、殺しちゃった方が世のためでしょ!」


一見正義感がある様に見えるが、彼女の顔は淫らに発情し、荒い息を吐く。


「あの~一ついいですか? ギャ」


「ヒィン!」


裁判官から発言の許可を貰い、夫ゴブリンは語る。それはローレッタの価値観を大きく揺るがすものであった。


「ゴブリンってねゴブリンが好きなんですよ。アナタ達はオークとヤリたいと思うかギャ?」


「な、何を、言って...だってゴブリンの巣穴に挑んで戻らない冒険者はたくさんいるのよ! アンタらゴブリンが捕らえてるんじゃないの!?」


「いや...普通に人間は食べ物だギャ。ギャーは気持ち悪いから食べないけど、昔居た洞窟では人間が攻めてきたら男も女も焼いて食べたギャ。誰も人間なんかに興奮するアブノーマルなんていなかったギャ。そして、食べ物としてもゲテモノの類いだギャ」


「そ、そんな...でも、この本には...」


「ローレッタよ...巻末のここを良く見るがよい」


グラナートは本をローレッタに返す。ローレッタは奪い取るように受けとると、示された一文を見る。


そこには、


【注意! この本はフィクションです。実在の団体などとは関係がありません!】


彼女はその場に崩れ落ちた。自分が憧れていたシチュエーションは存在しない。

自分が行ってきた恥ずかしい行為に身悶える。


「キャァァ!!! わ、私、これじゃ妄想痴女じゃないの!!」


「そうだが?」


「もういや~!!! アンタら覚えてなさいよ~~~!!!!」


ローレッタは本を破り捨て逃走した。残されたグラナート達はあまりのみっともなさに追う気にもなれず、洞窟の片付けを始めた。


死んだ兄弟ゴブリンの墓を作り手を合わせる。


「旦那。アンタ、魔族だよギャ? あの女、人族みたいだったギャけど、追わなくてよかったギャ?」


「ああ、別にいいだろ。捕まえ殺した所で何にもならん。それに貴様らの住み家を血で汚してはいかんと思ってな。いい子を産めよ...」


そういうとグラナートは去っていった。


嵐の様な一夜だった。失った物は大きい。しかし、人間達も捨てたモノではない。

近い未来、二人から産まれた子ゴブリンは人間達と協定を結び平和の架け橋となる。だが、それは別の話。

最後まで読んで頂き本当にありがとうございます!

皆様にお願いがあります!


少しでもいいな、続きが気になるとなって下さいましたら、感想、ブクマ、いいね、評価、レビュー等々頂けると本当に嬉しいです!


よろしくお願いします!

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