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記者は自由すぎる生き物だった

 今、私は後悔していた。


「いやあ、こんな可愛い子が来てくれるなんて!」

「イリヤと言います。お嬢様には気安く触らないでくださいまし」

「侍女の子も可愛いね。君、いくつ?」

「1+1はまごうことなき2でございます」

「うんうん、やっぱり若いと張りが違うよねぇ!」

「イリヤも、ここまで清々しく変態なヤロウとは張り合いがあって嬉しいです」

「……あ、あの、お仕事は」


 ロイヤル社に連絡を入れたら「すぐ来ても良い」とのことだったので、イリヤを連れてここまで来たの。洗練された空間で、男女関係なくテキパキと働く姿は見ていて気持ちの良いものだったわ。

 そんな空間で、今後お仕事の話ができるんだって嬉しくなったもの。……まあ、それも5分前までね。


 カリナ・シャルルは、男性だった。

 アリス時代に騒がれていた「シャルル」とは違うお家だったみたい。私の知っている「シャルルの兄様」じゃない。それがわかって安心半分、落胆半分。

 元々庶民だった彼は、シャルル伯爵家に養子入りして記者になったとか。それだけ記者への憧れがあって、たくさん勉強したのね。そう思っていた時期が、私にもありました。ええ。


『君、可愛いね。特にこの身体! ちょっと細すぎるけど、ラインが国宝だって言われない? ねえ、今日この後君のこと取材させてよ』


 会って初めての言葉がこれって、怖くない? 記者って、みんなこんな軽い人たちなの?

 その言葉でイリヤが応戦体制に入って、冒頭のやりとりに戻るのだけれど……。


「ああ、ガロン侯爵から話は聞いているよ。こんな可愛い子なら、花束でも持ってくればよかったね」

「その脳みそを、花びらみたく散らしてやりましょうか」

「良いねえ。真っ赤な花弁とともに散った命! これぞ、スクープだよ!」

「ちょ、ちょっと2人ともストップ! ねえ、お仕事のお話をしましょう」

「そうだね、ベル嬢。改めまして、僕の名前はカリナ・シャルル。よろしくね、ベル・フォンテーヌ嬢」

「よろしくお願いいたします。こちらは、私の専属侍女のイリヤです」

「お嬢様に指ひとつ触れたら、その触れた部分を根こそぎ切り落としますイリヤです」

「あはは、良いね。良いよ、イリヤ! さて、打ち解けたところで本題に入ろうか」


 全く打ち解けてないんですけど! むしろ、距離が広まりましたけど!


 先ほどまでニヤニヤしていた締まりのない顔は、「仕事」の言葉でパッと切り替わった。視線もやっと胸元から顔に移ったわ。

 いまだにイリヤがものすごい圧で睨みつけているけど、気持ちがわかるから止められない。


「ええ、そうしましょう。早速ですが、」


 でも、仕事はちゃんとしてくれる雰囲気があるわこの人。


 私は、持参した資料を目の前のテーブルに並べながら、その雰囲気に少しだけ安堵して話を始める。



***



 王族側との会議をしていると、クリステル様から意外な依頼があった。


「……そうですか」

「騎士団には、また苦労をかけるわね。なる早でお願い」

「承知です。第一部隊を派遣します」

「そうして。第二部隊は、引き続きミミリップをよろしく」


 この会議に出席しているメンバーは、クリステル様と俺、それに第一騎士団団長のシエラと第二騎士団団長のラベルだ。

 他、議事録を取っている人物も居るが、どの会議にも必ず付けないといけない決まりだからあまり気にしたことはないな。今回は、王族側だからいつも宮殿で見かけるメイドが来ている。

 少人数だから油断していたが、まさかこんな重要なことを……。


 内容は、こうだ。


「では、ラベルはミミリップでグロスターの屋敷で現場検証をする班と聞き込み班、それと第一のメンバーを数名派遣するから指名手配犯2名の捜索を頼んだ」

「ういー。シエラ、よろ」

「わかったよ。じゃあ、僕の方で接近戦に強いメンバー募っとく。ジェレミーとマクシムは、ダガーとかナイフを使うんでしょう?」

「いや、最近マクシムが銃を入手した情報を掴んでる。そっちの対策もしといたほうが無難だ」

「ロベール卿の意見に賛成です。こちらでも、銃の闇ルートを探っているところなので」

「承知です、クリステル様。隣国にまで及んでいたら厄介ですね」

「そう、ですね……」


 王宮で指名手配中の殺人鬼2人が、ミミリップ地方で目撃されたんだと。まさか、このタイミングで現れるとは厄介な奴らだ。

 殺人犯のジェレミーとマクシムは、上位貴族を殺し歩いた危険人物。もっと言うと、イリヤが苦戦した戦闘能力の高さを持ち合わせている。


 イリヤに一度も勝てたことがない騎士団メンバーで捕まえられるか謎だが、まあ人数で攻めるしか今の俺らにできることはない。

 とりあえず、会議が終わったら演習場で特訓をしよう。できることをやっていくのが、一番良いだろう。


「ロベール卿、ジョセフの件もお願いします」

「はい、任されました」


 そうだ、ジョセフの話もあったな。

 なんでも、薬物反応が薄くならないらしい。定期的に摂取していないとおかしい量が検知されてるのだと。


 やはり、あの時演技のような言葉を吐いたが誰かに聞かせていたんだろうな。先に信頼できるメンバーを鉱山に潜めさせているが、何が出てくるやら。

 ジェレミーたちが落ち着いたら、公式に捜査を開始する予定だ。その前に何かあれば動きやすいのだが……。



 

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