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王子様を合法的に殴りたい 連載版  作者: 小林晴幸
ふたりめの犠牲者ディース・バッハ・ブルー ~難易度★★☆☆☆~
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イエロー

 ナイジェル君からの情報は、大体において確かなもので。

 だから今回、彼がした話も、きっと確かなもので。


 つまり。


 青次郎、またの名をディース・バッハ・ブルー。

 ……ん? 逆だったかな?

 ディース・バッハ・ブルー、またの名を青次郎。

 うーん? まあ、どっちでもいいや。


 とにかくアレです、青次郎です。

 奴を殴る機会が、私が想定していたよりも早く。

 じきに、到来すると。

 つまりはそういう事なのね?



 魔法学園には、一学年につき八つのクラスがある。

 専門課程に分かれた四つのコースごとに、二クラスずつ。

 私達は魔法騎士コースのクラスに属している。

 そして魔法騎士コースの他に存在するのが、以下のコースだ。

 ・総合コース

 ・実践魔法コース

 ・魔法研究コース


 総合コースは、全コースの基礎的な部分を広く偏りなく学ぶコース。

 つまりは広く、浅く。

 全コースに通ずる知識を持つけど、行儀作法や一般教養なんかを重視していたりする。

 とりあえず魔法学園に入学したけど専攻したいものが決まらないとか。

 後は学校には箔付けと社交の為に入って深く学ぶつもりはない生徒なんかが多いかな。

 ああ、あと将来の結婚相手を探しに来たっていう婚活勢が一番多いコースだったわ。

 中には総合コースで学んで、本当に興味を持てる分野を見つけて転科する生徒もいるけれど。


 魔法研究コースは、まあ名前の通りね。

 魔法の術式やら技術の体系がどうのこーのと何か学術的な面で魔法を追及する集団の集まり。

 精霊術を効率的に使えるよう解析したりだとか、失われた魔法を復活させようと試行錯誤したりだとか。

 大体は無駄な努力のような気もする。

 失われた魔法を復活も何も、現代の人間のほぼほぼ全員が魔法を使える程の魔力を保持していないのに、伝説の魔法を復活とかできる訳もない。研究家(卵)の皆さん、ご苦労様です。

 なお、私は変人の巣窟だと認識している。


 そして、実践魔法コース。

 問題の、実践魔法コース。

 そこには前世の私をイラつかせた2番バッター、青次郎が在籍している。

 実践魔法コースの概要は実践というだけあって、実際に魔法を使って研鑽積んで強くなろう! という感じだと私は認識している。まあ、アレです。RPG的に言うと固定砲台というか、純粋な後衛の育成というか? 魔法使いと聞いて頭に浮かぶ、黒ローブの集団というか。

 そんな感じの人材を育成しているコースである。

 実際に使っているのは魔法じゃなくって精霊術だけど。

 そこはそれ、純然たる魔法がほぼ廃れた現代でも、慣例に則り『魔法』と表現している。

 意地とプライドの問題かもしれないけど。

 青次郎は元々友好国の王子様だけど、名門魔法学園で魔法(精霊術)を極めるべく留学してきた。

 前世の(おねえちゃん)は青次郎の事を『知的メガネで典型的なクーデレ』と称していたが、実態は知的というより嫌味メガネと表現する方がピッタリだと思う。

 他人にも自分にも厳しいキャラって事になっているけれど他人の事情への配慮は足りないし。融通が利かない上に、思いやりが決定的に欠けている。

 私は嫌だな、こんな男。

 お姉ちゃんにとっては一推しキャラだったらしいけど。


『――栄にはまだわっかんないかなぁ~? クールで知的な男の魅力が』

『――お姉ちゃん、クールって『寒い』って意味でしょ? 寒い男が好きなの? 変わってるー』

『――そういう意味じゃないわよ! 本当は意味わかってるくせに、わざと悪意を込めて曲解するのやめなさいよ! ほら、なんていうの? 冷静沈着で研ぎ澄まされたかっこよさって言うの?』

『――でも主人公の事情に対する理解が足りないよ。沢渡さんの奥さんが言ってたよー? 気遣いと想像力に欠ける男と結婚すると苦労する。少し馬鹿でも、操作しやすい男が一番だって!』

『――そういう生々しい意見が聞きたいわけじゃないのよ! というか栄!? 沢渡さんの奥さんから何を吹き込まれてるの、何を!』


 融通が利かない、四角四面で他人にも自分にも厳しい。

 いくら『そういうキャラ』だからってね?

 もうちょっと主人公が魔法学園に編入する事になった背景を酌んでも良いと思うんだよね。


 ヤツはいわゆる秀才キャラ。

 真面目といえば聞こえもよかろう。

 私とは決定的に合わないけど。

 ルールに厳しいし、勉強への執念も凄い。

 そんな青次郎が魔法学園で出会った、可憐なる田舎娘……そう、主人公。

 二人の出会いは……まあ、私の拳が疼く出会いだった。


 魔法学園は何度も言うけど名門校。

 これで入試だって大変厳しい。

 つまり学園に入学するには、前提条件として求められるレベルの知識と教養がないといけない。

 そんな学園に未知なる力の持ち主……現代に蘇ったマジモンの魔法使い(らしい)という事で、特例で編入する主人公。

 本来受けるべき編入試験は当然のようにパスされた。

 まあ、本人の意思を無視した強制的措置だものね!

 これで学園編入に必要な学力まで強制するとか鬼だよね!

 どちらにせよ編入させた時点で、学園生活に必要な学力を求めているので鬼だね。

 しかも途中からの編入だから、ますます主人公は苦労しそうだ。

 何しろこの世界、貴族とかいるくらいだから。

 身分制度を引いているからか、身分によって許されている知識や教養に差があるので。

 特に平民の中でも労働者階級には、自分の境遇に不満を持たせない為なのか、あまり賢くなるのはよろしくないという思想が貴族にはあるので。

 辺境出身でしかも女の子である主人公が有する学力レベルは、多分ど底辺。

 識字率だって高くないし、ひょっとしたら読み書きもあやしい。

 そんな少女が、国内最高峰の学園に事前知識の教育なくぶち込まれるとか、どんな虐めかな。

 これは苦労する。

 絶対に、苦労するよ。


 学園側も主人公の事情を斟酌してか、編入時点で学園の案内役というかサポート役をつけようとしたんだけど……そこでしゃしゃり出たのは赤太郎だったなぁ。


 自分が見出し、学園に連れてきたのだから自分が面倒を見る、と。


 セリフは立派だけど、そんなセリフは自分が面倒を見られているのに気付いた上で自立してから申してほしい。

 しかもヤツは半分脳筋・魔法騎士コースの学生だ。

 学力も身分も低い繊細な少女への細やかな気配りなど出来るはずもなく。そもそも基本的に気遣われる立場で、身分違いの女子に配慮できるはずもなく。

 主人公は、その立場に加えて『得体の知れない力の持ち主』という前評判もあり、孤立した。

 私が入学早々に一発ぶん殴ってからも、機会がある度に執拗に赤太郎を殴る程、イラッとしている理由である。


 そして、そこに来て青次郎だ。


 奴は学校に馴染めず、暗黙の了解を知らず、学業についていけない主人公に、会うやいなや盛大にやってくれたのである。

 学業に真面目なクールキャラだかなんだか知らないけど、『そういうキャラ』っていうのを重視しすぎじゃなかろうか。結果、阿呆なことをしているってゲームの製作会社には気付いてほしい。

 

 そもそも、庶民の学力の実情を知らないんじゃないかな。例えるなら義務教育を受けていないのに、いきなり専門系の学校……商業とか、工業系の学校に途中から入るようなもんなのに。

 碌なフォローも貰えず途方に暮れていた彼女に、礼儀やら教養の足りなさや学のなさを(あげつら)って皮肉と嫌味と侮辱三昧。主人公に努力不足がどうのこうのと厳しさしかないお言葉を掛けまくったのである。

 なんか人間性の大部分、学力で測ってる節があるんだよな。この視野狭窄野郎が。

 望んでもないのに準備もさせてもらえず学校に強制編入となった主人公に、あまりに心無い仕打ちである。

 私はこの出会いシナリオを読んだ瞬間、コントローラーでテレビ画面を砕きそうになった。

 実際にはテレビは砕かなかった。

 代わりにゲームのパッケージを、青次郎の顔を木槌で殴ろうとした。

 そして悲鳴を上げたお姉ちゃんに『このお馬鹿!』って頭をはたかれたんだよねぇ。


 とりあえず結論として、ヤツの学力で人を測るところがむかつく。

 その基準に達していない相手の、背景への配慮が足りないところが更にむかつく。

 世の中には勉強しようにも、その機会すらない人だっているんだぞ!

 勉強だけで世の中が全部回ると思うなよ!

 お姉ちゃんは「とにかく努力する姿勢が大事! 頑張ってるところと、その成果が出ているところを見せれば一気に好感度UPよ! 真摯に取り組む様子がツボみたい」とか攻略ポイントなるものを言っていたけれど、あんな学力でガチガチに頭の凝り固まった野郎に好かれる為の努力なんてしたくないしー! もし努力するって言うなら、あんな奴の為じゃなくって自分の為に努力したいしー!

 そう! 王子を殴る為に日々努力と研鑽を重ねている今の自分みたいに!

 

 あの時の苛立ちと、怒り。 

 今こそこの拳でもって晴らす時。


「よーし、俄然やる気が出てきた!」

「うわ、どうしたんだよミシェル。拳を天に突き上げて」

「まあ、いきなりですわねぇ。凄く、獰猛な顔をしていましてよ、ミシェル」

「オリバー、エドガー、後で自主訓練に付き合ってくださらない? ちょっと立ち回りとか、関節技のかけ方とか、色々再確認しておきたいことが出てきたの」

「うわー……ミシェルがマジでやる気だよ。ご指名だろ、オリバー、エドガー。頑張れよ」

「フランツ、マティアス、お前らも暇だろ。どうせだから付き合えよ」

「え、嫌だ」

「……俺は、やぶさかじゃないな」

「マティアス、お前も行くの!? ミシェルと一緒なんだぞ!? 絶対に一発か二発は殴られるぞ! なんでか知らんけど、あの細腕でめちゃめちゃ痛いのわかってるだろ!」

「実践の奴らと、やり合うんだろう? 教官達が、目の敵にしてるからな……」

「ああ……確かに実践魔法の奴らに後れを取ったら教官達が黙ってないだろうなぁ」

「げ、マジかよ」

「僕はパスだねー。ちょっと実践魔法の人達の情報収集に行ってくる。目立った生徒の戦い方とか、得意な魔法とか改めてチェックしておこうかな」

「そうか……うん、ナイジェル君にはナイジェル君の戦い方があるからな」

「後で私にも教えてね、ナイジェル君」


 この後、日が暮れるまでみんなで訓練をした。

 何度も倒れて、倒されて。

 最後は全員が全身ドロドロ、真っ黒になったとさ。


 


 魔法学園は、全寮制。

 本来はコースごと、男女別れて寮に入る、んだけど……魔法騎士コースは女子がいなさすぎて、需要が低いと女子寮が存在しなかった。

 仕方ないね! 

 私は学校側の提案で、総合コースの寮に身を置いている。

 通常は二人部屋。だけど私はコース違いの関係で二人部屋を一人で使っている。


 その、部屋に。

 今日はなんだか不思議な違和感。


 なんというか……え、増えてる? 増えてる、よね???


 私の視線は日当たりのいい窓際、持ち込み家具のティーテーブル。

 そこに設置している、割と存在感のある物体……精霊様の為に作り、改造や増築を行った結果、今ではドールハウス…………というよりもドールキャッスル? そんな感じに大きさを増したブツがある。

 外観も、前世の私がTVで見たお城……外観の美しさから鳥に例えられた、あのお城を参考に作り込んだドールハウス。随所についた蝶番にそって割開ける作りにしているんだけど、外観に比べて部屋数はそんなに多くない。

 私の側にずっといて、力を貸してくれる精霊様。

 シアン・マゼンタ・孔雀明王……彼ら用にあつらえたお部屋が一つずつと、お友達を連れてきたときの為の客間と応接室、それからプレイルームと食堂があるだけだもの。

 その、客間に、あれやっぱりいるよね?


 黄色く発光する、揚羽蝶サイズのナニかがいた。


 部屋に戻ってきた私の周囲を、青・赤・緑の光がキラキラと飛び交う。

 何年か前から、私の目には彼らの姿が見える。

 加えて、ここ最近は声も聞こえるようになってきた。

 小さな子供のような声が、私の耳元でキャラキャラと笑う。


『おともだちー』

『おともだち、つれてきーたよー』

『我思う、故に我在り』

「お友達、ってこの黄色ちゃんですか?」

『うん、そーなのー』

『うんうん! おともだちなの!』

『汝の下にて名を得る事を望んでいる。これからは力を貸す故と』

『そうなの! なのなの!』

『おなまえつけてー』

『つけてつけてー』

「え? 私がお名前つけて良いんですか???」

『我らにしたが如く汝が考え、名を与えるがよい。それが力を貸す条件と申して居る』

「つまり、私がこのはじめましてな黄色ちゃんに名前を付けたら、今後シアン様達の仲間に参入して、私に力を貸してくれる……?」

『是』

『そうなの! なのなの!』

『おともだちふえたー。とてもいいことなのー』

「一体どこで勧誘してきたの……」


 仲良しな私達を前に、所在なさげにぽわぽわと浮遊する黄色い光。

 黄色い、精霊様。


 話を聞くに、どうやら今までは別の人にくっついていたらしい。

 だけどその人は精霊が見えず、構ってもらえないことに悲しくなってしまったとか。

 そこで、精霊様を崇め奉った結果、精霊が見えたり声が聞こえたりするようになった私へ鞍替えすることにしたらしい。

 仲間に参入する為にシアン様やマゼンタ様が課した厳しい審査を突破して、今ここにいると……って、審査ってなに!? シアン様達、そんなことしてたの? 初耳なんですけどー!?

 わくわくキラキラした感じで、飛び回る発光体。

 新参者の黄色ちゃんは大人しくドールハウスの上に鎮座している。

 だけどいきなり名付けてなんて言われても……

 

 ……さて、なんて付けよう?


 




新規参入、黄色ちゃん。

気になるそのお名前(ミシェル嬢命名)は……?


a.金剛夜叉明王(雷属性)

b.モハメド(風属性)

c.沢庵(土属性)

d.雷電(雷属性)

e.その他(光属性)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 精霊様方のキャラは元から? 名づけで引っ張られてる? 黄色さんがどんなお名前になるか楽しみです。
[気になる点] 孔雀明王の御言葉がまっこと心に響くんじゃ…。存在感のインパクト的な意味で
[一言] f:ふなっ○ー(5号機・薔薇〔科〕属性)
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