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王子様を合法的に殴りたい 連載版  作者: 小林晴幸
山だ! 悪魔だ! 聖獣だ!?
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学園長を脅s……お願いしよう!



「有り得ない……」

 

 盛大にドン引きした顔で、桃介が私を凝視している。

 可愛い顔が台無しでっせ、ポメラニアン先輩。

 いつ誰が通るとも知れない場所で、常時装備中の猫が剥がれかけてるけど良いの?

 そもそも、私の何が有り得ないと……


蛮族(こんなの)が成績学年トップだなんて、絶対に有り得ない……! 一年生はどうかしてるの!? こんな、こんな暴力で全てを解決しようとするような、口より手が出る野蛮人が成績トップなんて絶対に有り得ないよ!」

「それが有り得て、この結果」

「納得いかないぃ……っ」


 桃介が、この世の終わりを垣間見た!とでも言わんばかりの顔をしている。

 表情多彩で豊かだなぁ。

 絶望の色をほんのり添えて、無駄な抵抗を見せる桃介。

 しかし桃介が嫌がっても、保護者(コーラルさま)からは既に許可(GOサイン)貰ってるんだよ。

 

 テストで良い点とった、そんなある日。

 ちょっと良い点取り過ぎて、先生方に少々不正(カンニング)の疑いとかかけられたりもしたけれど。

 ……全教科で満点取っただけなのに、不正扱いとか酷いんじゃね?

 まあ、そんな疑いも程なく晴れて、私は無罪放免。

 その足で、桃介を捕獲した。

 だってとっても解放感いっぱいでウキウキしちゃうんだもの。

 ついでに『使い魔取得実習』参加予定の仲間もお誘いして、私達は図書館に来ている。

 何の為にって?

 そりゃもちろん——山での行動予定を練る為だ。

 図書館には過去の実習記録や、使い魔に適したイキモノの資料なんかもあるらしいから。

 実習に参加するからには、欲しいじゃん。使い魔。

 だから過去の資料を参考にしつつ、計画を練ろうって事になったんだ。


 ちなみに我らが魔法騎士コース一年生から参戦するのは私、オリバー、エドガー。

 それからあまりこういうイベントに興味はなさそうなのに、意外にもナイジェル君。

 合計四人の魔法騎士コース生が使い魔ゲットにチャレンジだ。

 ……魔法騎士コースの一年生は、総勢八十名なのにな?

 そんな中で参加するのはたった四人。

 いつもつるんでいるフランツやマティアスは参加資格の規定を満たさなかったので不参加だ。

 そうだよ、アイツら赤点取りやがったんだよ。

 なのでフランツとマティアスの二人は、その他大勢と机を並べてテスト休みの間は補講に強制参加らしい。頑張れよ。

 私は今も補講の最後に行われる追試テストに向けて、追い詰められた顔で机に齧りついているだろう同胞達にそっと心の中でエールを送った。


 うん? 赤太郎? ああ、アイツも補講組な。

 なんか一科目だけ赤点だったらしいよ。ドンマイ。

 そんでもって王子の癖に赤点取ったのかよって重く見たお城の人が追試までの期間限定で家庭教師派遣してきたらしいよ。過保護にされてんじゃん、赤太郎。


「しかし一緒に行動すると言ってもな……」

「一緒に行動、じゃありませんわ。山籠もりだ」

「だけどミシェル、桃介先輩は治療班の一員として参加される訳だろう? 山籠もりは無理があるんじゃないか」

「そうですわ。桃介先輩が治療要員なのでしたら、本部の近くに設置予定の治療テントが定位置の筈でしてよ? 要請されて参加するのですもの、融通が利くとは思えませんわ」

「そう言われると……そうだよ! 僕は怪我人が出た時の対処要員なんだから、山の中なんてふらふらできる訳ないだろ!」

「言われて思い至ったのかよ。大丈夫か、桃介。ちゃんと実施要項的なモノ把握してる?」

「そんなもの無視して連れ回そうとしている野蛮人に言われたくないよ!?」


 桃介がなんかキィキィ言い始めそうな気配。

 ここは図書館だぞ、桃介。騒ぐの、良くない!

 拳で黙らせると余計五月蠅くなりそうなんで、猿轡でもするかーって思ったんだけどな?

 私が動くよりも先に、オリバーがナニか不穏な気配を察知した!って言わんばかりの顔で、すかさず動いていた。


 がぼっ


 すかさず、桃介の口に何かを突っ込んでいた。

 え、何入れた?

 おいおい、ここは図書館……飲食物禁止の空間だよ?


「オリバー……?」

「安心してほしい。食べ物じゃないから」

「え、何入れた?」

「犬の健康用、歯磨き玩具。骨型」

「何入れていますの!? オリバー、え、ちょっと大丈夫ですの!?」


 え、オリバーが?

 まさか、オリバーが???

 頭どうしたんだ、テストで煮えたのか!?

 我らが魔法騎士コースが有する、常識枠だったろ貴様!

 私やエドガーが信じられない思いで凝視すると、オリバーは気まずそうな顔でそっと目を逸らす。


「すまん……桃介先輩を見ていると、どうしても、な」

「いや、どうしても、なんなんだよ」

「……実家で飼っている、犬を思い出すんだ」

「照れたような顔しているけど、君さっきから割ととんでもない事してるし、今も結構失礼な事言ってるからね?」


 オリバーに突っ込まれた歯磨き用玩具を、桃介は無の表情でしばらく噛んでいた。

 顔を引き攣らせて玩具を吐き出し、オリバーにドン引きした目を向けている。


 そんな最中、ナイジェル君は騒ぐ桃介や突然の奇行を見せたオリバーの様子など気に留めることも無く。

 使い魔取得実習に参加申請後、配布された『実習のしおり』を広げている。

 主に、今回の実習開催地……学園が管理している、山間部の地図を。


「……あれ?」


 じっくりと地図を読み込んでいたナイジェル君が、ふと不思議そうな声を上げる。

 私達なんて蚊帳の外とばかりの態度を貫いていたナイジェル君だ。

 何を疑問に思ったのかと、私達は一斉にナイジェル君へ目を向けた。


「ナイジェル君、どうしましたの?」

「ミシェル、ちょっとこれ見てくれない?」


 詳しい説明はなく、ナイジェル君はただ地図の一点に指をさす。

 そこは今回の活動範囲の、端っこの方にある小さい山が……ん?


「あれ?」

「やっぱり、そうだよね」

「うん、ちょっとこれ、どうなってるのかしら」

「確か、実習は数年ごとに場所を変えて実施している筈だよね。……ちょっと、過去の資料を確認してくる」

「あ、お願いナイジェル君! 私も、一緒に確認するから」

「え? なに? どうしたの?」

「えっと、ミシェル? ナイジェル君? 何か……資料に不備でもありましたの?」

「何かおかしなことがあったのか? 地図には……特におかしい点は、ないと思うが」


 代わる代わる地図を覗き込みながら、首を傾げるオリバー達。

 まあ、彼らは思い当らないんだろう。

 私だって、自分の家が関わる事じゃなかったら気付かなかったさ。

 

 国家が運営する魔法学園が、管理している土地を実習開催地として記載している筈の地図。

 だけどなんでかな。その地図の隅っこに、どうにも見覚えのある山が描かれている気がするよ?

 学園が実習用に管理している土地は、漏れなく王国の……王家の直轄地という事になっている。


 なのに、何故だろう。

 地図に描かれた範囲に、グロリアス子爵家(うち)の所有地が被ってるんですが。


 私がこの山を間違える筈がない。だって毎日、私が走り込みに行ってる山だ。

 ……ナイジェル君と先日商取引を結んだばかりの、炭酸泉が湧いてる山でもある。

 だからこそ、ナイジェル君だって問題に気付いたし、捨て置けなかったんだろう。

 何しろ何も知らない学生に勝手に荒らされでもしたら、今後の利益に関わるし。

 ナイジェル君にとっては黙ってみていられる状況じゃない。

 彼は積極的にこの問題を突き回すつもりになってくれたようで、席を立って資料棚に向かおうとする。


「ミシェル、グロリアス家がこの山を拝領したのは?」

「確か二百三十年前の事ですわ」

「実習開催地は数年ごとに場所を変えるというけれど、ローテーションで実習開催地は持ち回りになっているはず……いつからこんな事になっているのか、過去の開催地を確認してくる」

「お願いしますわね」


 さて、各貴族家の権利は、国家と王家に保障されている。

 保障されているからこそ、貴族は国家と王家に従うし納税だってする。

 なのに国家運営の学校が、つまりは国が貴族の権利を侵害していたときた。

 うん、どういうことだろうね?


 なんでそんなことになっているのか、私にはわからないけど。

 なんとなーく、うちの山の存在が小さすぎて、見落とされた感がしなくもないけれど。

 ただ一つはっきりとわかることがあるとすれば、これが公になったらとんでもねぇ大問題になるだろうなって事だ。何しろ自分達の権利を守ってくれるはずの国が、貴族の権利を侵害したとなれば……グロリアス子爵家(うち)は示談に出来たとしても、他の貴族が黙ったままでいるとは思えない。

 まず間違いなく、方々から突き上げを喰らって大問題になる案件だ。

 それだけに、この問題が明らかになるのは学園側にとってよろしくないはず。

 よろしくないも何も、こんな笑えることになってることを、学園側は把握してないんだろうけれど。

 問題を把握するにしても、自分達で気付いて是正と謝罪に動いて誠意ある対応をするのと、他者(それも土地の持ち主側の人間)に問題を指摘されて対応に動くのとでは印象とかも変わってくるよね。


「ミシェル、どうも八十年くらい前の実習時に、当時の先生がミスって古い地図を参考にしちゃったのが発端みたいだよ」

「八十年前かー……結構、やらかし年数長いな」

「とりあえずやらかしの証拠になる資料は揃えてみたよ」

「有難うございます、ナイジェル君。それでは私はこれを持参して、ちょっくら学園長室まで行ってきますわね!」


 私とナイジェル君が多くを語らないせいで、何が起きているのかよくわかっていないオリバーや、エドガーをその場に残し。

 訳が分からないという顔で戸惑っている桃介の腕を掴み、私は満面の笑みで学園長室へ向かった。

 ……おっと、いけない。

 学園長室に到着するまでに、表情(かお)を神妙なモノにしておかなくっちゃ!



 この日。

 私の熱意溢れる説得(・・)に心を突き動かされ、学園長と呼ばれる一人の教育者は親身になって相談に乗ってくれた。

 具体的に言うと、本来なら実習中は本部側の治療テントに原則待機予定だった桃介が、特例として私やナイジェル君と同じ班に加わって行動することとなった。

 学園長先生と腹を割ってお話したのは初めてだったけれど、本当に熱心に話を聞いてくださって。

 話の分かる御仁で良かったね。


 あ、それと後日の話だけれど。

 『実習のしおり』に訂正箇所が見つかったらしく、改訂版が新たに配られる事となったよ。

 主に地図のページが差し替えられたみたいだけど、実習前に誤りがわかって良かったね!



後日、学園長が直々に菓子折り持参でグロリアス子爵家を訪ねたそうな。

グロリアス子爵と『大人の話し合い』を数時間ほどしていたらしい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大人の話し合い・・・。 まあ~~言わば無断で貴族の領地を荒した感じですからねW だから生贄という名の賠償をしてもらうのですねW 生きたサンドバックをゲットッ!
[一言] 学園長とミシェルやグロリアス子爵との「話し合い」がとっても気になる!内容は読者の想像に任せる方向ですか!? 菓子折りの下層に小判ならぬ金貨が・・・はさすがにない、ですよね?w
[一言] オリバー… やっぱりミシェルと同じグループにいるだけあるな(笑)
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