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王子様を合法的に殴りたい 連載版  作者: 小林晴幸
さんにんめの挑戦者シャルトルーズ・イエロー ~難易度★★★☆☆~
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新一年生強制イベント『一年生合同よきにはからえ』



 姉達にドレスを選ぶよう強いられてから、一か月と少しが経過した。

 気付いてみれば、なんとまあ!

 入学から、三か月——


 ——そう、本日は、アレである。

 新一年生がカイゼル髭(※イメージ)の王様(※赤太郎の親父さん)の前に整列させられ、「よきにはからえ」って声かけられるイベント当日を迎えていた。

 貴族の子息子女はデビュタントも兼ねる、この行事。

 私達は一時的にそれぞれのご家庭に戻り、家が遠方にある人は寮に諸々の準備を持ち込み、そもそもデビュー準備を整えられない経済状況の人は学園が用意しているレンタル礼服を受け取り、と。

 各々が社交界に引きずり出される為の準備を整える。


 大変、憂鬱でめんどい。


 私の実家はそもそもが王都にあるので、昨日の夜から実家に戻っててんやわんやと大騒ぎ状態で化けさせられてる真っ最中だ。末娘のデビュー戦とあって、普段はおっとりのんびりな母や、しっかり者の姉が張り切って采配を振るっている。その為に今の家庭(ダンナと子供)を放って帰省している上の姉は背中で闘志の炎を燃やしていた。


「アナタってば普段全然、そう……ぜんっぜん、着飾ろうとしないんですもの。良い機会ですわ。淑女の嗜みをこの乳液と一緒にしっかり骨身に染み込ませて差し上げます」

「ノーサンキュー」


 昨日からスキンケアという名の苦行が続いている。

 これ日焼けし難い性質じゃなかったら、絶対姉に激怒されてたな……。

 辛うじて体裁を整えられる白さがあって良かったなぁ……。


「今日はしっかり、とことん、アナタを妖精さんにしてあげますわ!」

「ワタシ人間ヨ。フェアリー違ウネ」


 こうして私は、ひらひらキラキラの衣装を着る羽目に。

 あーあ、今日いきなり三十㎝くらいの隕石が降ってきて王宮に直撃しないかなぁー。ピンポイントで謁見の間とかにぃー。

 そんな乙女のささやかな祈りも叶わず、私は次兄のエスコートで王宮へ。

 気分は出荷される牛である。どなどな。

 ついでに婚約者を迎えに行く長男の困ったような笑顔も、出荷される牛のような雰囲気を背負っていた。どなどな。

 頑張れ、お兄様。君の婚約者は素直じゃなくて意地っ張りで意固地だが、あれで一応お兄様の事を好きなんだ。傍目に全然そんな感じには見えないだけで。


「ミシェル、そんなに窓の外を凝視しても、脱走を許すつもりはない」

「えー、何のことですか兄様ー。ミシェル、脱走する気なんてとてもとてもー」


 王宮へ向かう馬車の中、私はお兄様の哀愁を滲ませる姿を思い浮かべて現実から逃避していた。



 辿り着いた王宮で、私はエスコート役の兄様と離れて一人。

 貴族子女のデビュタントより先に、まずは新一年生の「よきにはからえ」が待っている。

 謁見というめんどい行事が終わってから、場所をホールに移動して改めて兄とご入場だ。超めんどい。

 その為に、まずは学園生徒の控室へと向かっている。

 

 そして、今、まさに。

 学年ごと纏めて「よきにはからえ」される為に、クラスごとに分かれて整列しようかってところなんだけれども。

 私は魔法騎士コースなので、紳士の礼服を纏った野郎どもの列へ。

 うん、制服と様相が違っても、男女比率でどこが魔法騎士コースか一目瞭然だ。

 何しろドレスを着ているのが私しかいない。

 一瞬、エドガーは……?と思ったが、奴はちょっと装飾過多な紳士服を身に纏っていた。

 離れたところで何故か柔軟運動をしているが、あの巨体は間違いなくエドガーだ。

 少し期待したのに、裏切られた。

 あーあ、明後日の昼食フランツとマティアスに奢らないとなぁ。

 粛々とドレスの裾を摘まんで野郎どもの列へ。

 ちょいとすまんね、私一人嵩張る感じで。もうちょっと隙間を空けてくだされ。


 普段はむさ苦しい野郎どもも、今日は素敵な礼服姿だ。

 こざっぱりとしているし、清潔感があって普段の五割増し男前なんじゃない?

 端っこの方には仲の良いオリバーやフランツといった姿も。

 もう来ていたんだね、君達。

 だけど、どうしたんだい?

 なんで私の顔を見るなり、目を見開いて固まるのかな?

 今の彼らを額に収めてタイトルをつけるのなら、きっと『驚愕』あるいは『戦慄』といったところだろうか。その全力の戸惑い顔について、懇切丁寧に説明してくれたまえよ。

 ちょいと自分の眉が吊り上がっている気がする。

 だがしかし、今の私はドレス姿だ。

 いつものような大雑把な振る舞いは、装い的にNG過ぎる。

 ドレスを破りでもしたら、姉達のお仕置きが実行されてしまうだろう。

 仕方がないので、記憶の果て遥か彼方な淑女教育~マナー編~の記憶を引っ張りだして、渋々ながらも『楚々とした振る舞い』とやらを参考にした歩法で彼らの側に接近した。

 ドレス姿の何者かが近づく。

 それが余程珍しく、目についたのか。

 他のクラスメイト達までもが、私を目に留めた。


「どうしました、レディ。この列は魔法騎士コースの……? え? ええ?」

「な……、ミシェル? ミシェルなのかっ!?」

「そんな、まさか!」

「え、マジで?」

「嘘だ……! 僕は信じない!」


 ざわり、魔法騎士コースの敬愛すべき脳筋諸君が騒然とした。

 その目は誰もが私をガン見している。ええい、凝視するでない。拝観料取るぞ!

 そうしてとうとう目の前に立つ私へと、限界まで目を見開いたフランツが言った。


「誰だテメェ」

「あたい、ミシェル・グロリアス☆ テメェのボディに自慢の拳を叩っ込んだろうか、ごるぁ」

「恰好はどっからどう見てもご令嬢なのに科白(セリフ)が酷ぇ!!」

「ああ、やっぱりミシェルなのか。今日はどうしたんだ、見違える程綺麗なドレスなんて着て」

「いやいやどうしたって今日はデビュー戦だからドレスだって着ますわよ」

「だからなんでお前はデビューに『戦』の文字を付けたがるんだ」


 和気藹々、私を取り囲む仲間達。

 傍目に見える光景は、きっと私達の実情とはかけ離れて見えるんだろうなぁ。

 こいつらがしげしげと熱心に私を覗き込むのは、私が見違えたからでも、なんでもなく。


「ミシェル、なんか今日は少し小さいな……?」

「いつもとサイズ感違う気がする?」

「お前背ぇ縮んだのかよ」

「ははは。いつもとは靴が違うからかしら。今日は華奢なヒールだけど、いつもは鉄板入りの厚底ブーツヒール付きを履いていますもの。模擬試合では真っ先にテメェを厚底ブーツで踏んでやるよ」


 ただただ不思議がって、首を傾げているだけだ。

 でもそうやっていつもの、普通のやり取りをしている内に魔法騎士コースの諸君も『今の私』がミシェルだと認め始めたのだろう。

 まだまだ困惑を滲ませながらも、なんかにじり寄ってくる。


「なんてこった……令嬢にしか見えないだと!? 眼科予約しなくちゃ……」

「嘘だろ、俺の目にも令嬢に見える……何をどうやったんだ」

「すげぇな、最新の技術って」

「あ、なるほど? 特殊メイクか……化けたな、ミシェル」


「貴様達、次の訓練では覚えてろよ? 全員、私の拳の餌食にしてやるからな? 全員、だ」


 私自身、鏡を見て似たような感想持ったけどな!

 しかし自分で思うのと、他人に言われるのとでは違うのだ!

 主に癪に障り具合とかな!


「まあ……! ミシェル、素晴らしいですわ。今日のドレス、とても素敵でしてよ」

「はは、エドガーも礼装似合っていますわね。てっきりドレスを着てくるものと思ってたのに予想を裏切られたぜ此畜生(こんちくしょう)

「あら、ご期待に沿えず申し訳ありませんわ。でも、フリルとレース増量のドレスシャツも、わたくしに中々似合っていますでしょう?」

「そのドレスシャツを難なく着こなせる人はそうそういませんわね。ねえ、エドガー」

「なんですの、ミシェル」


「衣装、交換しない?」

「嫌ですわよ」


「エドガー、君ならドレスもきっと似合うわ!」

「無理を仰らないで! そもそも寸法が違いすぎますわ! レースやフリルに心惹かれなくもありませんけれど、わたくしが無理に着用しようとしても、そのドレスがパーンって弾け飛ぶことになる未来しか見えませんわ! 互いの身長差と体格差を考えて下さいまし!」

「大丈夫、きっといけるいける! 体型の違いを誤魔化す為にコルセットっていう地獄の拷問具がだねっ?」

「大体そのドレス、デザインがわたくしに似合いませんわ! わたくしは、自分に似合わない恰好は死んでもする気ありませんわよ!」

「そんなこと言ってたら、エドガー一生ドレス着れないよ!?」

「そもそも最初から着る気はありませんわ」


 エドガーめ、なんてこった。

 君ならきっと、喜んでドレスを着てくれるものと思っていたのに。

 まあ、確かに言う通り、寸法が全然合わないんでエドガーには無理だったかもしれないが。

 私よりエドガーの方がしっくりくると思うんだけどなぁ。ドレス。

 仕方がない。奴は趣味趣向(こころ)は乙女でも体と性癖は野郎だからなぁ……。

 ん? なんで私がエドガーの性癖について欠片なりと知っているのかって?

 そりゃもちろん魔法騎士コースは野郎の巣窟ですから。

 女子(わたし)が同じ教室内に存在することを忘れて、野郎どもが猥談に走る日もありますわな。私もぬるい目で見守りつつ、大体放置している。嘴を突っ込んでも悲惨な事故が起きる気配しかないし。

 魔法騎士候補生なんて清廉な顔していても基本的にむっつりの集団だ。普段おすまし顔のアイツが足フェチな事も、騒々しいばかりのアイツが貧乳派だって事も、ついでにクラス委員長がおっぱいソムリエだって事も知っている。耳に入ってくるんだから仕方ないだろ、私は記憶力が大変よろしいんだ。

 それに猥談の後で我に返って私を凝視してくる時の、クラスメイト達の顔がなんとも笑えるんだ。

 良いね、気の置けない仲ってヤツだね。

 これも一種の学生時代の青春だ。

 一方的に私が把握しているばかりだが、深い(趣味への)理解が進んでいるよ。


 野郎共には私からの評価については諦めて、猥談の声量は控えめに残りの学生生活を慎ましくお過ごしいただきたい。まだ私達入学したばっかだけどな!


 ちなみに赤太郎の性癖(このみ)は白い肌に薔薇色のほっぺだそうだ。あと、手フェチ。

 素朴な疑問だが、果たして王子様がクラスメイトとの猥談に参加しても良いのだろうか……?

 即、ヤツの性癖については学内の御令嬢達に茶会での暴露って形で売ったけれども。

 迂闊に人の目のあるところでプライベートな部分をポロリするから、そんなことに。


 なお、この世界に個人情報保護法とかいう法律はない。

 個人情報は個人で秘匿し、守らねばならないのだ。




 

ドレスを着せられ、いつもより若干やさぐれ気味のミシェル嬢。

そんな彼女に、舞踏会での出会いが……?


a.ある

b.ない

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― 新着の感想 ―
[一言] そういや昔女所帯の部活で結構赤裸々な話始めてたな。2度ほど咳払いをする羽目になった。
[一言] SAN値ガリガリW 誰もが不幸な目にW
[一言] c:ナイァルラ○ホテプ(にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな! )
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