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とくべつあつかい(隔離)



 アドラス自前の生物テロ(竜の咆哮)もどきを喰らって、早数時間。

 それが経験して嬉しい事かはともかくとして、滅多にない体験をしたって事は、間違いない。

 一時は体が麻痺していた事もあって、現場に居合わせて咆哮を初めて喰らった全員が医務室送りになった。勿論、医務室にそんな人数が入り切る筈もなく、医務室送りと言いつつ医務室に送った訳じゃない。医者の方が現場に来た。そもそもが訓練合宿なんで、島の各地、訓練現場にすぐ駆け付けられるよう医療チームが出回っている。学生の筈なのに桃介もそこに半強制的に組み込まれているらしく、この時にも出張してきた医療担当者の中に桃介が混ざっていて、めっちゃぶつくさ言っていた。

 何しろ被害者の大半が、貧弱モヤシの代名詞:実践魔法コースの面々だからな。それもまだ体も完成していないし、訓練慣れもしていない一年生。そんなモヤシ中のモヤシ共が、一斉に麻痺って倒れた訳だ。

 結果、実践魔法コースの一年生全員が、その日は大事を取って予定されていた訓練取り下げになった。わあお、大事! やっべ、その責任私に回ってこないよね!? 事故だし! アレは不幸な偶然が重なった事故だし、誰が悪いって訳でもないよね!? 強いていうなら鹿が悪い。いきなり襲ってくるんだもん。

 そして、前にアドラスの咆哮を喰らったことがある魔法騎士コースの一年生男子共は、回復も早くて三十分もすれば全員がピンシャンしていた。鹿諸共、私と一緒に咆哮の直撃受けたヒューゴまでピンシャンしていた。

 ちなみに奴らは奴らで、前に宴会芸で咆哮喰らってダウンしたことがあるらしいが、それを先生達に申告していなかったことがバレてお説教コースへ連行されたらしい。

 なお、アドラスは別コースだ。奴もお説教コースなのは同じだが、喉の様子を医療班に一応診て頂いた後、やっぱり危険行動だろって見咎められてのお説教コースだそうな。済まぬ。私達が鹿騒動に巻き込んだばかりに……いやでも、やっぱやる前に周囲への警告は必要だろ。今日と同じ事を、別の機会でやる可能性もあったし、今のうちにお説教されて考え方を矯正しておく必要はあったかもしれない。そう思うと、アドラスがお説教コースへ連行されたのは悪い事じゃない……? まあ、意味があったかどうかはどこかの未来でわかるだろう。多分。

 

 みんながそれぞれ連行されていく中。

 私も厳重注意を受けた。

 騒動をこれでもかって大きく広げて、実践魔法コース一年生共を巻き添えにした張本人だからね。注意というか事情聴取されても、そこは仕方ない。

 しかし、大部分で不可抗力が認められた。やったぜ。

 何しろ私に起きたことと言えば、究極的に言えば鹿に追いかけられたって事だけだからな……空をかっ飛んでいった事も、悪戯とかじゃなくって緊急避難の為だし。先生方には解せぬって顔で見られたけれども。実践魔法コースを巻き込んだことも、頼れる大人(教官)への助力を求めてって事で許された。学生さんが困ったら近くにいる先生を頼ることは当然の事だもん。当然だよね? うん、当然だ。

 むしろ鹿の大暴れに居合わせたのに、現場の混乱に思考を汚染されて生徒達を治めきれず、適切な指揮を生徒達に出せなかった実践魔法コースの担当教官が統率能力の貧弱さを怒られてたっぽい。お説教の為に魔法騎士コース一年生を引き取りに来た、魔法騎士コース(うち)の先生方がソレを見てほくそ笑んどったわ。仲悪いからなぁ、両コースの先生たち。協力関係なのに。他の学科よりも戦闘面での訓練多いから、日常的に協力関係なのに。それでも仲が悪いんだから人間って不思議だ。

 なお、今回の騒動を受けて、この合宿中に先生達もトラブル対応能力その他を鍛え直されることになったらしい。将軍、直々に。とばっちりが広がっておる……。

 他の魔法騎士コース一年生と違って、アドラスの咆哮初体験だった私。しかも直撃コース。

 お陰で他の魔法騎士コース一年生よりも症状はちょっと重かった。

 麻痺から回復して、先生方から注意を受け終わって放流された時には結構な時間が経っていて。

 鹿騒動には関わっていなかった為、普通に予定されたプログラム通り行動していた他の魔法騎士コース達。

 私がそこに合流した時、既にゲームは三試合目に突入していた。


 つまり、私達の陣営は『騎士』。

 赤太郎達の陣営は『山賊』役。

 そしてナイジェル君達の陣営は、『暗殺者』である。


 やべぇな。

 警戒していた、元暗殺者(ノキア)密林育ち(セディ)を擁するナイジェル君達が一番ハマリ役のターンじゃん!


 ノキアは元暗殺者って言っても、非合法闇組織から訓練を受けてはいても実戦投入前の段階で組織が摘発されて、公的機関に保護されたって経緯があるから実際には暗殺に手を染めたことはないそうだけど。それでもそっちのプロにイロハを叩き込まれてたんだから、魔法騎士コース生の他の誰が暗殺者役をするよりも真に迫った暗殺者役をやり熟すことは間違いない。

 セディはセディで、密林育ちの経験からか野生動物並みの身のこなしと気配のなさが厄介だ。

 そんな奴らを、油断のならないナイジェル君が統率するんだぜ?

 全体指揮は魔法騎士コースの先輩方がするって言っても、アイツらの襲撃を警戒しなきゃいけない私達騎士陣営が一番神経すり減らす組み合わせだよ!

 正直、アイツら何してくるんだろう、楽しそうだなってワクワク感がなくはない。

 絶対にやべぇことになって大変だろうなっていう不安も同じくらいあるだけで。

 まあ、確実に制空権握ってくるだろうアドラスを潰せただけでも上々かな! 奴はまだ説教コースから帰ってきてはいない。

 というかもう、今日は帰ってこないだろう。

 危険行為へのお説教に加え、出生由来の謎生態の一部が見えてきたことで俄かに知的好奇心を擽られたらしい魔法研究コースの研究狂い(マッド野郎)共が手ぐすね引いて待ち構えているのを、私は見た。

 思えばアドラスの実の親父さんが人外だとは、今まで知られていなかった話。それがここに来て、自前のドラゴンウイングで空は飛ぶは、竜種特有とされる特殊技能:竜の咆哮を放つは目立って大っぴらにやりたい放題だ。恐らくは今まで知られていなかった特殊な生い立ちが周囲に認知されるに至ったんだろう。

 そんで、マッド研究者共の興味を引いた、と。

 物陰に隠れてワクワクひそひそ、アドラスのお説教が終わるのを今か今かと待ち構えているのを、私は見た……! 奴らに捕まれば人体じっ……好奇心をある程度満足させるまで、解放される事はないだろう。免れる術は、捕まる前に逃げる。これ一択だ。

 だけど事前に危険を察知して迅速に回避行動に移れなければ……一瞬の隙が命取り、獲物を待ち構える捕食者(カマキリ)共に捕まってしまうだろうね。悲しいね。バイバイ、アドラス。お達者で。

 せめて朋友(アドラス)が五体満足いのち大事に戻ってくる事を祈るばかりだ。うん、メンタル? 精神面での被害は知らん。見えないところまでは関与できないよ。


 なお、アドラスを捕獲しようと、わくわく待機していた研究コース生共の真ん中に。

 なんか緑のブツがいたんでとりあえず通りすがりに蹴っ飛ばしておいた。

 あんなとこに生えるなんて、本当に節操がないな青汁の奴……。

 あんだけ私に殴られておいて、それでもなお魔法騎士コース生の行動範囲内に出没するんだから、あいつのメンタルも大概バケモノだよなぁ。ヤツは懲りるって事がないらしい。知ってたけど。

 なんか青汁見てると、時々ふっと前世で見たゾンビ系の映画やらゲームやらを思い出すんだよなぁ。何故かは知らん。

 まあ青汁を喜ばせる趣味はないし、クラスメイトの情けだ。

 いざ研究コースの奴らに囲まれてもアドラスが逃げられるように、逃走確率が上がるよう助力しといてやろうかな。

 そんな仏心を発揮して、研究コースでも指折りの狂人共をさりげなく先生方に連行してもらえるよう、現場近くに居合わせた諸先生方に働きかけておいた。奴らの潜む場所の情報をリークしたともいう。

 青汁ならともかく、流石に面識のない一般の研究コース生を殴るのは憚られたしね。青汁なら殴っても、なんの良心の呵責も感じないんだけどね。



 さて、アドラスという空からの脅威を排除できたとしても。

 ナイジェル君を含む敵対勢力が襲ってくることは間違いない。

 赤太郎達の陣営もいるけど……ぶっちゃけ、ナイジェル君のやらかしたあれやこれやが記憶に刻まれている私達魔法騎士コース一年生が真に警戒しているのはナイジェル君達だ。

 ナイジェル君を知らない諸先輩方は、他陣営の先輩達の能力も加味して全方位警戒してるだろうけど。

 勿論、私達の知らない先輩達って言う未知の戦力もある訳で。

 何なら一年生よりずっと実力も経験もあるだろう先輩達をこそ警戒すべきなんだろうけど。

 なんだろうな、本当に。

 搦手、謀略、その他諸々裏工作。

 素直で純真な学生さんのおよそ考えつかないだろう、ど汚い手段のアレコレ。

 そういったものを駆使して、私達の想像の埒外から不意打ちアタックしてきそう。

 ナイジェル君にはそんなふわっとした怖さがあるんだよ……。

 だから、本当なら私もナイジェル君が差し向けた手の者(多分絶対、本人は来ない)の襲撃に備えたいところなんだけれども。


 いま現在。

 私は何故か陣営の最奥にいた。


 いるっつうか、陣営最深部にて正座させられていた。


 自分の陣営に合流するなり、陣営中心部、先輩達のど真ん中に問答無用で連行(エスコート)されての事である。

 いや、この国には正座文化なんぞないんだけどな?

 でもちょっとそこに座りなさいと言われたら、思わず正座をしてしまう前世から身に染みた習慣よ……わあ、懐かしい。前世ではお姉ちゃんによく正座させられたなぁ。そんでもってこうなったら、お説教コースが定番なんだよなー……

 座れと言われて正座した私を見て、ちょっと先輩達がさわっとしたけれども。

 困惑交じりに、「え? 足、あれどうなってんの?」「足ってたためんのか?」という疑問のお声がかすかに聞こえた。

 私を取り囲む先輩達の中、さっきの鹿騒動で分断されるまで私達の指導係として一緒に行動していた先輩達の姿を見つける。おや、グランニート先輩。さっきぶりですね?


「すまないな、グロリアス嬢」

「いえ、さっきは鹿の件でご迷惑をおかけしました。特に私のせいじゃありませんけど」

「おおう、一言多いぜ……」

「それで、その、何故に私は隔離されてるんですかね?」

「うん、本当にすまん。なんというかアレだ……ちょっと、お前らの指導は俺達の班じゃ手に負えないなって」

「はい? え、そんなことは……」

「いやちょっと、本当に予想外過ぎたし……それにグロリアス嬢、麻痺って倒れたばかりだろ? それも含めて、な」


 なんと言うことでしょう。

 どうやら私は、『目を離すのがアレな相手』と認定されたらしい……その結果、陣営本部に隔離され、陣営中心人物たちの目が届くし何なら囲める場所に座らせておくことになったそうな。おい、どういう扱いだよ。おい。私、まだ一年生の女の子なのに! とか可愛い子ぶって叫ぶぞ、ごるぁ。

 一応、ぶっ倒れた件を鑑みて、男女の体力差とか諸々的に野郎共と同じように無理をさせるのも、という思考も働いたらしい。わあ、男女間の違いを鑑みての気遣い。要らねぇー。

 普段私と一緒に行動して、ミシェル・グロリアス(わたし)という人間を知る魔法騎士コース一年生達なら、そんな気遣いしないだろうけど。

 しかも、魔法騎士コースの先輩に女生徒はいねぇもんな。

 普段から女子と接する機会が極端に少なく、女慣れをしていない先輩達。

 ……女子に免疫がなくって夢見ちゃってる系の先輩も多いんだろうなあ。

 一般的な女子と私を同じ枠に混入するのは、自分でも駄目だろって思うんだけど。

 さっき一緒に行動した先輩達は、何か察してそうだけど。

 それ以外の大多数の先輩は、直接私を知っている訳でもない。

 そんな中で大型の凶暴な野生動物に追いかけられて、最終的に倒れたと聞いた訳だ。

 ああ、うん……そんな状況で、対象が私じゃなければ。

 後輩の女子って情報だけがあるんなら、そんな状況じゃ私だって無理させちゃ駄目だろってなるわ。うぅん。


 結果としての、隔離。

 それも大事を取っての、隔離。

 しかし陣営ど真ん中で、先輩っていう上の立場の人間に周囲を固められて。

 一人ポツンと座らせられている状況は、なんか、アレだ……

 気遣われているのにも、関わらず。

 やっぱりなんか説教か反省正座か、そんな感じの扱いを受けている感が凄まじいんだよなぁ……正座は自主的にしてるんだけれども。


 なお、オリバー達は陣営に合流したのち、普通に先輩達の指示を受けてゲームに参加していたらしい。私みたいに隔離されることなくな!

 一緒の班員、いわば私とは仲間だった筈なのに!

 私一人だけ、この扱い!!

 扱いの違いに、私は暫く先輩達に囲まれる中、しきりに「解せぬ……」と呟くのだった。

 


一人だけ扱いが違うのはアレだよ……

空をかっ飛んだりするからだよ、ミシェル嬢。

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― 新着の感想 ―
[一言] 身内とそれ以外の反応の違い…というか またうっかり主に遭遇したら同じことが起こる恐れがあるし、隔離は妥当だわな。
[良い点] 更新お疲れ様です。 まぁねぇ…今までの奇行を見ちゃったら、そりゃ先輩方も「これ(ミシェル)どうすんべ?」→隔離安定という思考になりますわなあ(笑) 本人以外の要素もいくつか混じった結果カ…
[良い点] アドラーースーーっ!! 研究コースのマッド達からの逃走劇。 「てめぇらの血は何色だーーっ!!!」 とミシェルの拳が唸る!(青汁限定) そしてそんなミシェルがまさかの姫扱いw まあ、実態を…
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